#20 パレミアナ平原の戦い④
空に居るケージはキレているように見えたが意外と冷静だったようで、そこから俺に突っ込んでくるようなことはしなかった…宙に居るアドバンテージを捨てるような真似はせず、そこからまず眼下に居る俺に向かって遠距離攻撃をしてくる。
さっき護璃を吹っ飛ばしたように今度は左右の腕を適当に振り、その風圧を俺に向けて飛ばしてきた。
俺はそれを躱すのが面倒…もとい、躱すと周りの邪魔になりそうだったから、敢えて闇護膜任せで全て受けた…風圧も封殺出来たらしい、結構踏ん張るつもりでいたんだけど。
あとはまぁ、当然無傷である…自分で考えたものがここまでチート臭いとなんだか複雑だ…しかも黒歴史だし。
けど、これのおかげで今まで安心してやってこれたし、そこはもう目を瞑るしかないよな、と。
「へぇ…大口叩くだけのことはあるじゃないか……。それならこれはどうかなっ、と!」
今度は少し本気になったらしく、両腕を手刀のようにして空を切る感じで振り、風圧を風の刃みたいな形にして飛ばしてくる。
刃なら刃で返せるだろうってことで、既に魔物達を倒すのに抜いていたダルクブラウヴァーと絶刹那で、その風の刃を片っ端から切って捨てた。
このまま一方的に空から攻撃されるのも、というか上から見下されるのはあまりいい気分じゃないから、ケージには降りてきてもらうことにする。
「そのまま浮いてるのも疲れるだろう?降りてきてくれないか?」
「何を言ってるのかな?別にこれくらいで疲れるわけないんだけど」
「そうか…。けど俺の首が疲れるからさ、ちょっと強制的に降りてきてもらうよ……(〔影操縛〕)」
「ふんっ、やれるものなら…っ!?な…にっ!!」
影をケージが浮いている場所の真下より少し後ろまで伸ばし、そこからケージに気付かれないよう一瞬で背中の翼を絡め取るよう更に上方へ伸ばした。
その影を絡め取ったケージごと引き戻し、地面に叩き付ける。
「がはっ!」
「…うん、これで首が疲れずにすむよ」
「お前は…何なんだよっ!この僕を地面に引きずり下ろすなんてあり得るはずがないっ!」
「何なんだって言われてもな…お前と同じ転生者としか」
「お前も…転生者だったのかっ!いや、そうか…そんな格好をしている時点で気が付くべきだった…。何をやっているんだ僕は…っ」
なんか久しぶりにこの格好にツッコまれた気が…もう誰も、自分含めて気にしてないからなぁ。
というかこれもう馴染んじゃって俺自身としてはかなりお気に入りなんですけどね。
「こうなったからってお前がこの僕に勝てるなんて思うなよっ!」
「いや、これどうにかしないといけないからさ、お前には負けてもらうって」
今俺とケージが居る場所は魔物達も寄って来なくてぽっかりと空いている状態…多分魔物達が魔王であるケージを避けてるんだろう。
ちょっと周りを見てみると…俺の後方では皆と魔物達、それに魔人種の二人が交戦中だった。
そんなに距離は離れていないから、皆の声も聞こえてくる。
「ぐっ…どうして、僕らだけ…っ」
「狙うの…よ……っ………あぐぅっ!」
「ケージ様にあのような顔をさせる輩を放って置ける程、私は寛容ではないのですっ」
「ま、ぶっちゃけーアンタらがぁ一番弱そうだしー、とっとと片付けちゃおっかなーってぇー」
「僕達、が……弱い………だって………っ!」
「貴女達がっ…強過ぎる、だけ…っ……あぁっ!」
「くっ…邪魔だぁっ!おいっテメェ等も漂流者だろうがっ!もちっとマトモに抵抗してみせろやぁっ!」
「あーもぉーっ!邪魔しないで…よぉっ!こんのぉーっ!」
どうやらあの二人の魔人種は烈華絢蘭の四人を執拗に攻めているみたいだ…周りの皆も魔物達を相手にしながらだと、そう簡単に手助けしにいける感じじゃなさそうだ。
このままだと四人ともマズいか…?と、思ってたら、俺に次ぐ強さを持つこの二人がそこに割って入っていった。
「「……………!」」
「うわっ、ちょっ!なにこのチビっこいのはぁっ!」
「…っ!私のっ…邪魔を……するなぁぁぁっ!!」
「「…………!!」」
