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#22 寄り道



 このままギルドに行こうと思ってたんだけど、中央の円形広場まで歩いていく途中、凄く甘い香りを漂わせてるお店があって、何気無く足を止めてしまった。

 姫達もさっきのあのちょっとした汚物を見た時みたいな怪訝な眼は殆ど和らいで普通に戻ってた…良かった、あのままだったらそれこそ初日でパーティー離脱しなくちゃならないところだった…大分浮かれてたからな、俺…まぁ、調子に乗るのは昔っからだし気を付けようにも中々……ってこれ、アーネと変わらんな、俺も。


「…?ナオトはん、どないしたん?こんな所で立ち止まって」


「あぁ〜、もしかしてぇ〜…これがぁ気になったぁ〜?」


 マールがそう言って俺が見ていたお店の中を微笑みながら控えめに指差した…まぁ、店の中にあるそれっていうより、甘い匂いが気になっただけなんだけどな。


「あんだよ、ナオトもこーゆーの好きなのか?」


「いや、こうゆうのって言われても…ただ甘くて良い匂いがするなって気になっただけだから」


「ふふっ、これはぁ気になるよねぇ〜。ここはぁ、私もぉイチオシのぉ〜お菓子屋さんだよぉ〜」


 何となく匂いで分かってはいたけど、やっぱりお菓子屋さんだったのか。

 お菓子か…そういえば昨日いろんな人にお礼しないとなって思って…あ、そうだそれで思い出した、昨日の夜のことでファルシェナさんの所行かないといけなかったんだ…ギルドに行くと何となく長くなりそうな気がするから先にファルシェナさんの所寄って行こうかな?丁度いいからここのお菓子でも持っていこうか、うん、良い案じゃないか?これ。

 どうせならラナとリズにも差し入れと…後は姫達にも何か奢ってあげよう、特にマールはセバスさんの件のお礼も兼ねて。


「やっぱりお菓子屋さんだったんだ。そっか…うん、ちょっと寄っていっていい?」


「別に構へんけど…買うてくんか?」


「あー、うん、ちょっと…ね。それでギルド行く前に、先に情報開示局にも寄って行きたいんだけど…いいかな?」


「情報開示局?あんなところに何の用があんだよ?」


「いや、あんなところって…俺は昨日スゴくお世話になったんだよ、知らないことばっかだったからいろいろ教えてもらって助かったし」


 こっちの世界の人にはあんまり必要無いのかもしれないけど、俺みたいな転生者や転移者にはかなり役立つ施設なんだって。

 何も分からないって結構怖いんだぞ?


「それも別に構へんけど…お菓子は何か関係あるん?」


「いや、昨日お世話になったからお礼も兼ねて差し入れでもしようかなって…あと、ラナとかリズにも」


「へぇ〜…ナオちゃんってぇ〜マメだねぇ〜。でもぉ〜、このお店を〜選んだっていうセンスはぁ〜悪くぅないよぉ〜」


「そぉかぁ?アタイはここの菓子、甘ったる過ぎてあんま好きじゃねぇけどなぁ」


 マールには褒めてもらったけど、アーネにはあまり好評じゃないみたいだ…どうしよう、姫達にも何か買ってあげようとかと思ってたけど、好きじゃないんだったら違うものの方がいいのか…。


