土屋さんは答えられる 【告知アリ】
あとがきでお知らせがあります
「ちょっと夜風に当たらないか」
皿洗いに区切りをつけ、俺は土屋を誘ってベランダに出た。秋の終わりを吹く風の冷たさが酒の入った顔に心地いい。遠目に見える東京スカイツリーもハロウィンに合わせてだろう、オレンジ色にライトアップされている。
「で、なんやっけ」
「土屋的に村崎はアリかナシかって話」
改めて、一応真面目に訊いてみた質問への回答はすぱっと一言。
「いやナシやろ」
諫早市出身の地黒な男、即答だった。
「ナシなのか」
「オレがどうこう以前に向こうがナシやろうし」
「まあ向こうの都合はこの際置いといて、だ」
「やとしても、いや、村崎やぞ?」
「村崎だから言ってるんだが」
「よか奴なのは分かっとるけど、いやー……」
もっともこういう反応は予想していた。普段の傾向からして照れ隠しとかでなくこう返ってくるだろう、と。ここは訊き方を変えないといけない。
ふと、五ヶ月前に初めてミオさんの家に踏み入った時もこのベランダからだったのを思い出す。今の生活のきっかけになったこの場所で今度は土屋と村崎の話をしている辺り、なかなか因果な場所なのかもしれないなんて思いつつ、俺は土屋への質問を変えた。
「例えばだぞ?」
「おう?」
「ミオさんが北海道に転勤になったとするな?」
「北海道か。まあ気軽には会えん距離やな」
「だが俺は諸事情でついていけない。そんな時、ミオさんが土屋に言うんだ。
『女の一人暮らしは不安だから、いっしょに来てくれませんか』
ってな」
仮に本当に転勤になったとしてもミオさんが誰かを巻き込むことはないと思うが、そこはもしもの話なので気にしないことにする。
「行くやろそんなん」
即答である。
「ところがだ。同じタイミングで土屋たちの会社が四国営業所を作ることになって、村崎がそこに異動になったとする。行き先は高知だ」
「高知かー。カツオと坂本龍馬以外何があるんかな」
「個人的にはアオサの天ぷらを推したい」
「ほー、アオサって青のりやったっけ。あれ天ぷらになるっちゃん」
高知市内の『ひろめ市場』だったろうか。目の前で藁焼きされたカツオを食べたことがある。塩で食うのが最高だったがオプションでつけたアオサの天ぷらがまた良かった。ミオさんも好きそうだし今度作ってみようか。
「ああいや、高知の飯の話はいいんだ。村崎が高知に行くことになった場合だ」
「そうやった。で、アレか。村崎もオレに来てほしかとか言い出すわけか」
「土屋さえ希望すれば四国には行けるとしてな。これで誘いは二人、選べるのは一人。どうする?」
「いやいや、その例えやと村崎に行かざるを得んやろ。他スタッフが誰か知らんけど新人一人で行かせられんって」
「それが三年後で、村崎が一人前になってたとしても?」
「三年とか早か早か」
「いっしょに行くのが大山さんでも?」
「あー、大山さんか……」
俺と同じ島にいた係長の大山さん。俺がいなくなって入れ替わりに土屋が入ったので、今は土屋と向かい合わせのデスクだと聞いている。
格別に優秀だとかカッコイイだとかはない普通のオジサンだ。でも面倒見がよく家族思いな、尊敬できる人だと俺は思っている。大山さんといっしょなら仕事上の問題はほぼないだろう。
「どうだ?」
「しっかしなー……うーむ……」
「なんだったら早川課長も付けるぞ」
「そげんなったら逆に心配でついていくわ」
「そりゃそうだ」
「あ、それと今はあいつ『ネバハゲ』な」
崖っぷちの状況で意外と粘っているということらしい。粘るとネバーギブアップのあわせ技なのだろう。
「そうなのか……。じゃあともかく、一人前になった村崎に大山さんだけついていくとして」
「ふーむ」
「現地にも経験のある協力者がいるとして……」
「ふむ」
「村崎自身も四国行き自体には意欲的で……」
「あかんわマッツー」
マンション六階から広がるハロウィンの夜景をぼうっと眺めていた土屋は、心底焦ったような顔でこちらを向いた。
「どうした」
「どげん条件つけても村崎の方についていきよる」
「お前はそうなんじゃないかと思ったよ」
土屋は、いやおそらく村崎もそうだ。お互いを恋愛対象としては見ていない。もし異性でなく同性で生まれていても長く付き合える仲になったことだろう。
