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#12 資金調達



 壊塵洞に着いて中に入った途端、開口一番アーネが、


「おーいっ!ディモルのおっさーっん、いるかーっ!」


 って叫んで呼び出した…相変わらずだなぁアーネは。

 相手が誰であろうと態度が一貫してるのがすげぇ…。


 と、奥の廊下の方からパタパタと音がして…ヒョコっと顔を出したのはカティちゃんだった。

 初めて来た時もそうだったなーなんて思ってたら、


「あっ!ナオトおにーちゃんだー!」


 って俺を呼びながら駆けてきて足元にギュッと抱きついてきた…えっと……なんで?


「ど、どうしたの?カティちゃん…」


「ティシャとーヒナリィからー聞いたよー!わたしの友達を助けてくれてー、ありがとー!」


 って、ニパッと俺を見上げながら言ってきた。

 そういや二人はカティちゃんの友達だったんだっけ。


「そっか、二人から聞いたんだ。二人とも大丈夫そう?」


「うんっ!二人とも元気にわたしとあそんでるよー!」


「それなら良かった。落ち着いたらその内また会おうって伝えといてくれる?」


「うんー分かったー!」


「よろしくね。お父さんはいるよね?いたら…」


 呼んできてもらおうと思ったら奥からのそっと巨体が現れた、やっぱりデカいなぁこの人。


「相変わらずうるせぇな、アーネ。少しは二人を見習えってんだ」


「来る度それ言うのやめろっつーのっ。アタイはこれでいいんだよっ」


「そんなこと言ってるとな、お前だけ一人になるのが目に浮かぶわ。貰い手いなくてなっ、ハーッハッハッ!」


「なっ!?そっ、それこそうるせーよっ!余計なお世話だっ!」


 なんだかんだいってアーネはイジられるのな。

 ニル婆にも坊や呼ばわりされてるし。

 でもみんな気さくにアーネと付き合えてるってところがなんかいいな。


「それよりなんだ、ナオトもいるじゃねぇか。なんで姫達と一緒なんだ?」


「あれ?カティちゃん経由で聞いてませんか?俺達パーティー組んでるんですけど」


「あぁ、そういやカティの友達…グリュムセリナ侯爵とリリエンノルン伯爵んとこの嬢ちゃんを姫達と一緒に助けたって言ってたな。そうか、パーティー組んだのか」


 そっか、ティシャとひぃを助けたのは聞いてたけど、パーティー組んでるとは思ってなかったのか。

 俺が姫達とパーティー組んでるのってそんなに意外かな?


「ええ、いろいろあって。今はまた一人増えましたし」


「ん?その竜人の娘か?」


「はい、リーオルエレミネア、リオって呼んでます」


「……………(ペコっ………。」


「おう、俺はディモルってんだ、よろしくな。そっちのナオトに引っ付いてるのが娘のカティリアーナだ」


「よろしくー、リオおねぇちゃんー」


「………よろ、し…く…………カ、ティ……………」


 リオも紹介出来たけど、また覚える人が増えたな…リオ大丈夫かな?そもそも人に会うのが400年ぶりなのに。



「そうか、ナオトに…ラナまでいるってことは、ブツを取りに来たってことか」


「わたしも気になってましたからね」


「もう終わってますよね?」


「ああ、解体自体はすぐ終わったんだがな…」


「…?何か問題でも?」


「いや、問題ってほどじゃないんだが、素材の査定に意外と時間が掛かってな。実を言うと今日まで掛かっちまった」


 ありゃ、そうなんだ…やっぱりそう簡単にはいかなかったのか…見たこと無い魔物だって言ってたしなぁ。


「そうだったんですか…すみません、手間かけさせちゃって」


「なに、謝ることじゃねぇさ、こっちの仕事だしな。素材屋の連中が躍起になっちまって、まぁ、言うなれば白熱して奪い合いになったってだけだ」


「素材の奪い合い…ですか。やっぱり珍しかったからですかね」


「だな。初めてのもんばっかりだったからな、連中目の色変えて喰い付いてたぞ」


 目の色変えるほどか…それなら買取額もちょっとは期待してもいいかな?