「…そないなこと言うて、いつもここのお菓子買うてくと一番量食べてるやんか、アーネは」


「そしてぇ〜、いっつもぉ〜私にぃ怒られてるでしょぉ〜?」


「いや、あれは一個一個が小さいから量食わねぇと膨れねぇんだよ、腹が」


「だったらぁ〜違うものでぇお腹膨らませればぁ〜いいでしょぉ〜?」


「何で毎回マールに怒られるくらい食べるんやっちゅう話や。好きやなかったら食べへんやろ?そないに」


「そうだよねぇ〜?アーちゃん?」


「………」


 うん、大丈夫だった。

 逆に相当な量要求されそうな気がしてきた…いや、別にいいんだけど、お礼だし。


「話聞いてると大丈夫そうだな…じゃあちょっと寄らせてもらうよ」


 そう言って店内に入って…時間も掛けずすぐ出て来た。

 まさか甘い匂いで酔うとは思わなかった…当然だけど店先にいた時より店内の方は匂いが充満してて凄く甘ったるかった。

 入ってすぐは大丈夫だったんだけど、ものの2,3分でクラクラしてきて、あ、これヤバいってマールにおススメのお菓子を聞いた後それを手に入れて店内から脱出した…。

 姫達の分は諦めた、申し訳ないけど別なものにしよう…。


「ナオちゃん〜、もういいのぉ〜?」


「あ、うん…っていうかこれ以上は無理……みんなは平気なの?」


「ん?別に普通だぜ?」


「ウチも平気やけど…何か変やった?店の中」


「私もぉ〜、もっといてもぉ〜よかったよぉ〜?」


 え、そうなの…あんなに甘い匂いの中で平気とか……やっぱり女の娘だから?アーネなんか確か嗅覚強化とか持ってたよな…好きなもの甘いものの匂いはそんなのお構い無しなのか…。


「と、とりあえず買うもの買えたし、もう大丈夫。じゃあ悪いんだけど情報開示局まで付き合ってもらえるかな」


「おう、いいぜ。んじゃ行くか」


「了解や。開示局なんて久しぶりやなぁ」


「そうだねぇ〜…いつ以来だろうねぇ〜」


 昨日行った時はそこそこ人居たけど、そっか冒険者にはあまり需要は無いのか。

 まぁ、冒険に必要な情報は冒険者ギルドの方に集まってるだろうし、それ以外で必要な情報が無い限り利用する理由なんて無いもんな。


 差し入れも手に入れて情報開示局に向かって歩き出したけど、円形広場まであとちょっとって距離にお菓子屋があったからすぐ円形広場に出た。

 ここの円形通りは道が広いから自由に歩けて俺は好きだ…昨日みんなと一緒に歩いてた時の距離感も昨日ほど気にならなくなってる、これはもう朝の一件のおかげか。


「そういえば、聞きたいことがあるんだけど」


「なんや?ウチらにか?」


「みんなっていうか、マールにかな」


「なぁに〜?」


「マールってあんなに早く動けるのな、あと話し方も普通に早かった」


 異変に気が付いてそこへ向かう時のマールの動きが普段と全く違ったんだけど、その時は急いでたし気にするのは止めたんだった。

 歩きながらなら丁度いいし今聞いとこうと思って。


「あー、あれは戦闘時っつーか、非常時のマールだからなぁ」


「ナオトはんは初めてやろうけど、普段のマールと戦闘とか緊急の時のマールは別人やで。昔っからあんな感じや」


「何となくそんな気はしてたけど…差が激しくてちょっとびっくりしたわ」


「…びっくりぃさせちゃってぇ〜、ごめんねぇ……」


「あ、いや、別に謝るようなことじゃないよ…ただ、あんなに動けるんだったら、俺運ぶこと無かったのかなーって」


「お姫様抱っこのことか。まぁぶっちゃけ身体能力的にはそうなんだけどよ…どう頑張っても普段は戦闘時みたいに動けないんだと」


「普段から動けるようにってちょっと訓練っぽいこともしてみたんやけどな…効果無しやった。もうこれがマールなんやって諦めとる」


 戦闘時っていうか、非常時にはスイッチみたいなの入れて切り替えるタイプってことか、まぁ確かに戦闘時で普段のままだったらマズいよなぁ…いくらヒーラーでもある程度動けないと役に立たないだろうし、あと普段のあの口調で詠唱とかここぞって時どうにもならないだろうし……。


「…なんかぁ〜……ごめんねぇ〜………」


「まぁ、戦闘で動けるなら何も問題ないし、それで今までやってこれたんならいいんじゃないか?俺は気にしないよ」


「ナオトはんがそういう人でほんま良かったわ…今までパーティー組んで、アーネよりマールと合わんって人も結構おったんよ……」


「おいシータ、アタイよりってどういう意味だよ」


「どうもこうも、大半はアーネと合わんって抜けてったやんか。自覚あるやろ?」


「…来たヤツらの根性がねぇんだよ、アタイのせいじゃねぇ」


「アーちゃん…あんだけぇ暴れといてぇ〜、根性とかぁそれ以前のぉ〜問題だよぉ〜……」


 何となくだけど、想像つくな…入ってきた奴軒並みアーネが気に食わないと吹っ掛けてたんだろう、それこそ1日で加入して脱退とかあったんじゃないか…?


