#05 回想録⑤ 修行方針確定
「うぅぅ……ああぁぁぁあああ!!もうヤダぁぁあああ!!」
「あっ!?ちょっ、攻瑠美っ!それはダメぇぇーっ!!」
「…………(……あれ、は………)…………」
ブリッズ達はもう諦めたのかその場で立ち尽くして、ペル達はアーネの近くでヘタり込んでいる中で、リオと対峙していた攻瑠美がいきなり叫び出し身体から何か…よく漫画やアニメとかで見るオーラみたいなものを噴き出した。
あれかな、勇者特有のピンチになった時の切り札とか、そういう類いのスキルだったり?
「がああぁぁぁあああっっ!!!」
そんな攻瑠美が、今の今まで見せたこともなかった速度でリオに向かって突っ込んでいって…そのリオを拳一つで吹っ飛ばした。
『『『『っ!?』』』』
は?マジですか…?ホントにそういうやつ?だってリオ吹っ飛ばすって…ここに居る全員の中でこの世界出身最強のリオをだよっ!?さっきまで子供扱いされてた攻瑠美が…そりゃ皆びっくりするわっ!
「………みん、な…………下がっ、て……………」
吹っ飛ばされたリオが立ち上がって全員に退避しろって言ってきた…大したダメージは受けてないっぽいけど…いや、でもあれは俺が出て行って止めた方がいいだろっ。
「リオっ、俺が「……(フルフルっ…。……わたし…が……やる…か、ら………。……任せ、て…………」………だ、大丈夫なのかっ?」
「……(コクっ………」
「わ、分かった…。なら、リオに任せるよ……。みんなっ、リオの言う通り下がってっ」
全員驚愕しながらも攻瑠美とリオから離れ、二人を遠巻きに見守る形に…。
リオに一撃を入れた攻瑠美は追撃もせずその場で唸りながら立ち竦んでいた…あれももしかしてよくあるやつで、制御出来てないとかそういうのか…?
そしてそこそこ離れた距離で攻瑠美と対峙しているリオが、右腕を身体の前に差し出し一言言い放つ。
「…………〔イグニス……フレア〕……………」
──立ちっぱなしだった攻瑠美の身体の周りに、キラキラとした粒子みたいなものが舞い散り始め…そして、それを見てリオが差し出していた手の方の指をパチンっ、と鳴らした。
チカッ!ドォォォオオンッッ!!
『『『『っ!?!?』』』』
轟音と共に攻瑠美が爆発に巻き込まれ…っておいおいおいぃぃいい!それ火竜魔法じゃねーかっ!禁止って俺言ったよなぁ!!っていうか、そんなの使ったら攻瑠美が……っ!
「いやぁぁぁあああ!!攻瑠美ぃぃいいいっ!!!」
「リオぉっ!!何やってんだよぉっ!!火竜魔法なんて人相手に………え?」
俺がリオに叫んだところで、リオが前に出してた手で攻瑠美の方を指差した…すると、爆発による煙が晴れてきて、そこに───
「……ケホッ、ゴホッ!い、今のなにーっ!?って、ボクなんでこんなに真っ黒なのーっ!?」
───咳込みながらも立っている攻瑠美がいた。
あんなのを喰らって無事とか…あのオーラみたいなやつ、相当強化された力だったってことか…。
流石勇者…とは思うけど、自在に使えないと意味無いよなぁ…いやいやそれよりも!いきなり人相手に火竜魔法とか心臓に悪いって!ったく、無事だったから良かったものの…って、もしかしてリオ、分かっててやったのか…?
