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#22 迎撃準備



ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー






 翌日、襲来予定の日…朝から外壁門前には冒険者や防衛隊の兵士が既に集結していた─その数およそ4500人程。


 予定だと確か昼頃だったはずなんだけど、物見の兵士がかなり遠目に異変─土煙のような物が巻き上がっているのを確認したらしく、集結を早めて魔物達を迎え撃つ場所─ティシャとひぃがゴブリンの集団に襲われた辺りの平原─へ早々に移動することとなった。


 俺達も皆に混ざって進軍することに。

 部隊配置は戦場に着いてから、冒険者側はギルマスのフィルさんが、防衛隊側はガルムドゲルン公爵家から長男がそれぞれ指揮を取り、行うことになっているみたい。


 防衛隊側の進軍は日頃から集団で訓練している賜物か、規律良く整列歩行で綺麗に足並みが揃っている。

 対して冒険者側は…まぁ、みんな自由に進んでて口数も相当多い。

 中には緊張でガチガチになってる新米冒険者もいるんだけど、回りの先輩冒険者がちゃんとフォローしてくれてるみたいで、緊張を解すためだろう、積極的に話し掛けたりしてる。


 俺達は割と集団の前の方にいて、先頭付近にはフィルさんと烈華絢蘭がいた。


 そういや同じ漂流者の弘史と知美ちゃんはどこにいるんだろうと思って少しキョロキョロしてみたら、右斜め前辺りに後ろ姿を見つけた。

 戦闘が始まる前に少しだけ話しておこうかと思って弘史たちの方へ寄っていこうとしたら、知美ちゃんが丁度後ろを振り返って俺達を見つけたみたいで、弘史とフラムと一緒に向こうから俺達の方へ寄ってきてくれた。



