#21 パレミアナ平原の戦い⑤
「クッ…こやツっ、なんてコトを…ッ!」
「…何をした…?お前……」
「くくっ…ガフっ……。別に…大、した…事は……してない、さ……。少し……この大陸、の…魔物達……を………支配下、に…置いて……命令した、だけ…だよ………」
……は?この大陸の魔物達を支配下にして命令って……っ!?まさか…っ!!
「オーガぁっ!!」
「すまヌっナオト…っ!今の我でハっ咄嗟の支配力で出来ル事は皇都へ向かっテイる魔物達を止めルくらイで精一杯ダ…っ」
「ハハッ!何処かに…お前達の、大切な人でも……いる、のかな…?ぐっ……」
「おっ……お前ぇぇぇええっ!!」
「テメェ!!フザケたことしてんじゃねぇぞっクソがぁぁあ!!」
ガルムドゲルンに居る皆が…っ!どれだけの魔物を支配下に置いたのか分からないけど、間違い無くスタンピードレベルだろうっ、くそっ!どうしたらいいんだ…っ!俺が助けに…いや、もういっそコイツをここで………っ!!
「弘史ぃ!みんなを連れてガルムドゲルンへ飛べぇっ!!」
「っ!ここはどうすんだよっ!!」
「もういいっ!ここは…俺一人で片付けるっ!!」
「尚にぃっ!?」
「尚兄さんっ!?」
「魔王とかそんなもん知るかぁっ!コイツは…っ、コイツだけは……っ!!」
「「「「「ダメ(や)(だ)(……)っっ!!!」」」」」
「それだけはっ、絶対にヤメろぉっ!」
「それだけはほんまに駄目やっ!!」
「それをしちゃったらもう……っ!」
「元には戻れなくなるのっ!!」
「……お願い………っ!……………」
ぐっ……そんなことは俺も分かってる……分かってる、けどっ!皆のあの笑顔が失われるなんて……そっちの方が俺には耐えられそうにない……っ!!
「ははっ…アハハハハッ!いいっ、それだよっその顔ぉ!それが…見たかったのさぁっ!!」
「早く…早く行けぇ!弘史ぃぃいいっ!!」
「黙って行かせると思ってるのかっ?セリカっ、サニっ!力を寄越せっ!ここで纏めてこいつ等を潰してやる…っ!!」
「「はいっ!!」」
「クッ…!そウ何度も好き勝手やらセるもノかっ!」
「これ以上お前に何かをやらせるつもりは無いっ!!」
駄目だ…っ、もう、俺には……こうするしか………っ!
「くぅっ…うぁぁああっ!!〔黒闇「「………!!!」」っ!?お…前、ら………っ……」
俺がそれを唱え終える直前に…ランとイアが俺の足許にしがみついてきて激しく首を振っていた……お前らも姫達やリオと同じなのか…。
けどもう俺にはこれしか…っ、向こうの皆は俺達みたいに戦えるわけじゃないんだ、このままだと確実に蹂躙されるんだよ…っ!それだけはっ、それだけは……っ!!
「…よしっ、お前達はこれで…終わりだぁっ!」
「サせぬっ!〔烈・幻無徨〕っ!!」
「喰らえっ!〔撃・邪空「「イヤァァァァァアアアッッ!!!」「ヤメテヤメテヤメテヤメテェェエエ!!!」」っ!?なにをっ!?セリカっ!サニっ!く…っ!二人とも…止めろぉっ!!」
…俺がランとイアに引き止められている間に、オーガとケージがお互いスキルを発動させたらしい…が、オーガのスキルの方が先に発動したらしく、それを受けた三人の内、ケージを除く二人が急に発狂しだしてケージに向かって暴れ出した…そのせいで、ケージのスキルは不発に終わった。
「同ジ魔王のキサマには効かヌダろうがナっ、配下程度ニなら十分効くはズだっ!」
「あれはっ…忘れもしない……私にコウキを攻撃させたスキルだわっ!!」
「……魔、王…技………っ……………」
「我は貴様程強クは無いガな…幻術では負ケはせぬゾっ!」
「チッ!余計なことを…っ!セリカっサニっ!正気に戻れっ!」
「アアアァァァァアアアアアッッ!!!」
「クルナクルナクルナクルナクルナァァァアア!!!」
これは…今がチャンスかっ?ここを任せてガルムドゲルンを救いに……あぁ…俺は本当、頭に血が上った途端間抜けになるな…。
他の街はどうでもいいって言ってるようなもんだよな、それ…。
やっぱり根本的な解決策はケージを勇者の力で弱体化させるのが最良の方法なんだよ、な……。
魔王を倒さず力を奪うっていう理由が多分あるんだろうけど、俺は今それを無視しようとして……ヘタしたらこの先、今よりもっと最悪な事態になっていたかもしれない…そう考えるとアレを止めてくれて助かったのか……。
けど、こうしてる今もこの大陸の魔物達が街を襲おうとしてるのは変わらない、ケージの力を奪ったとしてもそれがすぐ止まるかどうかも分からない……くそっ、どうすればいいんだ…っ!
