#18 お誘い(夕食)
───ゴォーン……ゴォーン………
はっ!あれ……?ここ、何処だ………?
えーっと……あー、そっか、そういや俺、転生してきたんだっけか。
横になった途端に眠っちまったらしいな…このふかふかベッド、寝心地良すぎだ。
先に来てた漂流者、いい仕事し過ぎだろう…。
鐘は多分9回鳴ってたと思うから、寝過ごしたわけではないはず…だから、夕食はもういけるかな?とりあえず下の食堂に行ってみるか。
ベッドから降りてアクビをしつつ身体を伸ばした…どこかがバキバキッて鳴ったけど、痛くは無い、うん、大丈夫。
ドアを開けて階段に向かおうとしたら、階下からいろんな声が聞こえてきた…何やら盛況な感じがするぞ。
そのまま階段を降りて食堂に向かうと、既に結構な人数が席を囲んでる…あれ、これ俺座れないんじゃね?とか思って見回してたら、聞き覚えのある声が。
「おう!ナオト、こっちだ、こっち!」
「ナオちゃん〜席ぃ取ってぇおいたよぉ〜」
アーネとマールが俺を呼んでる…デカい声出すから周りの人達が軒並みこっち見てるじゃんか……まぁ、でも今の俺は寝間着じゃないからな、堂々と行くか…。
呼ばれた席に着いたら、マールの隣が空いてたからそこに座ったけど、結構ギチギチだな…席と席の間にあまり余裕がない、ちょっと身体動かしたら接触しちまうぞ、これ。
「なんか、結構人多いんだけど、いつもこんなもんなの?」
「せやな、大体こんなもんやわ。鐘なる前に席取っとかんと中々空かんのや」
「ここのぉ食事はぁ〜美味しいってぇ評判だからぁねぇ〜」
「飯だけ食いに来てるってヤツも多いからなぁ、そんだけ美味いってことよ!」
ほほぅ、それは期待してもいいのかな?昼間の茶店では飲み物だけだったから、この世界での食い物はここが初めてってことになるな。
腹は…うん、程々減ってるっぽいから大丈夫だろ。
「とりあえず、祝杯上げようぜ、祝杯!」
「そうだねぇ〜今日はぁいい事ぉあったからねぇ〜」
「いい事って…そんな祝う程のことじゃないんじゃ?」
「あ、うん、せやな…ウチらにはいい事やけど、ナオトはんにとっては別にいい事でも何でもない、むしろ迷惑やろうし……」
あー、うん、だからさぁ…そのシュンってなる時、ケモミミへにゃってさせるの、ホント勘弁してくんないかな……なんでこんなに可愛いと思っちゃうんですかね…。
「いや、だからそんな迷惑なんて思ってないし、それにほら、俺今日この世界に流れ着いたんだよ?そこは祝ってくれないのかな?」
「え、せやけど、ウチらの世界に来て良かったのかどうか分からへんかったし…」
「あーそっか、それはそうだよね、何も言ってないし…。えっと、俺さ、前いた世界であんまりいい事無かったんだよ。だからさ、この世界に来れて、冒険者になれて良かったって思ってるんだ」
向こうで死んだとか、若返ったとか、細かい所は省くとして、最終的には惨めな人生だったのは事実だからな…今度はこの世界で悔いの無いようにって思ってるし、それに向こうの世界(の創作物の中)で憧れてた冒険者にだってなれたし…まだなったばっかだから冒険者らしいこと何もしてないけど、それでもこれから始まる冒険者ライフが楽しみでしょーがないしなっ。
「そっかぁ〜ナオちゃんもぉいろいろぉあったんだねぇ〜…」
「けどよ、来て良かったって思ってんだろ?だったらそれでいーじゃねーか!一緒に祝おうぜっ!」
「うん、そうしてくれると嬉しいかな」
「…うん、分かった。そういう事なら、ウチらと一緒に祝おか。あ、でも…ホンマにウチらの事、迷惑や思うてない……?」
シータは心配性なのか…?まぁ、自分達の都合で巻き込んだ形だから、そう思うのもしょうがないとは思うけど…そんないつまでもケモミミへにゃっとさせてたら、大丈夫だって頭撫でたくなってくるからいい加減元に戻しなさい、まったく…俺の言う事ってそんなに信じられないのか…って、そりゃそうか、まだ会ったばっかだしな…ここはしつこくてもゆっくり信じてもらえるようにしていかないと、か。
「大丈夫だよ、迷惑だなんてホントにこれっぽっちも思ってないから。逆にこんな若い娘達と一緒に冒険者出来るなんて思ってもみなかったから、嬉しい方が大きいくらいだって」
