#06 賑やかな休日(SIDE:ファル)
□■□■□
客間のソファーに座りチェル様が入れてくれたお茶をゆっくりと堪能している私、サキュバスのファルシェナでございます。
ミオン様達とカッツ様は既にお出掛けになられまして、いつも通り路上ライブを行った後、そのまま夕方には冒険者ギルドの併設酒場のステージにて初ライブとのことでした。
エマ様とキャム様、チェル様、そしてセヴァル様は、本日来客された方のおもてなしの為に忙しなく動いているようで、少し申し訳なく思ってしまいます…私一人だけこんな優雅にお茶をしているので…。
何かお手伝いでも、と申し出るとエマ様から「休日なのですから存分に寛いでください」と返されまして、お言葉に甘えてしまっています。
客間から見える裏庭では、ティシャ様とヒナリィ様、それとご友人方─隣人のフラウ様、ご学友のロッサ様、トウカ様ヒミカ様姉妹、カティ様、ウォル様、それとティシャ様の兄であるディル様、ロッサ様の兄のスペ様─が元気に走り回っている様が見て取れます。
よく見るとコロネ様も混ざっている模様です。
そして私の向かいのソファーにはウェナ様の姉、ジィナ様とウェナ様の同僚のシャリー様、そして…ウォル様の姉、ミルラテラノ様がウェナ様を囲んで座り、あれこれ質問攻めにしているようです。
思いがけず賑やかな休日となりましたが、いつもと違う雰囲気を楽しみながら過ごすのもまた良いものですね。
「…で?どこまでが兄さんの相手なんだ?」
「こんなにいるとは思わなかったわよ…」
「……可愛くて美人な人がいっぱい………」
「どこまでって…今ここに住んでる全員だけど?」
「……さっき出掛けていった娘達も?」
「うん」
「……メイドさん達もですか?」
「そだよー」
「……あそこにいるチビっ娘達もか?」
「えーっと、あの娘とあの娘…あと、あのメイドの娘はそうだねー」
ウェナ様が裏庭にいるティシャ様、ヒナリィ様、コロネ様を指さしながら、ナオト様のお相手を教えています。
ジィナ様とシャリー様は私達仕事組とシータ様達冒険者組以外は認識していなかったらしく、ウェナ様に確認しているようでした。
ミル様に至ってはシータ様達以外はほぼ面識がなかったためか、驚きも一入のご様子。
「「「………」」」
「どったの?三人とも」
「…いえ、何でもないわよ(…なによこの美女美少女率の高さは…。これじゃ私なんか入り込む隙もないじゃない……)」
「…何でもないな(…こんなに集めてどうしたいんだ?兄さんは……)」
「…あはは……(まさかここまでとは思ってなかった…けど、こうなったのも分かる気がする……)」
「?そう?」
ナオト様のお相手の数に一瞬呆然とした感じの三人…ですが、この方達も少なからず思うところがあるのではないかと私は睨んでおります。
また極上の味わいが増えるのかと思うと、わくわくが止まりません…心の中では次の味はどのような味になるのかとはしたなくも垂涎していますが、表には出さないよう細心の注意が必要ですね、気を付けましょう。
「ファルさーん」
「…はい?」
「ヨダレヨダレー」
「……っ!?」
ウェナ様の指摘で口元を拭うと、確かに涎が…。
気を付けるもなにもあったもんじゃありませんでした、駄々漏れです…お恥ずかしいっ。
「し、失礼しましたっ…お見苦しいところを……」
「なーに考えてたかバレバレだったよー、あははーっ」
「…あぁそうか。ファルはサキュバスだったな」
「あら、そうなの?」
「え?そうなんですか?」
シャリー様はご存知だったようです…ウェナ様に聞いていたのでしょう。
今の姿では見た目でお分かりになることはないでしょうし…お見苦しいところを見せてしまった次いでに本来の姿も晒してしまいますか。
「普段はこの姿ですが、本来は──」
肉体変幻を解除してサキュバスとしての姿を曝け出しました。
腰の辺りからは小さ目な黒翼とマミ様と似たような尻尾を、即頭部からは上向きに角を生やし、皮膚の色は青白く、瞳はマール様のような赤眼…これが私本来の姿となります。
この家に住む方達には既に晒したことがあるのですが、皆様忌避感も持たずすんなりと受け入れてくれました。
特に…ナオト様はお気に召したようで、手放しで大絶賛されてしまいました…嬉しいやら恥ずかしいやら。
「──こちらがサキュバスとしての姿となります」
「「…ズルいわね」「…ズルいですね」「…ないわー」」
「どういう感想なのよー、三人とも……」
「だって、ねぇ」
「そうですよー」
「……何割増した?」
「あー、うん、言いたいことは分かった。わたしも最初そう思ったもん」
「これ、あれだろ。兄さんイチコロだったんじゃないか?」
「シャー、正解」
「やっぱりな……」
「ええと…あの……」
何やら言いたい放題というか、変に納得されているというか…お三方からも特に忌避感は無さそうなのですが、問題無いのでしょうか…?