「おはよう弘史。知美ちゃんとフラムも」


「「おう」「おお、おはようご、ございます」「おはよう」」


「シータちゃん、マールちゃん、アーネちゃんおはよう!今日も可愛いなっ!」


「お前昨日それ止めた方がいいって言ったろ、俺…。グイグイいき過ぎだって」


「あ?可愛いもんを可愛いって言って何が悪いんだよ」


「なんやろ…同じ漂流者やのに、ヒロシに可愛いとか言われても、こう、冷めてく感じしかしないんは…」


「あー、何となく分かるわ。あれじゃね?露骨過ぎるからじゃねーの?」


「下心ぉ〜満載ってぇ感じがぁ〜、ねぇ……」


 相変わらず酷い言われような気がしなくもないけど、まぁ弘史の自業自得ってことで。


「ヒロシの獣人好きにも困ったもんだ。トモミ、私達では何もかも不足しているらしい」


「ああ、あの、ひ、一つだけかか、解決策があ、あるんです、けど……」


「…それは却下だ。見た目で種族を偽ろうなど…私には許容出来ないな」


「でで、ですよね……」


 …ケモミミ付けてコスプレってか。

 まぁ、確かにヒロシは大喜びしそうだけど、でもやっぱり本物には勝てないよなぁ。


「ったく…弘史、今日は頼むぞ。マジでいかないと…」


「ハッ、わーってるっての。俺だってなぁ、やる時ゃやるってとこ見せてやんよっ」


「わわ、わたしもが、頑張ります…っ」


「知美ちゃんは心配してないから大丈夫。弘史が不安なだけだから」


「んだよそれっ。見てろよ、その不安がムダだったってことを後で訂正させてやっからなっ!」


 うん、是非そうさせてほしいね。

 上手くいったらいくらでも訂正してやるよ。

 比べ物にならないくらい安いからな、俺の頭なんて。

 平気で下げてやるっての。


「その意気なら大丈夫そうか。とりあえず…魔物の集団が来たら俺達漂流者で開幕一発打ち込もうと思ってるんだけど、いけるよな?」


「あぁ、そんくらい余裕だっての。あいつ等とも一緒にか?」


「あー、うん、そのつもり。戦場着いたらギルマスとかに俺から話してくるよ」


「その辺は任せるわ。んじゃ、また後でな。やる時呼んでくれや」


 そう言ってまた少し離れていった弘史達。

 別に一緒に行ってもいいとは思ったんだけど、まぁ姫達いるから必要以上に近くでいることもないか。


 戦場に近付くにつれ、全体的に若干雰囲気が変わってきた…そりゃ当然だよな、こんな大規模な戦闘なんて誰だって緊張するに決まってる。


 そんな緊張感を含んだ雰囲気を纏いつつ、戦場となる平原まで到着した。


 魔物の姿はここからじゃまだ見えてないんだけど、何となく気配みたいなのは感じる。

 俺以外でもそう感じてる人が何人もいるみたいで、緊迫感が上昇してきてるみたいだ。


 姫達…特にアーネは人より敏感に気配を感じ取ってるっぽくて、いつもより表情が険しくなってる。

 あと、マールが…ちょっと怯えてるみたいになってるのが気になる…黒い兎耳が心なしか萎れてるような…。


「…まだ目視は出来ねぇけど……半端ねぇな、この気配……」

 

「…さっきからぁ……一つだけぇ…大きなぁ音がぁ聞こえてくるよぉ……」


「…?一つだけ?」


「うん〜…微かにぃだけどぉ……」


 …なんだろ?大群だから一つの音として聞こえてるのかな?

 俺には目視か、マップ表示内に来ないと分からないな…拡大上限にしてるけど、まだ表示はされてない。


「とりあえず、これから部隊配置とかあるだろうから、その前にちょっとギルマスのところに行ってくるよ」


「分かった…。あ…出来るだけ…早う戻ってきて…な」


 シータもマールの怯えが移ったんだろうか、少し不安げになってる。


「うん、分かった。すぐ戻ってくるようにするよ」


 そう言いながらシータの頭を撫でてやった。

 少しは落ち着くかなって…。


「あ…。…ありがと……ナオトはん……」


「ん。ちょっとだけ待ってて」


 そう言い残してフィルさんの所に急いだ…早く戻ってあげたいし。



 集団の先頭付近に烈華絢蘭が、あとは少し離れてフィルさんと、周りより少し華美な鎧に身を包んだ貴族っぽい人…恐らくガルムドゲルン公爵家の長男だろう、それともう一人、ギアンテのおっちゃんの店で見たようなフルプレートアーマー装備、まぁヘルムは当然取ってるけど、それに見合った体格をした防衛隊の人…多分隊長クラスかと思われる人が揃って話してた。


 これから部隊配置するのに打ち合わせでもしてるんだろう、近付くと会話が耳に届いてきた。



「──という感じで考えていますが、どうでしょうか」


「そうですね…少し数的にバランスは悪いような気もしますが、熟練度的には丁度良いのかもしれません」


「ブリュナ様の仰る通りかと私も思います。やはり冒険者達に比べると、我が兵士達の実戦経験は劣っているでしょうから」



 聞こえてきた内容の感じだとやっぱり配置とかの話っぽい。

 冒険者と防衛隊は分けて配置するのかな?



