土屋さんは野生
「どうするか決めてるってお前」
「なんよ」
「どうするというより、どうにかなるもんなのか?」
現状維持。土屋と村崎の間柄を考えれば、少なくとも今はそれが最善手だと思う。物事には待つべき機ってものがあるはずだ。
「どげんもなんもなかろうもん」
「つまり、どうするんだ?」
一応訊いてはみる。答えの予想はだいたいついているけども。
「今日惚れたら明日モノにするんが男のやり方やろ」
「それはどっちかといえばディスカバリーチャンネルでよく見かけるやり方だな?」
クジャクの求愛行動的な。
「せめて昔のトレンディドラマくらいにならん?」
「すまん、なんかイメージで言った」
「けどまあ、自然の摂理ではあるわな。人間も結局はオスとメスっちゃけん」
「別に恋愛して子孫繁栄するばかりが能じゃないだろ」
少子高齢化問題に取り組む方々には申し訳ないが、それにとらわれない男女の関係があったっていいはずだ。土屋と村崎が何を選ぶにせよそこにこだわる必要はきっとない。
「今は多様性の時代やろ?」
「まあそう言われてるな」
「オレから見たらなー、やっぱ昔の九州男児がよかーって思うっちゃん」
「九州男児なー」
質実剛健、文武両道。強く賢く頼もしく、家の全てをその身に背負う覚悟の男。そしてメンツや意地に熱心で、「子育てや炊事洗濯なんぞ男のやることではない」と言い切る身勝手な男。ざっくり言えばそんなところだろう。
時代錯誤といえば時代錯誤な話だ。でも、それを良しとすることも許されるべきなのが多様性社会なのもまた事実。
「そら江戸時代のまんまってわけにはいかんやろけど、ああなりたかって思うし、それがよかって言ってくれる女と付き合いたか」
「村崎なら拒否はしなさそうだが……。それで?」
「九州男児は小細工せん」
「だから即アタックかよ。やっぱアニマルプラネット寄りだろその思考」
かつて元寇で福岡に攻めてきたモンゴル軍を、九州の武士は獣のごとき執念で鹿児島まで追いかけて根絶やしにしたという。九州の男は野生に近いのかなんなのか、糸島市出身の俺にも正確なところは分からない。
「まあ本当に明日やるってわけにゃいかんけど」
「平日だしな」
「でも近いうちに行くわ。決めた」
今日は木曜日。あくまでハロウィン当日にこだわってみようということで今日をパーティにしてみたが、明日も普通に仕事である。さすがに深夜残業プロポーズは土屋もしないつもりらしい。
だから明日ではない、としても、きっとそう遠い未来でないのは確かだろう。
「そこまで言うなら俺も止めんが……」
“コンコン”
そんな話をしているところに、すぐ後ろの窓からノックの音。
思わず一歩後ずさる。距離の開いたガラスの向こうでは、村崎がいつも通りまっすぐに頭を下げていた。
「マッツー」
「おう」
「あれ、お断りですってやつやろか?」
ああ、全部聞こえてましたごめんなさい的な。
「落ち着け。このベランダは二重窓で遮音も保温もバッチリだ」
「高いマンションはそこも違うん」
「目の前にもう一棟マンションが建築中でも安眠できるかもしれん」
「さすがにいい建材ば使っとる」
おかげで一度、洗濯物を干している間にリビングでミオさんが盛大にすっ転んだことにも気づかず、戻ってみたら泣いていたということもあった。
成人女性がフローリングにダイブしても気にならない防音性能、夜風の中での会話なら聞こえていることはないはずだ。
「今の話はまた今度しよう」
「おうよ」
それだけ言って窓を開ける。礼儀正しく直立不動で待っていた村崎は、もう一度小さく頭を下げた。
「お話し中に申し訳ありません」
「こっちこそ二人で抜けて悪かったな。どうした?」
「ミオさんですが、だいぶお酒が入られたようでお話があやふやになってきまして」
「俺たちが出ていく前はあやふやじゃなかったのか……?」
世界のデフレスパイラルに室町時代で挑もうとしていたような。
当のミオさんはソファの死角に転がっているようで、ここからだとこぼれだした黒髪が少し見えているだけだ。そんな俺の疑問に村崎は小首をかしげている。
「?」
「いや、なんでもない。知らせてくれてありがとな」
「いえ。それで、時間も遅いですしそろそろお開きにしたらいかがかと」
「そうするか。とりあえずミオさんをベッドに運んで……部屋の片付けは俺が明日やっとくよ」
「お手伝いします」
「これも俺の仕事なんだから大丈夫だ」
まずはミオさんに水を飲んでもらってベッドだ。ただ寝ている人というのは想像以上に重く、安全に運ぼうと思うと一人では難しい。
「土屋、手伝ってくれ」
「お、おう」
「土屋先輩」
「なんや村崎」
「私がお手伝いしますから大丈夫です」
「いや、こういうのは男手のほうが」
「大丈夫です」
「お、おう」
圧が強い。圧が強いぞ村崎。そしてそれに押し切られるのは九州男児としてどうなんだ土屋。
「では松友先輩お願いします」
「ああ」
でも見方によっては、村崎も頭のどこかで土屋とミオさんの距離感を意識しているということかもしれない。気にしすぎかもしれないが、ないと言い切ることもできないだろう。
と、思ったのだが。
「村崎」
「はい」
「半分いっしょに暮らしてる俺なら大丈夫と思ってくれたんだと、そう前向きに受け取っておくが」
「はい」
「毛布くらいかけてあげてもよかったと思う」
「すみません」
「くるぅぅぅ……くるるるる……」
確かにもう人間の言葉を発していない。さすがの村崎も想像力で補完はできないだろう……というのはともかくとして。
「狼になった夢でも見てるのか……?」
狼耳のナース姿のミオさんが床に伏せている。手を爪のようにして、床に伏せるようにうつらうつらしている。
立っていても下に引っ張っていないと心細い、そのくらい丈の短いスカートで狼のポーズ。見えそう。何がとは言わないけどかなり食い込んで見えそう。
「次からは毛布をかけます」
「ちなみに毛布はあっちの収納な」
「分かりました」
「……あ、取ってきてくれ」
「分かりました」
ミオさんの足側に回らないようにしつつ、土屋を制止した村崎の意図を理解した。たしかにこれは男には見せられない。いや、俺も男なんだけども。
「取ってきました」
「じゃあそれかぶせて、足の方を支えてくれ」
「こうですか」
「そうそう、せーの!」
持ち上げて寝室へ。着替えは衣装を作った村崎に任せ、寝室のドアを閉じる。
リビングに戻ると、土屋が律儀に窓の外を眺めながら手持ち無沙汰にしていた。
「早乙女さんどうやった?」
「ああ、大丈夫だ」
「そうか」
「ところで土屋、お前さっき気圧される前から村崎に対して口数少なかったけど」
「そうか?」
「……いや、そうでもなかった。うん」
「せやろ」
そういうことにしておいた。
2組いれば進む方と進まない方がいるのは世の常で。
でもひとつの川の水であれば、隣が流れていればこちらも流れずにはいられないものです。
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