#15 漂流者同士で
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「ふぅ…何かごめんな、俺が沈んじゃったせいで…。そうだ、ちゃんと自己紹介してなかったから改めて。フルネームは遊佐尚斗、今はこの姿で18歳なんだけど、元の世界では45歳だったよ。多分向こうでは死んだことになってると思うから転生者ってことになるかな」
「あ、けけ、結構なご、ご年配の方だったんですね…。わ、私は、大河知美って、いい、言います。も、元の世界では、こ、高校2年でした。どど、吃り癖があって…す、すみません……」
「気にしなくても大丈夫だよ。そんなに緊張しなくてもいいし、ゆっくり落ち着いて話してくれれば。よろしくね」
「…あ、ありがとう…ございます……こ、こちらこそ、よよ、よろしくお願いします…」
「で、ヒロシは?」
「……柳田弘史、21で向こうじゃ大学生だった」
高校生の大河知美ちゃんに大学生の柳田弘史ね。
パッと見だとどういう関係か分かんないな。
「そっか。接点無さそうだけど、二人はどうやってここに?」
「……そ、それは………」
「知美が車に轢かれそうだったところへ俺が突っ込んだんだよ…だから多分俺らも死んだことになってんじゃねーかな」
「…ごご、ごめんなさい……ひ、弘史さん………」
「だから知美が謝ることなんかねーんだよ。俺が勝手に突っ込んで、それで結局助けられなかったんだからな……」
…何だよ、弘史いいやつじゃん。
結果は残念だったけど、助けようとしたって事実は今ここにいる時点で証明されてるし。
「交通事故か…。暴走車だったとか?」
「いや、俺が見た時はもう知美が道路の真ん中にいてよ…知美も知美で猫助けようとしてたんだってよ」
「そうだったんだ…あ、じゃあもしかしてその猫もこっちの世界に来てたり?」
「あ、はい。わ、私のつつ、使い魔みたいに、な、なってます。い、今は出してません、けど…」
使い魔か、そんなのもあるんだな。
知美ちゃんも良い娘そうじゃないか、猫助けようとしてたとか…まぁ、こっちも結局残念な結果だったけど…。
「じゃあ、二人と一匹が転生者ってことか。ここに来てどれくらい経つ?」
「…どれくらいだっけ?知美」
「ええ、えっと…に、二ヶ月くく、くらいだと、お、思います」
「二ヶ月か…その間冒険者としてやってきたのか。そういえばもう一人、エルフの娘がいたけど…」
「ああ、ここに来てすぐ俺がナンパした」
一応こっちでも成功してたんだ…獣人以外はいけるってこと?
「こっちでも成功してたのか…ちょっとびっくり」
「あ…せ、成功したわけじゃなな、なくて、フ、フラムにおお、お願いして、パーティーをく、組んでもらってます」
「おい知美余計なコト言うなよっ!」
「すすす、すみませんっ!」
うん、やっぱり弘史だった…ダメだったんならやり方変えればいいのに同じ感じで姫達にもアタックしてたのか…。
「名前はフラムでいいの?」
「フルネームはフラムネシェラータ。精霊魔法のマジックユーザーだぜ」
「ゆ、弓のうう、腕前もす、凄いですよ」
「へぇ、精霊魔法のマジックユーザーで弓使い…流石エルフだな」
「ま、融通利かねぇ真面目ちゃんだけどな」
それは弘史のパーティーには欠かせないんじゃないか?でもストッパーにはなってないか…弘史が周りに迷惑掛けないようにするなら、やっぱり獣人を一人でもパーティーに入れた方がいいよな…。
弘史でもいいっていう獣人がいてくれればなぁ。
「とりあえず二人共俺と同じ漂流者だし、ここで会ったのも何かの縁だと思うし、これからよろしく。弘史はまぁ、最初あんなんだったけど…」
「…あんたの能力が反則級だってのは分かったよ。あれ、結構俺の全力だったんだぜ…それが無傷とか、あり得ねーだろ」
「あー、うん、俺のはね…ちょっと特殊だからな。まぁ勝ちは譲ったし、あれはあれで流してもらえると」
「…わーったよ、流してやるさ。別に俺が恥かいたわけでもねーしよ。んで、何か話あんだろ?」
良かった、こうしてちゃんと話すと全然まともじゃないか。
最初はやっぱり俺がこんな格好してるから見下されるっていうか、馬鹿にされるってことなのかな…だったら烈華絢蘭のみんなもこうやって話出来れば案外通じるのかも?
