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#07 回想録⑦ ヴェルドグライア公国へ



 修行を開始して一週間程経ったある日、今日もこれからシルファ宅を出て全員で空崩の森へ魔物討伐に向かおうとしていたところで、シルファが何やら渋い顔をして皆に声を掛けてきた。


「あぁもう、何でこんな時にまた行かなきゃいけないのよっ(ブツブツっ……。あ、みんな、ちょっとゴメンっ!私これから届け物しに行かなきゃいけなくなっちゃって…」


「届け物?それってシルファじゃなきゃ駄目なのか?」


「あー…恒例のお嬢ご指名のヤツかぁ……」


「そういえば、そろそろ時期だったか…」


「……一応公的な書簡をね、宰相のお父様から頼まれてるのよ…。しかも渡す相手の方から私を指名しててね……」


 シルファを指名って…宰相の娘を?それって相手はそれなりの地位にいるってことか…?誰なんだろ?ちょっと気になるな…。


「んで?その相手ってのは何処のどいつなんだよ?」


「…ヴェルドグライア公国の三公が一人、『防鍛公』ギリーマード・フォン・ヴェルガンチュアよ」


「ヴェルドグライアって…ドワーフの国かいな」


「そうなのよ…」


「そのギリーのおっさんってのがなぁ…お嬢にご執心なんだわ」


「ご執心ってぇ〜…もしかしてぇ〜……」


「マール殿のご推察通りだよ…。書簡を届ける度に求婚されているんだ、シルファお嬢様は」


 どうやら弘史も相手が誰だか気になってたらしい。

 それにしても…ドワーフがエルフに求婚?それは珍しいというか何というか…ドワーフとエルフって天敵というか仲が悪いっていう元の世界のイメージがあったから、何とも変な感じがするなぁ…。


「へぇー、そうなんだぁ。それでそれで?相手はイケメンなのっ?」


「ちょっと攻瑠美、そうやってすぐ恋バナになると首突っ込むのやめなさいよ」


「えーっ、ちょっとくらいいいじゃんかーっ。護璃だって興味あるくせにぃー」


「そんなこと…ないわよ。それにシルファさんにだっていろいろあるんだろうし、失礼でしょっ」


「あら、そんなことないから気にしなくてもいいわよマモリ。向こうが言い寄ってきてるだけだし、それに…もう今回で終わりにしようと思ってるから」


「そうなんですか…?」


「ええ、ちょっと考えがあって…ねっ」


 ……えーっと…そこで俺をチラッと見てウィンクするのはなんででしょうかね?シルファさんや。

 これ、先が読めたぞ…やっぱりもうどうやっても吸引回避不能…というかここに入ってくる気満々ですね……。

 それを理由に断るってことでしょうかね?それやると、俺がそのギリーさんとやらに恨まれるんじゃ……そういうのは勘弁してほしいんですがっ。


「んじゃどーするよ。シルファ抜きでやんのか?」


「いや、シルファが行くってことはアベルとカインも行くってことだよな?」


「その通りだ。俺達はお嬢様の付き人だからな」


「お守り役とも言うがなっ」


「誰が誰のお守りですって?え?カインっ!」


「おっと、つい口が滑って事実を言っちまったぜ」


「カァーイィーンンーっ!」


 まぁ、お守りってのは言い過ぎかもだけど、世話役くらいにはなってるよな…シルファって歳の割に抜けてるところがあるような感じするし。

 歳の割っていうのが桁違いなんだけど…リオもね。

 ホント見た目は二人共向こうの世界で言うところの十代とか二十代前半としか見えないんだよなぁ…うーん、流石異世界としか言いようが無い。


「なぁシルファ、それって俺達も付いてったりできる?」


「え?それは…別に構わないけど。というかむしろ私的にはその方が好都合ねっ」


「好都合て……なんかもうイヤな予感しかしない………」


「リオぉ、よかったなぁ。くくっ」


「………?(コテっ…………」


 シルファ達抜きでやれないこともないけど、一応勇者達の監督責任者みたいな感じになってるからな…シルファは。

 シルファの用事とはいえ一緒に行動した方がいいと思う…俺はちょっと、いや、かなり遠慮したいところなんだけど。

 ……ん?あれ?待てよ……よくよく考えたらシルファがこれに入るってことは…俺も勇者付きになるってことか…?あ、これもう最初っから、勇者達と会った時点で詰んでたような気がしなくもない……。

