#10 回想録⑩ ギルド酒場オンステージ
えー、冒険者ギルドという場所におおよそ似つかわしくないというか、居ちゃダメだろ、という面子を引き連れて向かっているわけですが…俺はまぁ、冒険者だからいいとして、ファル、ウェナ、ジィナ、シャリー、ミルの仕事組、エマ、チェル、キャム、コロネのメイド組、そしてドワーフのメイ(ドワーフも人種よりは長寿種)、ここまでならまぁ何とか許容範囲、この世界での成人年齢である15歳を満たしているので。
見た目でアウトっぽいのが約二名程居るのには目を瞑るとして、ここからがもう完全にアウト、ティシャ、ひぃ、フラウ、ロッサ、ディル、スペの貴族組、カティ、ウォル、燈花、氷見華の庶民組…だけど、燈花と氷見華はお母さんである優里香さんがいるので、会いに来たと言えばまだセーフかも?
というわけで、俺含め総勢21名、内、俺の嫁が12名(サブ除く、さっきこっそり自分の称号見たら、住むことになった三人とメイはnew!でメイン入りしてた…)という謎の集団で冒険者ギルドまでやって来たわけですが…
「ここが…冒険者ギルドか……。すげぇ強そうな人がいっぱいいるぞっ、スペ!」
「だなっ!やべぇよディル、俺興奮してきた…っ!」
「オレっちも!すげーあの装備かっけーっ!」
…まずは初めて来たらしい貴族の坊っちゃん嬢ちゃんが大はしゃぎ…っていうか特に深くも考えず連れてきちゃったけど、良かったんだろうか…親御さんに後でなんか言われそう。
ディルは多分ティシャの兄だから大丈夫だろうけど、今日初めて会ったガイアルドルヴ兄妹は両親と面識無いしな…マズかったかもしれない。
でもティシャとひぃの友達だし大丈夫だろっ多分っ、ダメだったら平謝りでっ!
「へぇ…冒険者ギルドってこんな感じなのか…。トウカとヒミカのかーちゃんはここで働いてるんだよな?」
「うん、そう。いそがしいけど楽しいって言ってた」
「ぉかぁさん、にこにこしてぃってたょ」
「カティはねー、パパと来たことあるよー。あとー、うちにかいたいに来た人とかいるねー。んー、あっ!あの人とかー」
ウォルは物珍しそうにギルド内を見回しながら、燈花と氷見華のお母さん…優里香さんの事を聞いてた。
燈花の言う通りあの人気なら忙しくて当たり前だろうけど、優里香さんはそれでも楽しんで仕事が出来てるらしい…まぁリズもいる?し、職場環境的にはいい感じで仕事が出来ているってことかな。
で、カティは仕事柄冒険者と関わりがあるから用事とかでディモルさんに付いて来たことがあったみたいだ…あと、顔見知りも少なからず居る、と。
解体屋なんだから居ても当然だろう、でもね、見た事ある人を指差すのはやめといた方がいいと思うよ?ちょっと失礼かなーなんて。
「わたしもーっ。入ったことはあるよーっ」
「わたくしたちは中まではないですね…」
「ええ、そうですわね」
ひぃは俺達との待ち合わせで迎えに来た時、一人でギルド内に突っ込んで来たからな…物怖じもせず。
ティシャとフラウは外でおとなしく待ってたんだろうから、中まで入ったのは今日が初めてなのか。
「あの、ナオト様…私達はこのような格好なのですが……入っても良かったのでしょうか……」
「場違い感が半端ないです」
「浮きまくってます」
「はぅぅ…ちょっと怖いのですぅ……」
「大丈夫だって、格好なんか一々気にするような人はここにはいないよ。それにコロネも取って食われるようなことはないからさ、俺もいるんだし」
「あ…はいっ、ナオト兄様…っ」
着替えもさせないでそのまま連れて来たから、エマ達は当然メイド服…確かに場違い感や浮いた感じは当然あるんだけど、ここのギルドの冒険者はそういうのホント気にしてないっぽいから平気だろうな、と。
それにもうここではある程度顔知られちゃってる俺がいるんだから、ちょっかい出してくるようなヤツもいないだろうし…揶揄ってくるヤツはいるだろうけど。
一人は確実にいるんだよなぁ…。
「うちの宿屋に泊まってる方もいますね…」
「ノルチェに食いに来てるヤツもいるな」
「そりゃまーいるでしょー」
「私はほとんどいないでしょうね…たまに花を買いに来る冒険者がいるくらいかしら…」
「メイはこれからお世話になるかもしれないのさーっ。みんな見てるとウズウズしてきたのさぁ…」
「開示局とは違ってやはりこちらは活気がありますね…。リズもいるしこちらの受付嬢に転職するのもありでしょうか……」
「ファルはあれだよな、漂流者担当だから割と暇してるもんな。やりたいんだったらファルの好きにしていいんだぞ?」
「あ、はい…ありがとうございますナオト様。少し考えてみます」
仕事組はギルド自体は初めてでも、冒険者をそこそこ相手にしたことがあるだろうから、特に緊張は無さそうだ…メイは冒険者達の装備を見てウズウズしてるらしい、鍛冶魂が疼くとかそんな感じなのか。
と、こんな謎集団が入って来たんだから、当然注目は浴びるだろうな、と思いきや…意外とそうでもなかった。
何か俺達より気になるものがあるような、そんな風に見える。
よく見ると、酒場の方に人数が集中してるような…時間帯的にはクエスト帰りの奴らが増えてくる時間だからおかしくはないんだけど、それでもこの集中の仕方はなんかこう、俺が知ってる酒場の雰囲気とは違う気がする…この感じ……例えるならそう、ライブハウスと似たような雰囲気が……。
「ふっふっふー、タイミングバッチリっ!」
ウェナがそう言って俺の隣に来て、酒場の一角を見る…それにつられて俺もそっちに顔を向けるのとほぼ同時に──
ジャガジャーン!ズドドンッ!
