#08 回想録⑧ 元気っ娘ドワーフ、メイちゃん
(絶・乱瞑舞 裏技乱舞〔斬首〕っ!)
抜刀一閃、移動先の眼前に居た巨大ミミズの魔物へ、絶刹那の抜刀による斬撃を飛ばし横真っ二つに…地面から持ち上がっていた頭部らしき部分が落下し、残った胴体部も倒れ込んでズズンッ!と轟音を立てる。
それだけで魔物は身動きを止めてサラサラと崩れ去っていった…狙ったつもりはなかったんだけど、どうやら魔石も真っ二つにしていたらしい。
ちょっと素材が勿体無かったかな、なんて貧乏性を出してしまったのは置いといて、絶刹那を納刀し俺の後ろに居る女の娘の方へ振り返ると、やっぱりその目を…普段はあまり開かないんだろうか、細目を目一杯開いてその奥にある瞳をキラキラさせて俺を見上げていた…。
「…えーっと……大丈夫…?」
「っ!?だだ、大丈夫なのさーっ!」
俺が声を掛けたら瞬間的に立ち上がって元気に返事をしてくれた女の娘、ここにいるということはまず間違い無くドワーフの娘なんだろうけど…量の多そうな短めの暗い黄髪を両サイドに二つ縛りにした、可愛らしいサイズ──ひぃやティシャと同じ位の背丈だが、ここではあえてリズと同じと言っておこう、何故なら…そう、つまり…そういうことだから──の娘が、立っても変わらず俺を見上げている…瞳のキラキラも全く変わらず。
「あのあのっ!助けてくれてありがとうなのさっ!それでそれでっ、おにーちゃんの名前は……」
「え、あー…ナオト、だけど……」
「ナオト…ナオにーちゃん……へへ、えへへへへへ………」
名前言っただけで頬押さえてくねくねしだすとか…。
もうこれ、こうやって助けたりしたらこうなるって、この称号ほぼ魅了スキルと変わらないんじゃ…何だよそのシチュ限定条件の魅了とか意味が分からない…と、頭を悩ませていたら皆がこっちにやって来た。
「ったく、相っ変わらずデタラメだな、尚斗はよ…一撃とか無ぇわ」
「さ、流石です、ね…な、尚斗さんっ」
「ふ、ふんっ!なによっカッコつけちゃってさっ!」
「あれは実際格好良いだろう。違うか?」
「いや、それよりもよ…」
「「「どうやって追い付いた(んだよ)(のだ)(の)?」」」
「知らにゃいうちに魔物の前にいたにゃぁ…」
「チュチュにも見えなかったっちゅ…」
「いや、ありゃあどう考えてもおかしいだろ…人の動きじゃねぇし。なぁヴォルド」
「……そうだな。精霊の力でも無理だ」
「尚にぃって…こんなにスゴかったの…?」
「凄い、ですね…尚兄さん……」
「んー…まぁあの状況はしゃーないとして……イッちまったなぁ、こりゃあ」
「そうね…でもまぁこれは仕方ないでしょ」
「………マスター……やっぱ、り……いい………」
「そうだぁねぇ〜、やっぱりぃナオちゃんはぁ〜……」
「カッコええなぁ……ウチらの旦那様は………」
「「………」」
「うんうん、さすが主、だねっ」
「……(コクコクっ……。……そうだ、ね…………」
…と、集まって早々あれこれ言い始める皆…そんなことよりまずこの娘の心配とかしないんですかね…?
「うひゃーっ!カワイ娘ちゃん美人さんがいっぱいなのさーっ!」
あ、心配とか全然必要なかったわ…しかしこの娘はあんな目にあったばっかりだってのに元気一杯だなぁ…。
「っと…んん?そこにいるのはシルファ様なのさー?」
「…え?ええ、そうだけど…どこかで会ったかしら?」
「ううん!な、何でもないのさー!」
なんかシルファを知ってるみたいな感じだけど、シルファの方は面識無いって言ってる…なんだろ、なんか気になるな……。
「で、本当に大丈夫なんだよね?」
「うんっ!本当に大丈夫なのさー!えっとー、それでナオにーちゃん達はどうしてこんなところにいるのさー?」
「俺達は…冒険者なんだけど、今はシルファの用事に付き合ってここに来てるんだよ」
「あっ!あー…そういうことなのさぁ……。っ!ならメイが案内するのさー!」
…ん?急に案内するって言い出したぞ?もしかして…シルファの用事を知ってるのか?