 いや、でもまだシルファ入りが確定してるわけじゃないからギリセーフだよな?アーネなんかもう確定させてるっぽいけどな…でもリオはなんの事だか分かってないみたいだ。

 ただそれももう時間の問題しか残ってないんだろうなぁ…。

 とりあえずそれは置いといて、今はそんな先の事より目先の事優先しとこう、うん。


「なら皆で行こうか。道中でも魔物は討伐できるだろうし、あそこの魔物だけじゃなくてこっちの魔物にも慣れておいた方がいいんじゃないかなって」


「あ、そういうこと…。それじゃ転移も使わないし、リーオルにも乗せてってもらえないわけね」


「…………ぇ………………」


 いや、そこで物凄っい残念そうな雰囲気醸し出さなくても…リオさんや。

 まぁ転移でもそうだし、パッと飛んでいってササッと帰ってこれるならいいけど、そうはいかないような気がするんですよね…今回に限っては。

 それが俺絡みになりそうっていうのが何とも言えないわけで。

 ということで、どうせ行くなら修行も同時にって方が効率的にもいいんじゃないか、と思っての提案。


「あー、リオ、今回はほら、修行の付き合いなんだから楽しちゃ駄目ってことで…な?」


「…………分かっ、た………………」


「また今度ゆっくり乗せてもらうからさ。皆もどう?それでいい?」


「ボクたちのためだって言うなら、何も言うことないよーっ」


「そうですね。ありがとうございます、私達のこと考えてくれて」


「俺達がここにいるのはそれが一番の目的なんだから、別に礼なんかいらねぇっての。んじゃそれで決まりな。すぐ行けんのか?シルファ」


「そうね、行くなら早い方がいいからすぐ出立しましょうか。もう書簡は預かってるし、大丈夫よ」


「それじゃ、ヴェルドグライア公国まで修行の旅ってことで」


 こうして俺の提案通り、全員でヴェルドグライア公国へ向うことになった。





 

―・―・―・―・―・―・―・―






 霊獣樹海を抜けて竜背連峰の麓まで5日かけて、ヴェルドグライア公国の入り口までもう少しというところまで来た。


 ここまでの道中でもそれなりの戦闘はあったけど、空崩の森ほどの遭遇率ではなかった…けど、スカウト寄りのチュチュの索敵能力強化っていう意味では十分修行になったと思う。


 戦闘についてもここらの魔物では空崩の森の魔物に比べると弱いから、複数体でも勇者パーティーだけで対処しながら進んできた…もう殆ど危なげ無く討伐出来ていたから空崩の森での修行の成果は出ている。

 ただ、勇者達のレベルも上がったことには上がったんだけど、当然弘史達や姫達のレベルも上がってるから、レベル差だけはどうにもならなかった…まぁそこは修行やる前からある程度は分かってたんだけど。

 流石は勇者と言うべきか、攻瑠美と護璃はもうレベル20台に突入していて成長が早い。

 ペルやブリッズ達も勇者のパーティーメンバーだからか、普通の冒険者とかより成長率が高いみたいで、こっちももう少しで20台に乗りそうな感じ。

 姫達は…もうすぐ30台に届きそうで、リオはもうすぐ40に、弘史達は揃って20半ばくらいになった。

 だから、今対人訓練しても最初にやった時と結果はそう変わらないだろうな、と。



 ヴェルドグライア公国は竜背連峰の山中を掘り抜いて作られた国だから、入り口は洞窟みたいになっていて、霊獣樹海から一番近い洞窟まで辿り着いた俺達はその洞窟内を進んでいる。

 洞窟の入り口に門番とかは配置されていなくて素通りだった…アベルによると、門番は国に入る直前の所にいるらしく、シルファが居ればそこもほぼ素通り出来るとのこと。


 中は広々とした空間で、洞窟とはいえかなり手が入っていて整備されているらしく、光源となっている魔導具っぽいものも一定間隔で設置されていて、ちゃんと換気されているせいなのか洞窟特有のジメジメした感じも殆どしない…これがドワーフの仕事ということか…単純に凄いな、と思ってしまう。


 そんな洞窟を進んでいる最中に、シルファやカイン、アベルがヴェルドグライア公国についてちょっと話をしてくれた。

 ヴェルドグライア公国は三公と言われている、これから会おうとしているギリーさんの他、『武鍛公』ゲルドランダ・フォン・ドグルボルンと『飾鍛公』アージュクエリィ・フォン・ライアスメネア、その三人の公爵が国を治めているそうで、それぞれの公爵が、武器、防具、装飾品の作成、加工を得意としているとか。