「うん、二人共今の状況は分かってると思うけど…」
「魔物の大群が来るってやつだろ?」
「そう、それ。で、さっき皇都から来たっていう漂流者パーティーと話したんだけど、これがまたクセのある連中でさ」
「あー、俺も少し話したぜ。あいつらどんだけやれるのか分かんねーけどよ、大した自信だったぜ、たった4人のくせに」
弘史と話しててもそうだったんだ。
やっぱり烈華絢蘭は単独で動いてもらった方が良さそうだな。
「ギルマスに漂流者同士協力してやってくれって頼まれたんだけど、多分あのパーティーとは無理だと思う」
「俺も無理だな、多分。あんな奴らと組むんならあんたの方がマシだぜ」
「…実を言うと俺もそう思ったりしてさ。向こうは向こうで頑張ってもらうとして、こっちも協力してやれないかって」
「わわ、私は、さ、賛成です。ひひ、弘史さんもそ、その方が、ふふ、負担もす、少なくなるとおお、思いますし…」
「負担って、知美とフラムのことかよ。バカ言うな、んなこと思った事もねーよっ。特に知美、お前にはな」
「…そ、そう…です、か…?……」
弘史がこう言うくらいだから、知美ちゃんもこれで結構強いってことか?だったらちょっと期待させてもらおうかな。
「向こうは4人、こっちは3人だけど、協力出来れば俺の目標も達成出来そうなんだけど…どうかな?」
「…なんだよ、その目標ってのは」
「あー、あんまり大きな声では言えないから…二人共ちょっと耳貸して」
「…は、はい……」
三人で顔を寄せて内緒話する形になった。
まぁ、周りが騒がしいからそこまで気にするほどでもないかもしれないけど、気持ちこっそりと、ね。
「あのな、この戦いで───(ボソボソっ」
「「っ!?」」
「おいおいマジか…それ、本気で言ってんのかよっ。相手が魔物ってだけで戦争だろ、これ…」
「でで、でもっ、もも、もしそ、それが出来たなら……」
「まぁ、俺なりに頑張ってみようかなって。俺一人でやればいいんだろうけど、そんな英雄みたいな真似はちょっとやりたくなくて…基本あまり目立ちたくないんだよ」
「ハッ!あんだけかわい娘ちゃん達囲っておいて目立ちたくないもクソもねーと思うけどなっ」
言いたい事は分かります…いや、でもホント目立とうと思ってこうなってるわけじゃないから、そこだけは誤解しないでほしいです…。
「そこについてはさっきも言ったけど、もう奇跡としか言いようがないんだよ…。あー、でもあれだぞ?弘史みたいに俺からナンパしたとかそんな事実はないからな?」
「チッ、そうかよ…ったく、ホントどーなってんだよ、この世界。いや、まぁでも、ケモミミっ娘達がいっぱいいるって時点で文句はねーんだけどよ…」
「お前ホント獣人好きなのな。でもそれで暴走するのはやめた方がいいぞ?姫達みたいに敬遠されるのがオチだって」
「…なんか納得いかねーけど、そうみたいだな…。そこはしゃーねぇとして、抑えられるかは分かんねぇな」
「す、少し、おお、落ち着くだけで、ち、違うとおお、思いますよ、ひ、弘史さん…」
「んーあんま自信ねぇなー。あんただって目の前にあんなケモミミっ娘ちゃん達いたらモフモフしたくなるだろ?」
…心当たりが多過ぎるくらいあるな。
じっくりってわけじゃないけど、少し触ったことはあるからな…あれは本当にいいものです。
こんなこと弘史に言ったらそれこそキレ気味に突っかかってくるな、間違いなく。
「……その気持ちはよぉく分かる。分かるんだけどそれを前面に出し過ぎなんだって、弘史は。向こうのノリじゃ通用しないってさっき分かっただろ?」
「…じゃあ、どーすりゃケモミミっ娘達をモフモフ出来るようになんだよ」
「それを俺に聞くのか…。逆に俺が聞きたいぞ、それ」
「あん?なんでだよ、あんたもうモフモフし放題じゃねーか」
ぶっ!はぁ?何でそうなるっ!そりゃ確かに周りから見たらもふもふパラダイスなのかもしれないけど、そんな気安く「モフモフさせてくれ」なんて言えるわけないだろっ!俺だってそう出来るならしたいわっ!って、いや違う違うっ!そうじゃないってのっ!
「何言ってんだよっ!そう簡単な話じゃないだろっ!」
「は?そっちこそ何言ってんだよ?アーネちゃんもシータちゃんもマールちゃんも、それにラナちゃんも、あんたの女なんじゃねーの?」
あ、盛大な勘違い…いや、そっか、弘史にはまだハーレムだって思われてるんだっけ……。
今更改めて説明するのもなぁ…あ、じゃあみんなのとこ戻ってちょっと試してみようか。
これでみんなに抵抗されるようだったら、もうハーレムじゃありませんって説明しよう…面倒だけど。
「あー、うん、そうだったそうだった。じゃあとりあえずみんなのとこ戻るか。さっきの話、そのつもりで二人もよろしくね」
「はは、はいっ!わ、私なりにがが、頑張ってみますっ!」
「俺もそのつもりで動いてみるわ。なんだかんだいってここの連中には世話んなってるしな」
「オッケー、んじゃ戻ろう」
二人共俺の話に乗ってくれたみたいで、うん、話して良かった。
後は俺が頑張るだけかな。