「ファルさん、今日はもうそのままでいいよー」
「え…よろしいのでしょうか……」
「折角の休日なんだから、楽にしてたらいいんじゃない?」
「その姿の方がファルさん的にはいいんですよね?」
「それはまぁ、そうなんですが……」
「ならいいだろ。今の内に慣らしとけば兄さんも喜ぶんじゃないか?」
「でもこんな大勢いる時ではちょっと気が引けるというか、その、あまりよろしくないかと……」
「ファル様、素の姿になったのですね」
「相変わらず素敵ですね」
いくら見知った仲といっても、こちらの姿…一般的な認識として夢魔族の容姿は魔人種に近いため、出来るだけ表に出さない方がよいかと思っていたのですが、この家ではあまり意味が無さそうな気がしてきました…皆様この容姿を見て引くようなことがなく、寧ろかなり好意的に見てくれているようなので…。
お茶の補充に来たキャム様とチェル様も普段通りで、逆にお褒めの言葉をいただけましたし。
シャリー様の言う通り、家ではこの姿で過ごしてみるのもいいのかも、と思い始めてきました。
と、裏庭で遊んでいたヒナリィ様が窓の外から私の姿を見つけたらしく、その窓から客間へ飛び込んできました、私目掛けて。
「ファルお姉ちゃんっ、元のかっこうだーっ!」
ポフっ、と私の胸に抱き付いてきて、嬉しそうにニコニコしています…そんなに喜ばれるとは思いもしませんでした。
滅多に見せない姿なので珍しかったからでしょうか…。
「ほら、ヒナちゃんだって嬉しそうじゃないー」
「ヒナリィ!いきなり家の中に入っていくなんて……あぁ、ファルお姉さまのせいでしたか」
「はわわ…っ、サキュバス姿のファル姉さまなのですーっ」
「おっ、なんだどうした…って、サキュバスがいるっ?」
「あら、ファルお姉さまのそのおすがた、ひさしぶりですわね」
「…わたし、サキュバス初めて見ました……」
「ぉねぇちゃん、きれぃだねぇ」
「ホントだねー。ファルお姉ちゃん美人ーっ」
「ファル姉ちゃんってサキュバスだったのか…。ディル兄、スペ兄、知ってた?」
「いや、俺は知らなかった」
「ディルが知らねーのに俺が知ってるわけねーだろ」
「ティシャ…教えとけよな」
「あら、すみません、ディル兄さまには関係ないかと思いまして(プイっ」
「ぐっ…まだあの時のこと根に持ってるのか……」
「あー、ナオト兄に突っかかってったやつか」
ヒナリィ様に続きティシャ様、コロネ様とご友人の皆様が傾れ込んで来ました…やはり避けられるようなことはなく、物珍しい感じで見られているようです。
中にはこの姿に対して賛辞を送ってくれる方もいます…慣れていないので嬉しいやら恥ずかしいやらやっぱり複雑です…。
「チビっ子どもに大人気だな」
「そうですね…羨ましいです」
「まぁこれだけの容姿なら当然でしょうね」
お三方もそんな落ち着いて傍観しながら感想を漏らさなくても…。
「あの、皆様…そんなに近寄られるとちょっと……」
「えー…ダメなの?ファルお姉ちゃんー……」
「いえ、駄目というわけでは……」
「じゃあいいよねっ!えへへー」
「ヒナリィ、あまりファルお姉さまを困らせるんじゃありませんよ」
「大丈夫だよティシャちゃん。ファルさんは照れてるだけだからねーっ」
「あぅぅ……///」
この姿では人と触れ合うことはほぼあり得ず、また興味を一心に受けることもなかったので、どうしたらいいのか分からないというのが本心です…。
「おや、これはまた珍しい場面に出くわしましたね。皆様お揃いで丁度良い時間ですし、このまま御昼食にいたしましょうか」
「私達の方で用意しましたので、大したものではありませんが、いかがですか?」
セヴァル様とエマ様から思わぬ助け舟が…いえ、決して嫌だとかいうわけではないのですが、少々困惑気味のため救われた感があるというだけなのです…。
ここはありがたくその提案に賛同させていただくということで。
「ヒナリィ様、皆様と一緒に御昼食だそうですよ…どうでしょうか」
「ファルお姉ちゃんはこのままだよねー?」
「あ、はい…このままで宜しければ」
「うんっ、じゃあみんなでお昼にしよーっ!」
『『はーいっ』『おうっ』』
「チビっ子どもは元気だな…」
「今日は特にだねぇー。主にヒナちゃんがっ」
「楽しそうでいいですねー」
「そうね。昼食も賑やかになりそうね」
「では皆様、こちらへどうぞ」
エマ様の案内で皆様食堂へ移動となりました。
私はヒナリィ様のご希望でこの姿のままです…今日一日このまま過ごすことになりそうな気が。
特に問題は無さそうなので構わないのですが、やはり多少の抵抗というか戸惑いがありますね…。
しかしこれは良い機会かもしれません、この姿でいることに慣らしていきましょう、ナオト様に喜んでいただくために。




