#18 パレミアナ平原の戦い②(SIDE:シータ)
「おっ、やっぱりおったんかっ」
「あっ!あんた確かガルムドゲルンの時にいた……」
「…あの尚斗とかいう漂流者の仲間ですねっ」
「ん〜〜?だれだれ〜〜?」
アーネ達前衛組と別れてウチら後衛組が後方部隊に辿り着くと、やっぱりおった烈華絢蘭の後衛二人、そしてこの部隊の隊長らしき人…なんやマールを彷彿とさせる喋り方やった。
一瞬戦闘中やのにこんなんで大丈夫なんかと思てしもうたわ…。
「それより先にやるぞっシータ!」
「せやったな!よっしゃいったる!〔炎岩落爆〕!」
「俺らもいくぜっヴォルド!〔氷精降矢〕っ!」
「………〔雷精閃激針〕」
「俺らもだなっアベル!」
「ああ、いくぞっ!」
「〔水精瀑轟溥〕!」
「〔火精熱紅弾〕!」
「私の力も見せてあげるっ!いくわよっ〔風霊烈空破〕っ!」
フラムに掛けられた言葉を合図に、全員で一斉に魔法と矢で攻撃を撃ち出した。
狙いは、今前衛が戦っている場所よりも少し先、そこなら味方を巻き込むこともあらへんからな。
とにかく数を減らすのが目的やから、ウチも含め全員広範囲魔法を使ったみたいや。
魔物達の真っ只中へ様々な属性の魔法が降り注ぎ、巻き起こった…炎に包まれた岩、大量の氷の矢と落雷、津波のように広がった水と燃え盛る火の弾、そして幾筋もの風の柱。
それを受けた魔物達は、着弾により潰されたり、貫かれたり、吹き飛ばされたりと、それなりの数を倒せたように見えた…が、全体を見るとそんなに減ったようには思えず、ウチらは前線の味方が魔物達の勢いに負けないようとにかく削ることに専念した。
そうしとる内に前線の方から集団がこちらに向かって下がってくるのが見えた…動きの鈍さから多分負傷者なんやろう。
それなりの数、百人以上は確実に居そうな感じやった…中にはリーダー格っぽい人も見えよる。
その中にマールが居たから、回復する為に連れて来たんやろな…そういやこの部隊、回復部隊がおらんような…あぁ、この魔導部隊が回復も兼任しとるってとこか、初級の回復魔法くらいは使えるんやろうな、多分。
後は前衛でも個人個人で使えるのかも知れへんな…せやけどこの乱戦の中じゃ使う暇もなさそうやから、こうしてマールが引き連れて来たのかもしれへんな。
「皆さんっ、その場で楽にしていてくださいっ。今から回復します…っ」
そのマールが集団の真ん中まで行って叫んどった…まぁ、怪我人ならマールに任せておけばなんの心配もあらへんな、ほんま救うことに関しては人一倍必死になる娘やからな。
「〔ヒーリング・サンクチュアリ〕……っ」
負傷者集団の中心部に居たマールから、白く光る魔法陣が負傷者全体を包むように足元から展開されて、そのまま負傷者全員をその光で癒していく。
全員がその身体を淡く輝かせているが、怪我をしている部分は更に強い光を発している…軽めの怪我は数十秒、深めの傷でも1分程度で回復させていた。
位階、ナオの言い方やとレベルか、それが上がってマールも相当力を付けたっちゅーこっちゃな。
これだけの人数を一気に回復させるやなんて、マールも相当喜んでるんちゃうかな、内心では。
それだけ多くの人を救うことが出来るってな。
「……コイツは凄ぇな……。おいっ!そこのオマエっ!」
「……なんですかっ?」
「名前はなんてーんだっ?」
「マール…マールオリザロレッタですがっ」
「マールか…よしっ覚えたっ!オレはレディアっ、レディアライズ・セム・ファーブレイジッドっ、赤炎騎士団団長だっ!マジ助かったぜマール!これでまたイケるっ!」
「いえっ、私に出来るのはこれくらいなので…っ。お気を付けてっ!」
「あぁ!任せとけっ!」
「あっ、レディアさんっ!怪我した人が出たらまたここへ来るように言ってくださいっ、お願いしますっ!」
「了解だっ!悪ぃが頼んだぜっマール!」
「はいっ!」
負傷が治った集団は各々雄叫びを上げてまた前線に向かって行ったみたいや。
マールはリーダー格っぽい人と話してたみたいやな…またお願いでもしてたんやろう、負傷者はここに連れてきてくれとかな。
そうして暫くは前衛が抑えてくれている間に可能な限り数を減らす為魔法を撃ちまくり、負傷者はマールが回復を…の繰り返しやった。
が、それでも形勢が逆転する程のことはなく、皆かなりの消耗を強いられていった…。
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───皇都グラウデリア城皇王執務室
「ムっ…」
「どうした?オーガ」
「…どうヤら戦場にナオトかヒロシが着イたらシい」
「…なら、行くのか」
「あァ…行ってくル」
「場所はパレミアナ平原って報告だが…直接行けんのか?」
「問題無イ、我の転移は他の漂流者達のソレとは違うカラな…。魔物が通っタことのアル場所なら大抵ノ所へは行ケる」
「そうか…なら気を付けていけよ」
「フッ…それモ問題無い。コレでも一応魔王ノ一角ナのだからナ」
「そうだったな。んじゃ任せたぜ」
「勿論ダ。フィオを脅カす輩を黙って見過ゴすコトなど出来ヌカらなっ!」
「…その調子なら大丈夫そうだな」
「スまぬがコチラは頼ンだぞ、ゼクト」
「あぁ、心配すんな、こっちはこっちでなんとかするわ」
「…ああ。デはな」
シュンッ!
