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早乙女さんは長いものに巻かれたい

ご無沙汰しております。松友さん視点です。

<あらすじ>

ハロウィンパーティというものを一度やってみたい。そんな意見が一致したいつもの四人はミオさんの家で集まることにし、松友さんミオさんは料理や会場準備、村崎は仮装の準備、土屋は村崎の迷走を止めることに奔走する。

そんな中、以前より土屋との距離感が掴みづらくなっていることに困惑する村崎。それを察したミオさんは助け舟を出そうと考えるが、そのことはミオさん自身にも変化をもたらして……。

 十月末日、つまり三十一日。


「…………?」


 ハロウィンとよばれるこのお祭りは、日本でいうところのお盆に近いものだと聞いたことがある。「ハロウィンパーティってやったことない。一度やってみよう」という約束通りここミオさん宅にやってきた村崎は、ミオさんがカレンダーに描いたかぼちゃのマークをじっと見つめて何やら首をかしげていた。


 その頭には魔女の帽子、背中には魔女のローブ。シンプルな衣装ながらよく似合っている。


「いや、何しとるん暗黒物体」


「暗黒物体」


「いや、後ろからやと『謎の黒い物体がカレンダーば見上げとる図』に見えてな」


「見上げてません。三十一日は目線の高さです。見上げる必要がありません」


「否定するのはそこなんやな」


 一方の土屋は包帯をグルグルに巻いたミイラ男らしい。村崎曰く、シンプルながら機能性に優れているとのこと。どんな機能かは教えてくれなかった。


「で、暗黒村崎は目線の高さで(なん)ばしよったん」


「ひとつ思ったことがありまして」


「なんや」


「ハロウィンって死者の霊が帰ってくる日なんですよね」


「らしいな」


「ご先祖様を皮切りに良い霊も悪い霊も地上にやってくると」


「おう」


「それって、果たしてハッピーなんでしょうか」


 カレンダー、そしてテーブルに置かれた『HAPPY☆HALLOWEEN』のカードへと視線を移し、真面目な顔で、そう本当に真面目な顔で言っている。


 そんな村崎に土屋は大きく頷いてみせた。


「ふむ、言われてみればたしかにそうやな。必ずしも祝っていられんかもしれん」


「ですよね」


「お前の言う通りや村崎」


「ありがとうございます」


「おーいマッツー、村崎が祝いのパイいらんってー!」


「先輩?」


「そうよな、浮かれてパイなんぞ食っとる場合やない。悪霊から自己防衛しとかんといけん」


「土屋先輩?」


「安心せえ、味の感想はあとで送っちゃるけん」


「あの、先輩……?」


「よし、そろそろ手伝ってくれないかそこの二人。この服で運ぶと鶏肉に見えないから」


 このままだと無限に続けそうだったので打ち切らせてもらい、テーブルに料理を並べてゆく。俺の衣装は『拷問器具の発明家で人狩り』らしく、コートに帽子で普通にかっこいいんだが手に持った鶏肉が何か違う生き物の、具体的には霊長類の肉に見えるのが欠点だ。


「村崎」


「なんですか」


「なんであのカレー屋のあとでこれ作ったん」


「お肉が違うものに見える現象を私の技量で再現できるか、試さずにはいられなかったからです」


 なんかカレー屋で『にんにくカレー』を『じんにくカレー』と間違えたらしい。なんのことだか。


「ほら、いいから肉を並べろ肉を」


「鶏肉をやな、鶏肉を」


 かぼちゃのパイを中心にシチュー、バジルチキン、パンにサラダに果物類を揃えてみた。世間一般のハロウィンパーティの料理とやらがどんなものか知らないが、味にはそれなりにこだわってある。


「かぼちゃのパイって初めて食べるんですが、要するにアップルパイのかぼちゃ版ですか?」


「先に下味をつけてペーストにする手間はあるけどな」


「はー、上手いもんやなー。マッツーこんなんできるんか」


「土屋には前にも何度か料理食わせたことあったろ」


「どっかしらおかしい状況ばっかやった気がするっちゃけど」


「そうだったか?」


 ウノ地獄の時とか、豚のうなぎの時とか。会社にいた頃だと二撤めの夜食とか。


「そうだった気もする」


「せやろ」


「私は何度か普通にいただきました。おいしかったです」


「村崎」


「はい」


「……よかったな」


「はい」


 めでたい席だから口うるさくは言わないことにしたんだな土屋。俺は評価するぞ。


 と、そんな話をしつつ料理にはまだ手をつけない。理由は単純、あと一人足りないから。


「早乙女さんはまだなんかな」


「たしかにミオさん遅いな。村崎、見に行ってもらっていいか」


「分かりました」


 村崎が迷いない足取りで寝室へのドアを開けると。


「いました」


「ねえきらんちゃん、これ、手作りとは思えないくらいしっかりしてるし可愛いと思うんだけど」


「ありがとうございます」


「短くない……?」


 そこには狼の耳にナース服のミオさんがいた。丈の短いスカートを下に引っ張りつつそわそわと視線を泳がせている。言われてみれば、ミオさんはショートパンツははくけどスーツより短いスカートは見たことないような。