「やっほーみんなーっ!私たちぃー……」
「「「「「マニオン・ファニオンでーっすっ!!」」」」」
「今日からここで、みんなのこと癒やして応援することになったから、よろしくねーっ!」
『『『『『おおぉぉぉおおっ!!』』』』』
「「うぉぉーいいぞーっ!」「待ってましたぁ!」」
「ミオンちゃぁぁあーんっ!」
「癒やしてくれぇぇえ!」
「酒が…酒が美味ぇっ!」
「くぅぅ……今日も生きて帰ってこれて良かったぜぇぇえっ!」
「それじゃあ早速いくよーっ!みんな聞いてねーっ!」
──と、楽器の音と共に魅音達マニファニの声が……どうやらその一角をステージとして演奏するらしい。
いつの間にそんなことになっているのかと…あ、これのことかっ、ウェナがあんな含み笑いしてたのは…。
いやしかし、それでも何でここまで皆盛り上がってるのかと…魅音達冒険者相手に何かやってたのか??
「ナっ、ナオトぉっ!!」
「うぉっ、っと…リズ!」
魅音達が歌い始めたのをポカン、と見ていたところにリズが俺を見つけたらしく、いつものようにダイブしてきた…俺もボケッとしてたからちょっと焦ったけど、いつものようにそれを受け止めてリズを抱き締める。
「えっなになにっ!?なんでいるのっ!!」
「いや、ひぃに呼ばれたから俺だけ戻ってきたんだよ。それでリズに会いに来たらこんなことになってて……」
「そっか!ヒナリィちゃんナイスだよっ!」
「ふふーん!リズお姉ちゃんもびっくりさせたー!」
「うんうんっびっくりした!」
驚いたリズを見てドヤ顔で満足してるひぃ…まぁ、そのリズはびっくりより嬉しい方が勝ってるっぽいんだけどね。
「リズも元気そうで良かったよ」
「にししっ!元気に決まってるでしょ!ナオトに会えたからもっと元気になれたよーっ!んんーっ」
そう言って目一杯頬ずりしてくるリズ。
めっちゃ嬉しそうだ…って、まぁ俺も当然そうなんですが。
こうやってリズ抱き締めるのも久しぶりで、こう、余計力入っちゃってる…頬ずりだって俺からもめちゃくちゃしちゃってるし。
「リズっちゃんこっちに来たんだねー、てっきりステージ最前列に陣取ってるかと思ったのにぃ」
「ホントはそうしたかったけどねっ、一応まだ仕事中なん「リィィズゥゥゥ……」ウヒィっ!?チッ、チーフっ!?」
「って、あら、ナオトさんじゃない。久しぶり、いつ戻って来たの?」
ウェナの予想は外れでリズはまだ勤務中だったらしく、受付窓口から俺達の誰かを見掛けてやってきたってところだったのか?そしたら俺が居て突っ込んできた、と…それならまぁこうやってクリスさんが来るのは当たり前だよなぁ…。
「お久しぶりです、クリスさん。ちょっと呼ばれて今日戻ってきたんですよ、俺だけですけど」
「そうだったのね。それならまぁ仕方無いわね…。でもいい加減降りなさい、そういうのは勤務中にやらないの」
「はっ、ハイっ!」
素直にクリスさんの言う事を聞いて俺から降りるリズ…こんな場所だしあんまりよろしくないってのは俺も分かってるんだけど、久しぶりだったしもうちょっとこうしてたかったな…なんて。
「ぷふっ、相変わらずクリスさんには弱いねぇ、リズっちゃんはっ、あははっ」
「これは…しょうがないのよ、もう条件反射みたいになっちゃってるし…」
「リズだけよ、それ。ウェナも…というか、みんな来てたのね。ミオン達が演るから見に来たのかしら?」
「それもありましたけど、一応一番の目的はリズっちゃんに会いにですかねー」
「俺が戻って来たから顔出したいって言って。魅音達のことは今知ったばっかりなんですよ…。どうしてこんなことになってるんですか?」
俺はただこっちに戻って来たから、リズや優里香さんに顔出そうか、くらいで来ただけだったのに、ウェナが内緒にするからこうやって驚いてるわけで…ホントなんでこんなことに?