 ギリーさんは防鍛公と言われているから防具の作成、加工が得意な公爵というわけだ。

 それと、割とどうでもいいけどドワーフって名前繋げるのが好きなのか、と思ってしまった…ヴェルガンチュアとドグルボルンとライアスメネアでヴェルドグライア…確かギアンテとドルムガンダのおっちゃん二人の店の名前もギアドルムだったよなぁ…って。


 この洞窟の先は丁度ギリーさんが治めている領地だからもう顔パスだけど、初めて来た時に一目惚れされたのか、いたくギリーさんに気に入られて毎度迫られる結果になっている、と。

 

 そんな話を聞きながら進んでいると、何やら斥候組が振動のようなものを感じたらしく、少し騒ぎになった。


「なんか…揺れてねぇか?あと、あっちの方から妙な気配がすんだけどよ……」


「洞窟のぉ〜中だからぁ〜…音がぁ反射しててぇよくぅ〜分からないぃんだけどぉ〜……ちょっとぉ変なぁ音がするぅようなぁ〜………」


「言われてみれば…ちょっと揺れてる気がするわね……」


「そうっちゅね…なんでちゅかね?」


 モリー、チュチュと、あとアーネは揺れの他、気配も感じるらしく、洞窟左側の方を指差してる。

 マールは斥候ってわけじゃないけど、その黒ウサ耳で違和音を聞き取ったみたいだ。


「シルファ、こういうのってそこそこあるのか?地震みたいな」


「いえ、無いわね…少なくとも私が訪れてからは初めてよ」


「…やっぱヘンな感じすんな……。地中とかよく分かんねーけどよ、もしかしたらコレ、魔物の気配かもしれねぇ」


「…おいおいマジかよ。もし魔物だとして、揺れ起こすようなヤツがこんなトコで暴れたら、俺ら潰されてオシャカじゃん」


「どうする?ナオ。アーネはこう言っとるけど」


「……寄り道になるけど気になるから様子だけでも見に行こうか」


「そうね…ここまで来てるんだからそんなに急がなくても大丈夫でしょうし、寄り道くらいしてもいいわよ」


「洞窟探検ってこと?ちょっと楽しいかもっ」


「攻瑠美、魔物かもしれないんだからね…」


「ま、ここで立ち止まってダベっててもしょうがねぇし、お嬢もいいって言ってんだから行ってみようぜ」


 ということで、ちょっと寄り道になるけど全員で違和感の元へ歩みを進めることにした…。



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



───ヴェルガンチュア領専用採掘場



 ズズズゥゥゥウウンン………



「ぜっ、全員退避じゃぁぁああっ!!」


「おいおいおいぃっ!コイツはシャレになっとらんぞいっ!」


「こっ、こんなデカい岩喰らいロックイーター見た事無いわいっ!」


「いいから逃げるんじゃっ!潰されてしまうぞいっ!」


「わわっ!」



 バタッ!


 ズズズズズ……………



「…痛っ……って、うっひゃーっ!ちょ、ちょっ!メイは岩じゃなくて石っころくらいしかないのさーっ!だから美味しくなんてないのさぁぁーっ!!」



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐



 アーネが示した洞窟の左側へ向かい近付いていくと、斥候組じゃない俺達にもはっきり分かるくらいの揺れを感じた…ただ、何ていうか、地震みたいな感じじゃなくて、何かが動く度に地面が振動してるような、そんな揺れ方だった。


「おい、やっぱこれマジで魔物とかじゃね?アーネちゃんの言った通り」


「そんな気がしてきた…けど、こんな揺れ起こすような魔物って……」


「相当な大きさの身体を持つ魔物…ということだろうな……」


「おいおい、そんな魔物いたかよ?アベル」


「いや、俺には分からんな…」


「この先って何があるにゃ?」


「多分だけど、採掘場か何かじゃないかしら?」


「……ちょっと急いだ方がいいかも。行こうっ」


 俺がそう言って全員で駆け出した先に、一段と拓けた場所が…多分シルファの言った通り採掘場のような所だろう、そこの中心辺りに巨大な長い胴体を地面に這わせているミミズみたいな魔物と…その目の前に小さな女の娘が倒れ込んで何か叫んでいる光景が目に入る。


 あ、これ完全に吸引回避不可能だと頭では分かっていても突っ込まざるを得ず、俺は瞬影動フラッシェーダムーンでその魔物と女の娘の間に割って入っていった…。




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