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#20 帰り道にて



 帰る準備にはそう時間は掛からなかった。

 俺達を待ってる間に粗方終わらせてあったみたいで、すぐ移動を開始出来た…お嬢様達は馬車があるのに俺の腕の中にいますけど。

 軽いし全然疲れない、腕が怠くなったりしないから苦じゃないし、それに俺自身まだこうしていたいかなって思ってるし…お嬢様達がもういいって言い出すまでこのまま帰ることにした。


「…まさか初クエストがこんな風になるなんて、思ってもみなかったな…」


 歩きながらボソッと独り言のつもりで零したら、マールの耳には届いてたらしく、返答がきた…。


「でもぉ〜、元々ぉ討伐もぉするつもりだったでしょ〜?」


「あー、うん、それはそうなんだけど…救出劇までは流石に想定してなかったよ」


 普通の会話になったから、アーネにシータも加わってきて、今日のことを振り返ってみた…っていうか、俺本当にこの世界来たばっかりなんだけど、一日の出来事の密度が半端なく濃くないか?


「たらればの話だけどよ、花摘みより先にゴブリン討伐行ってたら、ここまで大事になってなかったんじゃねーか?」


「それはどうやろ…花摘み行かへんかったら泉まで足延ばしてへんやろ、多分」


「あーまぁ、確かにそうかもな…」


「お兄さまたちは…お花をつみに来たのですか?」


 抱っこしてるティシャとひぃも会話に入ってきた…いや、別に何も問題は無いんだけどね。


「どこでお花をつんでたの?」


「そう、お花を摘みにね…囁きの泉に行ってたんだよ」


「そうだったのですか…わたくしたちは、運がよかったのですね…」


「いや、運が良かったらそもそも襲われてねぇだろ?」


「あ…たしかにそうでした……」


 ただ、事実襲われて、こうして全員無事で戻ってこれたってとこは、運が良かったって言ってもいいんじゃないかな?とは思う…襲われることが無かったってのが当然最良だけど。


「そやけど、ほんま二人ともよう頑張ったな…」


「いえ、そんな…ただ、走って逃げていただけなので…」


「それでもぉ…だよぉ?二人ともぉ怖かったぁはずなのにぃ……」


「わたし、転んじゃったとき、もうダメって思ってた…そしたらナーくんが来てくれて……」 


 大棍棒が振り下ろされる寸前の時か…ひぃは転んじまってたのか。

 あの場で止まって座り込んでたのはそういうわけか…。


「もう、さ。終わったことだし、わざわざ怖かったこと思い出すこともないだろ?この話はこれでお終いにしよう」


「そうやな…うん、そうしよか。で、結局ウチらはお花摘みしかクリア出来へんかったけど…」


「あれ?そういやクエストの期限確認してなかったかも……え?まさか………」


「あぁ…期限1日だったぜ」


「ってことは…」



「「「………」」」



 いやいやいや、それはマズいっての!どうする…俺だけでもこれから行って……いや、あの変異種って上位種に入らない…か?ギルマスのフィルさんやチーフのクリス女史に説明すれば含めてくれそうな気もするけど、確実じゃないよな…。


「ええんよ、最後にみんなで、こうして冒険出来たし…人助けまで出来たんや……」


「うん…救えるぅ命があってぇ〜ちゃんとぉ救えただけでぇ〜十分だからぁ……」


「……本音言うと、もっとナオトと冒険したかった…けどな」


 待て待て待てって!折角パーティー組んでさぁこれからだってのに、もう終わりとか冗談じゃないっての!今どうするか考えるからまだ諦めんなって…っ!


「ナオト殿」


 どうしようか焦って考えてたら後ろから付いてきていたミディさんから声が掛かった…いや、今それどころじゃないんですよっ……。


「は、はい?なんですか?」


「…?どうかしたのか?何か焦ってるようだが…」


「あ、いえ、ちょっと今日中にクエストをクリアしないといけない状況で…どうしようかと…」


「ふむ、クエストの内容は?」


「上位種のゴブリン討伐なんですが、これから探すとなると間に合うかどうか……」


 まだ陽は落ちてないから走り回って探せば何とか間に合うかもしれないけど…その場合俺一人でやることになるだろうし…元々上位種は俺が受け持つつもりだったけど、全部一人で片付けるなんて、それじゃパーティー組んだ意味が全く無い。


「そうか。ならばもうクエストは完遂だな」



「「「「えっ?」」」」



「何をそんなに驚くことがある。先程倒したばかりだろう」


 さっき倒したって…いや、あれは救援に入っただけで俺達が探し出した討伐対象ってわけじゃないし…。


「いや、確かに倒しましたけど、あれはあくまで救援であって…」


「確かに我々が救援してもらったわけだが、それでも実際に上位種を倒したのは貴殿だろう」


「それは…そうですが」


「ならそれでいいではないか。これがあればいいのだろう?」


 そう言って差し出されたのは少し薄汚れた布の袋…あ、もしかして、魔石が入ってるってこと?


