#18 回想(SIDE:リオ)
リオ視点です。
回想なので語り口調にしてます。
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───今から約400年程前…当時16歳だったから、正確に言うと408年前、わたし─リーオルエレミネアは、このマーリレンス大陸を分断する竜背連峰の一角で、紅竜族のみんなとひっそり暮らしていた。
100人にも満たない集落で、子供と呼べるのはわたしと妹のルー─ルーエラアリモニィ、そして友人のライ─ラーイレウロムスと、ロア─ローアリィルメヌゥの兄妹しか居なかった。
あの日─ケンゴとコウキに初めて出会ったのは、4人で集落近くの森へ食料調達に出掛けてた時だった。
最近ようやくわたし達だけで狩りをさせてもらえるよう大人達の許しを得られて、みんな息巻いてたけど、でもやっぱり少し怖くて小さな魔物くらいにしか手が出せず、4人で四苦八苦しながら森の中を探索していた。
その日は何故か魔物が全然見つからず、探している内にいつの間にか森の奥まで入ってしまっていた。
そこでわたし達は、そいつ─鋼鉄の蠍、アイアンスコルピオに襲われた。
黒光りした巨体に二対の鋭い鋏、そして巨大な鎚を先端に付けた尻尾を持ったそいつの前で、わたし達4人はただ震えて、身動きを取ることも出来ずに固まって…そして、そんなわたし達に向かって、その尻尾が上から振り下ろされた。
声を出すことすら出来ずに、頭上から落ちてくる鎚が迫って来るのを見て、あぁ…ここで終わりなんだ、と思ったのは覚えている。
だけど、その鎚がわたし達に届くことはなかった。
ガィィィイイン!
…わたし達の目の前に突然現れたその人は、両腕に付けた大き目の盾を頭上に掲げて、その巨大な鎚を受け止めていた。
その直後に、わたし達の後方から魔法と思われる火の玉と、炎の矢がアイアンスコルピオ目掛けて飛んでいき、目の前で受け止めていた巨大な鎚を付けた尻尾を根本から吹き飛ばした。
尻尾が吹き飛んだタイミングで、目の前のその人は誰かの名前を叫び、今度は大き目の剣を持った人と、獣人が二人、アイアンスコルピオに向かって飛び出してきた…そして、獣人は二対の鋏をそれぞれ付け根から切り落とし、剣を持った人はその巨体を真ん中から一刀で両断してしまった。
「ふぅ…どうやら無事みたいだね」
「間に合ってよかったぜ」
それが──護の勇者ケンゴと、攻の勇者コウキ、二人の勇者との出会いだった。
助けられたわたし達は、その人達を集落まで案内して、集落のみんなへ事情─アイアンスコルピオに襲われたこと、そして、ここに居る人達に助けられたこと─を説明した。
ケンゴとコウキは4人の仲間、猫人族のアーメル、鼠人族のラビィ、エルフ姉妹のシルファ、セラフィと共に、ある目的の為に旅をしているとのことだった。
わたしは集落のみんなの反対─村で唯一の巫女であり、行かせるわけにはいかないらしかった─それを押し切って、ケンゴとコウキ達の旅に同行することを決めた。
何故、みんなの反対を押し切ってまでケンゴとコウキに付いて行きたかったのか…そこだけは上手く思い出せない。
ただ、どうしても付いていかなきゃダメだったような気がした事だけは覚えている。
今思うと、もしかしたら女神様の思し召しだったのかも、としか。
旅の仲間として付いていった最中、この旅の目的─この世界を我が物にしようと企む魔統皇の討伐と、それを阻止して欲しいと女神から託されたケンゴとコウキが、異世界から召喚された勇者だという事を教えられた。
最初に旅の目的を聞いた時、付いてきたことが間違いだと思った…だけど、みんながわたしを鍛えて、励ましてくれて、なんとかみんなに付いていけるようになり、わたしでも役に立てるんだと自信をつけていった。
元々巫女だったから、支援、回復をメインにみんなの補助的な役割に徹して、自分なりに頑張った。
魔統皇に辿り着き、倒すためには、各大陸にいる魔王の力を削ぐ必要があり、まずこのマーリレンス大陸の魔王、そしてパペンダ、ハディストリ、テパデモアブスと、各大陸の魔王の力を削いでいった。
その頃にはみんなの仲も深まり、コウキは鼠人族のラビィと、ケンゴはエルフ姉妹の妹セラフィと親密な関係…恋人同士になっていた。
