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#19 初めての食事



「お待ちどうさまですっ、こちらが本日のオススメになりますっ」


「ん、お酒も持ってきた。こっちがエール2つ、こっちが蜂蜜酒2つ」


 アーネの自爆()を鑑賞してたらミルとウォルが声を掛けてきた。

 おぉ…この世界に来て初の食事、美味いと評判のメルさんの料理をミルが、一緒に注文した酒をウォルが持ってきた、うん、出来立ての良い匂いが食欲をそそるなぁ。


「おっ、ありがとな、ウォル」


「ん。おかわりの時はまた呼んで」


「分かった、また呼ぶよ」


 ミルとウォルが食事を乗せたトレーと酒が注がれた木製のコップを置いたら、すぐ戻って行った。

 そういやさっきのチップの話はカタが付いたんだろうか?普通に食事持ってきたってことは大丈夫だったんだろうな。

 さて、と、それじゃ俺達は飯だっ。


「んじゃ、酒も来たし、まずは乾杯だよなっ!」


「そうだねぇ〜、じゃあぁリーダーのぉシーちゃんからぁ〜一言ぉよろしくねぇ〜」


「え、ウチから?」


「そりゃ、リーダーだし当然だろっ?」


「いや、こういうのはアーネやないの?なんや、ほら、いつもの勢いとかで…」


 まぁ、乾杯なんて別に誰でもいいとは思うけど、会社の飲み会とかはリーダーが音頭取るのが多かったな、うん。


「こーゆーのはちゃんとしねーとダメだろ、新メンバーの歓迎なんだぜ?」


「う…せやったな、ウチがやらんとナオトはんに失礼やな…ほな、僭越ながらウチから一言……」


 そう言ってコップを持って席を立つシータ、いや、そんなに形式張らなくてもいいんだけど…それにまだ正式にパーティー組んでないんだからな?


「よっ!リーダー、ビシッと決めてくれよっ!」


「シーちゃん〜しっかりねぇ〜っ」


「ちょっ、あんましプレッシャー掛けんといてや…んっん!あー、まずは…ナオトはん、ウチらの世界、ミクシディアへようこそ。ウチら一同歓迎するで」


「うん、ありがとう」


「それと、来たばっかりやのに、ウチらとパーティー組んでくれるって言うてくれたこと…感謝しとる、ホンマに」


「…うん、やるからには、みんなの期待に応えられるよう、俺も頑張るよ」


「ほな、これからのみんなの冒険者ライフにっ」


「「「「乾杯(ぃ〜)!!」」」」


 みんなで木製のカップを小突かせて、一斉に一口目を…んんっ!?美味いぞっ、しかも冷えてるっ!これもあれか、先に来てた漂流者の仕事かっ、冷蔵庫とかもう普及済みってことだなっ。


「っかぁぁ〜っ!美味ぇ!こんな美味い酒久しぶりだぜっ、ホント!」


「はふぅ〜…本当にぃ〜美味しいねぇ〜っ」


「…ホンマに美味しいわ……ナオトはんのお陰やな、ふふっ」


 みんな美味そうに飲んでる…これだけでも俺がここに居ても良かったんだって思えるくらい、嬉しそうな顔で。

 俺もこんなに美味いと思った酒を飲んだのは何時振りだろうか…会社の飲み会は付き合い色が強過ぎて、美味いと思う程では無かったし…宅飲みはほとんど寂しいの紛らわすだけのようなもんだったしな。

 そう考えると、酒を美味いと思った事はほとんど無かったかも…な。


「…うん、ホント美味いな。こんな美味い酒が飲めるなんて、思ってもみなかったな……」


「これから冒険者やってくんだ、こんな美味い酒なんざいくらでも飲めるぜっ」


「…せやなぁ、そん時はウチらもまたご相伴させてもらうで?」


「これからはぁ〜こういう機会がぁ〜増えるだろうしねぇ〜」


 そっか、これからパーティー組むんだから、またこうして3人と一緒に飲むことが出来るのか…そう考えると、何かスゴい贅沢な気がしてきた。

 転生初日からこれとか、向こうの世界との差が激し過ぎじゃね?いいのか、これ…良すぎて不安になってきたわ。


「そういえば、みんな普通に酒飲んでるけど、年齢制限とかあったりしないの?」


「あ?年齢制限?んなもんねーよ」


「まぁ、明確な決まりはあらへんね。強いて言うなら冒険者になれる15歳くらいから飲み始める人が多いんやないかな」


「ナオちゃんのぉいた世界じゃぁ〜年齢制限とかぁあったのぉ〜?」


「あー、うん、俺の世界っていうか、俺がいた国じゃお酒は20歳からってね」


「へぇー、そうなんや。ほなナオトはんは酒初めてなん?」


 あ、そうか俺今18なんだっけ…この歳のままで向こうから来たって普通は思うよなぁ…。


「いや、まぁ、そこはね、ちょっと隠れてコソッと口にした事はあるというか…」


「なんだよ、ナオトも意外とやんちゃしてんじゃねーか」


「あ、あははは…で、でもまぁこっちで堂々と飲めるようになったから、良かったなぁ!」


「そうだねぇ〜、ナオちゃんもぉ〜もう冒険者なんだしねぇ〜ふふっ」


「ま、そういうこったなっ。ほれ、酒もいいけどよ、飯も食おうぜ!今日のも美味そうだっ」


 そうそう、美味いと評判のメルさんの食事、メニューは…柔らかそうなパンと葉野菜多めのサラダっぽいもの、そして、クリーミーな感じのスープと皿一杯の肉が豪快に1枚……って、これファミレスとかによく有るステーキ定食じゃねえか。


