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#02 ウェラーメ村へ



 ラナの素敵な笑顔に見送られてギルドを出た俺達。

 姫達も準備があるって理解してたんだろう、そのまま足をニル婆の店に向けていた。


 必須庵に入ってすぐ、ニル婆のいるカウンターへ迷わず進み挨拶を交わした。


「ニル婆、また来たぜっ」


「ニル婆さん〜おはよぉ〜」


「おはようございます、ニル婆さん」


 やっぱり怪しい道具扱ってる婆さんにしか見えないなぁ…失礼だとは思うけど。


「おや、日を続けてお店に来るなんて、また久しぶりじゃないかい?」


「おはよう、ニル婆はん。昨日は無事クエスト達成出来てな、今日また新しいクエスト受けたんで準備しにきたってわけや」


「なんだい、ナオト坊やが来た途端に調子が上がったのかい?」


「んー、まぁそんなとこだなっ。この調子でガンガンいくぜっ」


「そうかいそうかい。まぁアーネ坊やは調子に乗りすぎるんじゃないよ、にひひひっ」


「あー、うん、一応気ぃ付けるわ……」


 おぉ?アーネが素直に認めてる…昨日の今日でなんか心境の変化でもあったのか?いや、このままいってくれるならそれはそれで良い事なんだろうけど、ちょっとこっちの調子が狂う…って、意外と毒されてるな、俺も。


「今日はちょっと遠出するんで野営道具も揃えに来たんよ」


「そうなのかい…どこまで行くんだい?」


「えっとねぇ〜…ウェラーメ村ってぇところだよぉ〜」


「その村付近にある、慟哭の洞窟っていうところの調査に行くんですよ」


「…はて?慟哭の洞窟……どこかで聞いたような………おぉ!そうそう、思い出したっ!」


「「「「…?」」」」


 何か一人で勝手に思い出して突然奥に引っ込んでいった…俺達は何が何やらで顔を見合わせてみんな首を傾げてた。

 奥の方でガタガタ音がしたかと思ったら、すぐニル婆が戻ってきた…何やら片手に巻物っぽいものを持って。


「あったあった。ほれ、これの…ここを見とくれ」


 そう言って持ってきた巻物っぽいもの…どうやら羊皮紙の地図みたいでカウンターの上に広げて俺達に見せてくれた。

 かなり古くなっていてところどころ掠れてはっきりしない部分もある…けど、ニル婆が指差した地図の隅に書いてある文字ははっきり読めるぞ。


「…慟哭の洞窟って書いてあんな。ってことはこれ、その洞窟内の地図かよっ」


「もしそうなら…割と広いんだな、この洞窟」


「ねぇ〜…ここにぃ何かぁ〜、印みたいなぁものがぁ付いてないぃ〜…?」


「…確かに印っぽい……ほな、これはあれか?もしかしてよくある宝の地図っちゅうやつか?」


 そこそこ曲がりくねった道筋が描いてあって、マールがある一点を指で示したんだけど、確かに印っぽいもの…マルとかバツとかじゃなくてチェックマークっぽいものが付いてる。

 宝の地図かって言われると何か微妙な気がするけど、まぁ宝とは言わないまでも何かがあるんだろうなってのは分かる。


「宝かどうかは分からないけど、多分そこに何かがあるんだろうな…。ニル婆さん、この地図どうしたの?」


「いつだったかははっきり覚えておらんが、昔古道具をまとめて買い取りした時にいつの間にか潜り込んでてなぁ。洞窟の名前は書いてあっても洞窟自体の場所は分からんかったから、そのまましまっておいたのよ。今聞いてたまたま思い出したから引っ張り出してみたんだけど…なんなら持っていくかい?」


「えっ?持ってっていいん?ウチらは助かるけど…」


「ああ、構わないよ。別に売り物ってわけじゃないしね。こんなのでも役に立ちそうなら持っておいき、にひひっ」


「おー、気前いいなっニル婆!丁度目的地だし、ありがたく貰っておくわっ」


「そうしておくれ。何か売れそうなものでも見つかったら持ってきてくれればそれでいいさね、にひひひっ」


 何やら調査に加えてお宝?探しも増えたみたいだ…この地図がどれくらい信憑性あるのか判断付かないけど、場所は一緒だしついででも問題無いか。



 このやり取りの後、ここに来た目的の野営道具一式…テントや調理器具とか、後は昨日の戦闘で消費したポーション類(シータとかマールはマナポーションを使ってたらしい…俺は気付かなかったけど)を補充して、それから別の店で食材調達…念の為1週間分くらい買い込んだ。