「案内って…私達が何処に行くのか分かってるの?」
「うんっ!おと…じゃない、ヴェルガンチュア公爵家当主に会いに行くんじゃないのさー?」
「ええ、その通りよ…。本当に分かってるのね…どうしてかしら?」
「まぁ、行けば分かるんじゃないか?」
「…そうね、それじゃお願いしようかしら。えっと…メイ?でよかったかしら?」
「うんっ!メイはメイガースラックミースって言うのさーっ!よろしくなのさーっ!それじゃあ早速案内するのさー!」
そう言ってメイが先導して歩き出したから、俺達はそれに従って付いて行くことに。
…その歩く後ろ姿だけ見てても、もうルンルン気分なのが分かってしまう…まさかシルファの前にこうなるなんて想定外もいいところだった…これ絶対にリズが「ミニマム組が増えたーっ!」とか言って大喜びするんだろうなぁ…ありありと目に浮かぶわ。
採掘場(メイに聞いたらやっぱりあそこはそうだったみたい)の出口扉を開けた向こう側には、多分さっきの騒ぎで逃げ出したのであろうドワーフの人達がワタワタしているのが見えた。
「なんじゃ急に静かになったが…どうなっとるんじゃ?」
「ところで全員逃げられたんじゃろうな?」
「……はっ!?メイちゃんがおらんぞっ!?」
『『『『なっ、なんじゃとぉぉおおっ!!』』』』
「まさか逃げ遅れてまだ中におるのかっ!?」
「いっ、いかんっ!すぐ助けに行「おーいっ!おっちゃん達ーっ!」っ!?」
『『『『メっ、メイちゃんっ!!』』』』
出口扉を抜けて元気に声を掛けたメイに気付いたドワーフ達が、一斉にこっちへ向かって来た…うん、ギアのおっちゃんみたいな人が集団でドスドス向かってくるのちょっと怖い……。
「無事だったかメイちゃん!」
「ここにおらんから心配したぞいっ!」
「いやぁー、ちょっと転んじゃったのさー。でもでも!ナオにーちゃんが助けてくれたのさーっ!」
「…ナオにーちゃん?そこにいる人達の誰かかの?」
「うん、そうっ!この人なのさーっ!」
「わっ、ちょっ、メイ…っ」
メイが俺の腕を引っ張ってドワーフ達の前に差し出した…おっちゃんと言ってもやっぱりドワーフだから全員身長が低くて俺の腰位までしかない。
そんなずんぐりむっくりの集団から一斉に見上げられる俺…これもちょっと怖いわ。
「そうか…まぁ無事だったのなら一安心じゃわい。岩喰らいはどうなったんじゃ?」
「それもナオにーちゃんがこう、ズバーッとやっつけてくれたのさーっ!!」
「おおっ!あの巨体を…やりおるのぉ、ナオにーちゃんとやら!」
「こりゃ助かったわい。どうしようかと思っとったからのぉ」
「なら作業は続けられそうかの?」
「うんっ!もう大丈夫だよー!あ、メイはこれから皆をお…公爵邸まで送ってくるのさー!」
「そうか、お客人だったのか。分かった、それならギリー様への報告もメイちゃんからしといてもらえるかの?」
「それも大丈夫!ちゃんと言っておくのさー!」
「すまんが頼むの。お客人方、世話になったのぉ。助かったわい、ありがとうのぅ」
「いえ、出会してしまったからには放置出来なかったってだけですので…。あ、その、岩喰らい?でしたっけ、アイツの魔石が多分その辺に転がってると思うので、そちらで処分してもらってもいいですか?」
「…いいのかの?お主が倒したんじゃろう?」
「ええ、構いません。もし被害とかあったのならそれの補填にでもしてください」
「何から何まですまんのぉ…ならありがたく受け取っておくわい。では早速作業に戻るとするかの、皆の衆!少し遅れたからのぅ、取り戻すぞいっ!」
『『『『おおぅっ!』』』』
おっちゃん達がわーわー言いながら作業のため採掘場へ戻って行った…メイは随分おっちゃん達に可愛がられてるみたいだな、皆にこにこして喋ってたから…誰も彼も髭モジャだけど。
魔石は拾うの忘れたから、取りに戻るのも面倒なので押し付けてしまった…けど、あれはあれで何かしら役に立つだろうからいいかな、って。
その後またメイの案内で公爵邸まで連れてってもらった…シルファがいるから無くても行けるんだろうけど、せっかく案内してくれるって言うんだからこのまま付いて行くことに。
ドワーフの領内は…かなり俺的に興奮した。
一言で言えばスチームパンク、建物なんかはまさにあんな感じで、至る所から水蒸気が噴き出してる。
