#03 回想録③ 対人訓練準備
シルファのおかげで楽に着いた訓練場は、訓練場とは名ばかりの森を切り拓いただけの場所だった…広さ的にはサッカー場よりちょっと小さいくらいか。
でもこれ、シータが魔法使うとすぐボロボロになっちゃうような…あとあれだ、リオに火竜魔法は絶対使わないように言っておかないと、精霊王国が火の海に飲み込まれて大惨事になる。
「そういやナオト、ステータス見た感じどうだったよ?アタイら何も聞いてねぇぞ?」
「あぁ、始める前に伝えるつもりだったよ。と、その前にこれだけ…リオ、火竜魔法は禁止で。あと一応シータも火属性魔法は極力使わない方向で」
「あー、そらまぁそうやなぁ…。分かった、使わんよう気ぃ付けるわ」
「…………(コクっ………」
とりあえずこれで火の海は回避、と。
後は力加減だけど…まぁ、ストレートに言うしかないか、皆の方が強いって。
「で、ステータスの話だけど…まずみんなは全力出さないこと」
「…?それってぇ〜つまりぃ〜?」
「うん、ステータスの能力値上はみんなの方がかなり上だから。全力出すと相手にならないと思う」
「わたしも…ですか?」
「そう、ラナも。なんでか分からないけど、シータ達とほとんど差が無いんだよ」
「後から入ってきたのにかよ…どうなってんだ?」
「………超、濃…厚…………」
「「「あぁ〜」」」
「「それねぇ〜」「それやな」「それだなぁ」」
そこで納得しちゃうんだ…そういやさっきここに来るまでアコ含め皆で話してたんだっけ、俺抜きの念話で。
ラナ見てたら顔赤くしてたりしたからアレのことについて事詳細に聞かれてたってのは想像がつく…だから妙に納得してるんだろうな。
俺はそれじゃないって思いたいのに…。
「えっ!?そうなんですかっ!?ナオトさんっ!」
「いや、だから分かんないって……。俺はそうじゃないってことを祈りたいんだけど。じゃないと……」
「ま、それは後でじっくり確認すりゃいいんじゃね?家ででもよ」
「せやな。今はこうなっとるって分かっただけでええわ」
「いや、確認て…」
「……次は……わたし、が……超、濃厚……で…………」
「そういう〜ことだぁねぇ〜、うふふっ」
確かにまぁ、それが本当かどうか知るって意味ではやってみないことには分からないんだけど、それだけの為にするのはどうかと思います、俺は…皆気軽に言ってるけどさぁ。
それとリオさん、どんだけ気に入ったんですか?超濃厚って……。
「ま、まぁ、それは後で考えるとして…今はとりあえず俺抜きでやってみてもらえる?」
「ま、アタイらの方が上、ってんならそうなるわな」
「それ以前にナオはそもそも頭数に入れてへんて」
「そうですよ、ナオトさんが相手するなら一人で十分でしょうからね」
「ランちゃんとぉイアちゃんはぁ〜どうするのぉ〜?」
どうやら端っから俺を入れてやるつもりはなかったっぽい。
ラナの言う通り俺一人で相手にしても問題なさそうだとは思ってたし…攻瑠美達の対人訓練見た時に。
あれにブリッズとヴォルドが加わったとしても、そう対して変わらないと思う。
まぁこんなこと思うのはチート様様だってのは十分理解してますけど。
闇護膜頼みで攻撃無視しながらか、または瞬影動で瞬間的にか、それで突っ込んだ後乱瞑舞で一掃とか、影操縛で身動き取れなくしてから一掃とかやり方はいくらでもあるけど、それじゃいくら何でも相手の訓練に全くならないから、魔刀剣術…それも迅闘舞抜きの乱瞑舞だけでやるつもりではいる。
攻瑠美と護璃にはこんな俺と渡り合えるようになってもらわないと安心出来ないしな…俺が。
ランとイアもな…姫達と組ませると確実に過剰戦力になるだろうし、やるなら二人だけで相手してもらうのがいいか、やっぱり。
「そうだな…ランとイアも俺と観戦かな、最初は」
「「…………」」
「私達もやってみたいって?んー…ならお前ら二人で相手してみるか?」
「「……(コクコクっ………」」
「まぁ多分修行の間はいくらでも機会あるだろうから、やれると思うぞ」
「ランとイアか…。どんだけやれんのか楽しみだなっ」
「ナオトさんの従者だから強いのは何となく分かるけど…あんまりランちゃんには戦ってほしくないかな……。可愛いままでいてほしいし」
「……イア、は……わたし…と………一緒…に………マスター、を……護る…よ…………」
「……(コクっ…………」
ランとイアは合流してから戦闘なんて経験してないからな…どれだけやれるか俺もよく分かってないけど、二人もそもそも存在自体がチートな気がするから、俺に近い強さなんじゃないかと勝手に思ってるわけで。
ラナの言いたい事は俺もよく分かる…こんな小さくて愛らしい娘を戦わせるのはどうかと。
けどまぁ、この二人は元々獣なんだから戦う時に獣化してもらえばいいだけのことか。
…言うこと聞かない気がしなくもないけど。