「…さて、そっちはいいとして……こっちは今もぬけの殻だしな…。何も来ないことを祈るしかねぇな……」
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───パレミアナ平原魔物側後方
「ねぇーちょっとケージぃ、なんか全然進まなくなーいっ?」
「どうやらそれなりの抵抗に遭っている模様ですが…」
「そうだね…どうも僕と同じ転生者か、それか召喚者が混ざってるみたいだ。もしかすると…探す手間が省けたかもしれない」
「探す手間…ですか?」
「うん。ここに来たのは勇者がいるからだし」
「えっ!?勇者がいるのーっ!ソレってマズくなーいっ!?」
「別に平気だよ。まだ魔王で力を奪われた奴がいないってことは、それ程の力を持っていないってことだろうし、既に大陸一つ制圧した僕の力があれば何も問題は無いしね」
「ですが仮にも勇者です、油断は禁物では……」
「……なに?セリカ。僕の力じゃ勇者に敵わないって言いたいの?」
「っ!?いっ、いえっ!決してそのようなことは…っ!申し訳ありませんっケージ様っ!」
「…けっ、ケージぃ……そ、そんな怒らないであげてー……。セリカもぉケージぃのコト心配し「サニもそう思ってるワケ?」っ!おっ、思ってない思ってないぃーっ!けけ、ケージぃが誰かに負けるとか、そんなの考えられないからーっ!」
「……ならいいけど。とりあえず今は……っと、どうやらお客様が到着したみたいだね。どれ、少し挨拶に……っ!?くっ!これはちょっとマズい……っ!?」
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───パレミアナ平原最前線付近
「くっそ!倒しても倒してもキリが無ぇっ!これどっかから湧いてんじゃねーのかっ!?」
「んなこと言ってる暇あったら少しでも削っとけよヒロシっ!」
「分かってるってアーネちゃん!だからちゃんとや「シュンッ!」って、うぉあっ!!」
「…Hum、ヒロシだったカ」
「「「「オーガっ!?」」」」
「ナオトはどウした?」
「ちょっ、こんな戦闘中に何事も無く話進めるんじゃないわよっ!」
「ナオトさんは第二陣を止めに行ったのっ!」
「それよりお前はなんでこんなトコ来てんだよっ!」
「……Hum、そコの二人が勇者カ?」
「無視すんじゃねぇっ!」
「あなたが…オーガっていう人なのっ!?」
「その姿は…魔族じゃ……」
「今代は娘ナノだな…。我はこの大陸の魔王、烈魔王オーガだ。ユー達と同ジ世界から来タ転生者の魔王ダがナ」
「「魔王っ!?」」
「護璃っ攻瑠美っ!今はソイツの話なんざ聞かなくてもいいっ!目の前に集中しとけっ!」
「でも…っ!」
「ったく、お前のせいでややっこしく……っ!?」
『『『っ!?』』』
「来たかっ!」
「うんっ!間違いないよっ!」
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こっからはよく見えへんけど、アーネ達が居るらしい所で何やらあったらしい…少し攻めの勢いが落ちた感じがするし。
と、そう思っとった時、魔物達の集団の後方に大爆発が起こった…あれは多分、ナオかリオがやったんやないかっ!?あっち…第二陣は片付いたってことやなっ!これで何とかなるわっ!
「あれは…ナオトが来たかっ!」
「多分そうやっ!ナオかリオの攻撃やろっ、きっと!」
「でもおかしいわっ!あれだけの攻撃なのに魔物達が減っていない気がするっ!」
「なんかぁー、防がれたみたいよー?障壁みたいのでっ」
いつの間にかこっちに合流してたトモミが、何かを覗き込んで今のを見とったらしい…防がれたって、あれだけの攻撃を防ぐことが出来るヤツがおる、つまりそれが魔王ってことかっ!まさか…ナオより強いとかやあらへんよな…?
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───パレミアナ平原魔物側後方上空
「くっ…今のリオの攻撃を防ぐってことは…間違い無くそいつが魔王だなっ。リオっ、とりあえず最前線の方まで飛んでくれっ!みんなの所へ行きたいっ!」
「……了、解……マスター……っ……………」
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爆炎が晴れた後、上空の方からドラゴンがこちらに向かって飛んできた…あの薄紅色の身体は間違い無くリオやっ。
そのリオが最前線付近上空で竜化を解いて、ゆっくり空から降りてくのが見えた…ナオに抱き付きながら。
何はともあれ二人共無事戻って来たのは嬉しいこっちゃ、それに二人が来たならもう何も怖いものは…っと、そういやさっきの攻撃を防いだ魔王がいるんやった……まだ油断は出来へんっちゅーこっちゃな、気ぃ抜かんと締めていくでっ!