 前に下着を見てしまったときよりも恥ずかしがっている気がする。人間の心理の不思議なところだ。


「ねえ松友さん、これ短いよね? おかしいよね……?」


「ミオさん」


「うん」


「問題ありません」


「私、もう二十八なんだよ……?」


「問題ありません」


「問題ないことないと思う……」


「問題ありません」


 俺の後ろでは土屋が何度か頷いている気配がする。


「村崎」


「なんでしょう土屋先輩」


「よくやった」


「ありがとうございます。松友先輩が拷問しすぎた人を治してまた拷問できるようにする(ライカン)ナースです」


「想像の三倍くらい物騒っちゃけど」


 まさかの俺とセットだった設定はともかく、これで役者も揃った。料理が冷める前に始めるとしよう。


「よーし、テーブルに集合ー」


「え、え、本当にこの格好のまま……?」


「あ、そうですね。ミオさんこちらへ」


「だよね。せめて羽織るものとか……」


「記念撮影を忘れてました。食べる前に料理の前で撮りましょう」


「人形の撮影に使っている一眼レフを持ってきました」


「三脚はあるとや?」


「普通のタイプとどこにでも付けられるアームタイプがこちらに」


「よくやった村崎」


「ありがとうございます」


「えぇー……」


 やはりスカートが気になるのか渋っていたミオさんだが。みんなでポーズを撮り始めたら意外とノリノリだったので、撮影は滞りなく終わった。


「えー、それでは。九十九里浜の『海だー!』以来の感じで」


 夏の思い出を振り返りつつ、スパークリングワインの入ったグラスを持ち上げる。


「「「「ハッピーハロウィーン!」」」」






「マッツー、もう皿ば洗っとるんか」


「なんだ土屋、九州男児は台所には立ち入らないんじゃないか」


「家の中を隅々まで我がものにしてこそ大黒柱よ」


「物は言いようだな」


 テーブルから下げた皿を洗っては水切りラックに並べてゆく。自動食器洗い機を買おうとミオさんが言ってくれたこともあったのだが、なんとなく自分でやりたくてこうして手洗いを続けている。


「なんというかな、この方が『食べてもらった』感があるんだ」


「そんなもんか。で、なして今からやっとるん」


「これから忙しくなりそうだから」


「……ああ、たしかにな」


 普段の夕食ならともかく、今日はパーティなのだから全部終わってからまとめて洗ってもいいかとも思っていたのだが。


 ちらとリビングのソファに目を移せば、ミオさんと村崎が膝を突き合わせて熱く語り合っている。


「だからね、世界はハンバーガーを漬け込んでデフレスパイラルだと思うの」


「なるほど」


「楽しいケーキ屋さんが概算請求する恐れはあるけどレモングラスってすごいよね最後まで柿の種たっぷりだもん」


「ふむ、ミオさんはそれをどうすればよいと思いますか」


「室町時代」


「そうですか」


 距離があるせいで俺が聞き間違えているというわけではないだろう。


 ミオさん、チューハイでも酔うんだからスパークリングワインでどうなるかとは思ってたけど想像以上にアレなことになっている。これは後の対応を今から考えておいたほうがいいだろうということで、俺の手はシチュー皿のなぜかよく裏にこびりつく汚れを落としている。


「あれ、何が怖いってな」


「気づいたかマッツー」


「村崎の方はシラフだろ」


「シラフやろな」


「なんで会話が成立してるんだ」


「想像力が豊かすぎて補完しとるんやと思う。仕事でも似たようなことあるけん」


「あるのか」


 会話が通じないタイプの取引先――業種の違いだったり方言の違いだったり、時に担当者の質の問題だったり――を、行間を想像で埋めることで理解するらしい。読書家で物語好きな村崎らしい特技ともいえる。


「あの顔でまっすぐ目ば見て『分かりました』って言うけんな。信頼度がすごかぞ」


「あいつも成長してるんだな……」


「八割がた間違っとって、後できたクレームに対応する形で取引ば進めるけどな」


「ダメだった」


 いや、ダメとも言い切れないか。


「その場を収める、ってのも必要なスキルやろ」


「理想の上ではいらないけど現実には絶対必要だな」


「な」


「よく見てるじゃないか」


「まあ、あいつにはオレしか歳の近い先輩はおらんしな」


 それにしたってよく理解している。村崎が入社してから、いってもまだ半年ほどしか経っていないというのに。俺とミオさんの知らないところでも親密にしていることが伺える。


「実際のところどうなんだ?」


(なん)がや」


 思い出すのは、ミオさんが千裕姉から聞いたという話。『人間としての自信と女としての自信は別物。堂々と生きているように見えても、女としての自信がないと自分を恋愛の当事者とは思えないことがある』……らしい。


 ミオさんは村崎がそうなんじゃないかと言っていたけれど。


「土屋から見て、村崎はアリかナシかって話」

お久しぶりです。季節感もなにもなくなってしまった黄波戸井ショウリです。でもなんでシチューを食べると皿の裏側が汚れるんだろう。

改めまして本年もよろしくお願い致します。


更新が滞った原因については1月に活動報告の方で少し書かせていただきました。

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2487613/


ざっくり言いますと「会社が死にそう」「右手が死にそう」「スケジュールが死にそう」の三死にそう問題があったわけですが、会社と手については問題解決のメドが立ってきた次第です。

なのでゆっくりですが更新を再開しようと思います。何度も何度も中断して本当に申し訳ありませんが、またお付き合いいただけると幸いです。


なお、本作について【3/2(月)】にひとつご報告ができると思います。

いいお知らせですのでご期待いただけると幸いです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました。ついに更新されて嬉しいです シチューを食べてもお皿の裏が汚れたことはないですw
[一言] 更新お疲れ様です〜 待ってました! これからも続き楽しみにしてます♪
[良い点] きらん万歳! もう、ホントにみんなの掛け合いや細かい所が楽しくって好きすぎる。 「暗黒物体」 「見上げる必要がありません」 「いました」 「家の中を隅々まで我がものにしてこそ大黒柱よ」 「…
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