#05 来客の日(SIDE:エマ)
□■□■□
まだ薄暗い自室のベッドで、私は自然と目を覚ました。
サッとベッドから抜け出してすぐ、窓のカーテンを開けると若干明るさを増そうとしている空の色がまず目に入り、次いで窓を開けると、まだ完全に明けきってない朝の少し冷たい新鮮な空気が部屋の中と私の肺に入ってくる。
「すぅ……ふぅぅ………」
軽く深呼吸を一つ、取り込んだ空気から今日も良い天気だろうと予想、何故ならここ数日ほぼ変わらない─薄明かりの空に朧気と見える雲の量、それに窓から入り込み胸に吸い込んだ空気の質が、前日、前々日と同じ─朝だったから。
「……。(さて、今日はいつもより忙しくなるからしっかり頑張らないと)」
早速寝間着からいつもの制服─人生の約3分の2、私の身体を包み込んでいる、私にとって戦闘服と言っても差し支えのないメイド服─に着替えながら、一昨日の会話を思い出す。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──一昨日、ヒナリィ、ティシャ帰宅時
「ただいまーっ」
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、ヒナリィ様、ティシャ様」
「「「おかえりなさい(なのです)」」」
「ねぇねぇエマお姉ちゃんー」
「?なんでしょうか?」
「あのねあのね、あさってわたしの友だちが遊びに来たいって言ってるんだけど、いいー?」
「ヒナリィ様のご友人ですか。私は特に構いませんが…」
「何人くらい来るのです?ヒナリィちゃん」
「えっとねー、フラウも入れて6人かなー」
「あ、もしかしたら少し増えるかもしれません。わたくしの兄とか…」
「ディルフィングス様ですか?」
「はい。ロッサが来るのでスペ兄さまも付いてくるような気がして。そうするとおそらくディル兄さまも来るのではないかと…」
「それはありえそうですね」
「畏まりました。ではリズ様やウェナ様、ファル様がお戻りになって、全員揃いましたら確認してみましょう」
「「はーいっ」「よろしくお願いします」」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──一昨日、ウェナ帰宅時
「たっだいまー」
バタバタバタっ……
「おかえりーっ、ウェナお姉ちゃん!」
「…またヒナリィは……。ウェナお姉さま、おかえりなさいませ」
「うんうん、二人ともお出迎えありがとねー」
「お帰りなさいませ、ウェナ様」
「「おかえりなさいませ」」
「お疲れさまなのです」
「ただいまーだよぉー」
「ねぇ、ウェナお姉ちゃん、あさってってお仕事ー?」
「んー?明後日はお休みなんだけど…家にお客さんが来るんだよねー」
「ウェナお姉さまもですか?」
「?「も」ってことは…ティシャちゃんにもお客さんが?」
「はい、わたくしとヒナリィの友人たちが」
「ほへぇ、そーなんだー。わたしはお姉ちゃんとシャーがねー」
「ジィナ様とシャリー様ですか」
「そそ。大丈夫かな?」
「では夕食時にでも皆様に確認してみましょう」
「なんか被っちゃったみたいでごめんねー、エマさん」
「いえ、私は何も問題ありませんのでお気になさらず。では早速夕食の準備を…ティシャ様、宜しいですか?」
「はいっ。ウェナお姉さまもいいですか?帰ってきて早々申し訳ありませんが…」
「ん!ぜーんぜん大丈夫っ!じゃ、やろっか!」
「ありがとうございますっ」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
──一昨日、夕食時
『『『『『いただきます』』』』』
「「「「いっただっきまーっす」」」」
「んーっ!今日も美味しいねぇーっ!」
「腕上げたなぁ、ティシャ」
「あ、ありがとうございます…ファミお姉さま。でも今日はウェナお姉さまにも手伝ってもらいましたし」
「いやぁーほとんどティシャちゃんがやってたよー?わたしももうすぐ抜かれちゃうかも?」
「そ、そんなことは……///」
「ナオト様もティシャ様の成長を喜ばれることでしょう。頼もしい限りです」
「僕もこんな贅沢させてもらっていいのかな…」
「ふぃみぃふむぅふぉふぉふぁひぃふぉー」
「だから食いながら喋るなっニア!」
「ねぇお姉ちゃんたちー」
「?どしたのー?ヒナちゃん」
「えっとねー、あさってわたしの友だちが遊びに来たいんだって。いいかなー?」
「あ、わたしもねー、お姉ちゃんとシャーが来たいって言ってるんだよぉ」
「ジィナとシャリーちゃんが?珍しいねー」
「お客さんいっぱいだねぇ」
「明後日ですと…私も丁度お休みをいただいてますね」
「ありゃ、ファルも休みなのかー」
「はい。リズは仕事ですか?」