「(ナオトっ!)」
「(!?リズっ!無事なのかっ!!)」
「(大丈夫!うんっ、こっちは大丈夫だからっ!今さっき冒険者から情報を受け取ったのっ。ゲシュト様にはもう伝えて守備隊を動かしてもらってるよっ!冒険者のみんなもこれから出るって!だから…こっちは心配しないでそっちのコト優先してっ!どうせ大変なコトになってるんでしょっ!?)」
「(そうか…そうかっ!分かった!助かったよっリズ!それなら何とかなりそうだっ!)」
「(他の街にもちゃんと伝えてあるからっ、サッと片付けて早く帰って来てよねっ、みんなと一緒に!こっちもみんなで待ってるからっ!)」
「(あぁ…帰る……帰るよ!みんなの所へっ!ありがとうリズっ!愛してるっ!)」
「(っ!?わっ、ワタシも愛してるっナオト!!)」
皆まだ無事だった…っ!そうだよなっ、街には冒険者達だって居るんだ、規模にもよるだろうけどそう簡単に落ちるって決め付けるのは早いよなっ!けどそれでも危ない状況なのは変わらない…だったらこっちを早くどうにかすればまだ何とかなる…いや、何とかしてやるっ!その為にはケージっ、お前を無力化するのがやっぱり一番手っ取り早いんだ、ここで俺が止めてやるっ!!
「…ラン、イア……止めてくれてありがとな。もう大丈夫だ、あとは…任せてくれ」
「「…………(コクっ………」」
「ケージぃっ!お前は…っ俺が止めるっ!!絶!乱瞑舞!乱舞死殺技っ!〔天誅〕ぃぃっ!!」
「っ!?く…っ!二人ともっ邪魔だぁっ!」
足許で俺を止めてくれた二人の小さな従者にお礼を言って、俺から離れてもらった…後はお前達の主に任せてくれ、と。
まだ二人に襲い掛かられていたケージへ、刀技を発動させ向かっていく…ケージは俺が突撃してくるのを見て、急いで二人を自分から弾き飛ばして引き剥がし、俺を迎え撃つため態勢を立て直そうとしていたが、それより俺の攻撃…乱舞五十連撃の方が早かった。
もうこの際多少の傷には目を瞑ってもらうっ、致命傷だけは避けてやるから甘んじて受けろよっ!
「うおぉぉぁぁぁああっっ!!」
「っがぁっ!グハッ!うっ…ガハァッ!!………」
…峰打ちとブレイド側面で、斬るじゃなく打つようにして連撃を繰り出し、それを防ぎきれずただその身に受けるだけになったケージ。
そのケージに弾き飛ばされた二人にも数撃巻き込むように入れると、あっさり気を失ってくれた。
そして連撃を終えた頃には…既にケージの意識も無く、ボロボロの状態のままその場に倒れ込む。
この状態なら攻瑠美達でも力を削ぐことが出来るだろう…。
「…攻瑠美っ、護璃!」
「「は、はいっ!」」
「………コイツの事は任せた。後はもう、ここにいる魔物達を片っ端から片付けるだけだっ」
「魔王の力ヲ削げば、支配下にアる魔物達も弱体化スるはずダ。やルなら早い方がイい」
「わ、分かりましたっ。攻瑠美っ、やるよ!」
「うんっ!」
「オーガっ、それはこの大陸の魔物達もか…っ?」
「…こノ大陸の魔物達は恐ラく支配下から外れテイるだろウ…付け焼キ刃の支配でハな」
「なら、街は…」
「…一度動キ出した魔物達は止まラぬだろウガ、徒党を組ムようなコと…ツまりスタンピード程にハなるまい。アる程度の集団が散リ散りに発生しテイるくらイのはズだ」
「そうか……それなら街にいる冒険者達だけでも何とか防げる、か……」
「あア、問題無いだロう。もう少シ遅けれバ分からなカったがナ」
「「……〔封魔削奪〕……っ」」
オーガの話からすると力さえ奪えれば全部どうにかなりそうだった…少しだけ安心出来た、まだ全部終わったわけではないから油断は出来ないだろうけど。
攻瑠美達は倒れているケージに近付いて、魔王の力を削ぎ、奪い取る、勇者にのみ与えられたスキルを使った。
意識を失っているケージの身体が薄ぼんやりと光り、ケージから攻瑠美と護璃へ流れ込むような光の筋が見える…恐らくそれが魔王の力なんだろう。