「それって、もしかして…上位種の、魔石が入ってんのか?」


「ああ、そうだ。部下の兵達に言って掻き集めておいた。倒してもいないものをこちらの手柄にするつもりなど、毛頭無いぞ?」


 確かにあの時上位種4体を倒したのは俺だけど…でも、いいのか?これ…素直に受け取っても……。


「せやけど、そんなウチらが横取りしたみたいな真似…」


「横取り?何を馬鹿な事を。我々は討伐に来たわけでは無い、お嬢様方の護衛だ。それを横取りなどと言うこと自体お門違いだ。貴殿等が来なければこちらが全滅していただろうからな…これは正当な報酬だ、堂々と受け取るがいい」


「そ、そのぉ〜…いいんですかぁ…?」


「勿論だ。これを貴殿等が受け取ることに反論する者など、誰一人として居ない。寧ろ受け取らない方が反論してくるぞ?」


 そこまで言われると…確かに討伐に来たわけでは無かったみたいだから、手柄の横取りみたいなことは無いんだろうけど…。


「ナオトお兄さま、どうかえんりょなくお受け取りください。わたくしたちを救ってくれたお礼とは言いませんが、ミディおじさまの言う通りだとわたくしも思いますので」


「うん、そうだねっ。お礼は帰ってからちゃんとするよっ」


 おぅ…二人にまで言われた……これはもう受け取るしかないんじゃないか…?そう思って姫達の方を向いたら…喜んでいいのか、どうしたらいいのか分からないっていう複雑な表情を三人ともしてた、まぁそうなりますよね…でも、ここはお言葉に甘えて受け取ろうっ、そうすることでまだこれから姫達と冒険が出来るんだから!


「お礼はともかく、じゃあこれは…遠慮なく受け取ることにします…。ありがとうございますっ」


「礼など不要だ。貴殿等に受けた恩の事を考えれば、こんなものでは全く足りないからな」


「いえ、今の俺達にはこれが何よりの報酬なんです…これで、またみんなと冒険が出来ますから……」


「…何か事情があるようだな。まぁ深くは聞かんが、少しでも助けになったのならこちらとしても気が楽になるからな。あぁ、それと恐らくだが、我らが主人、グリュムセリナ侯爵家当主より後日招待されることになるだろう…そのつもりでいて欲しい」


 あー、ティシャもひぃも名字名乗ってたからなぁ…しかも侯爵って、それなりに位高いよな、確か…まぁでもこの国は身分差気にしないって言ってたし、大丈夫かな?大丈夫…だよな?


「ナオトお兄さま、シータお姉さま、マールお姉さま、アーネお姉さま…ぜひ我が家へ来てくださいね。お待ちしていますので…」


「うぇ!?ア、アタイらもかっ?」


「はい、もちろんです。セバスやみんなを助けてくださったのですから」


「そ、それは…そうやけど、ウチらただの冒険者やで…?」


「…?冒険者だと、何か来ちゃダメなことでもあるの?」


 うん、まぁ、普通は貴族の家に冒険者が行くことなんてあんまりないだろうからね…でもひぃの言う通り来ちゃいけない理由は確かに無いわけで、招待されたら寧ろ行かないと失礼だろうな。


「いや、多分…そんなことはない、ね」


「で、でもぉ〜なんかぁ…緊張しちゃうなぁ〜……」


 いや緊張て…君ら仮にもお姫様だよね?こういう時の作法とか知ってて当然じゃ?俺が一番その場にそぐわないと思うんだけど…。


「ふふっ、家に招待するだけですよ?いつも通りでいいのです。何も特別なことはありませんから」


「みんなでいっしょにご飯食べようよっ!楽しそうっ」


「なるほど…それは良い考えですな、ヒナリィお嬢様。では私からそう伝えておきましょう」


「うんっ!」


 何かひぃの一言で食事会の方向になってしまった…え、それもっと緊張するんだけど…テーブルマナーなんて俺知らないぞ?姫達に聞けば分かるのか?いや、でもあんまし期待出来そうにないんだけど…。


「と、言う訳だ。貴殿等の事は我が主人によく伝えておくからな」


「は、はい…」


「うむ。では、街まではもう少し掛かるが、お嬢様達を宜しく頼む」


「ナオトお兄さま、わがままを言ってもうしわけありません…」


「でもっ、ナーくんのここがいいのっ」


「はい、任せてください。二人とも大丈夫だよ、降ろしてって言うまでこうしててあげるから」


「あ、ありがとうございます…」


「ありがと、ナーくんっ」


 二人ともお礼を言ってまたギュッと抱きついてきた…別にお礼なんて必要ないんだけどな、俺もしたくてしてるわけだし。

 こんな俺達を見て微笑を浮かべ、ミディさんが元の位置…馬車や兵士達が居る方へ戻って行った。


 俺が二人を抱っこしながらキャッキャしてたら、姫達3人が少し離れてこっちを見ながらボソボソ話してたみたいだ…ちょっと浮かれ過ぎたかな?





 ──ボソボソ…


「…子供って、いいなぁ……」


「…せやな……」


「…気持ちぃ良さそうだよねぇ……」


「あー、そういやマールにシータ、お前らもナオトに抱っこしてもらってたよなぁ?」



「「……」」



「…ここだけの話、どうだったんだよ?」


「…あれはぁ〜……すごくぅ恥ずかしいよぉ……」


「…ウチは、ほら、緊急事態やったから…それどころやなかったし……」


「ふーん…ま、アタイがされることなんて無いんだろーけどな…素直に羨ましいわ、二人とも」


「…まぁ、うん、アーネがお姫様抱っこされとる未来が見えへんわ……」


「…私もぉ〜…想像つかないなぁ〜……ごめんねぇ、アーちゃん」


「どーせアタイなんかそんなもんだよ…二人ともハッキリ言いやがって」

  

「いや、でも、あれやで?アーネももうちょっと女の娘らしくしたらな?変わるかもしれへん…」


「…言ってる途中で「あ、やっぱないわー」とか思っただろシータ」


「……そ、そんなことあらへん、よ…?」


「思いっきり目ぇ泳いでるっつーの。ったくよぉ…」





 どんな会話をしてるのかは分からないけど、何となくどうでもいいような話しかしてない気がするから放置しててもいいかな。


 こうして帰り道は何事も無く、俺達はガルムドゲルンに無事帰ってきた…街に着いたら着いたでいろいろやることがあるけど、とりあえず、ただいまってことで。



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