「うーん…多分休み取ろうと思えば取れるんだけど…。その日はミオンちゃん達のステージあるからねぇ」
「あぁ、聞きましたよ。僕の仕事なのに…明日きちんとマスターのところへ伺いますから」
「?ステージって…ギルドで演奏するのっ?」
「そだよーっ。ギルドの酒場でねっ!」
「冒険者相手にだから少し緊張するよ…」
「ふぁいふぉうふふぁっふぇー」
「だぁーっ!だから食うか喋るかどっちかにしろっ!」
「ではリズ様とミオン様達、それとカッツ様以外は在宅ということで宜しいですか?」
「そうなるかなー?エマちゃん達は大丈夫?」
「ええ、大丈夫かと。前もって来客が分かっていますし」
「忙しくなりそう…」
「もう少し人手が欲しいところ」
「わっ、わたしが頑張るのですっ」
「そうだな…近い内に私からナオト様へ進言してみよう、使用人の雇用を」
「すみません、助かります」
「なに、この家をナオト様から任されているのだから、気にすることはない。エマとて今はナオト様のお相手なのだから」
「なんかゴメンねー、エマさん達ばっかりに任せっぱなしみたいで……」
「いえ、元々そういう立場で入ったのですから皆様が気にすることはありません。それに私もこれが性に合っていますので」
「わたし達はもう少し楽したいです、メイド長」
「改善策を要求します」
「…あなた達は……。もう少し真面目に仕事をするなら考えてあげます」
「キャム姉さまとチェル姉さまの分はわたしが頑張るのですっ」
「コロネ…いい娘ね」
「後で可愛がってあげます」
「んんっ!とにかく明後日はしっかりやりますよ。分かりましたか?」
「「「はい(なのですっ)」」」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
会話を反芻しながら着替えが終わり、今日の来客のため普段の仕事を早めに片付けるよう動き出す。
「キャム、チェル、コロネ。起きなさい」
いつもは私から起こすことはせず、もう少し寝かせてあげているのだけれど、流石に今日は来客があって無理だから同室の三人に声を掛けた。
「…うにゃ……」
「「……Zzz………」」
コロネは反応を見せたが双子は無反応…まったく、あれだけ今日来客があるからしっかりやりなさいって言ってあったのに、朝からこれだと先が思いやられるわ。
「……ハッ!お、おはようなのですっ、エマ姉さまっ」
「はい、おはようコロネ。悪いんだけど二人を起こしてくれる?」
「分かりましたのですっ」
キャムとチェルの二人をコロネに任せて、私はいつもの作業に取り掛かる。
この屋敷の清掃が主な仕事なのだけど、実を言うとこの部屋数の割にそれ程の大変さはない。
それは、ナオト様が私達四人を見かねて清掃用の魔導具を作成して各部屋に付けてくれたから。
魔力を注ぐことで部屋内を浄化してくれるというもので、誰にでも行えるようになっている。
魔力量の都合上、私一人で屋敷の全部屋の魔導具は起動出来ないけれども、双子やコロネと分担すれば魔力を使い切る事なく終わらせることが出来る。
普段はこれをゆっくりやるのだけれど、今日は来客のための準備があるから早目に終わらせようというわけで、皆を起こしたのだけれど…まだやって来ない。
「……。(やっぱりコロネには荷が重すぎたかしら…)」
あの娘は根が優しいから強く出ることが出来ないと思う。
双子を起こすのに苦労してるんじゃないだろうか…と、少し心配してたところで三人がやって来た。
「エマ姉さま、お待たせしましたっ」
「「ふぁぁ……」」
「ありがとうコロネ。二人共おはよう。ほら、シャキッとしなさい」
「「…おはよう…ございます……」」
「はい、それじゃ早速部屋の掃除を。終わったら洗濯もすぐに取り掛かるから」
「「「はい(なのですっ)」」」
まだ完全に覚醒してなさそうな双子と、何故か妙に気合が入っているコロネと分担して掃除、洗濯を進める。
丁度作業が終わり掛けた頃に皆様が起床してきて引き続き朝食の準備に取り掛かった。
今日はリズ様以外はお休みのため、いつもより遅めの起床でしたが、リズ様が仕事に行く前には全員起床していたので皆様でお見送りをしました。
「ゴメンだけど今日はみんな家のことよろしくねー」
「お任せください。リズ様もお仕事頑張ってください」
「うん。それじゃ行ってきまーす」
「「いってらっしゃいませ」」
「「「いってらっしゃい(なのです)」」」
「ミオンちゃんたちはまた後でねー」
「うんっ!」
さて後は…お客様がお見えになるのを待つだけ、と。
お茶請け等の準備は昨日のうちに済ませてあるし、ゆっくり寛いてもらえるようしっかり働きましょう。
キャムとチェルが粗相をしないように見張らないといけないし、コロネは…ヒナリィ様やティシャ様達と遊べるよう考慮しましょう、普段の頑張りのご褒美ということで。