「くっ、攻瑠美ぃっ!」
そりゃ心配にもなるだろう、護璃が真っ先に攻瑠美の元へ駆け寄って行った…他の勇者パーティーのメンバーもそれに続いて行く。
「あっ、護璃ぃ…コホッ……。ボクなんでこんな真っ「バカっ!なんで使っちゃうのよっ!あれは今の私達には使えないって言われてたでしょっ!!」……あー、いや、だって……なんかこう、悔しいぃぃっ、って思ったらいつの間にか出ちゃってて………」
「こんなことで出さないでよっ!確かに悔しいのは分かるけどっ、リーオルにあんな事言われて私だってキレそうになったのを我慢したのにっ!」
「あはは……ご、ゴメンねぇ……。でもコレさー、こんな簡単に出るとは思わなくって……」
「出せても思い通りに使えなかったら意味無いでしょっ!」
「ごもっとも……。うん、次からは気を付けるよぉ………」
向こうでは何やら攻瑠美が護璃に怒鳴られてるっぽい声が。
俺達黒惹華はリオの方へ…こっちは心配してってわけじゃないけど、いきなりあんな事した理由を確かめないと、と思って。
弘史達はその場から動かず両方の成り行きを見守ってる感じだった。
「リオっ!いきなり何してるんだよっ!」
「………(コテっ……。……アレ、を……止めた…だけ………だよ……?…………」
「アレって…クルミの身体が光ったヤツかよ?」
「……(コクっ………」
「ってことは…やっぱりリオ、あれが何か知ってたのか…?」
「……(コクっ……。……アレ、は……勇者、だけ…が……使える………覚醒、スキル………。……ケンゴ、達も…使って、た……から………」
あー…やっぱりそんな感じのスキルだったのか…。
それは分かったとして、攻瑠美は何もこんなトコで使わなくても…よっぽど勝ちたかったのか?たかが訓練なのに。
それに訓練なんだから勝敗とか関係無いだろう…負けず嫌いにも程があるんじゃ。
「せやけどなんもあないな止め方せえへんでも…」
「火竜魔法だっけ?あんなのいきなり使ったらみんなびっくりしちゃうってば…」
「……大丈、夫……。……ちゃん、と…加減……した、し………」
「あれでぇ〜加減〜してたぁのぉ〜…?」
「……(コクっ…。……上手、く……調節……できた………」
「アレで調節出来てたのかよ…怖ぇな、オイ」
まぁ確かにあれが何か分かってたとしても、あの止め方は俺もどうかと思う…ホント心臓に悪い。
それに俺との約束を破ったし、これはあれだな。
「まぁ、結果的には上手くいったのかもしれないけど…リオ、後でお仕置きな」
「……っ!?……どう、して……?………」
「どうしてって…俺、言ったよな?火竜魔法は禁止だって」
「……………ぁ………………」
「ま、まぁ、今回ばっかりはウチらも庇えへんなぁ……」
「そうだぁねぇ…。ナオちゃんのぉ〜言うことぉ聞かなかったぁ〜、リーちゃんがぁ悪いぃかなぁ〜……」
「……ご……ごめん、なさい………」
無表情で物凄っいしょぼくれた雰囲気を出してるリオ…けど、ここはしっかり言っておかないと。
約束は守らないとダメでしょ。
「そんな悲観すんなってリオ。ナオトだぜ?んな酷ぇコトするわけねーだろ」
「そうよリオ。ナオトさんだってリオのことちゃんと想っててくれてるんだから、大丈夫っ」
「………(じぃぃぃ…………」
うっ…いやっ!そんなうるうるさせた目で見つめられても今回はダメですっ!約束破るくらいだったら俺に任せればよかっただろうっ。
とは言え、あれが何だか分かっていたリオだからってところもあったのは、まぁ分かるけどさぁ…俺だったら多分気失わせて止めるくらいはやっちゃってたかもしれないし…そう考えるとあんな見た目派手なやり方にはなったけど、これで良かったのかもって思わなくもないんだよなぁ……。
「……あー、まぁ、その、なんだ…。とっ、とりあえずこの件は後でなっ、後で!」
「ほらな、逃げやがった。くはっ」
「別に逃げたわけじゃなくて、今はしないってだけだよっ、ちゃんと後で考えるからっ。マールっ、攻瑠美達回復してあげてっ」
「はぁ〜い、うふふっ」
「……わた、し…も……いく…………」
「あ、うん。じゃあリオも頼むよ…」
「………(コクっ…………」
