#11 回想録⑪ 久しぶりの面々
ファルは開示局の方を辞める手続きがあるから、3日後よりこっちでお世話になることとなった…引き継ぎとかはほぼ必要ないみたいだからその日数で大丈夫らしい。
まぁ、漂流者なんてここにはそう頻繁に来るようなものじゃないんだろうな、と…実際ここより皇都の方に降り立つ人の方が多いみたいだし、烈華絢蘭の4人や魅音、響也、正典…それに今はオーガも居る…内二人はこっちに来ちゃってるんですが。
ともかくファルはそういうことになった、クリスさんの独断で。
リズが居るし、今日からは魅音達も来るようになったらしいし、俺としては一人で居てもらうよりずっと安心出来るから、そういう意味ではこうなって良かったかな、と…勿論一番はファルがしたいようにしてくれることだけど。
リズとクリスさんはまだ勤務中だったから、この話の後受付カウンターへ戻って行ったんだけど、その時一緒に付いていって優里香さんに会ってきた。
受付窓口に居たのはレミと優里香さんだったんだけど…
「はいはーい、2番窓口空いたからこっちどうぞー」
「「「………」」」
「ちょっ、誰も来ないってどういうことっ!?」
「いや、やっぱユリカさんじゃないと、なぁ…」
「あぁ、一日が終わった気しねぇわ」
「うむ、やはり一日の締めはユリカ殿でなくてはな」
「まぁでもアレか、今日はミオンちゃん達いるし、とっとと終わらせるのもアリか」
「しゃーねーなぁ…んじゃ行っとくか」
「うわー…しょーもない感丸出しー……。わたしもうダメかも………」
「みっ、皆さん!あちらの窓口も是非ご利用くださいっ」
…と、レミが優里香さんにフォローされてるっていう場面に出会した。
優里香さんの窓口以外が空いても誰も列から抜け出さないっていう…レミが自信喪失しかけるのも分かるわ…。
ファルが来てその自信に、追い打ちで深手を負わないことを祈る。
今日は魅音達の初ステージってことで、並んでた冒険者達は早く終わらせて酒場に行くらしく、優里香さんが声を掛けたらある程度列がバラけて、割とすぐ優里香さんの手が空いたからその隙に挨拶した。
燈花と氷見華を連れて来たから優里香さんはちょっと驚いてたけど、こうして仕事中にも関わらず二人に会えて喜んでた…燈花と氷見華も働いてるお母さんを見れたことに喜んでたっぽい。
二人の友達であるティシャやひぃ達にも会えて、こんなに沢山の友達が二人に居ることを知れて更に喜んでたよ、優里香さん…燈花と氷見華とこれからも仲良くしてくださいって。
ひぃ達も、もちろんって言ってたから今日家に居た時みたいに仲良くしていくんだろう…あれ見てたら心配とか無縁だろうしな、あんな楽しそうにしてたんだから、皆で。
仕事の邪魔になると悪いから、少しだけにして俺達は受付窓口を離れ酒場でゆっくり飲み物でも、と思ったんだけど、見た感じ今日は無理だなぁ…ってことで、待合所の方へ陣取ることに。
こっちはこの人数でも座れるくらいの空きはあったから、ここで魅音達の音楽をゆっくり聞こうとしてたら、テーブルの上にドンドンッ、って音を立てて飲み物や食べ物が置かれていった…酒場じゃないんだから当然注文なんかしていないのに何故?なんて思ってたら、それを運んで来てくれた二人が理由を話してくれた。
「あいよっ、マスターの奢りだってさっ」
「ミオンちゃん達のお礼だそうですよ?」
「え?お礼って…俺何もしてないけど」
「何言ってんだ、みんなナオトの女なんだろーが」
「あんな怖い顔してますけど、あれで結構喜んでたんですよ?あそこが無駄にならずに済んだって」
そう言って魅音達が演奏してるステージを見る妖精のフェレア、そして俺を見てニヤニヤしてる竜人のルーエラ。
マスターの強面からはほぼ想像がつかないんだけど、長い付き合いの二人が言うならそうなんだろうな…そっか、マスターも喜んでくれてたのか、それなら良かった。
「リー姉は元気かい?」
「ああ、元気だよ。この間初めて背に乗せてもらったんだ」
「そっか、リー姉は竜化できるんだもんな。アタシはまだまだ先…っていうか、なれるかどうかも怪しいけどな」