「若いって…ナオトはんやって、そう変わらへんやろ?」
「あ…いや、うん、そうだね、ははは…」
どうも慣れないな…見た目は今18なんだよな、俺。
こんな若い娘達に囲まれるとか、向こうの世界じゃ経験したことないしな……いや、まぁでもこれはあれだな、やっぱり嬉しいもんだな、こう、華があるっていう感じがいいな。
女っ気無い期間が長かったからかなり戸惑うところも多いけど、慣れてくると楽しいと思うかもしれないし…。
「変なヤツだな、ナオトは。それも漂流者だからか?」
「えーと、いや、どうなんだろ?他の漂流者を知らないからね…そういや、みんなは他の漂流者って会ったことあるの?」
「あー、そうだった、漂流者は変なヤツしかいねーわ、うん」
「…その言い方だと、変な漂流者しか知らないっていう風にしか聞こえないんだけど……」
「つーか、アイツはダメだ、話にならん」
なんだ?エラく嫌われてるな、その漂流者…何があったのか気になるところだが。
「とりあえずぅ〜先にぃご飯食べましょぉ〜?お話はぁ食べながらでもぉ〜出来るしぃねぇ〜」
「うん、そうしよか。おーいミルーっ」
「はーい!」
そういや祝杯上げるとかいってから話し込んじまってたな。
シータが忙しそうに動き回ってるミルに呼び掛けたら、返事しながら急ぎ目にこっちにやって来た…と、思ったらウォルも一緒に付いてきたぞ。
「ご注文ですか?って、何でウォルまで来てるのっ」
「ん、ミル姉手伝おうと思ってたけど、いらないなら戻る」
「えっ、あ、そうなの…ありがとう、ウォル」
ウォルは注文も取れるくらいなのか、中々優秀じゃないか。
「ん。ねーちゃんたち、何にするの?」
「おー、アタイらは晩飯だから今日のオススメでいーぞ。ナオトもそれでいいよな?」
「うん、俺は初めてだから分からないし、お任せするよ」
「んじゃ、それ4つな。あとは酒だな、アタイはエールで」
「私はぁ蜂蜜酒でぇお願いぃ〜」
「あ、ウチも蜂蜜酒な。ナオトはんはどないする?」
「あーっと、うん、俺はエールでいいかな」
「ん、オススメ4つと、エール2つ、蜂蜜酒2つね」
「…ウォル、あなた今日どうしたのよ?なんかおかしいわよ?」
「ん、何が?」
「ちゃんと仕事してる……」
「にーちゃんにいっぱいもらったから、これくらいはする」
あー、チップのことか、やっぱりあれは多かったのか?
「ウォル、偉いな、その調子で頑張れよ」
「ん、じゃあ持ってくるから待ってて」
ミルを残して一人で行っちまったよ…チップ効果スゲェな、これはまた奮発してやらなきゃならんか?
「…あの、ナオトさん、ウォルに何か…?」
「あれ?ウォルに聞いてない?部屋案内してもらった時にチップ上げたんだけど、銀貨1枚」
「えっ!?銀貨1枚ですかっ!」
ミルも驚く位だったのか、やっぱり。
つか、ウォルお前ミルにも分けろって俺言ったよな?なんでまだ言ってないんだよ…。
「うん、ミルと分けろよって渡したはずなんだけど」
「あの子ったらまた独り占めしようとしてたわね……ナオトさん、教えてくれてありがとうごさいますっ」
そう言い残して急に戻って行ったミル…ウォル、お前独り占めとか何やってんだよ…。
「で、話の続きだけど、俺の他に会ったことあるんだよね、漂流者に」
「…アイツの話は止めよーぜ、飯が不味くなる」
「う〜ん…あんまりぃ楽しいぃ話にはぁ〜ならないかなぁ〜……」
「せやなぁ…同じ漂流者でも、ナオトはんとは大違いやしな……」
え、なんだよそれ、気になるんだけど…。
「そんなに俺と違うの?同じ漂流者なのに」
「あぁ…。まずなぁ、ウザい」
「それからぁ〜、鬱陶しいぃ〜」
「最終的には、目障りやな」
酷い言われ様だな…何したんだソイツ。
「滅茶苦茶言ってるけど、その漂流者に何かされたの…?」
「「「ナンパ(ぁ〜)」」」
あー、うん、確かにソイツはダメっぽいなぁ…典型的な俺様系転生者か転移者か?ハーレムでも目指してんだろうか…。
「それは…確かに俺とは大違いだな……」
「だろ?しかもソイツ、既に女連れなんだぜ?」
ハーレム系漂流者確定かよ…やっぱそれなりのチート持ってんだろうな。
それでもこの3人には上手くいってないってことは、大したこと無いチートなのか?