「あー、今日のメニューはフォルさん作だな、こりゃ」


「この豪快さはその通りやな。ナオトはんにはメルはんのじゃなくて残念かもやけど、味はお墨付きやで」


「フォルさんって…メルさんの旦那さん?」


「うん〜そうだよぉ〜。この宿屋のぉ主人でぇ〜フォルドゼムンさんってぇいうのぉ〜」


「この料理みてーに、豪快な人なんだぜ。元冒険者って話も聞いたな」


 元冒険者の料理…何か納得。

 ま、肉は好物だから何も問題無いんだけどな、美味けりゃいいのさっ。


「じゃあ、その元冒険者の料理ってやつ、頂こうかな」


 ナイフを入れて一口サイズに…おぉ、見た目固そうに見えたのに意外と柔らかい、ナイフに力入れなくてもスーッて切れる。

 あれ、そういやこれ、何の肉なんだろうか…。


「これ、何の肉か分かる?」


「ん?あー、ちっと待ってな」


 そう言って肉にナイフも入れずフォークだけブッ刺し、それをそのまま1枚丸ごと口に持っていって食い千切るアーネ…お前も豪快だな、おい。


「もぐもぐもぐ…んぐっ。くぅーっ、美味ぇっ!コイツはあれだな、ブルホーンって魔物の肉だな。それもレッドじゃなくてブラックだっ」


「今日はぁ〜良いお肉にぃしてくれたのかなぁ〜?」


 ブルホーンっていう魔物の肉なのか…名前からして凶暴な牛っぽい感じがするけど、どうなんだろ?しかも黒と赤で違うのか…ま、アーネが美味そうに食ってるんだから俺も食ってみるとするか…一切れサイズにしたやつを口に放り込んで…むぐもぐ……。


「んっ!?これは…美味いな、ホント!」


 ナイフ入れた時に分かってたけど、口の中に入れても凄く柔らかくて、少しだけとろける感じの歯応え…味は牛肉に近いけど、もっと濃厚な感じで味付けはシンプルに塩とペッパー、まさに俺好みの味だった、これはいいっ!


「う〜んっ、美味しいぃ〜っ」


「祝いの席にピッタリの肉やなぁ、ホント美味いわぁ」


 みんな美味い美味いいいながら食ってる、俺も含めて。

 サラダとかスープも、向こうの世界とあんまり遜色ない味ですんなり食べられたし。

 しばらく無言で食うのに集中してたら、ウォルがトレーに何かを乗せてやってきた…何だ?何も注文してないよな?


「にーちゃん、これ、母ちゃんからサービスだって」


 そう言ってトレーから俺達のテーブルに持ってきた品を並べるウォル、サービスってもしかして俺の為の一品ってやつか…?少し大き目の小鉢っぽいのに、見た目は芋と肉、ちょっとした野菜を煮たようなものが入ってた。

 パッと見肉じゃがにしか見えないんだけど…。


「ありがとうウォル。それで、この料理って何か分かる?」


「これ、母さんの得意料理の一つ、ポクポティってやつ」


「へぇ…俺のいた世界にそっくりな料理があるよ。もしかして味も変わらないかもな。あ、メルさんにありがとう、頂きますって伝えといてくれるか?」


「ん、分かった」


 一仕事終えたウォルが戻って行った後、改めてメルさんお手製の一品を見たけど…やっぱり肉じゃがだよな、これ。


「良かったじゃんか、ナオト。これでメルさんの料理も食えるぜ?」


「うん、まさか本当に用意してくれてるとは思わなかったよ…いや、これは嬉しいな」


「メルはん、そういうところ律義やからなぁ。ナオトはんのこと、歓迎してくれてはるんだと思うで」


「ありがたいな…助けてもらっただけでも十分だったのに」


「流石ぁメルさんってぇ〜感じだよぉ〜。ナオちゃん〜良かったねぇ〜」


 感謝しつつ肉じゃがとしか思えないポクポティと言う料理に手を付けたら…まんま肉じゃがだった。

 醤油とかも普通に流通してるんだな…漂流者ってどんだけいるんだ?この世界……。

 でも、肉じゃがもいつから食べて無かったんだろう……少なくとも単身赴任してからは食ってないから10年以上は経ってるはず……懐かし過ぎる味だな、俺にとっては。


「…優しい味がするなぁ……」


「…メルはんの愛情がたっぷり沁み込んでるからなぁ……」


「シーちゃんのぉ言う通りだねぇ〜…本当にぃ美味しいわぁ〜……」


 まさか異世界に来てから肉じゃがなんて食べれるとは思ってなかったから、何か嬉しいな…心までポカポカしてくるわ…。

 メルさん、良い料理をありがとうございました、本当に。



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