「そんなにですか…。それでその素材は買い取ってもらえそうでした?」


「ああ、魔石以外は全て買い取りたいって金置いてったぞ。とりあえず奥に行くか。魔石も渡さんとならんしな」


「分かりました、お願いします」



 奥の解体場へ魔石を受け取りに向かうと、解体が終わった素材が山積みになってた。

 そこそこの量だったんだな、やっぱり。

 

「魔石はそこな。全部無傷だったからこれも買い取りたいって素材屋の連中は言ってたんだがな」


「魔石は基本的にギルドが買い取りますからね。これほど状態の良い魔石はそうそう手に入りませんし」


「…魔石もそうやけど、結構な量の素材やな…。ナオトはん、これどうやって倒したん…?」


 ビクッ!マズい、それは…それだけは知られるともう一緒にいられない気がする……。

 あんな反則級な魔法が使えるってバレた時点でもう俺の居場所はこの世界のどこにも無くなるよな…誰も俺には近寄らないだろ、どう考えても。


「あぁ、俺も解体してて思ったんだがな…これだけの亡骸、全て傷一つ無いなんてどうやったのかってな」


「……そ、それ…は…………」


 どう答えればいいんだ?適当に誤魔化すにしても即死させました以外に上手く納得させる言い訳が咄嗟に思い付かない…。



「はぁ?んなもんどーだっていいだろ。ナオトが漂流者だってのは分かってんだし、んなの気にするだけムダだっつーの。目の前にあるもんが全てじゃねーか、それ以外はホントどーでもいいっての」


「ふふっ、アーちゃんのぉ〜言う通りぃ〜だねぇ〜。ナオちゃんならぁ〜何をやってもぉ〜不思議じゃぁないしぃねぇ〜。びっくりはぁ〜するけどぉねぇ〜、ふふっ」


「…そうですよね、ナオトさんは漂流者なんですもんね。疑問に思うだけでも時間の無駄ですよ、きっと。ふふっ」


「あー、そりゃそうだな。ま、こっちは珍しいもん解体させてもらったってだけで十分満足だったしな」


「せやったな、ウチもちょっと気になってもうたから口に出しただけや。すまんな、ナオトはん、変な事聞いて」


「あ、いや…気になるのは当然だと思うし……。でも、ありがとう…みんな」


「あんだよ、礼なんて言うようなこっちゃねーだろ。相変わらずおかしなやつだな、ナオトは。ハッ」


 多分気にはなってるはずなんだけど、どうでもいいって吹き飛ばしてくれるみんなの気遣いが嬉しかったから、お礼を言わずにはいられなかったんだよ…。

 アーネはホントにどーでもいいと思ってるかもしれないけどさ。


「んで、だ。魔石は持ってってもらうとして、素材の方だが…連中が置いてったのはこんだけだ」


 ジャラっと音を立てて布袋…恐らくお金が入ってるんだろう、ディモルさんがそれを俺の目の前に差し出してきた。

 

「大金貨5枚、金貨7枚、大銀貨4枚、574000セタルってとこでよろしく頼むだとよ」


「あ、はい、分かりました」


 布袋を受け取って中身も確認せずすぐ無限収納へ。

 そこそこにはなったと思うけど…奢りには足りるかな?ちょっとみんなに聞いてみるか。


「みんな、これで奢りには…って、どうした?」


 聞いてみようとみんなを見たら、ちょっとびっくりした顔してた…リオは相変わらずの無表情だったけど。

 驚くような金額ってことだったのかな?


