#39 ケージと烈華絢蘭
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───フィオの部屋、子供達13人
「……こんナに、たくさん…。嬉しイ………」
「ヒナリィっ!よく来てくれたわねっ、会いたかったよーっ!」
「うんっ!わたしもーっ!」
「「えっへへーっ!」」
「さっそく二人とも…。ノルンさまはヒナリィに引きずられないでください、もう少し皇女らしく……」
「もーっ、ティシャはあいかわらずねっ!今は友だちといるんだからいいのっ。ねーっ!」
「そーだよーっ!ティシャは気にしすぎーっ」
「おかわりないようで何よりですわ、ノルンさま。ふふっ」
「……ヒナリィも、元気そウでよかっタ」
「うんっ!あ、そうそうっ!今日はねー、友だち連れてきたんだー!」
「そうみたいねっ。こんなにたくさん友だちがいるなんて、楽しそうでいいわねっ!」
「えっへへーっ!今はねーっみんないっしょに住んでるから、毎日楽しいよーっ」
「はいはい二人とも、少しおちついてください。今からしょうかいしますので」
───自己紹介後
「ふーん…ランとイアはナオ兄さまの従者で、ほかのみんなはヒナリィたちと同じ学園生なんだぁ。それで今はナオ兄さまの家で使用人もやってる、と」
「「……(コクっ………」」
「はい。わたしたちはまだ見習いですけど」
「ま、始めたばっかだしなっ」
「……たイヘんじゃ、ナい…?」
「そうでもーないかなー?ナオトお兄ちゃんもーお姉ちゃんたちもーやさしいしーねーっ」
「たのしぃょ」
「もっときびしくてもいいとおれは思うんだけどな」
「ウォルも…みんなと同じように?」
「いや、おれはしつじ見習いだよ」
「そうなんだ…。その、一人で…だいじょうぶなの?」
「一人…?あー、うん、そこはもう気にしてないから平気だよ。みんなもそう思ってくれてるし」
「平気なんだ…。すごいなウォルは」
「ロランさまが気にしすぎなんだと思うけどな…。でもノルンさまを見てたらなんとなくわかる、ヒナリィと似てるし」
「どうにもあのいきおいに付いていくのがちょっと……」
「そっか、ロランさまはそういうのが苦手なんだ」
「うん…だからウォルがこうして来てくれてうれしいよ。これからよろしくね」
「うん、おれでよければ」
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結局何の情報も得られず依頼事項が増えただけという話になってしまったけど、そこはもう仕方無いかと割り切って話題を切り替えることにした。
さっきから黙りこくって聞いているだけになっている烈華絢蘭の四人が妙に気になってしまって。
「さっきからおとなしくしてるけど、烈達とケージはクラスメイトだったんだよな?」
「あ…あぁ、うん、そうだよ……」
「どーしたよ?いつもの自信満々な態度はどこいった?」
「いや、それは……」
「ケージがクラスでやられてた事と何か関係があるってところか?」
俺がそう言った途端、烈達全員苦渋な表情を浮かべて俯いてしまった。
ケージが虐めにあっていたのは本人から聞いているけど、烈達はどうしてたんだろうか。
それに加担していたのか、それとも傍観していたのか…。
「……こいつらは直接僕に何かしてきたわけじゃない。どうせ他の奴らと同じくこんな僕を見て内心で嘲笑ってたんだろうさ」
「ちっ、違うよっ!そんなコトはしてないっ!」
「…ふんっ、どうだか」
「それはあり得ないわ。だって…烈は止めようとしていたもの」
「……でも結局僕達にはどうすることもできませんでしたけどね………」
「……僕らがカースト上位なんて言われてたのは知ってたけど、そんなのは何の役にも立たなかったよ…鬼馬達の前では。先生達に掛け合っても聞き流されてる感じで……」
「……………」
こっちの世界で見ていた烈達から、それはないだろうと除外していた回答が返ってきて、ちょっとだけびっくりした…けど、言われてみれば態度はともかく正義感っぽいものは少し見て取れたから、嘘ではないんだろう。
ただ…いくらトップカーストだったとは言っても、それを止められる程の影響力は無かったらしい。
それだけ熾烈な虐めだったんだろう…そして見て見ぬフリをする学校側の体制にも問題があったと。
「…竹名君が居なくなって、無力感で打ち拉がれてた時に、この世界へ喚ばれたの…四人一緒にね」
「……最初は当然戸惑ったわ、いきなりの事で…。けれども私達に特別な力が備わっている事を知って、この力があれば貴男のような人も救えるんじゃないかって…」
「でも、ここにはそんな人はいなくて、魔物っていう脅威がある世界だって分かったから、だったらこの力を使って助けてあげようって」
