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どこにでもよくあるただの異世界物語  作者: スノーホーク
2.置き去りまでの王国編
9/23

俺チートあるよね?あるんだよね!?あってよお願いだから!!

学生って案外忙しいもんですねー


「う、オェぇ 、ウォぇえ」


(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)


胃の中のものをすべてぶちまけたくなるような強烈な吐き気に耐えきれずに、本当に胃が空っぽになったのではないかと思うほどの嘔吐を繰り返す。吐瀉物には食物は含まれておらず、胃液と血のみで構成されていた。これ以上は吐くのもきつくなってきたのでグッと我慢しながらベット上でのたうち回る。


(うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい)


頭の中では様々な声が口々に悲鳴をあげたり叫んだりしていて、心臓が張り裂けそうなほどの痛みに襲われる。胸を押さえつけると幾らかマシになる。


(死ね死ね死ね 助けて助けて 痛い痛い痛い もう嫌だもう嫌だ 死ね死ね死ね死ね死ね死ね)


しかし、今度は頭の中に声とともに負の感情が流れ込んでくるようで頭が割れてしまうほどの痛みに正気を保っていられなくなる。


俺は……誰だっ…け?

もういっそ楽になろうと死にたくなるが…俺は


俺は――――だ。

まだ…まだ大丈夫だ…まだ俺は…俺だ。

殺して殺して殺して殺し尽くして

屍の頂上に登りつめてでも…



絶対にお前を―――を死なせたりしない!





「紅…様?…鷹様?紅鷹様?」

「はへ!?ハッハッ、あれ?夢か?」


いつの間にか寝てしまい夢をみていたようだった。息切れを起こすくらいなので決していい夢だとは言えないことは間違いなかった。それにしてもやけに鮮明な夢だったのにほとんど内容は思い出すことは出来ない。だというのに気持ち悪さだけが残っていて、最後に誰かの名前を呼んでいたようなことだけしか覚えていなかった。あれはいったい……


「大丈夫ですか?かなりうなされていたようですが…」


俺の顔色が相当良くないのか、顔を覗き込むようにしてメイドさんが俺の体調を案じてくる。


「あ、いえ、もう大丈夫です。ちょっと目覚めの悪い夢を見てたみたいなだけで」


体への影響はなさそうなので問題ない旨を伝える。

そういえば、体といえば昨日と違って重いと感じなくなったな。むしろ体が少し軽いと感じるくらいだ。昨日の息苦しさもないし、地球と環境がほとんど変わらないのか?


それより見たことがあるようなと思ったらこのメイドさん昨日の風呂場で駆けつけてきた人だよな。


「そういえば昨日はゲーエンバート隊長とかなり親しげにされてましたね」

「隊長?……もしかして風呂場のおっさんですか?って!昨日のそれのせいでメイドさんたちの距離感が大きいんですよ!どうしてくれるんですか!」

「いや〜メイドの間でも噂になってますよ特に、一部の腐ってる人たちとか大興奮です!!」

「嬉しくないわ!!てか、こっちにもそんな文化あんのかい!」

「あ!そう言えば申し遅れました、私、紅鷹様のお世話をさせてもらいますアリッシェと申します。どうぞお見知り置きを」


俺のツッコミに触れることはなく、そのまま自己紹介に入ってしまった。


他のメイドよりも雰囲気的に接しやすく(ただ単に敬意が足りてない気もするが)少し露出の多めのメイド服でマイペースな少し茶目っ気のあるお姉さんさんといった感じだ。


「それじゃ俺も、異世界から来ました鷹瀬紅鷹と言います。よろしくお願いします。」


お互いの自己紹介を終えたところでアリッシェさんが今日のこの後の予定を伝える。


「まずは朝食を持ってまいりますので召し上がっていただいた後、少し休憩の後に我がエアステンス王国の陛下と面会していただきます。そのために着替え、まあお色直しですねをしていただきます。その後については陛下によるお言葉にもよりますので…そのようにお考えください。」


(うわー王様に会うのか異世界ならいきなり、よく来た勇者よとか言ってる偉そうなやつだろ)