「ではその方向でよろしくお願いします。冒険者側は右翼を担当しますので。…おや?ナオト君、どうした?こんなところまで来て。私に何か用かな?」


「あ、お話の邪魔をしてすみません。ちょっとお願い事がありまして」


「…ナオト……ああ、君が漂流者のナオトですか」


 俺がフィルさんに話をしようとしたら、一緒にいた貴族の人─近くで見るとこの人もかなりのイケメン、王子様風だ─そんな人が割って入ってきた。


「…?えっと…」


「これは失礼を。私はブリュナノルグ・テラ・ガルムドゲルン、公爵家の長男です。今回防衛隊の指揮を取らせていただきます」


「これはご丁寧に…。ご存知のようですけど、漂流者のナオトです、初めまして」


「君の事は妹のフラウから聞いていました。ティシャとヒナリィを救ってくれたのは君なのでしょう?」


「あ、はい。偶然でしたが…」


「私からも是非お礼を言わせてください。妹の大事な友人達を救っていただき、ありがとうございました」


 あっさりとこんな俺に頭を下げる公爵家長男。

 ホント相手が誰であれ身分差とか全面に出してこないんだな…こっちが逆に恐縮しちまうわ、これ。


「いやっ、そんな、自分に出来る事をしたまでですからっ、お礼なんてそんな…」


「妹の悲しむ顔を見る事無く済んだのです、これでも足りないくらいですよ」


「それだけでもう十分ですよ…。妹さんを悲しませるような事にならなくて、良かったです…」


「はい、本当に。ああ、すみません、話があるんでしたよね。また今度ゆっくり話しましょう」


「あ、はい…機会があれば」


 また貴族の方と関わりが…いや、別に嫌ってわけじゃないんだけど、やっぱり無駄に緊張しちゃうんだよな…お客様と仕様の打ち合わせしてる時みたいな感じが何故か抜けない……。