「…?竜人なら誰でもなれるわけじゃないのか?」
「竜人でも戦いに身を置いたやつらじゃないとなれないんだよ。アタシは早々に身を引いたからね…今のコレが性に合ってるのさ」
「とは言ってもそれなりに強いですけどね、ルーさんは。そこいらの冒険者よりは腕が立ちますよ」
「よせやいフェレ、アタシなんかてんでダメダメだよ。アイツ等に失礼だって」
竜人だしリオの妹なんだからそれなりに強いかと思ってたけど、本人曰くそんなことは無いって…フェレアは見た事があるのかルーエラは強いと思っているらしいけど。
あれか、酒場での荒事とか軽く収めちゃったりするところを見てたとか。
待合所だけど二人が持ってきてくれた食事を皆でありがたくいただく事にした、せっかくのマスターの奢りなんだから遠慮無く。
二人が戻る時に、マスターにお礼を言っておいて、と頼むのも忘れず。
魅音達の演奏をBGMにして食事をするなんて、家でもやったことがない(一緒に食事するんだから当たり前)から、ちょっと不思議な、だけどこういうのもいいな、っていう心地良くも新鮮な気分で楽しんでいると…やはりこの人が俺の肩を叩いてきた。
ええ、そりゃ来ると思ってましたよ、間違い無く。
「なんだ、ちょっと見ない内に相当増え………」
と、何故か途中で台詞を止めて、肩に置いていた手に若干力を込めてきたガズのおっさん。
いつもとなんか様子が違うな…なんだろ?
「………あー、なんだ、個人の趣味に口出す気はなかったんだが…そっちもイケたのか………」
………ハイ?そっちってどっち…だ………ぁぁああっ!?
「今っ!誰を見てそう言ったんですかっ!?ガズさんっ!!」
「いや、そこの坊「俺をっ!何だと思ってるんですかっ!?あるわけないでしょうがっ!!」………そうか、それならまぁ、少し安心した」
なんで!そこで!そう思ったのかっ、このおっさんはぁ!俺は何でもいけるぜっ!へっへっへー、とか、その目は腐ってんのかっ!もう冒険者引退した方がいいぞっ、おっさんっ!!
「ったく、笑えない冗談はやめてくださいよっ!」
「いや、まぁ確かめておかんとな…漂流者の中にはそういう奴もいると聞いてな……」
がぁぁああっ!ホンット何やってんだよ先行漂流者はよぉっ!同性同士はまぁ個人的にはいいんじゃないかとは思ってますけどっ、好きになっちゃったんならもうどうしようもないよねってさぁ…けど!流石に未成年は駄目だと俺は思いますっ!この世界に来てどこぞの戦国大名にでもなるつもりだったのかと!好き放題にしても相手の事をさぁ、ちゃんと考えてやってるんですかねぇ!俺までこんな風に見られるのは心外も心外なんですけどっ!!
…ふぅぅぅ……ま、まぁ、ガズのおっさんに言ったところでどうにもならないんですが…俺だけはそうならないようホント気を付けよう……。
「ハァぁ…もういいです。けど…俺をその辺の漂流者と一緒くたにしてほしくなかったというか……」
「あ、あぁ…悪かった。すまん、忘れてくれ…。まぁ、それはそれとして…順調そうじゃないか、んん?」
「………おかげさまでね………」
「悪かったって、そう不貞腐れるなよ…。そ、そうだほら、いいもん見せてやる。おいっ、マサノリ!」
俺が不貞腐れてるのをフォローするのに、何で正典が呼ばれるんだ…と、更に腐ってたところに来た正典を見て、ちょっと目を剥いてしまった。
「何ですか?ガズ師匠…って、尚斗さんじゃないですかっ。お久しぶりです!」
「久し、ぶり…だな、正典……」
「はいっ!尚斗さんのおかげでこうして冒険者ができてますっ。……って、ああ、そういえば会うのは初めてでしたよね」
「マサ、こちらの殿方は…?」
「あ、うん。僕と同じ漂流者の尚斗さんだよ。僕が冒険者になれたのも彼のおかげなんだ、スキル譲ってもらったりして」
「へぇー、そうなんだぁ。じゃあマーくんのもう一人の師匠みたいな?」
「そこまでじゃなくても〜マーちゃんの恩人ってとこかな〜?」
正典の側にはこれまた見目麗しい女性が三人も付いていた…見た感じ武器や防具を装備してるから、パーティーメンバーってことなんだろうけど、まさか俺と同じに…?