コンコンと扉をノックする音で朝食が来たことを示す。

ワゴンに運ばれてきたのはなんと‥‥

米だ‥‥とッ!!それに味噌汁に海苔や焼き魚など、どこからどう見ても日本食の朝食である。まさか異世界で米が食えるとは思いもしなかった。


さらにメイドさんが

「もしよろしければ納豆もございますがいかがしますか?」

「マ、マジですか!?ということは醤油もあるということですか?」

「はい、もちろんご用意できます!」


ノリのいいメイドさんだ、俺のテンションの高さに合わせて答えてくれる。


「はー、やっぱり紅鷹様も他の召喚者の方と同じような反応をなさるのですね」


感激で涙を流しながら米を買っている俺を余所目にアリッシェさんが少し呆れ気味で溜息をついている。


「そりゃ、日本人でしたら誰でも喜びますよ、人によっては米がなくて栽培し始めようとする人だっているでしょうに…」


異世界小説では自分で作ったり、日本風の文化がある地域に行ったりして稲をもらったりだとか結構ありがちな展開だったりする。


(やっぱり、俺と同じ同郷の人が多いのかな?日本食それも納豆があるくらいだから結構な人が来るんだろうけど、あのポンコツのことを忘れてるのはある意味羨ましいな)


朝食が終わり、コーヒーを入れてもらう。さすがに納豆を食べるのは国王に会うということで臭いが気になるので次の機会にした。


小休止が終わるとすぐさま衣装部屋へと連れられていく、着替えさせられたのはなんとスーツだった。


(この世界、スーツがあるのか!)


普段、小説なのでよく見る異世界は中世ヨーロッパ風の作品が主に多い。そのため現代のように産業革命のようなことが起きてないとまず文化レベルが大きく違うことになるはずだ。


その一つとして、衣装の大量生産が関係してくる。現代のように数を生産することが出来なければ古着かオーダーメイドになってしまい、高いか安いかの2択になるはずである。(確かそうだったはず)


それに比べて今回はスーツなんてものが出てきた。ということは、いくら金をかけているとはいえ、昨日の風呂場や客室などからも薄々感じてはいたがこの世界の文化レベルはかなり高いことが伺える。


(異世界小説を読んでなけゃ調べようとも思わなかったことだけど、意外と役に立つこともあるもんだなぁ)


向こうにあるものとは違うが大学の入学しに以来袖を通していないスーツはなかなかに身が引き締まるような感じがする。着心地も向こうとあまり差がないのにも驚かされる。


着替えが終わったあと、国王に会うということなので軽く礼儀作法を教えられる。と言ってもこちらは訳もわからず召喚されてた立場ということもあり、できなくても気にする必要はなさそうだ。まあ、無礼な態度さえとらなければ大丈夫だろうということであまり気にしないでいこうと思う。


アリッシェさんに連れられて長い廊下を進んでいく。途中で他のメイドさんや騎士やらに見られながら進んでいくと、他とは一線を画す巨大な扉と扉の前に立つ2名の屈強な騎士がいた。


アリッシェさんの案内はここまでのようで一礼し去っていく。扉の前にいる騎士へと引き渡される。


(ドナドナドナードーナ荷馬車が揺れる〜売られていくよ〜って心境だな)


さてと、ふざけてる場合じゃねえなと思いネクタイを少しきつく締める。そして、巨大な扉が開き、一礼して入っていく。


左右には騎士が山ほど並んでおり、昨日の偉そうな女騎士は上座の方それも2番目にいた、まじかあいつそんな偉いやつなのかよ!