「それで?私に話とは?」


 手短に済ませようと思ってたけど、思わぬところから声を掛けられてちょっと時間取られた…手早くフィルさんに用件伝えよう。


「えっとですね、まずは俺のパーティーメンバーの行動なんですけど…シータはフィルさんにお任せする事になると思うんです」


「うむ、シータ君にはマジックユーザー隊に来てもらおうと考えてはいたが」


「はい、それでアーネをそのマジックユーザー隊の護衛に付けてほしいんですが」


「それは構わないが…アーネ君はそれでいいと?」


 あ、やっぱりフィルさんもそう思うのね。

 みんなの共通認識なんだ…それだけ暴れてたってことなんだろうけど。


「はい、今回は納得してもらいました」


「そうか…よく納得させる事が出来たな、とは思うが…まぁ、それなら問題はないよ」


「まぁ、仕方ないって感じでしたけどね。それからマールとリオですが、二人は前線での回復支援をしてもらおうと」


「マール君は分かるが…リオ君もかね?」


「はい、リオも神聖魔法が使えるので」


「ほう、なるほど…マール君の護衛も含めてというところかな」


「そんなところです。で、俺は一人で遊撃として戦場を駆け回るつもりです」


 というか、俺だけじゃなくて漂流者は全員こんな感じになるとは思ってるけど。

 あ、でも烈華絢蘭は別か、あの4人は協力してやるだろうから。

 弘史と知美ちゃんは…弘史はともかく知美ちゃんの戦闘スタイルが分からないから何とも言えないな。


「ふむ…了解した。君達のパーティーはそのように配慮しよう」


「ありがとうございます。すみませんがよろしくお願いします。それと、接敵直後に俺達漂流者で多少戦力削ろうと思ってるんですけど、大丈夫ですか?」


「それは願ったりだが、任せてもいいのかな?」


「ええ、弘史と知美ちゃんにはもう話を通してありますから…フィルさんには申し訳ないんですけど、烈華絢蘭のみんなに伝えておいてもらえますか?」


 ちょっとズルいとは思うけど…彼等にはなるべく近寄らない方がいいかなって、フィルさんに押し付けてしまった…申し訳ない。


「まぁ、それくらいなら大丈夫だろう。分かった、私から伝えておこう。それとこちらから、あの件についてだが…」


 あの件…魔王のことね、まぁ、居ないに越したことはないんだろうけど、居ちゃったらしょうがないよな…俺が相手するしか。


「あ、はい、分かってます…居ないことを祈ってますけどね」


「私もそう願いたいのだがね…万が一の場合はすまないがよろしく頼むよ」


「了解です。じゃあ俺からは以上で」


「ふむ、分かった。そろそろ部隊配置を行うつもりだ、準備の方を──」



 ズンッ…



「…?……今、ちょっと地面揺れませんでした…?」


「…確かに、そんな感じが……」


 地震か…?なんて思ってたら、冒険者が二人こちらに駆け寄って来た…慌てた様子で。


「ギッ、ギルマスっ!」


「どうしたっ、魔物を確認したかっ」


「いやっ、魔物自体はまだ確認出来てねぇんだけど…物見から聞いた土煙みてぇなものだけは確認出来たっ」


「「「「っ!?」」」」


 この場に居た俺とフィルさん、そして公爵家長男のブリュナノルグと防衛隊の隊長さんっぽい人、全員いっぺんに緊張が走った…。


「そうか…分かった、これから急いで布陣を整えようっ」


「さっきの揺れは…何か関係あるんですかね…?」


「…姿がまだ確認出来ていないのであれば何とも言えんが…恐らく、関係があると見た方がいいだろうな。もしかしたら総数が増えているのかもしれん…」


 揺れを起こせるくらいの数が迫ってるって…?ただでさえこっちの方が少ないのに相手が増えるとか、ちょっとヤバいな…なりふり構ってる場合じゃないのかもしれない。


「とにかく急いだ方が良さそうですね。ギルドマスター、私達もすぐ編成を行います。行きましょう、ゲインダル」


「はっ!」


 ブリュナノルグと隊長さん、ゲインダルって呼ばれてた人が防衛隊の陣取っている方へ足早に去っていった。


「じゃあ俺も姫達の所へ戻るついでに、冒険者の皆に準備するよう伝えておきますよ」


「うむ、助かる。私も編成の準備に取り掛かろう」


 魔物が迫ってきたから準備をよろしくと周りの冒険者達に触れ回りながら姫達の元に戻って、姫達にも同じことを伝えた。


「みんなっ、魔物が迫ってきたから準備してっ」


「来やがったかっ!んじゃアタイはシータと配置に付くぜっ。マール、リオ、あんま無茶すんじゃねぇぞっ!」


「…ナオトはん、ほな行ってくるわ。みんなも気ぃ付けてなっ」


「シーちゃんもアーちゃんも気を付けてっ!」


「………マール、の……こ、とは………任せ、て……………」


 シータとアーネはこれからフィルさんに指示されるであろう部隊配置のために、この場から離れていった。

 マールとリオは俺と同じ様に前線に出てもらう予定だから、戦端が開かれるまでまだ少し余裕があるはずだけど、マールは既にスイッチが入ってるみたいだ。


「マール、さっき聞こえてた音…もうはっきり聞こえる?」


「はい、聞こえます…かなりはっきりと。ただ、聞こえる間隔は長めですね…」


「間隔が長い…?ずっと聞こえてるわけじゃないってこと?」


「そうです…一定間隔で、ドンッ、ドンッって感じで…」


 一定間隔の音、さっきの揺れ…まさか、足音とその振動ってわけじゃない…よな?もしそうだとしたら、相当デカい魔物ってことになるけど…そんなヤツだったらここからもう姿が確認出来ていいはずだし……。


「音だけじゃどんな魔物かまでは分からないな…。今のところは注意だけしておいてもらえる?何か変化があったら教えて」


「分かりました」


 周りに居た冒険者達も慌ただしく動き始めて、それぞれ配置に付くみたいだ。

 少し離れた左側の方では防衛隊の人達が陣を組んで移動し始めたっぽい。

 俺達は前線だから前に行ったほうがいいんだろうけど、ある程度配置が固まってからのほうが邪魔にならないだろうからもう少しここで様子を見よう。


「二人とも、大丈夫?やれそう?」


「…正直なところ、少し恐いです。だけど…救えるだけ救ってみます、力の限り」


「あんまり気負いすぎないようにね。リオもいるんだし」


「………わ、たし…も………頑、張る…よ……………」


「うん、くれぐれも無茶だけはしないようにね。何かあったらすぐ駆けつけるから、遠慮なく呼んでね」


「分かりました。リーちゃん、よろしくね」


「………(コクっ……。……任せ、て………」


 二人とも気合は十分そうだ、俺も気を引き締めて行こう。


 そうして心持ちを確認しながら待つこと数十分…冒険者側、防衛隊側の配置も完了してそろそろ俺達も前方に移動しようとした頃、マップに四角の赤いマーカーが徐々に表示されてきた…いよいよガルムドゲルン防衛戦の開始だ。



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