「まぁ、その漂流者は獣人とパーティー組みたいらしいんやけどな。せやからしつこくウチらに寄ってくるってわけや」
…ん?そいつあれか…もしかしてリズ担当の漂流者じゃね?なんかそんな気がしてきた…まぁ、明日ギルドに行けば分かるか。
こんだけフラグ立ってたら会えるだろ、ほぼ間違いなく。
「みんなに寄ってくるってことは、その漂流者も当然冒険者なんだよね?」
「そうだよぉ〜。だからぁギルドでぇ〜私たちぃを見かけたらぁ〜必ずぅ寄ってくるんだぁ〜」
「ホントウザいんだよっ。けど漂流者だからな…簡単に返り討ちになんて出来ねーだろーしよー」
うーん、ソイツがどれ位の強さか分からんから何とも言えんが…確かにチートが分からん内は手出さないのが懸命だろうな。
「アーネにしては懸命な判断したね、ちょっとびっくり」
「アタイだってちゃんと考えてるっつーの」
多分それ、考えてるんじゃなくて、本能的に回避してるだけだと思う…が、まぁ、それは言わないでおいて、と。
「そーゆーのは考えてるのに、シータとマールのことは考えないんだ」
「だからそれはっ…あれだよっ、さっきも言っただろっ、二人とも言わなくても分かってると思ってたんだよ!」
まぁ、さっきも言ってたから分かってたけど、アーネは思い込み激しそうだから気を付けとくか…これからどれ位の付き合いになるかは今時点じゃ予想付かないけど。
「そうだったね、うん、そうだった」
「あー!もういいだろっそれはっ!もうやんねーっつったんだからよ!」
「そうや、ナオトはんで最後やで。やないと…ホンマにパーティーから追い出すから、そのつもりでいてや」
「うんうん〜アーちゃん〜頑張ってねぇ〜」
俺としては多分無理だって思ってるから、これからもまず間違いなくあるだろーなーって想定はしてる。
まぁ、あったとして、事が起きた時の状況にもよるけど、折角俺でもいいってパーティー組んでくれたんだから、そんな簡単に抜けるつもりは無いんだけどさ。
「わ、分かってるよ…このパーティー追い出されたら…アタイだけ確実に国に帰んなきゃなんねぇかんな……」
「そういうこっちゃ。まぁ、頑張ってな、ウチらもう止めへんからなー」
「うん〜止めないよぉ〜ふふっ」
「えっ、ちょっ……ま、マジで?」
「「うん、マジで(ぇ〜)」」
お、これは…二人の援護があるならそれなりに期待出来るか?アーネがある程度落ち着いてくれるなら、パーティーにも居やすくなるだろうしな。
「くっ…あ、あぁ!分かったよっ!アタイがもうやんねーっつったんだからな、やるわけにゃいかねぇっ!」
「おー、いい気合いだな、俺も応援してるぞ、アーネ」
「じ、上等だよっ!見てろよ、ぜってーやんねーかんなっ!!」
絶対ときたか、それは安請け合いし過ぎじゃないか?まぁ、生温かく見守ってやるか。
いやぁ、でも何かいいな、こういうの…意外と俺、普通に話せてるんじゃないか?会ってまだ間も無いけど、こういうやりとりが新鮮で心地良いわ…。
「…何か俺、こっちの世界来てから、運が良いみたいだわ」
「…急にどうしたん?」
「あぁ、いや、ほら、俺こっち来てまだ1日経ってないのに、もういろんな人に親切にしてもらって、それにこうしてみんなに誘ってもらえて、それが嬉しいし楽しいなって…それだけでもう、こっちの世界来れて良かったなぁって思えたんだよ」
どうしてこっちの世界に来られたのかは分からないけど、でも、今日だけで向こうの世界じゃもう二度と出来ないと思ってた交流が、今こうして出来てるってのがまだ夢みたいに思う。
だけど、目の前にこんな若くて可愛いケモミミ娘達がいるんだよなぁ…これを運が良いと言わずして何と言う、ってさ。
「ナオちゃんがぁ〜そう思ってぇくれてるならぁ〜私たちぃがぁ誘ってもぉ〜良かったんだってぇ〜思えるねぇ〜」
「だなっ、アタイが喧嘩売ったのも間違いなかったってことだよなっ!」
「「「それは無い(ぃ〜)」」」
「あ?何でだよっ!アタイが吹っ掛けなきゃこうしてナオトと飯食うことも無かっただろっ!」
いや、だからそこじゃなくてだな…やり方がおかしいってとこだよっ。
「いや、普通に声掛ければいいだけだし」
「せや、それで済む話やん」
「そうだよねぇ〜」
「うっ…ま、まぁ結果的に良かったんだからいいじゃねーか、もう」
まぁ、それを言っちゃお終いなんだけどな…経緯はともかく今実際こうしてる訳だし。
「それもあれや、ナオトはんだったからやないか」
「ナオちゃんがぁ〜話ぃ聞いてくれる人でぇ〜よかったねぇ〜、アーちゃん〜?」
「そっ、それはだな…その、あれだっ!アタイの勘がなっ、コイツを狙えってな……」
そこはシータのあの頼み方で断れなかったってだけでした、はい。
しかし、どんな勘だよそれ…いや、まぁでも野性の勘っていうのか?さっき話に出た漂流者回避してたみたいに、一概に否定は出来ないのかもな…。
「なに、俺とのあの出会い頭でそこまで働いちゃったわけ?その勘が」
「お、おぅよ!一瞬だぜっ、アタイの勘はなっ!」
「へぇ…勘、ねぇ…今まで見てきたけど、見境無しにしか見えへんかったわぁ」
「私もぉ〜そうとしかぁ〜見えなかったよぉ〜?」
「な、何言ってんだよ…さっきも言っただろ、アタイだって考えてるんだってよぉ…」
勘は考えてるって言わんだろ…ホント、アーネは自爆するの好きなのな。
 




