#19 パレミアナ平原の戦い③
俺とリオはキャトローシャニアから飛んで来て、今まさに戦闘中の塊を上空から見つけた。
数的には明らかに劣勢だったが、魔物達の進軍は止められている…どうやら皇都からの軍、確かガルムドゲルン防衛戦の時に援軍で来てた緑風騎士団と似たような感じの見た目の集団が魔物達と戦闘中らしい。
恐らくその中に皆も混ざって戦っているんだろう…だったら少しでも数を減らそうと、行きがけの駄賃というわけでも無いが、置き土産をしていこうと考えてリオにお願いした。
「リオっ、あそこに一発お見舞いしてやってくれっ!」
「……うん…っ……わかっ、た……っ……………」
了承してくれたリオは、さっきのキャトローシャニアでの海上と同じ火竜魔法〔ヴォルカニックバースト〕を最前線よりかなり後方の魔物達に向けて撃ち放った…が、魔物達に到達する前に何か障壁の様なものに邪魔されて、一体も倒す事が出来なかった…。
「くっ…今のリオの攻撃を防ぐってことは…間違い無くそいつが魔王だなっ。リオっ、とりあえず最前線の方まで飛んでくれっ!みんなの所へ行きたいっ!」
「……了、解……マスター……っ……………」
魔王の存在が確認出来たからとりあえずは良しということにした…俺が魔王を倒すわけにはいかないからな、攻瑠美と護璃が力を削がないと駄目だろうし。
俺とリオは一旦皆がいるであろう最前線にこのまま向かい、上空で竜化を解いたリオを抱いて浮遊を使い降り立つ。
そこには前衛を張れる皆と、烈華絢蘭の前衛二人、そして何故かオーガが居た…何でお前がこんな所に、ってそうか、同じ魔王だから何か通じるものでもあったってことか。
そして後方の部隊から走って来る後衛の皆と一緒に烈華絢蘭の残り二人もここにやって来た…最前線で今尚戦闘中にも関わらず、俺とリオが来たのが見えたからだろうとは思うけど、わざわざ危険地帯にまで来なくても…。
魔物を捌きながら皆に声を掛けると、皆も同じ様に魔物を相手にしつつ返してくれる。
「みんな大丈夫かっ!」
「へっ!見りゃー分かんだろっナオトっ!こんなんでくたばるアタイらじゃねーよっ!っとぉ!」
「ナオトさんっ!向こうは……っ」
「ああっ、綺麗に片付けてきたよっ!」
「チッ、ホンットバケモンだなっお前はよぉっ!」
「…来タか、ナオト」
「オーガ!多分だけどお前と同じ魔王が来てるぞっ!」
「あァ、そウだろうト思ってココへ来た」
やっぱりオーガには分かっていたらしい、けどそれが分かったとしてここに来る理由が…あぁ、間違い無くフィオの為にだろうな…俺だって似たようなもんだし。
「ナオっ!待っとったで!」
「シータっ、こっちは危ないって……っ」
「ナオの側が一番安全に決まっとるやろっ!」
「私もいるから大丈夫ですっ!」
「マールまで……っ」
「まっ、全員揃ってた方が慣れてるだろうしやり易いでしょっ!っと、〔風霊旋空陣〕!」
後衛組のシータやマール、それにシルファが魔法を放ちながら寄って来た…これだけの乱戦でもここは割と余裕がある感じだ…皆がそれだけの強さを持ってるってことなんだろうけど、戦闘しながら話せる余裕があるのは助かる…皆に伝えなきゃいけない事もあるし、恐らくもう知ってるだろうけど。
「みんなもう分かってると思うけどっ魔王が来てるからなっ!」
「パペンダの魔王だから…撃魔王よっ!」
「そうかっ、シルファとリオは知ってるのか!どんな奴なんだっ」
「攻撃特化…特に貫通力が高い攻撃を得意としてるやつだったはずよっ!」
「今は確カ、撃魔王ケージだっタか。ヤツも…我と同じ転生者ノ魔王のハズだ」
『『『『っ!?』』』』
「冗談だろ…っ!俺らと同じ転生者でなんでこんなことしてるんだよっ!!」
やっぱりそうだったのか…悪い想像が当たってしまった…。
弘史の言う通り、同郷でこんなことしてるなんて…いや、同郷だから、なのか……向こうの世界の人間なら少なからずそういう部分を持った人が居るんだよな…平気で人を傷付けるような事が出来るって人間が。
「魔王がいるって…流石にそれは想定外ですわねっ!」
「しかも転生者ってもっと質悪く……(ケージ…?まさか、ね……)」
「こんなことを仕出かしているのが同郷ですか…っ」
「同じ漂流者として見逃すわけには……(ケージ?どこかで聞いたような……)」
何故か烈華絢蘭のリーダーである烈がやる気を見せている…正義感だけは強いのだろうか?元の世界でもそうだったのか?