 それと今日の分のお昼くらいは、とノルチェに寄ってまたウェナにサンドイッチを包んでもらった。

 それらは全部俺の無限収納に放り込んである。


 で、一旦宿屋に戻って少しの間宿には戻らないことをメルさんに伝えてガルムドゲルンを後にした。



 暫くはラナの言ってた通り整備された街道が続いてて、姫達とのんびり、あれこれ話をしながら歩いていった…途中、お昼にウェナのサンドイッチを食べて少し休憩した後、また歩いていったんだけど、日も落ちかけて今日はここまでかな?ってところで整備されてた街道も丁度途切れて、ただ踏み慣らされた道みたいになってた。

 そこまで行っちゃうと道脇も当然整備されてなくて草が生い茂ったままの状態で野営には向かないから、街道が途切れる手前辺りで野営をすることに。


 日が落ちきって暗くなる前に簡易テント二つを設置して夕食の準備を始めた…無限収納から調理器具と食材を姫達に言われるまま取り出して渡し、そういや姫達の手料理はこれが初めてだな、と思って楽しみになってきて、元の世界でもあまりやってなかった調理を率先してやろうとしたら、シータに─


「ここはウチとマールに任せて、ナオトはんはのんびり待っとってな」


 ─って言われた…流石に任せっぱなしは悪いと思って、正直あまり役には立たないだろうし邪魔になるっていうか足引っ張るのが関の山だとは分かりきってたんだけど、でもこっちの世界に来た時ちゃんと努力しようって決めたんだから、せめて手伝いくらいはするよって食い下がったら、何故か「ええからええから」ってやんわり拒否された…。

 でもここで何もしないと元の世界と変わらない気がして、やっぱりそれはダメだろ、折角転生したのにまた繰り返しちまう…と思って更に食い下がろうとしたら、当然のように手伝っていないアーネが─


「あの二人が任せろって言ってんだから、素直に従っとけって」


 ─って言って俺をその場から引き離した…まぁ付き合いの長いアーネまでこう言うくらいだから、仕方なく甘えることにするか…。


 手際良く、しかも楽しそうに調理するシータとマールを、アーネと一緒に眺めて待つこと数十分…料理が完成してみんな揃っていただくことに。

 時間停止の無限収納から焼きたてのパンを取り出して配り、二人が作ってくれた炒め物とスープと一緒に食べたんだけど、これが凄く美味しかった…美味しかったっていうのは、何ていうか普通に家で出される料理と何ら遜色がなくて、家庭料理の温かみが凄く感じられる…単身赴任が長かった俺には腹にも心にも沁み渡る、そんな美味しさだった…。

 物凄い勢いで料理を褒めちぎったら、シータもマールも顔を少し赤く染めながら、それでも嬉しそうに喜んでくれた。

 シータは特にあれだ…選択職種のお嫁さん補正がしっかり出てる感じで、いいお嫁さんになれるのは間違いないって確信した…シータのお相手が羨ましい……俺は…どうだろう、相手に含めてもらえるだろうか…って、いやいや何考えてるんだ、俺が欲出してどうするんだよっ…油断するとすぐこれだ、気を付けないと…。


 みんなで楽しく食事を済ませた頃にはすっかり日も落ちて、時間的に少し早めかもしれないけど休むことに。

 ここに来るまで魔物には一切遭わなかったけど、一応念の為2人ずつ交代で見張りを立てながら休んだ。

 俺と組んだのはシータだったんだけど、野営で二人っきりとか初めてなもんだからか、お互い何故か緊張してたみたいで、最初は俺もシータもほとんど喋らず会話らしい会話が無かった…。


 起こした篝火でお湯を沸かし、シータがカフィンを入れてくれて…無言で俺に差し出してくれた。


「ありがとう…」


「…ん」


 受け取ってお礼を言ったけど、シータの反応もいつもと違って少し戸惑ってしまう…こういう時は、何か気の利いた話でも振るべきなんだろうなって考えてたら、シータの方から先に話し掛けてきた。



「…なぁ、ナオトはん」


「ん?」


「ナオトはんのいた世界には…ウチらみたいな獣人はいなかったんやろ…?」


「あぁ、うん。俺のいた世界には人しか居なかったよ」


「その、な。もうパーティーまで組んでもろて、今更こんなん聞くのもあれなんやけど…ナオトはんは、その、種族の違いとか…抵抗ないん?」


「そうだな…元いた世界には確かに人しか居なかったんだけど、想像上…俺が好きだった読み物とか、そういったものの中では獣人やエルフなんかは割とポピュラー…広く知られててさ。こっちの世界に来て実際見たら感動した方が強かった…かな。それに──」


