#29 ブレストヒーラーズ
中央から冒険者側前線近くにいるマールやリオ達の所へ向かったら…前線組の負傷者はほとんど回復されてて、俺が二人の側まで来た時にはもう残り数人だった。
「〔ヒーリング〕」
「…〔ヒーリング〕……」
パァァっと傷口近くに翳した掌から温かな光を発して負傷者を回復してた。
二人共真剣な表情…リオはあんまり変わってないけど、一生懸命だってのは伝わってくる。
「……ふぅ…。どうですか?」
「あぁ…もう大丈夫だ。ありがとな」
「良かったです。傷口は塞がりましたけど、失った血は戻ってませんから、まだ無理はしないでくださいね」
「おぅ、分かった」
「竜人の姉ちゃんもありがとな、助かったぜ」
「…………(コクっ………」
回復してもらってた冒険者達が二人に感謝を伝えて立ち去っていった…多分仲間の元に行ったんだろう。
キリが良さそうだったからちょっと声を掛けてみた。
「マール、リオ、ご苦労さま」
「あ、ナオちゃんっ」
「………マ、スター…………」
「前線で大変だったろうけど、大丈夫だった?」
「リーちゃんが守ってくれましたから大丈夫でしたよ。負傷者の方もリーちゃんがいてくれたおかげで何とかなりましたし」
「………頑張っ、た…………」
「そっか、二人ともありがとな」
「私たちに出来る事をしてるだけなんですから、気にすることなんてないですよ」
「………そう、だ…よ………」
「うん、でも任せっぱなしの頼りっぱなしだったからさ、やっぱりちゃんと言っておきたいと思って」
「ナオちゃんのそういうところ、やっぱり…ふふっ」
「………マス、ター………」
ん?何そんな嬉しそうな感じ出してるのかな、二人とも…。
俺的には普通のことだと思ってるんだけど……お願いしてやってくれてるんだから、ありがとう、だよね?
「えっと…負傷者ってここにいる人達だけ?」
「そうですね、後方に運ばれた負傷者は回復支援部隊の方で対応してもらってるはずですから、ここは今いる人達と…アーちゃんとシーちゃんに見回って連れて来てもらってる人達だけだと思います」
アーネとシータは負傷者をマール達の所へ運ぶ手伝いをしてたんだ…と、丁度少し離れた所から冒険者に肩を貸しながら二人がこっちに向かって来てた。
「了解。じゃあもうちょっとだけお願いするよ、二人とも」
「はい、任せてください」
「………(コクっ……」
引き続き残りの負傷者の回復を始めた二人。
負傷者を見た感じそれ程大きな怪我は負ってないみたいだった…あの前線での戦いの中、これくらいの負傷で済んだのは、流石冒険者ってことだろうな。
「っと。ここで待っててくれ、すぐ回復すっからよ」
「ああ、悪いな…」
「ナオトはん、こっち来てたんやな。亀は…って、無いやん!えっ、なして?」
「…マジで無くなってやがる……」
脚に傷を負ってる負傷者を連れてきてこの場に座らせた後、俺と無くなった亀に気が付いたアーネとシータ。
俺はともかく亀が消えた事にも気付いてなかったのか。
「俺の収納に入ってるよ。墓地の方ね」
「収納て…どんだけ広いんや、その墓地……」
「えっと…限度無い、かな」
「…限度無い収納とか、いい加減過ぎんだろ…ったく、これだから漂流者は……」
「え。ご、ごめん……」
「あんまし驚かせんじゃねぇよ、こっちの身が保たねーっての」
「そこまで言わんでもええやろ、アーネ。ナオトはんかて何も謝ることないやん」
いや、まぁ、そうなんだろうけど、何となく…アーネに責められてるみたいで反射的にスッと謝ってしまった…。
「プッ、ナオトはホントアタイが何言っても怒んねーのなっ。くはっ」
「いや、だって驚かせちゃったのは事実だろうし…」
「ナオトはんもアーネの言う事まともに取り合わなくてええんやで?どうせからかって遊んでるだけやろうしな」
そんな感じはしたけどね…まぁこれくらいで怒るとかありえないし、そこまで沸点低くないから俺。
それより何より、俺の本当の歳知っててもこうやってからかってくれるって、そっちの方が嬉しかったりして…。
「こんくらいがいーんだよっ。ナオトだってそうだろ?ん?」
「…ま、まぁ…正直からかってでも何でもこういうやり取りは、嫌いじゃない…よ」
「ほらなっ。アタイだってこんな風に言えるヤツはシータとマール、ラナと、あとは身内くらいしかいねーからな。こんなアタイでも受け入れてくれるっつーナオトには遠慮なんかしねーよっ」
「言いたい事は分かるんやけど、やり過ぎてナオトはんに愛想尽かされても知らへんで?」
「んなことねーよなっ、ナオト」
「あー、うん、俺からは無いよ。皆からはあるかもだけど…」
「それこそねーわ、なぁシータ」
「うん、無いわ」
言い切っちゃうんだ、そこ…いや、嬉しいんですけどね、もちろん。
まぁでもこの先どうなるか、どんなことがあるか分からないからな…愛想尽かされないよういろいろ頑張んないと。
向こうにいた頃と同じ道は辿らないように。
「うん、愛想尽かされないように俺も気を付けるよ。で、もういないのか?負傷者」
「うん、さっきの人で最後や」
「そっか。じゃあもうすぐ帰れるな…ガルムドゲルンに」
「帰ったらまずあれだなっ」
「酒と飯か?」
「それそれっ!盛大に祝杯上げよーぜっ!あー、つってもアタイはそんな役立ってなかったけどな…」
「何言うとんのや、ウチらの事守ってくれてたやろ」