チビっこい二人、ランとイアはラナとマールから離れ、二人の魔人種に飛び掛かっていく。
恐らくマールをラナに任せてとでも思っての行動か、ラナがマールは任せてあの四人をお願いとでも言ったのか…細かい理由はともかく、そうしてランは赤毛ツインテールの魔人種と、イアは緑長髪の魔人種とお互い一対一の形で対峙した。
緑髪の方はよっぽど邪魔だと思ったのか、口調が荒くなってる…魔人種で敵対しているとはいえ、綺麗な顔付きをしている美女は美女なわけで…そんな美女が顔を歪めて崩れた台詞を吐き出すと、それなりの迫力があるというか…。
で、視線をケージに戻すと、何やら武器らしきもの…見た感じ槍っぽいんだけど歪な形、持ち手の部分は棒みたいに真っ直ぐじゃなくてデコボコした感じで、逆に槍先は真っ直ぐで細く鋭く尖ったドリル形状になってる、そんな武器を生成したのかどこかから引っ張り出したかして手元に持ち、俺に向けて構えていた。
そう言えばシルファが、貫通特化の攻撃が得意な魔王とか言ってたっけ…それでそんな武器なのか。
「…これを出したからには、お前に勝ち目は無くなったからな…。残念だったなぁっ!」
「だから勝たなきゃならないんだってっ」
そんな台詞と共にその槍を突き出しながら突進してくるケージ。
俺はそれを二本の刀剣で身体に当たらないよう捌きながら、少し様子を見る。
槍捌きは…うん、あまり巧いとは言えないかな…力任せに突いてくる感じだから、突きの速度はそれなりにあるとは思う…今の俺にはそれでも遅く感じるんだけど。
だからそこまで本気を出さなくてもそこそこ余裕のある感じで往なしたり出来てる。
個人の強さ的にはランとイアでも相手に出来るくらいじゃないかなぁ…なんて考えながら捌いていると、俺に当てられないケージが苛立ってきたのか間合いを取るため一旦後ろへ下がった。
「フっ、フっ……なん、で……当たらないんだよぉっ!」
「なんでって…そりゃ当たりたくないし、当たらないようにするのは当然だろう?」
「そんなことを言ってるんじゃないっ!なんでお前みたいな奴がこんな所にいるんだよっ!」
「あーそれはだな……その、手違いで………」
「手違い…っ?なんだよその巫山戯た理由はっ!」
いや、だって本当のことだし…エクリィが全部悪いんですよ?本来なら俺は向こうの世界でただ死んで終わりだったんだろうけど、この世界の神様が手を滑らせたせいでここに居るわけで…。
文字通り手違いとしか言いようが無いと思うのですが。
「いや、別にふざけてるつもりもなくて、本当にそうなんだよ……」
「くっ…これだからイレギュラーは余計なんだよっ!」
「そういうお前はなんで魔王なんかに転生したんだよ」
「元の世界で絶望して、恨んで恨んでっ怨みまくって死んだからに決まってるだろうっ!」
あ…そうか、魔王側の転生ってエクリィ達の管轄外なのか…だよな、じゃなかったら勇者なんて召喚しないだろうし。
そう考えると向こうの世界での負の感情に飲み込まれた奴が魔王側として転生している、と…。
それでいくとオーガもそういう事になるのか…?元の世界でよっぽど恨みを持つような事があって死んだのだろうか…今のオーガからは全然想像つかないんだけど、あの親バカっぷりからは。
「そういうことか…。で、その恨みってのをこっちの世界で晴らそうって?魔王の力を貰ったから」
「あぁそうさ!僕はそうする事が許された人間なんだってことだよっ!」
「お前…それ本気で言ってるのか……?」
「当たり前だろう!この力があればあんな思いはしなくて済むんだからなぁっ!」
…烈華絢蘭と同じ学校のクラスメイト、これだけの恨み…何となく想像が付くな……多分虐めにあってたんだろう、それで行き過ぎて命を奪われたか、耐えきれず自ら命を絶ったか……。
そんな奴がこの世界に来て、向こうの世界ではあり得ない程の力を得たら、こうなって当然ってところか…。
けどな、いくら何でもそんな事が許されるわけが無いだろう?自分がやられたからって自分もやっていいなんて、そんな事誰も許しちゃいないだろうがっ、自分以外は!