「でも、とりあえず、しばらくはもう大丈夫だろ?俺が入ったんだし…って、俺も気に食わないんだったら追い出されるんだろうけど」


「…ナオトは……すぐ追い出したりしねぇよ……あれだ、漂流者だしよっ」


「こんなぁ私でもぉ〜、大丈夫みたいだしぃ〜……」


「そうやな…それにこっちからお願いしたんや、それでこっちから追い出すなんて筋違いなことするつもりあらへんよ」


「…さっき俺が調子に乗って追い出されそうになったけどな……」


「そっ、それはっ、そうやっ!流石に犯罪者とはパーティー組めへんでっ!」


 犯罪者て…いや、まぁこっちの世界でも子供と接する時は十分注意が必要だってことで、調子にならないよう気を付けないとすぐ犯罪者認定されるっぽいからな…向こうの世界と変わらないのは覚えておこう。


「以後、気を付けます…犯罪者扱いされないように」


「ほ、ほんまやでっ、気ぃ付けてや!」


「了解です……」


 俺的にはホントに子供と遊んでたつもりだったんだけどなぁ…ちょっと心外な部分もあるけど、そう見られたんならしょうがないから大人しく認めよう…。


 ちょっとだけ凹んで歩いてたら目的地の情報開示局に着いた…そのまま中に入って漂流者受付まで一直線に進んでいこうとしたけど、すぐ終わる用事だし姫達にそこまで付き合わせるつもりもないかと思って待っててもらうことに。


「すぐ戻るから、その辺で待っててくれる?」


「了解や。そこの待合席で待っとるよ」


「よろしく」


 姫達と離れて俺一人で受付の方へ…もしかして別の人がいるかな?と一瞬思ったけど、昨日と同じファルシェナさんが受付に座ってた、良かった。


「こんにちは、ファルシェナさん」


「あっ…ナオト様!」


「先日はいろいろとありがとうございました、その…夜の事も含めて」


「っ!?…やはり……覚えていらしたのですか…?」


「はい、予想通りでした。なので…また遠慮なく来てください。いつでも構いませんので」


「…っ、はいっ!あの、ありがとうございますっ…昨日はたくさん頂いたので、3、4日は大丈夫だと思います…。なので、また必要になったその時は、よろしく、お願いします……」


「こちらこそ。あ、そうだ、これ…昨日のお礼も含め、差し入れです」


 さっきのお菓子屋さんで買った小さな箱…中身はカップケーキを一口サイズにしたみたいなやつで、アクセントに赤い果実がちょこんと付いた可愛らしい感じのお菓子が6個入った小箱をファルシェナさんに渡した…マールのおススメだし大丈夫だろう。


「え、あの、差し入れ…ですか…?私に…?」


「はい、昨日の♡マークのお礼です」


「はぅっ!そ、それはもう忘れてください……っ」


「ははっ、まあまあ、あれはあれでいいものなので、大事に取っておきます。とりあえず、伝えることも伝えて渡したい物も渡せたので、この辺で。あんまり長居するのも悪いですし…。今度また、夢の中で」


「あ、はい!その、ありがとうございました…では、また、夢の中で……」


 利用客として来たわけじゃないから、サッと用事を済ませて姫達がいる待合席へ…3人でダベってたところに戻ってきた。


「悪い、お待たせ」


「早かったな、ホントすぐじゃねぇか。もういいのか?」


「あぁ、伝えたいことと渡したい物があっただけだし」


「そっか。んじゃギルド行くか」


「寄り道させて悪かったな、すぐギルド行きたかっただろ?クエストクリア報告で連続失敗脱出出来るからな」


「ここまで来たらもう慌てなくてもええから、大丈夫や」


「了解、じゃあギルド行こう」


 全員揃って情報開示局を後にして、今度は真っ直ぐギルドへ向かった…何となくだけど、姫達の雰囲気が嬉しそうに見えるのは、やっぱりクエスト連続失敗が解消されて冒険者を続けられることになったからだろうな…。

 初クエストからいろいろあったけど、何とかクリアすることが出来て良かった…若干拾い物感があるのは拭えないけどクリアはクリアだ、割り切って報告するとしよう!



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