それでも無意識には気にしているかもしれない。誰かにとられたくない、離れ離れにはなりたくない、そんな感情が胸の奥にあるのならば。こういう訊き方で見えてくるものがあるはずだと見込んでの質問だった。
自覚をすることで未来が良い方に変わると言い切ることはできないけれど。それでも、気づかないまま手遅れになって後悔するよりはきっといいはずだ。
「いや、マジかオレ。マージーかー」
「なんだ、日ごろ彼女が欲しい彼女が欲しいって言ってる割にはうろたえてるな」
「いや、言うて村崎やぞ。あの村崎やぞ」
「……まあ、な」
村崎はいいやつだ。素直だし正直だし、人の感情は察せなくても人の痛みは分かる後輩だ。顔だって少し幼いだけで可愛い方だし。
でも、あなたの意中の人は村崎さんかもしれません、と言われたら感情の持っていきどころがなくなるのは少し分かる。特に入社した頃の村崎は社会人として色々足りなさすぎてこう、発射スイッチが部屋のどっかに埋もれてしまった核弾頭みたいな存在だったから。
土屋とふたりで何度頭を下げたことか。
「まあ、そういう感情があるって分かっただけでも俺は安心したよ」
「なして安心?」
「恋愛感情、って言っちまうとなんか十把一絡げだろ? お前らのはなんかそういうのじゃない気がしてたからな。なんとなく形が見えてよかったというか」
「何ば言っとんのか分からんわ」
「俺も分からん」
「ダメやん」
「しゃーしい」
なんとなく方言で返した。特に意味はない。
「まあ、分かったからどうしなきゃいけないってことでもないしな。ゆっくり考えればいいさ」
そろそろ冷えてきたし部屋に戻ろう。
窓の取っ手に手をかけると、アルミごしに秋の空気の冷たさが伝わってきた。今日は十月の末日。明日からは十一月、季節はいよいよ冬に向かい始めるだろう。
そんな季節の移り変わりを想う俺の後ろで。
「いや、どうするかは決めとる」
「は?」
夏の忘れ物みたいな奴がそんなことを言っていた。
【告知① 書籍化のお知らせ(4/25発売)】
Y「大変です黄波戸井さん!」
私「どうしました担当Y氏」
Y「タイトルが長すぎて収まりません!」
私「表紙には収められるという話では……?」
Y「いや、背表紙に入らなくて」
私「えぇ……」
という経緯でタイトルを
『月50万もらっても生き甲斐のない隣のお姉さんに30万で雇われて「おかえり」って言うお仕事が楽しい』
と縮めまして、本作が書籍化されます!
やっとやっとやっと言えました!!!!(実は去年の初夏に決まってたけど大人の事情で伏せてた)
4/25(土)にオーバーラップ文庫様より発売予定!
イラストはアサヒナヒカゲ先生が担当くださっています。成人向け漫画で有名な方だから安易にエロが来ると思ったか? 表紙は健全かつ神です本当に!!
まあ口絵はスケベなんですけど。すげぇですよ本当に。
【告知② コミカライズのお知らせ】
マンガになります!
ミオさんが! マンガに!! なります!!!
作画担当の方も決定して制作を進めていただいています。小説版よりも少し大人な雰囲気になるかもですので、こちらもご期待いただきたく!
公開時期や媒体などもそのうちお知らせできると思います!
【告知③ まだ言えない】
まだ言えないんですが、書籍に関してちょっとだけ嬉しいお知らせができる見込みです!
お知らせのお知らせで恐縮ですがもう少しお待ち下さい……!
ここ2ヶ月ほど、
・初めての書籍化作業(校正記号むずかしい)
・ライター仕事で脚本10本書く(だいたいバーチャルYoutuber関連)
・仕事が変わる
・引っ越して家が変わる
と、「私、初めてだよ……?」が3年分くらい凝縮された生活をしています。今も引っ越しのダンボールに囲まれた第1話ミオさん宅スタイルでこれを書いています。
そんな慌ただしくて先も見えない人生が、今はとてもとても楽しいです!
全てのきっかけはこの作品、そしてブクマ・評価でランキングに押し上げてくださった読者の皆さんでした。本当にありがとうございます!
新人作家の黄波戸井ショウリとミオさん達を、今後ともよろしくお願い致します!
(Twitterの方でも告知しておりますので、フォロー&拡散いただけると嬉しいです……!)
https://twitter.com/WalkingDreamer/status/1234442151515193344