「けどよぉ、結局ナオトに助けてもらっちまったしよ…」
「あれはしょうがないって。むしろ呼んでくれなかった方がまずかっただろうし」
空の敵、数体ならともかくあんな数だったんだから、呼んでくれて良かったんだって…ちゃんと助けられたし。
アーネとシータに何かあったら…って今考えただけですげぇ怖くなった……俺の中ではもう皆の存在ってこんなに大きかったんだ…自分でも驚いた。
「みんなそれぞれ頑張ったんやし、それでええやん、な。ナオトはんもそう思うやろ?」
「そうだな…二人が無事で本当に良かったよ……」
「…なんだよ、急にそんな真顔になって」
「あ、いや、うん、何でもないっ。とにかくこうして終わったんだから、それで良しってことで!」
「ナオちゃん〜、終わったぁよぉ〜」
アーネとシータと話ししてた内に負傷者の回復が全て終わったみたいで、マールとリオが俺達の側まで来た。
マールはもう通常モードに戻ってる…よし、じゃあ帰るとしますか。
「お疲れ様、マール、リオ。それじゃ、フィルさん達と合流して帰るとするかっ」
全員頷いてフィルさん達冒険者が集まってる所まで歩き始めた。
向ってる途中、中央にいた弘史達と合流出来て一緒になった。
…知美ちゃんはまだ復活出来てないらしく、フラムにおんぶされてたけど。
冒険者が集まってる場所へ着いた時にはもうほとんど全員揃ってて、俺達は結構最後の方だった…もしかして待たせちゃったかな?
合流したことを報告するのに真っ直ぐフィルさんの所へ。
「フィルさん、前線の負傷者の回復終わったので合流しました。待たせちゃいましたか?」
「いや、防衛隊側がもう少し掛かるそうだから大丈夫だ。マール君、リオ君、ご苦労だったね。助かったよ、ありがとう」
「お役にぃ立てたぁみたいでぇ〜良かったですぅ〜。ねぇ?リーちゃん〜」
「………わた、し……役、に…立った……?……」
「もちろんだとも。前線の者達から話は聞いている。二人に大変感謝していたとも。ただ…」
「「…?…」」
「…いや、まぁ、とても感謝していたのだよ、うん」
何故か視線を反らし歯切れの悪いフィルさん…何だろ、二人に何か問題があったりしたのか?
「ンンっ!とにかく、もう少しで出発出来るはずだ。それまで待っていてくれたまえ」
逃げるようにこの場を離れたフィルさん…あ、これあれだ、なんか誤魔化したな…回復してもらった冒険者達が二人のこと変な風に言い触らしてたりとか?って、助けてもらってそれは無いか、いくら何でも。
「…何かぁ変な事ぉ〜しちゃったかなぁ……」
「そんな事あらへんやろ。二人ともあないに頑張っとったんやし」
「心配すんなって、おかしな事言ってるやついたらアタイがブッ飛ばしてやっからよっ」
「まぁ、二人に感謝してるのは間違い無いと思うから、大丈夫じゃないか?」
「だとぉいいけどぉ……」
「………わた、し……多分…分かった、かも…………」
「分かったって…何が?」
「……みん、な………これ、見て…た………マール、のも………」
そう言って自分の胸を触りだしたリオ。
つまり…冒険者達は二人に回復してもらってた間、目の前にあるそれを見ていた、と。
うん、まぁ、同じ男として眼前にそのたわわに実った果実のような胸があったら、凝視したくなるのも分からなくは無いけど…。
と、俺達が話してるところに、冒険者が数人やってきた。
多分マールとリオに回復してもらった冒険者だろう。
「よう、さっきはありがとよっ『ブレストヒーラーズ』」
「あぁ、ホント助かったぜっ『ブレストヒーラーズ』」
「おいっ、何だよその『ブレストヒーラーズ』ってのはっ」
「ん?あー、誰が言い出したか知らねぇが、二人の事みんなそう呼んでたぜ」
「俺も妙に納得しちまってよ。スキルだけじゃなくて、こう、見た目でも癒やしてくれたっつーか」
…これのことか、そりゃフィルさんも言い辛いわけだ…。
だからって本人達の前で言うのはどうなんだよ、セクハラじゃないのか?それ…。
「…オマエらホントによぉ……どんだけアタイに暴れてほしいんだよっ?あぁんっ!」
「うえっ!?ちょっ、待った!んなこと思ってねーしっ!」
「みんな言ってたから言っただけだって!せっかく回復してもらったのにまた怪我とかシャレになんねぇよっ!」
身の危険を感じたんだろう、言い訳を残して脱兎の如くこの場から逃げて行った…少し考えたらこうなるって分かるだろうに…。
「…リーちゃんのはぁ分かるけどぉ…私もぉ……?」
「自覚ないんかマール。ウチら見たら分かるやろ…」
「ったく、どーしてこうヤロー共はそんなヤツばっかなんだよっ!」
耳が痛いです、ごめんなさい。
いや、でも、俺も分かっちゃうんだよなぁ…スキルで肉体的に、その母性溢れる胸で精神的にとか…ヒーラーの理想形じゃない?って思っちゃうんだけど…。
まぁ、邪な目で見てるやつが大半だと思いますがね、俺も正直イヤらしい目で見てないとか言い切る自信は無いです…ホントすみません。
「はい…同じ男としてごめんなさい……」
「って、そこでナオトも認めんのかよっ!」
「しょうがないだろ…目奪われるのは事実なんだし……」
「………これ、が……いい…の……?………」
って、リオっ、そこでそれを強調するように持ち上げるのは止めてくれませんかねっ!ただでさえはちきれそうになってるのにっ!