「にひっ、それはねぇ…マスターのおかげかなっ!」
「マスターって、ヴォルドガルドさん?」
「そそっ!ミオンちゃん達がもっと演りたいって言ってたら、マスターが場所提供してくれたんだよーっ」
「へぇ…それは意外というかなんというか…。けど、この盛り上がりは?魅音達って冒険者達と繋がりあったっけ…?」
「ああ、それは多分ギルド前で路上ライブしていたからよ。冒険者達からはかなり好評でね、普通にファンもついているみたいよ」
路上ライブ…そうか、こんな所でやってたのか。
なら冒険者達が知ってるのも納得だけど…でもアレだな、これ多分……。
「…それ、リズが言い出したんじゃないですか?」
「ええ、そうよ。よく分かったわね?」
「そりゃまあ、リズですからね…」
「あははー………」
大方魅音達の歌聴きながら仕事出来たら最高!とか考えてたんだろうけど…そしてこうやって酒場でまで演奏するようになって、もうあれじゃないか?リズ的にはまともに仕事出来る環境じゃなくなってるよな…大丈夫か?これ。
「…クリスさん、なんかすみません……」
「大丈夫よ、意外と効果高いから、これ。この街に来る冒険者も増えて、何よりやる気がね…帰還率もかなり上がってるわ。ミオン達も喜んで演ってるみたいだし、リズの事があっても良い事尽くめなのよ」
「そ、そうなんですか…。それならまぁいいんですけど、なんか世話になる娘達が増えてって、ちょっと申し訳ないというかなんと言うか……」
「そこは気にするとこじゃないでしょー、ワタシなんか元々ここにいるんだしっ。ナオトだって冒険者なんだからさー」
「ここにいる皆もそれは分かっているからね。なんだったらもっと寄越してくれても構わないわよ?」
リズが多少仕事に支障をきたしたとしても、それを上回る効果があるし、魅音達も楽しく演れてWin―Winってことか…まぁ、今ステージで楽しそうに演ってる魅音達と、それを聴きながら酒を楽しんでる奴らを見てたらこれはこれでいいのかもって思えてきた…。
けどやっぱり仕事はちゃんとしようぜ、リズ。
「……あの、クリス様」
「…?確か…ファルシェナさん…だったかしら?開示局受付嬢の。何かしら?」
「はい、そうです。それで、その…私もこちらでお世話になることは可能でしょうか…?」
「へっ?ファル?それってまさか……」
「ええ、リズと一緒に仕事出来たら楽しいかなって……」
さっきちょこっと話してたけど、ファルはやっぱりこっちで、リズと一緒に仕事してみたいらしい。
職場は違えど同じ受付嬢だから、この二人も気が合ってるんだよな…ファルが嫁達の中で唯一呼び捨てにしてるのがリズだしな。
働くなら楽しくやれる方が当然いいと思うし、クリスさんがもっと人寄越してもいいとか言ったから聞くだけ聞いてみようって感じになったのかな?
これでもしいいってことになったらまた世話になる娘が増えるなぁ。
「はい採用。いつから来てくれる?」
「えぇ!?ちょっ、チーフっ!?面接とか試験はっ!?」
「即決?クリスさん、そんな簡単に…せめてフィルさんに話とかは……」
「経験者大歓迎よ、即戦力じゃない。断る理由がないわ。それに受付業務は私が一任されてるからフィルは置いといてもいいのよ。私の判断だけで十分だわ」
「ええと、あの、私サキュバスなんですが、それでも大丈「何も問題無いわね。で?明日からでいいのかしら?」…ええと………」
クリスさん…目が血走ってる……ここの受付事情ってそんなに逼迫してたのか?優里香さん入ったんだし大丈夫…って、もしかしてリズのせい…?ま、まぁ、事情はともかくどうやらファルも冒険者ギルドの受付嬢になりそうです、また世話になる嫁が増える…ということで。