「どうだ?ナオト。少しは驚いただろう」
「そりゃまぁ…。いや、でもまさかこれもガズさんが勧めたんじゃ……」
「そこまで手は焼いてないぞ。これはマサノリ自身がやったことだ」
「そ、そうなんですか…。凄いな正典、本当にハーレム作るなんて……」
「えっ?いやいや違いますよっ!彼女達はパーティーメンバーってだけで…」
「コイツもお前と同じってことだ。中々認めたがらねぇんだよ」
「ナオト殿と言ったか、その、周りにいる方達はもしや……」
「全員じゃないけどそうだよー」
「なのさー!」
「みんなーおよめさんだよねーっ」
俺が言わなくても応えてくれちゃうんですね…まぁ実際本当の事なのでいいんですけど。
嬉しそうに言ってくれちゃってまあ…言わない皆もニコニコしてるし。
「…凄いねぇー。ねねっ、マーくん!マーくんもこうなりたい?なりたい?」
「マーちゃんが〜望むなら〜、わたし達も〜いいよ〜?」
「どうなんだ?マサ」
「えぇ!?ちょっ、僕は、そんな…ただ皆と一緒に冒険者できるだけでも十分……」
「いや、正典…それ、俺や魅音達には効かないからな……」
「え、あ……。あぁぁぁああ……………」
正確にはシータ達もだけど。
僕も女の娘とそういうことしたい、だったよな?魅了使ってでも。
だったら素直に今を受け入れればいいのに、何で今更怖気づいたみたいになってるのかな?
「なんか彼女達も正典の事気に入ってくれてるみたいじゃないか。だったらそれでいいんじゃないのか?」
「そ、それは…その………」
「まぁアレだナオト。マサノリにはもう少し自信が必要だってことだ。」
「というと?」
「つまり、マサノリよりこいつ等の方が強いってことだ、今はまだな」
「そんな事は気にするなと言っているのだがな…マサの事は我が守ってやる、と」
「そうそうっ、マーくんにはわたしが付いてるんだから、何も心配ないんだってばぁ」
「マーちゃんは〜ちゃんと〜お姉ちゃんが〜面倒みてあげるからね〜」
「あぁ……そういう………」
これはあれか、みんなお姉様系なのか…甘やかされるのは勘弁してほしいってところか。
一人ならともかく全員そうだと確かにダメになりそうだよな…そういうことならまぁ、頑張って強くなるしかないよなぁ。
「ま、そういうことだ。ナオトも機会があったら手合わせでもしてやってくれ」
「な、尚斗さんっ!よろしくお願いしますっ!是非っ!」
「あ、ああ…機会があったら、な……」
「約束ですからねっ!!」
切羽詰まってるな、正典…早く強くなって彼女達といい感じになりたいって?可愛がられるのはイヤなのか、男らしく主導権を握りたいと。
けど正典のルックスからだと可愛がられる方が合ってると思ってしまうんだよなぁ…実際あの時囲まれてたのもお姉様方が多かった気がする、今思うと。
まぁでもこうなってるのに今は堪えて、何とか頑張ろうとしてるところは真面目というか、そこいらの先行漂流者よりは全然いいと思う。
それに比べて俺はどうしたいのか明確に出来てないしなぁ…ただただ数が増えていくばかり。
俺の偏った知識として知ってるハーレムはこんなんじゃなくて、そう、弘史が一番近いような気がする…。
けどいいや、俺なりに、俺のペースでやっていくって決めたからな、今はこうやって楽しそうにしてる皆に囲まれてるだけで十分幸せですよ、と。