咄嗟に顔を背けて視線を外したけど…意識しだしたら瞼の裏から離れてくれない…。
「…リーちゃん……そういうことはぁ、あんまりぃ人前でぇ〜しちゃぁダメだよぉ……」
「………(コテっ……?……どうし、て………?……」
「どうしてって、そりゃ、なぁ…」
「…誰が見てるか分からへんしなぁ……」
「……見られ、たら………ダメ、なの……?………」
「あー、んー…ダメってわけじゃねぇけどよ……」
「リーちゃんはぁ…見られてもぉ〜恥ずかしくぅないのぉ…?」
「………(コクっ……。……別、に……何と、も…思わ、ない……よ……?………」
どうやらリオには羞恥心ってものが欠如している模様。
あれかな?早々に人竜変化を取得した弊害とか?ドラゴンの姿って裸のようなものだと思ってたり…。
「その、な。そうやって見せびらかすようなことするとな、イヤらしい目で見てくる男とか、良からぬ事を考える男とか、そういう輩が寄って来ちゃうんだよ。だから、その、人前ではやらないようにしないと、余計なトラブル…いざこざが起きちゃうから、気を付けような」
「………(コクっ……マスター、が…そう、言う……なら………もう…し、ない………」
俺が言うなって感じだけど…説得力が無さ過ぎ。
それでも俺の言う事を素直に聞いちゃうリオ…従順過ぎてちょっとコワいかも…マスターって呼びたいとか言い出すくらいだから、元々そういう性格なのかな、やっぱり……。
「ナオトはんの言う事はえらいすんなり聞くんやな、リオは」
「………マス、ター……だ、から…………」
「いやいや、だからマスターじゃないんだって…」
「…………(コテっ……?………」
称号だけの話ってまだ理解出来てなかったのか…しかもこれ、何のマスターかすら分かってないような気がしてきた。
「あー、リオ、何のマスターなのかって、分かってる…?」
「………(コクっ……。……マ、スター…は………マス、ター………だ、よ…………」
やっぱり。
すみません誰か教えてあげてください。
ちゃんと理解出来たらマスターって呼ぶのも止めてくれるんじゃないかと…。
「…マール、後でいいからリオに教えてあげて……」
「いいけどぉ…多分ん〜分かったとしてもぉ〜、マスター呼びはぁ変わらないとぉ思うよぉ〜」
「…いや、流石にそれはないでしょ……」
「やって、ホンマにマスターって呼びたいだけやと思うで…?何のマスターとか関係無しに」
「えぇ…主従でも何でもないのにマスターって…いや、まぁ、マスター呼びは百歩譲って許容するとしても、従順過ぎるような気が……」
「そんだけ懐かれてるってことだろ?別に気にするほどのこっちゃねーよ」
「そうかなぁ…。なんかリオに命令なんてしちゃったら、何でもやりそうな気がするんだけど」
俺の為に命まで張りそうで怖いんだけど…あー、リオの話聞いた限りだと、こうだって決めたら思い込んで突っ走しっちゃうタイプだったっけ…ってことは、一方的に主従関係結ばれちゃってるな、これ。
んー…まぁ、俺が変な事言わないよう気を付けるしかないのか…。
「ウチもそんな気ぃするわ…本人の前で言うのもあれやけど」
「………(コテっ……?…………」
「ん〜、リーちゃんはぁ〜このままでぇ十分〜可愛いからぁ〜いいんだよぉ〜、ふふっ」
…ま、いっか、別に支障あるわけじゃないしな、マスターって呼ばれてるだけだし。
本当のマスターじゃないんだからそういう風に振る舞う必要もないし、ちゃんと仲間として接してれば大丈夫だろ…多分。