「…それに…?」


「…実を言うと、そういう読み物で出てくる、人以外の種族が結構好きなんだよ、俺……」


「…そ、そうなんや……。ほな、このままウチらと一緒に…やっていけそう?」


「シータ達さえ良ければ、これからも一緒に冒険していきたいとは思ってるよ」


「そっか…うん。ありがとな、ナオトはん」



 …会話らしい会話はこれくらいだった。

 あとは二人で物音なんかを気にしながら、俺はたまにマップを見て魔物が近くに居ないかチェックしつつ、ぼーっと空を見上げて交代の時間まで過ごした。



 日が昇り夜が明けて、俺とシータが起きた後サッと簡単な朝食を取り、野営の後片付けをして村へ向かうためまた歩き始めた俺達…予定通りだと今日中には村に着くはず。


 この先は道が整備されていないせいか、時々魔物…狼型のファングウルフってやつとか人型のゴブリン、コボルトが数体単位でたまに襲い掛かってきたけど、ほとんど俺とアーネだけで難なく撃破しながら先へ進んだ。



 日も中天を過ぎた頃、マップをチラッと見たら進行方向の先に一つ、丸いマーカーと、それと一緒に線のようなもの…多分村を囲う柵か何か?と思われるものが表示されてた。

 この調子なら特に急ぐ必要もなく余裕で日が暮れる前に村に着くだろうから、今のペースのままのんびり進んでいくことに。



 時間的にもマップ表示の内容的にも予想通り、柵に囲まれた村へ日暮れ前に無事辿り着いた俺達は、入り口の門番にここへ来た経緯…クエストを受けてきたことを伝えて村の中、そしてそのまま村長のところまで案内してもらった。



「おぉ…来ていただいて感謝しますぞ、皆様。私がこのウェラーメ村の村長をしております、モラットです」


 村長のモラットさんと軽く自己紹介をして俺達全員家の中に入れてもらい早速依頼の詳細を聞くことに。

 これを聞かないことには始まらないし、これからの予定…すぐに向かうのか明日でも大丈夫なのか判断出来ないしな。


「それで、慟哭の洞窟っちゅうところの調査ってことなんやけど、具体的には何を調査したらええんですか?」


「そうですな…まず、この慟哭の洞窟と呼ばれている所以から少し説明しましょう。この村が出来たのはかれこれ200年ほど前なのですが、あの洞窟は村が出来る前からあったと伝えられておりましてな。最初は名も無いただの洞窟だったそうなのですが…何時からか、洞窟から呻き声のようなものが聞こえるようになってきて…それからです、慟哭の洞窟と呼ばれるようになったのは」


「呻き声、ですか…。その洞窟には何か呻き声を出すようなものがいる、ということですか?」


「それが…洞窟の中に村のものでは到底太刀打ち出来ない魔物がそれなりにいましてな。近寄らなければ害は無いので詳しく調べたりはしとらんのです。呻き声も時折聞こえるくらい…それこそ年に数回かそこらの頻度でしたので」


 なるほど…とりあえず魔物が住み着いてるのは分かったけど、溢れ出てくるようなことはないからこの村に害は無かったってことか。

 呻き声もそんな頻度なら特に気にすることもなかったんだろうな。


「ふーん…んじゃ、何で今回調査依頼なんか出したんだ?」


「その呻き声の頻度がですな…ここ数年の内に多くなってきましてな…。年に数回が毎月に、毎月が毎月数回に、毎月数回が毎週数回に……ここ最近ではほぼ毎日聞こえてくるようになり、流石におかしいと思いまして……」


「それは確かに…もしかすると何かの前触れかもしれへんって思うわな……」


「ええ、そうなのです。村の者も不安がっておりましてな、話し合いの結果こうして調査依頼を出したという次第で」


「であれば…その呻き声の原因の調査と、出来ればそれを止める方向で、ということですか?」


「可能であればそうしていただけると嬉しいのですが…一先ず原因が分かるだけでも村の者とどうするべきか判断出来るので、原因の究明を優先していただければ、と」


 そうだな…村の人も困ってるみたいだし、出来る限り排除した方がいいんだろうけど…まぁ行ってみて何が原因なのか調べてからどうするか考えるか。


「そのぉ〜…呻き声がぁ原因でぇ〜体調を崩されたぁ方とかはぁ〜いませんかぁ?」


「いえ、四六時中聞こえているわけでも無い上に、たかだか1、2分程度で止みますのでそこまでではありませんな。村の者の不安を取り除くというのが一番の理由でして」


 そんなわけの分からない呻き声を毎日聞かされたら、そりゃ不安にもなるよな…その内精神的に参ってくる人ももしかしたら出てくるかもしれない。

 やっぱあれだな、出来る限りじゃなくって原因突き止めてその呻き声を止めといた方がいいのかな。


「うん、そういうことなら了解や。この依頼ウチらに任せてぇな。ええか?みんな」


 全員頷いて同意を示した後、早速行く気満々で立ち上がったら村長が、


「今から向かうのですか?日も落ちかけですし、ここまで訪れてもらい流石にお疲れでしょうから、一晩お休みになって明日行かれてはどうですかな。何も無い所ですが一応宿屋も一軒ございますので」


 と、今日は宿を取って休んで明日出発しては、って勧めてきた。

 村長がそう言うならと俺達はお言葉に甘えて一晩休んでいくことに。



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