アーネに図星をつかれて誤魔化す感じでマールに攻瑠美達の回復をお願いしたら、リオも一緒に行ってくれた…これ多分、お仕置きって程の事は出来ないな、俺……。
マールとリオが攻瑠美達の所へ回復に向かったのと入れ違いに、俺と一緒に今の戦闘を見ていたシルファと、俺達の対面側で同じ様に観戦していたカインとアベルがやって来た。
「……クルミのアレもそうだけど、リーオルのアレも久しぶりに見たわ……。昔より威力上がってたんじゃないかしら……」
「勇者もそうだけど、元勇者パーティーのメンバーってのも伊達じゃねぇな…。お嬢見てると全然そんなこと思わねぇんだけどよ」
「ちょっとカインっ、それどういうことよっ!私だってやる時はやるのよっ!」
「うーん…リオはほら、俺のメンバーになってからも強くなってるからな……」
「今のシルファお嬢様には無理ということか」
シルファは前大戦時からどれ位レベルが上がったのか分からないけど、少なくとも俺と出会ってからのリオ程レベルは上ってないと思う、多分。
だからこの場でこの世界出身の最強はリオだと思ってるんだけど…そのリオにシルファが相手になるかと言えば、恐らくアベルの言う通り無理だろうな、と。
「……ナオト?それさぁ…リーオルも入れたんなら私も入れるべきじゃない?」
「………はいっ!?」
「おいおいお嬢…そりゃいい考えかもなっ!」
「これはもしや…やっと我々が御役御免になる時が来たとっ!」
「ちょっと二人ともっ、何その厄介者扱いはっ!」
「ちょっ、何言ってるのかな君達はっ!?そういうものじゃないだろっ!」
「「「いや、そういうもの(だろ)(やろ)(ですよね)?」」」
「いやっ、君らも何でそう軽々と言うのかなっ!?おかしいっ!これは絶対におかしいって!!」
何で元勇者パーティーのメンバーだから入れるべきなんだよっ!そういうものじゃないでしょうがっ!リオはたまたまそうだったってだけだし、全責任持つってことになってるんだからしょうがないとして、シルファは違うだろう!これに入るってどういうことか分かって言ってるのかなっ!?
「リオもいるしシルファ来ると喜ぶんじゃね?」
「そうね、シルファならみんな歓迎してくれると思うよ?」
「エルフのメンバーは初めてやな。ええんちゃうか?」
「だから俺の意思はっ!?」
「……なによナオト、私じゃ不服ってこと?」
「ぐっ……いや、だからそういう問「詰まった時点で言い訳出来ねぇかんな?ナオト」…………………」
………そりゃだって初めて会った時にシルファめっちゃ美人だって思ったからなっ、不服なんてあるわけ無いしっ!けどそれだけで入れるってのは違うでしょ?こういうのはちゃんとお互いを知って気持ちを…気持ち……?今までを振り返ると、姫達の言う通りのような気がしてきた…俺の意思とか気持ちって後から付いてきたよな、皆がハーレムに入ってから…。
え、これやっぱりそういうものなの?この称号、吸い込むのがデフォってことなのか…そこに俺の意思は介在出来ないと。
もしかして皆はそれが分かっててやってるのか…?いやいやっ、でもこれ今話すような事じゃないってことだけは分かるぞっ!
「こ、この話は置いといてっ!今は勇者達の訓練の方が優先事項っ!シルファだってこのままだとマズいって分かっただろっ!」
「あー、うん…そうね……。これはちょっと本腰入れて考えないとねぇ……」
「とりあえず、まずはレベル差をどうにかする方が先じゃねぇか?このままだといくらやっても結果は変わんねぇと思うんだけどよ?なぁ、アベル」
「…そうだな。見ていたところそちらの方を優先した方が良いと俺も思う。方針としては最初は魔物討伐をメインとした方がいいだろうな」
よしっ、ちゃんと話が方向転換出来た…。
レベル差か…まぁ訓練で上がるレベルなんてたかが知れてるだろうから魔物を倒した方が早いってのは分かる……一番手っ取り早い方法はこの際無視して。
それならちょっとスパルタで行こうかな、危険かもしれないけどサポートで俺達や弘史達が居るなら何とかなるだろう。
「じゃあ当面はそれでいこうか。修行場所にちょっとアテがあるから、そこでやろう」
「…何処でやるつもりなん?ナオ」
「それは…行ったら分かるよ」
ではでは、勇者パーティーレベルアップ作戦開始といきますかね。