そんな事を話していると、騎士団の人達が割って入って来た…見た感じリーダー格っぽい人達だ。
「そこの…漂流者かっ、今の話は本当なのかっ!」
「間違い無いですねっ」
「マジかよ…っ、エル姉っどうするよっ!」
「流石に魔王なんか相手に出来ないっスよっ!」
「くっ…まさか魔王とはな……っ」
「でも〜〜魔王以外は〜〜やる事変わらない〜〜よね〜〜」
騎士団の人…多分エル姉って呼ばれてた人が一番上なんだろう、他の四人はその下…それぞれの騎士団の団長ってところか、緑風騎士団の団長の人と肩を並べてるように見えるし。
一人だけ戦闘中にも関わらず普段のマールみたいな感じの人が居るけど、今は気にしてる場合じゃないな。
「こっちには勇者がいるので魔王のことは任せてもらえますかっ!」
「なにっ!?勇者がいるのかっ!」
「攻瑠美っ、護璃!」
「「ハイっ!」「はいっ!」」
「この二人が勇者ですっ、魔王の力を削ぐにはこの二人の力でしかできないはずなのでっ!」
「そうか…っ。よしっ、ならば魔王は任せるっ!我等はこのまま魔物達の相「ふぅーん…そこの二人が勇者なのか……」っ!?」
『『『『『ッ!?』』』』』
「……撃………魔、王…………っ……………」
「あいつが…魔王なのかっ!?」
俺達の会話に被せて声が聞こえてきて…その声がする方向、上を見上げると三人の魔人種が宙に浮いてこちらを見下ろしていた。
一人はオーガと似た容姿だが若干オーガよりは小柄…肌の色や翼は同じ、顔もオーガとほぼ遜色無いハリウッドばりの美形、唯一違いがあるのは角、オーガは側頭部辺りから二本、悪魔が生やしてる様な角があるのに対して、そいつは額辺りから一本だけ、鋭く尖った円錐形の角を生やしている。
その横には二人の女性の魔人種が居る…こっちもオーガの妻っていう立場であるサラさんと同じ様な容姿で、明確な違いは髪形くらいか…右の魔人種はサラさんと同じ、腰辺りまでの長さで髪色が鮮やかな緑、左の魔人種は体格は小さ目で燃えるような赤毛をツインテールにして靡かせてる…。
「今代の勇者が女とはね…道理でのんびりしてるわけ……んん?クククっ…アッハハハハッ!!」
「っ!何笑ってんだテメェっ!!」
「くくっ…いや失礼。まさかこんな所で会えるなんてね……我がクラスのカースト上位の四人がいるとは思いもしなかったよっ」
「えっ…それってまさか私たちのこと…?」
「僕達は君の事なんか知らないっ!」
「まぁ、当然だろうね…この姿だし。それに君らには僕が居なくなろうが知ったこっちゃなかったんだろうしね…須藤君、長門君、平岸さん、それに…宮藤さん?」
「「「「!?」」」」
「何故…私達の名前を……」
「君は誰だっ!」
どうもこの転生者の魔王と烈華絢蘭は関係がある…というか、会話から同じ学校のクラスメイトらしいってことが分かった…向こうは知っててもこっちの四人は分からない、まぁ容姿が違うから当然と言えば当然かもしれないが。
「そんなことはどうでもいいよ…どうせ君らの記憶には残りもしなかったんだろうしね、僕の事なんか。けど…僕は忘れもしない、忘れる事なんか出来ないねっ!他の有象無象と一緒になって僕を影で嘲笑ってた君らのことをさぁっ!!」
「……転生、者………ま、さか…………」
「…っ!?嘘…っ!えっ?冗談、だよ…ね……っ!?」
「ふーん…思い出すくらいには記憶に残ってたんだ……。でもいいよ、それもここで全部消えて無くなるだろうからねぇっ!」
その言葉を皮切りに撃魔王の隣に居た二人がこちらに向かって勢い良く降りてきた…そして件の四人に対して猛烈に攻撃を仕掛けてくる。
烈華絢蘭の四人は困惑してかその二人の攻撃をまともに喰らいそれぞれ吹き飛ばされる…突然の事で皆も反応が出来なかった…俺もだが。
「「ぐあっ!」「うぐ…っ!」」
「「あぅっ……!」「きゃぁ……っ!」」
「ケージぃ、コイツら弱っちいよぉー?ヤッちゃっていいんだよねー?」
「ケージ様をあれ程不快にさせるなど…万死に値します」
「あぁ、いいよ。二人の好きにして。そんなのよりこっちの勇者をどうにかしないとだし」
「うぅ…ボクたちだってこれでも勇者なんだからっ!キミみたいなヤツには負けないよっ!」
「そうよっ!あなたのような人にこれ以上みんなを傷付けさせるわけにはいかないっ!」
「ククッ…意気込みだけは勇者らしいね。さて、どれだけの力があるのかな、と」
そう言って撃魔王…ケージが片手を無造作に振る。
その腕の振りだけで発生した風圧が攻瑠美と護璃を襲う。
「っ!?〔護勇剣・シェルトヴァリナー〕っ!」
バキッ…パリィィインッ!
「きゃぁぁあっ!?」
「まっ、護璃ぃ!!」
護璃が出した剣盾のスキル…訓練では弘史の斬撃を跳ね返していたが、ケージのそれはいとも容易く展開された障壁をブチ破り、護璃を弾き飛ばした。
…これが撃魔王の強さか…今の二人じゃ力不足なのは明白だった。
うん、これは無理だ、アイツの相手は俺がするしか無いな…止めは刺さずに弱らせて二人には最後に力を奪ってもらうしか。
「ははっ、やっぱりこんなもの……ん?」
勇者二人の前に庇う様に立ちはだかりケージを見上げる…ここからは俺が相手だよ。
「みんな…アイツの相手は俺がする。そこの魔人種二人と周りの魔物達は頼んだっ」
「うっ…尚兄さん……でも……っ」
「大丈夫、弱らせるくらいにしておくよ。その後二人に頼むから」
「尚にぃ……」
「ククッ、アハハハッ!この僕を弱らせるって?既に大陸一つ制圧してきたこの僕をっ?ハッ!笑えない冗談だねっ!」
「さて、冗談かどうか…確かめてみるといいさ」
「チッ…この僕にそんな大きな口をきくとはね……。いいさ、ならやってみなよっ、出来るものならさぁっ!!」
そうして、キレたケージと俺の一騎討ちが始まった…。