街中を歩く度トンッ、カンッ、って音が聞こえてきて、物作りの活気に溢れているのが分かる…俺好きなんだよなぁ、こういう感じ。
「ナオはこういうの好きなん?」
「なんか嬉しそうですよ?」
「ああ、うん。割と…っていうか、結構好きなんだ、こういう感じ。元の世界でもこういう感じのものがあったんだよ」
「へぇー、そうなんか。ま、アタイも嫌いじゃねーな、こういうのは」
「私はぁ〜ちょっとぉ〜苦手かもぉ…。耳がぁ〜大変ん〜……」
どうもまた顔に出てたらしく、シータとラナが俺に聞いてきた…ホント顔に出やすいのね、俺。
アーネも俺と同じで割と気に入ったみたいだけど、マールはその耳のせいで大変そうだ…騒々しいのが苦手で黒いウサ耳をペタっと倒してる。
でもそれがまた可愛いんだよなぁ…マールには悪いけど。
そんな街中を通って一際大きい建物…それが公爵邸なんだろうけど、どう見ても工場としか見えない外観の建物の中まで案内されて、およそ生活感のまるで無い廊下、と言うより通路を歩く度、カンカンカンっ、と甲高い足音を響かせながらとある一室までメイに連れて来られた。
その部屋の中はというと、これまた壁面に太めのパイプが乱雑に入り組んでいてゴテゴテした感じ。
その割には広めの部屋だから、この人数でも入れた…若干窮屈ではあったけど。
で、部屋の中央にはソファーとテーブルがあるんだけど、当然この人数全員が座れるような大きさの物じゃない。
奥にはゴツい机があり、その机に一人座っていてその隣にはもう一人、立って側に侍っているみたいだった。
「おとーちゃん!お客さんを連れてきたのさー!」
『『『『おとーちゃん??』』』』
ということは…メイは公爵家御令嬢?え?これまたそうは見えない娘が…。
あぁ、だからシルファを知ってたのか…度々来てるからどこかで見かけたとかそういう感じか。
でも御令嬢なら正式に挨拶とかあっても…って、メイはそんな柄じゃないか…採掘場にいるくらいだし、おとなしくしてるタイプじゃないんだろうな。
「ん?なんじゃメイ、儂ゃ忙しいんじゃ、話なら後に……っ!?おぉぉ!シルファじゃないかっ!」
「…お久しぶりです、ギリー様。また何時もの書簡を届けに参りました」
シルファを見つけた途端、机から立ち上がって寄って来た御仁がギリーさん…メイのお父さんということか。
けど…やっぱりドワーフ、さっき採掘場に居たおっちゃん達と殆ど何も変わらない…身長も髭も…あ、髭は何となく手入れされてて立派に見えるかも。
あと上に立つ者の風格があるな、威風堂々とした感じ。
ところで…メイが娘ってことは、奥さん…母親はもしかして居ないのかな…シルファに求婚してるってことは、つまりそういうことなのか?それか第二夫人狙いとか?え、シルファを?それはちょっとどうなの…って、俺が言えるわけないな、うん。
第二夫人どころの話じゃないし、俺……。
「おお、そうかそうか!もうそんな時期じゃったか!さぁさぁ、そんな所に突っ立っとらんで掛けてくれ…と、なんじゃ、随分人がおるのう……」
「ええ、丁度私への来客中でしたので、ギリー様にも面通しをと思いまして。こうして付いて来てもらいました」
何かすっごい違和感が…ファーストインパクトがアレだったから、こういうお嬢様っぽい話し方してるシルファが別人っぽく見える…けど、その容姿でその話し方だと美人度がかなり増しててちょっとドキッとする…。
「そうかそうか。いや、こんな所ですまんのぉ、全員は無理じゃがシルファだけでも掛けてくれ」
「…では、失礼します。みんなゴメンね」
「大丈夫ですよ、元々シルファさんの用事なんですから気になさらないでください」
「ありがと、マモリ。それじゃ…ナオト、私の隣に座ってくれる?」
「え…いや、俺も関「座・っ・て・く・れ・る?」………あ、ハイ…………」
……中央のソファーに、にっこりしてるけど目が笑っていないシルファの隣に問答無用で座らされました……アベルとカインも一緒に座ったけど、二人共そのニヤけ面ヤメてくれませんかね……。
対面のソファーにはギリーさんとメイが座り、その後ろに付き人っぽくギリーさんの側に居た人が立っていたんだけど、そのギリーさんの眼光がまた鋭いのなんのって…そんなに睨まれると穴あいちゃいそうなんですがっ。
…やっぱりこうなっちゃうのね……もう早く用事済ませて帰りたいです、シルファさんや……。