「それだけの為にこの世界の人達の命を奪って来たのか……」
「はぁ?命を奪うって…ハハッ!そんな非効率的なことをこの僕がするわけないだろうっ!」
「非効率的…?」
「当然だろう!僕達魔王の役目は負の感情を集めることだっ。確かに命を取った時の方が負の感情は多いけどさっ、それより生かしておいて継続的に恐怖を与えておいた方が結果的により多くの負の感情を集められるんだよっ!そうやって廃人にした方がより良質な負の感情を垂れ流してくれるってわけさ!死んだ方がマシだって思えるくらいにねっ!フハハハッ!」
コイツっ…まさかそれを別大陸でやってきたってことなのか…っ!こうしている今も、その大陸の人達が恐怖に曝されてるって……これが、俺と同じ世界に居た同じ人間なの、か………。
「あぁ…よく分かったよ。こんな所でお前と話してる場合じゃないってことがなっ!」
「ハンッ!だったらなんだっ……てっ!?」
もう駄目だった、そんな事を平気でやれる人間を目の前にして平然としていられる程、俺は腐っちゃいないって…そう思ったら身体が勝手に動いていた。
二本の刀剣でケージに斬り掛かって、ケージはそれを一本の槍だけで防ごうとするが、さっき思った通り槍の扱いはそれほど巧くはないうえに、攻撃より防御の方が不得手らしく、俺の剣撃をまともに防ぐ事が出来ずその身体に剣痕を増やしていった…俺も頭にきているとはいえ、相手は同郷だから致命傷になるような攻撃は避けている…こんな奴でも。
それをやっちゃうと…多分俺はもうこの世界に居ることが出来なくなるって心の底から思ってるから…自分が自分で失くなるのが分かってしまうから。
「ぐっ…がぁっ!こ…のぉ……っ……!」
「とっとと終わらせるからなっ!絶・乱瞑舞 裏技乱舞〔下剋上〕っ!」
何とか反撃を試みようとしているケージの槍をやり過ごし、鉄山靠モドキを喰らわせて…思いっ切り吹っ飛ばした。
この技なら魔王が命を落とすなんてことはないだろうから。
「がハぁッ…!?」
俺の体当たりを抵抗することなくその身に受けて、十数メートルくらい…吹っ飛んだ先に居た魔物達は壁にもならず、そいつらも巻き込んでいった。
「「ッ!?」」
「「ケージ様ぁっ!!」「ケージぃーっ!!」」
ランとイアが相手をしていた二人の魔人種は、ケージが吹き飛ばされたのを見てすぐ駆け寄っていく…これでもう立ち上がってこないでくれると助かるんだけど、あとはこの魔物達の集団をどうにかするだけ…と希望的観測をしていたら、やっぱりそう簡単にはいかず、二人の魔人種に支えられながらよろよろとケージが立ち上がってきた…。
「かはっ…ゲホッ……。こ、こんな攻撃…なんか……してきやがって……。そっち、が…そんな気、なら……こっちにだって…考え、が……あるんだ、よぉ…っ!」
「っ!?マさかッ!?」
…苦し紛れかどうかは分からない…が、ケージは俺にとって最悪の一手を打ってきた…それこそ、ここでコイツの命を絶ってもいいと思ってしまうくらいの一手を。