猫人族のアーメル、エルフ姉のシルファ、そしてわたしは、それぞれ恋人同士になった二組を冷やかしながらも祝福していた。
世界の命運を背負う旅の中だったけど、こんな時だからこそ結ばれた二組に、わたしは心の底から喜んだ。
そうして旅を続け、5人目のフィーンラトンの魔王戦で、わたしは瀕死の重傷…恐らくもう助からない程の傷を受けた。
──ラビィを庇い、代わりとなって。
自分自身、驚く程動くことが出来たと思う。
コウキの大切な人を守る事が出来て本当に良かったと、自分を褒めてやったことも覚えている。
フィーンラトンの魔王から力を奪った後、みんなわたしの為に涙を流してくれた…その事も、凄く嬉しかったとはっきり覚えている。
わたしの旅はここまでで、もうみんなと一緒にはいられないんだと思って、身体よりも心の方があの時は痛かった。
最後まで…みんなと一緒にいたかったなと、だけどコウキとラビィに悲しい想いをさせなくてよかったって、そう思いながら終わりを迎えようとしていたその時、コウキがテパデモアブスの魔王戦で倒した魔物、フレアドラゴンの魔石をわたしに埋め込んだ。
竜人とドラゴンだったからだろうか、運良くわたしはその魔石を体内に取り込むことに成功して…魔人種となり生き延びる事が出来た。
その影響か、一般的な竜人種が500年以上掛けて取得可能となる固有スキル、人竜変化を僅か16年で取得して、その後すぐに勇者達の騎乗竜、勇者騎竜の職種を得てケンゴに職種変更してもらった。
それと併せて、フレアドラゴンの属性である火の竜魔法、火竜魔法と、種族が変わったせいか邪属性が付いて、邪霊魔法まで手に入れることが出来た。
こうして魔人種となったわたしを、今まで通り変わらず仲間として認めてくれたアーメル、ラビィ、シルファ、セラフィ、それに、魔力供給が必要となってしまったこの身体に快く魔力を分け与えてくれたケンゴとコウキ。
わたしはそんなみんなをより一層守っていきたいと強く思うようになった。
ドラゴンに変化出来るようになり、仲間のみんなを乗せて飛ぶ空は、本当に気持ちが良かった。
このままいつまでも、どこまでも飛んでいきたいと何度も思った。
そして…ロヴォイス、チャティアヴァンの魔王の力を削ぎ、遂にわたし達は魔統皇と対峙して、最後の戦いに臨んだ。
熾烈を極めた戦いの末、わたし達は魔統皇を討ち倒す事が出来た。
───セラフィの命と、引き換えに。
どうしてそんな事が出来たのか、魔統皇の放った最期の一撃は、ケンゴの絶対防御を何故か無視して、後方にいたセラフィに届いてしまった…。
咄嗟に伸ばしたわたしの手も届くことは無く、わたしの目の前でセラフィは──脆く崩れ落ちた。
「……ただでは逝かんぞ…勇者共……我はまだ…諦めん!必ずこの世界を……我が手中に!それまでそいつを………」
力尽きる寸前、魔統皇が何か叫んでいたような気もしたけど、誰の耳にも届いてはいなかったと思う。
魔統皇を倒したのは…大切な人を失ったケンゴの、暴走した力だった。
わたし達が辛うじて無事だったのは、コウキが残りの力を全て使い、ケンゴの暴走した力を防いでくれたからだった。
ケンゴは、暴走した力に飲み込まれる前に、女神様によって救い出され、一足先に元の世界へ戻されたと、コウキは言っていた。
コウキもこれで役目を終えて、元の世界へ戻ることを決めた…ケンゴを、放っておけない、と。
コウキも含め残ったみんなで、身も心もボロボロになりながら、この旅が始まった大陸、マーリレンスに戻り……わたしはそこで、セラフィを守る事が出来なかった自分自身を許せなくて、ケンゴに対してどう償えばいいのか、そんな自責の念に取り憑かれ、自分の不甲斐なさを後悔しながら、独り、洞窟に閉じ籠った。
コウキや皆はわたしのせいじゃないと止めてくれたけど、わたし自身、もう生きる気力を失っていた…。
何故、ケンゴの愛する人ではなく、わたしじゃなかったのか……。
何故、届かなかったこの手は、今もこうして目の前にあるのか……と。
みんなに碌な別れの挨拶もせず、独り洞窟に閉じ籠り、もう誰とも会わないようコウキに封印してもらったのが、400年前にあった、わたしの全て───