「……あ、あー、いや、何でもねぇよ。その金額を一人で叩き出せるところがスゲぇなって…ちょっと驚いただけだ」


「そ、そうだねぇ…しかもぉそれぇ、この世界にぃ…来たばっかりでぇ、なんだよねぇ……」


「…改めて、ウチら凄い人とパーティー組んどるんやなって……」


「わたしも…凄い人の専属になれたんですね……」


「………異世、界……から………来た人、は…………みんな…変わ、ら…ない………ね……………」


 一人で稼ぐには多少驚くくらいの金額だったってことか…。

 まぁ、凄いのは俺じゃなくてチートとか設定なんですけどね。

 リオも言ってるけど他の漂流者もこれくらいは普通に出来るんじゃないかな。


「そうかな?よく分かんないけど、リオの言う通り漂流者ならみんなそれほど変わらないんじゃないか?俺が特に凄いってわけじゃないと思うけど…」


「いや、他の漂流者でもこの金額はそうそう稼げるようなもんじゃねぇよ。大体無傷でここに持ち込むやつなんざ、滅多にいないからな」


「ナオトおにーちゃんのー持ってきたまものはー、かいたいしやすかったよー?」


「あぁ、そうだな。カティにもいい経験積ませてやれたし、こっちとしてはいいこと尽くめだったな」


「そうですか…あ、でも多分もう出来ないんじゃないかなって。初めてで必死だったから出来たようなもので…」


 ということにしておこう、あれはどうしてもって場合を除き、絶対に人前では使わないって決めたし。


「そうなのか?まぁ、それならそれでいいさ。こっちは解体出来りゃ何も文句はねぇしな。あー、それと肉はどうする?確認で解体した4体以外はしっかり魔抜きしてあるから食えると思うぞ。要らねぇならこっちで買い取るが…」


 肉…素材の横に積んである赤い小山か…あ、これ酒場に持ってって調理してもらえばいいんじゃないか?食材の足しってことで。

 ん?ちょっと待てよ…。

 

「肉は持っていきます、けど…その肉の中にスパルティスも入ってます…か?」


「スパルティス…あぁ、虫のやつか。いや、あれから肉は取れてないぞ。なんだ食いたかったのか?」


「いやいやいや、逆です逆っ。流石に虫はちょっと、と思って…。無いなら、じゃあ全部持って…あ、少し置いていきます、ディモルさんのところでも食べてください」


「ん?そりゃ嬉しいが…いいのか?」


「ええ、確認用で解体したやつは食べられないでしょうし。ディモルさんでも食べたこと無いですよね?カティちゃんにも食べさせてあげてください」


「そうか…実は食いたいと思って少し買い取ろうと思ってたんだが…」


「いいですよ、いろいろと手間掛けさせちゃったみたいですし、素材屋さん達にもお裾分けしてあげてください」


「悪いな…。それじゃお言葉に甘えて…こんだけ貰っとく。ちゃんと素材屋連中にも渡しといてやるよ」


「よろしくお願いします」


 ディモルさんが小山から両腕で抱えられるくらいの塊を取り分けた後の残りを全部無限収納へ。

 これだけあればかなり足しになるんじゃないかな?いや、意外とすぐ無くなるかも…この前の祝宴でも冒険者連中結構食べてたしな。

 身体が資本の仕事だからか、みんな食うわ飲むわ、相当な勢いで料理減っていってたからなぁ…。

 特に前衛職だったけど、後衛の人もそれなりに食べてた気がする。


「おとーさんー、今日はお肉ー?」


「おう、ナオトに貰ったからな。ピュリーに頼んで美味い料理作ってもらうか」


「やったー!おかーさんにたのんでくるー!あっ、ナオトおにーちゃんー、ありがとー!」


 俺にずっと引っ付いてたカティちゃんが、お肉が食べられると分かった途端、多分お母さんの名前だろう、ピュリーさんへお願いしに行くって俺から離れて一目散に自宅の方へ向かっていった。

 去り際に一度こっちを振り向いて、両腕を目一杯掲げて大きくブンブン振りながら俺に礼を言ってた…そんなに喜んでもらえるとお裾分けしてよかったなぁって。


「それじゃ俺達もこれで。ディモルさんありがとうございました。またよろしくお願いします」


「おう、また解体出来るような魔物を手に入れたら、すぐ持ってこいよ」


「はい、その時は。では失礼します」


 なんか大人数で押しかけちゃったけど、俺だけで来ればよかったような気がしなくもなかった…まぁディモルさんも特に気にしてなかったみたいだし、いいってことにしておこう、うん。



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