「ま、とにかくまずはウチらだけでやるってことで。全力は出さへんでも気ぃ抜くんはナシやで?」
「わーってるってっ」
「アーちゃんはぁ〜ここでぇ〜、手加減ってぇものを〜覚えるとぉいいよぉ〜」
「そうね、アーネには丁度いいかも」
「手加減ねぇ…あんま余計なコト覚えたくねぇんだよなぁー。魔物相手に手加減なんて必要無ぇしよ」
「まぁでもアーネにはあった方が今後役に立つと思うな、俺は」
「そっか?まぁナオトが言うならそうすっかぁー…上手く出来るかわからんけど」
アーネに手加減…元々対人戦なんてあまり考えてなかったし、やるつもりもなかったからこのままでもいいと思ってたけど、今回みたいに訓練とかで今後付き合うこともあるかもって考えたら、丁度いい機会かもしれないな…アーネがやり過ぎないようにするためにも。
まずはこんな感じでやってみるとするか。
「それじゃみんな頼むよ。おーい、シルファー、弘史ー」
少し離れた所にいる勇者パーティーの指導を受け持つシルファ達と、俺達と同じ様に話し合ってる弘史達を呼んだ、そろそろ始めようかってことで。
各パーティー代表三人だけで近くに寄って話し合う。
「…もう準備はいいのかしら?」
「ああ、大丈夫。弘史達は?」
「俺らもいいぜ、いつでも」
「順番はどうする?出来れば弘史達が先にやってほしいんだけど」
「別に構わねぇけど、なんか理由あんのか?」
「あー、いや、特には」
強さ的には弘史達の方がまだ近いからなぁ、くらいの理由なんだけど、別に言う必要も無いかと思って適当に濁した。
人数的には弘史達の方が少ないけど、それでも多分勇者達より上だろうな、と。
ただ弘史達は攻撃型パーティーだから護璃が頑張ってくれれば案外いい勝負になるんじゃないかって期待してるところもちょっとだけあったり。
今日は無理でも修行していけば十分可能性はあるはず、なんたって勇者だし。
「そーかよ。ま、なんでもいいわ。んじゃいっちょやるかぁ」
「それじゃ最初は弘史達が相手ね。よろしく頼むわね」
「オッケ。ま、すぐ泣かさねぇよう気ぃ付けるわ」
「…そっちこそね。こっちはこれでも勇者なんだから」
「攻と堅の妹達になんか間違っても泣かされねぇよ」
というわけで雷銃と勇者パーティーから始めることになった…と、その前にまだ準備があった、そういえば。
「あ、そうだ。武器はどうする?このままでいくか?」
「俺達は別にそれで構わねぇけど…おいっ、攻瑠美と護璃はどっちがいいよっ?」
「えっ?なにー?」
ちょっと離れた所にいた攻瑠美と護璃に弘史がちょっと声を張って聞いてみる。
これは勇者達に合わせた方がいいだろうからな。
弘史に話し掛けられて攻瑠美と護璃がちょこちょこと寄って来た。
「武器だよ武器。このままでいいか?」
「うーん、そだねー…今までペルやチュチュと訓練してた時も真剣だったし、このままでいいよー。多少のケガは覚悟の上だしさっ」
「勇者ですからね、これくらいで怯んでいてはこの先やっていけませんから。それに兄さん達もそうしてたんですよね?リーオルさん」
「……(コクっ…。……ケンゴ、と…コウ、キ…も………そう、だった…よ………」
「なら私達もこのままで大丈夫です」
「おにぃ達がそうだったんなら当然ボク達もそうしないとねーっ」
護璃が、いつの間にか俺の側に来ていたリオに先代の勇者達の訓練はどうしていたのかを聞いてた…リオが言うには攻輝と堅護達も訓練は真剣でやっていたらしい。
訓練だから模造武器創ろうかと思ったけど、どうやら必要ないみたいだ…確かに攻瑠美達が対人訓練してた時も真剣だったしな。
あとやっぱり堅護や攻輝…兄達に対抗してるみたいだ、この二人…負けず嫌いというかなんというか。
まぁ、今はマールやリオがいるからよっぽどのケガでもしない限り大丈夫だろう…アツくなってやり過ぎないようにすれば、ね。
「了解、じゃあこのままで。訓練なんだからお互いアツくならないようにな」
「ま、攻瑠美と護璃相手にそりゃねーから心配すんなよ」
「あーっ、言ったな弘にぃー!ふんっ、ボク達だって勇者なんだから、弘にぃ達になんかアツくならないよーっだっ」
「へいへい、言ってろ。んじゃやるぜっ。知美、フラムはいつも通り後衛、モリーは俺となっ」
「は、はいっ。カノンちゃん…っ」
ポンッ!
「はいニャー!ご主人しゃま〜!」
「了解した」
「分かったわっ」
「こっちも行くよーっ!ブリッズとヴォルドは初めてだけど、二人共ボク達の後ろから援護よろしくっ!」
「おう、了解したぜっ!」
「…了解」
「ペルとチュチュは私と攻瑠美のサポートをよろしくね」
「任せろにゃー!」
「お任せっちゅ!」
「それじゃ両パーティー位置についてね……。ん、よしっ、それじゃ訓練開始っ!」
こうして弘史達と攻瑠美達がある程度離れた位置に移動した後、シルファの合図で最初の対人訓練が始まった。
さてさて、お手並み拝見といきますかね。