「この世界に来た当初から、どんな敵でも倒せたし、僕達四人なら何でもできるって……元の世界でできなかったことがこの世界でならできる、と自信ばかり付いていって……」
「……僕らがやる事全部、何もかもが思い通りにいって…調子にのっていったよ、竹名君の事を忘れることができるくらいね…。けど、こうして竹名君と会って、この世界で僕らがやってきたことをいざ振り返ってみると……本当に何様だったんだろうな、僕らは…あんな態度で……」
「うん……すごく、恥ずかしい………」
そういう事か。
初めて烈達と会った時に思った通り、こっちの世界に来てからやる事なす事全て思い通りにいって、どんどん調子に乗っていたところでケージと対面して、元居た世界の事を思い出した結果が今の状態ってことね。
まぁ確かに出来なかった事が簡単に出来てしまったら、そうなっちゃうってのも分からなくもない、それに…ケージの事で味わった無力感を忘れたかったからってのもあったのか…。
烈達の今までの態度を見るに、何も出来なかった無力な自分ってのを本気で忘れたかったんだろうな…何でも熟して全て良い結果を出せる今の自分達が本来在るべき姿で、周りもそれを認めてくれるからどんどん気も大きくなっていって、ああいう態度になった、と。
「何言ってやがる。助長大いに結構じゃねぇか。お前らのおかげでここが護られたのは確かなんだからよ」
「いや、でも……」
「あのなぁ、オマエらを喚んだのは俺なんだ。魔物が活発化してきたんで苦肉の策ってやつでな。まぁその理由がオーガのせいだったんだがよ、オマエらが来てくれて大した被害も無く今日までやってこれたのは見ての通りだろ。自信過剰になろうが偉そうにしようがここを守り抜いた事実に変わりはねぇんだ。オマエらが元いた世界で何があったかは知らねぇが、そんな態度だの何だのでこっちがつべこべ言うわきゃねぇんだって」
と、陛下がそんな烈達の話を聞いて、何を気にしているんだか、と少し呆れ気味に言ってきた。
魔物が活性化したのはやっぱりオーガがこっちに来たタイミング、元を辿れば魔統王の復活だとは思うんだけど、この大陸に限って言えばここの魔王であるオーガのせいってことになるんだろう。
そうした背景があってやむなく召喚という方法を使い喚ばれて来たのが烈達で、こちらの都合である以上、そんな態度や何やらで文句を言うのはそもそもお門違いであり得ないとまで言っている。
本当にこの大陸の人達ときたらもう……。
「……確かにここの人達は、俺達のいた世界の人間と違っておおらかというか、よっぽどのことがない限り攻めたり敵視したりはしないよな…嫌悪感は抱かれるだろうけど」
俺もこの世界に来てからいろんな人達に良くしてもらったし…素性も知らない相手に当然の如くお金を貸してくれたり、パーティーを組んでくれって頼られたり。
種族とか階級とかそういった部分での差別なんか殆ど見受けられず、至ってフレンドリーに接してくれるこの大陸の人達は、少なくとも俺にとっては本当に好ましくて…無闇矢鱈と悪感情を振り撒いたりはしないし、あからさまに見下したり高圧的な態度をとってくることも多くはないし。
思い遣りに溢れた世界ってこんなに居心地が良くて、好きになるのもあっという間だった。
「この国、いや、この大陸に住む種族全員…つっても魔人種以外だが、日々魔物っつー脅威と相対しながら精一杯生きてきたんだ、何千年も前からよ。で、昔っから引き継がれてるもんがあってな。ここに今生きてる奴らの根底には、『誰為己可』ってのがあるんだよ」
「…?どういう意味なんですか?それは」
「誰かを想う…救いたい、助けになりたいと思ったんなら、自分が出来る事でやれって意味だな。戦える力がある奴なら戦いで誰かを護る、そうでない奴は戦い以外の、自分が出来る何かで支えてやる。まぁ要は自分が出来る事、やりたい事をやってりゃ、それが回り回って誰かの為になってるんだと思えってことなんだがな」
「……この大陸の奴らがおかしいのはそのせいか。お人好しにも程があるだろう」
「あ?ここじゃそれが当たり前なんだよ。ただまぁ冒険者とか戦いに身を置いてる奴等だけは大分変わっちまったけどな…日々危険と対峙してるんだ、多少横柄な態度になっちまうのはしゃーねぇよな。ま、ここぞって時だけはキッチリやるんだからそんな態度に文句を言う奴もいねぇってことだ、俺も含めてな」
陛下がこの大陸に住む人達に根付いている信念、想いの在り方を教えてくれた…人が生きていくために共通の脅威へと立ち向かう上で根付いていったものなんだろうけど、皆が皆そういう風に想い合っているのなら思い遣りに溢れているのも頷ける。
冒険者達の中には多少高圧的なやつも居たけど、常日頃から命のやり取りをしているという点で、気が大きくなるのは仕方が無いんだろう…戦えない皆を護ってやっているっていう自負もあって、多少尊大になるのも致し方無いのかも。