やがてその光の流れが止まり、ケージを包み込んでいた光も収まった…これで魔王の力を削く事が出来た、と。
今尚戦闘中の皆や魔物達を見てみると、オーガの言った通り確かに魔物達の力が弱まっているように思う、動きが鈍くなり、今まで取れていた統率が無くなって狼狽えているようにも見える。
騎士団の方も魔物達の抵抗が緩くなったせいか、勢いを増して押し返していた。
「なぁっ、なんか魔物達の動きが悪くなってねーかっ!?」
「あぁっ、これはやはり…っ」
「魔王が〜〜倒されたってこと〜〜?」
「どうやらそうみたいっスね!」
「よしっ!今が好機だっ、このまま押し返して全て駆逐するぞっ!まだ余裕があるなら陣技を張り直せっ!」
「「「「了解(っス)(〜〜)っ!」」」」
「結局最後までナオにゃんに任せっぱなしだったにゃぁ……」
「…仕方無ぇだろ……俺らの力がまだ足りてねぇってことだよ……」
「ちょっと自分が不甲斐無いっちゅ……」
「……………まだ、先がある。これからだ」
「そういうこったな。まだ一人目、先は長ぇんだ、イヤでも強くなってくだろーしよっ」
「…焦る必要など無い、お前達のペースでやっていけばいい」
「ま、アタシたちもまだまだってことよねっ」
「…大丈夫だ、私達には……ヒロシがいるだろう」
「そうだよぉーっ!弘史さんに付いていけばぁ、もっともーっと強くなれるんだからぁーっ。ねーっ、カノンちゃんっ!」
「そうですニャーっ。ご主人しゃまも夢の玖零番台を使える日が来ますのニャー、きっと!」
「…よかった……ホンマに………」
「「ランちゃんっ!」「……イア…っ………!……」」
「ありがとうっ、ナオトさんを止めてくれて…っ」
「……ありが、とう……っ…………」
「「………………」」
「みんなも、護りたかったから…?そう、そうだね…私たちのことも、護ってくれたんだね…っ!」
「ったく…アレだっ、これ全部終わったらナオトのやつシメねーとダメだなっ!」
「そうね、私もナオトに言いたい事が山ほどあるから、当然それに参加させてもらうわよっ」
「構わねーよっ!っし、んじゃとっととここ片付けちまうぜっ!」
騎士団だけじゃなく、この場に来ていた皆も魔物達を掃討するため再度奮闘し始めた…多少疲れてはいるようだけど大丈夫そうだ。
「はぁぁ〜……ったく、同じ漂流者相手ってのはやり難いったらありゃしねぇ……」
「……しかもこの世界の人達を平気で虐げるようなやつはな……」
「ヨく我慢出来たな、二人とモ」
「いや、出来てねぇよ…な?尚斗」
「………ああ、出来てない、な………」
……この手に掛ける寸前までいってたんだ、我慢なんて全く出来てない……。
皆の危機とか思っただけですぐ思考が狭窄するのはどうにかしないと、いずれ取り返しのつかない事をやらかしそう…というか、多分やる……今回みたいに止めてもらわない限り。
これが全部終わって皆の所へ帰った後、こうならないように何か手を打とう…じゃないと、本気で皆と一緒に居られなくなるから、な…。
「…終わったよ、尚にぃ」
「終わりました…尚兄さん」
「…ありがとう、二人とも。それと…ごめんな」
「…尚兄さんって……いえ、何でも…ないです……」
「ねぇ尚にぃ…その、さ。いつかでいいから、他の娘たちにも…会わせてくれる…?」
「………ああ、これが全て終わったら帰るつもりだから………一緒に、行こうか」
「「うんっ」「はい…」」
「…あー、んじゃ早く帰ってゆっくりしてぇし、終わらせるとすっか」
「そうだな。俺も…早く、帰りたい……」
──そうして俺達も、烏合の衆と化した別大陸の魔物達を掃討するため、戦闘を再開させた…。
俺は本当に早く皆の顔が見たくて、とにかくもう無闇矢鱈と大技連発して倒してたら…終わった頃には嫁達を除く皆に呆れられてた、何故か。