さらには隊長という言葉が本当であるように上座の先頭に風呂場のおっさんがいた。最初、俺に向かって手を振っていたところ隣の女騎士に頭を叩かれてやめたと思ったら今度はウインクをしてきた。おっさんのウインクとか見ても吐きそうなのでマジでやめてほしい。


さらには、エーデルフィア様にその隣にはおそらく王子と思われる姿の二人の男性が並んでいた。


そして尋常ではない装飾品やらの馬鹿でかい部屋の最奥には椅子に座る一人の男がいた。歳は30代くらいとかなり若い、少なくとも俺の想像していたような年季の入った国王という感じはしなかった。が流石、国王と言ったところだろうか威厳というかカリスマ性というかそんなようなものが感じ取れ、ただのお飾りでは間違いなくなかった。


(これがエアステンス王国、国王グラウザム・フォン・ゲシェーフィテルか…)


一応、礼儀作法らしいので王の言葉があるまでは頭を下げたままでいる。俺を連れてきた二人が下がっていったあと、国王が

「面を上げよ」

と言った。

ただそれだけなのに言葉の重みがのしかかってきたようで驚かされる。


(こいつ…本当に只者じゃねえな)


「さて話は卿に任せる」


そういって一人の男が前に出てきて話を始める。


「陛下に代わり大臣である私グロースアートが話を進めさせてもらいます。さて、早速本題に入らせていただきます。まずは召喚に応じこの場に参上したこと誠に感謝します。貴殿には約5年後に現れるであろう魔王を倒すのに力を貸してもらいたい」


(やっぱ魔王っすか、それにしても5年後って…やたらと長いなぁ)


「魔王の説明にあたり、軽くこの世界についてご説明しましょう。この世界アインアンダーは本来、紅鷹殿がきた世界とそう変わりはないと思われます。しかし、一点だけ大きな違いがございます。それは『魔素』というものが存在するということです」 


そしてさらに話が続く。


「この魔素というのが紅鷹殿の世界と大きく異なる理由となっております。といってもこの魔素が突如発生したのが100年ほど前ですので完璧に分かっているわけではありませんが…」


「しかし、この魔素により人々は魔力を持つようになります。そのため、一部の人々は様々な普通では考えられないような超常的な力すなわち『魔法』を発揮するのです」


新しい情報が多いので軽く整理すれば、この世界アインアンダーは魔素があるため魔法が使える。その魔素は比較的最近発生し、完璧には分かっているわけではないってところか。


けどその前に聞きたいことが………


「ここまではよろしいですか?」

「んっんん、質問してもかまいませんか?」


軽く咳払いをして手を挙げ、周りの人の数に気圧されないように自身の存在を主張して質問を問う。国王の前だ。ここは真面目な態度でいかせてもらう。


「どうぞ?」

「その魔王が5年くらいで復活するというのはおそらく、私の知らない魔法によるものとだと思案しますが、その5年という数字はどのくらい信用してもいいのでしょうか?」


ここは、是非とも確認しておきたいところだった。ありがちな展開としては急に予想よりも早く復活して戦闘に駆り出されるなんて良くあることである。確かに5年という期間はかなり長いので余裕があるかもしれない。けどもし準備が足りず戦いに行くことになれば?それは自殺行為としか言いようがない。


土壇場で能力が覚醒するなんて物語の主人公でもない限り現実はそう甘くないはずである。少なくとも俺はそんな曖昧なものに期待はするほど楽観的ではない。


「これまでも魔王が発生すると言うのは幾度かありましたが数日ズレることはあっても大きくずれたことは1度もありません。その点に関しては心配なさる必要はないかと」


見た感じは嘘をついている様子はなさそうかな。確証があるわけではないが一先ずは良しとしておく。


「さて、その魔王とはまさに災害。今までも度々現れては国々を滅ぼしていく厄災。その時々で姿・形が異なりなぜ現れるのか未だにはっきりとわかっておりません」


(なんだそりゃ、災害って…‥あれか向こうで言うなら台風を止めろっていいってるようなものか?いや無理じゃね?)


「そのような魔王に対抗すべく紅鷹殿にこちらの都合なのは重々承知ですが戦力と期待し召喚させていただきました。そのため、紅鷹殿の力がどれほどのものかが重要となってきます。どれだけの力を秘めているのか計らせていただきます。」

「……」


(おいおい!俺どんだけ期待されてんだよ!おい、ポンコツ女神!これでダメだったらお前のせいだからなあぁぁ!!)


届くはずもないが心の中で文句を言わずにはいられなかった。


次回の更新は明日の予定です(※あくまで予定です)

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