それでもやるべき時には一致団結して事に当たる、この間の防衛戦やつい先日の侵略戦を見てそこは間違い無く分かった…全員が全員、護るべきものを履き違えたりはしていない、自分の為じゃなく、誰かの為にっていう想いで一つになっていたと強く感じたし。
「……ここまでくるとあれだな、もう俺達が知ってる人間とは違うって思った方がいいのかもしれない」
「そうですね…。私達の知っている人間の醜い部分ってほとんど見たことないですし……」
「ボクもそう思うよー」
「別にどうだっていーだろ、そんなの。居心地悪くなきゃそれでいいっての」
「み、皆さん、ほほ本当に優しくて…い、良い方達ばかり、ですし、ね」
「なに順応してるんだよ。どう見たって異常だろう、人である以上醜くて汚いところは絶対あるはずなのに。こうやって敵である僕やオーガをすんなりと受け入れているところとか、どう考えたっておかしいんだ」
「アタイからすりゃお前ら漂流者が異常だけどな。話の通じる相手になんでそんなくだらねぇことしてんだってよ」
「アーネがそれ言う?しょっちゅうギルドでケンカ吹っ掛けてたのは誰だったっけ?」
「せやなぁ。ギルドに限らず所構わずな」
「ばっ、アレはちゃんと毎回理由あんだからいーんだよっ。それに相手も冒険者だっつーの!」
「はぃはぃ〜、そぉいうぅ〜ことにぃしておいて〜あげるよぉ〜」
もう俺の知っている人間とは別のものだと…心の在り方っていう点においては護璃の言う人間の醜悪な部分、恨み辛みや妬みなんかが殆ど向けられない、ケージが異常だって言うのも分かるけど、そう考えるとやっぱり俺達漂流者が知っている人間ではないっていう俺の考えも間違ってはいないんじゃないかと思うわけで。
アーネは逆に俺達漂流者が異常だって…人同士、コミュニケーションが取れる相手に対して、どうしてそんな悪感情を平気で向けられるのかと。
まぁ言ってる本人はそういう相手に平気で突っ掛かってるんだけど、それも別に本気で憎いとか忌々しいとかブツけてるわけじゃなくて、それが冒険者同士のコミュニケーションの取り方なんだろうなって。
そんなアーネを見てきたシータ達はいき過ぎやり過ぎだって思ってたっぽいけど。
「ま、そういうわけで、だ。オマエ等には今まで通り期待してっからな。今回の件は相手が悪かったんだろうけどよ、そこはまぁこうして丸く収まってるんだからあんま気にすんな。それとケージ、オマエも俺の国にいる以上、ここのやり方には従ってもらうからな。とっとと慣れろよ」
「「「「……………」」」」
「……ふぅ……。今の状態で何かできるわけでもないし、非常に不本意だけどそうするしかないんだろ……」
「いイ心掛けだ、ケージ。差し当タっては我が家でしッカり働いてもラうぞ」
「……畏まりましたオーガ様!これでいいんだろっ!」
「Hum、それデ良い」
陛下がこの話題を締めるように烈華絢蘭の四人には今後も変わらぬ期待を、ケージに対しては郷に入っては郷に従えってことで早く馴染めと言い放った。
それを聞いた烈達はどうしていいか分からない、今まで通りと言われても自分達としてはそれじゃ駄目なんじゃないか、とでも思っていそうな何とも言えない表情をして返答を詰まらせていた。
気持ちは分からなくもないけど召喚主がこう言ってるんだし、今までそうしてきたんだから今更感もある…実際今こうして落ち込んだ感じになっている四人を見て、違和感というか、こっちの調子が狂うってのもあったり。
もう俺の中ではそういうキャラ付けされているから、別に今までと同じ態度でも構わないと思う、とは言ってもケージが目の前に居る以上、そんな態度は出来ないか…もう忘れる事なんか出来ないだろうし。
そのケージはというと既に力を封じられているせいで、自分ではどうすることも出来ないと理解しているみたいで、気持ちはともかくそうするしかないと仕方無しに納得しているようだ。
かなり渋っているのを隠そうともせず顔に出しているあたり、オーガを主とするのは相当抵抗があるらしい…まぁ本来同じ魔王という立場なはずなのに、こうして主従関係になってしまったんだから当然と言えば当然か。
「セリカ、サニ」
「「……何」「なにさー」」
「貴女達もしっかりやりなさい。もし主人に盾突くようなことがあれば…私が許しませんから」
「「っ!」」
「…わ、わかってるわよ……」
「そんなコワい顔しないでよぉ…サラぁ……」
そしてサラさんもセリカとサニに釘刺ししてる…美女が眼光鋭くすると、恐怖感が増してこっちまでゾクッっとしそうになる。
セリカとサニの二人もそう感じたみたいでおとなしく了承してた。
切り替えた話題がちょっと重い感じになったような気がするけど、陛下が締めてくれたしこの話はここまでってことで。




