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#02 仕事風景(茶店)(SIDE:ウェナ)



□■□■□






「いらっしゃいませー。あ、こんにちはっ。今日はお二人なんですねー。じゃあお席にご案内しまーっすっ」



 わたしが働いているここ、茶店ノルチェシェピアは、ガルムドゲルンの中央広場から少し西寄りの路地に入った所に居を構えている。

 西側外壁門通りからちょっと外れた位置にあるからお世辞にも盛況とまでは言えないけど、知る人ぞ知るって感じの雰囲気を醸し出しててわたしは好きなんだー。

 だから一見さんより常連さんの方が多かったりするの。



「こちらの席へどうぞっ。ご注文は?」


「えっと…僕はこの、ケーキセットで。飲み物はリムスールのアエットにします」


「はーい」


「俺はいつものでいいや。あと…ウェナちゃん、余裕ある?」


「えーっとぉ…はいっ、大丈夫ですよー」


「んじゃ、アレも頼めるかな?」


「はいっ、かしこまりましたーっ」



 今来たお客様も割と頻繁に来てくれる常連さんの一人なんだけど、今日はいつもと違って連れの人がいた。

 わたしの様子を伺いつつ注文してくれたのは、お店のメニューには無い、所謂知ってる人しか知らない裏メニューのこと。

 って言ってもそんな大層なものじゃなくて、わたしが作る料理ってだけなんだけどねー。

 だから決まったメニューなんか無くて、その日の食材やわたしの気分で作ってるの。

 そんなんでもこうして頼んでくれるお客様がいてくれて、結構嬉しかったり。

 まぁ本業はウェイトレスなわけだから、忙しい時間帯には提供出来ないんだけれども。


 

「注文入りましたー。シャー、厨房入るからちょっとよろしくねー」


「んー」



 無愛想で無気力な返事を寄こしたのは、仕事仲間のシャー…シャリータフォーレリカっていうハーフエルフの娘。

 顔見知りというか、親しい仲の人達には大体こんな態度で接してる。

 接客の時は普通に可愛らしい応対をするから落差が激しい…猫っ被りというか、仕事は仕事として割り切って切り替えてるとか、そんな感じかな。

 シャーはハーフエルフだから年齢的にはわたしより相当歳上なんだけど、ノルチェで働くようになったのはほぼ同時期だったから、先輩後輩っていう上下もなく対等な付き合い方をしてるんだー。

 初めの頃はお互い緊張してて、シャーも猫被りしてたんだけど…慣れるとあっという間に素を出してきたから、それならこっちもってことで今みたいな関係になった。

 おかげで同僚として気を遣わなくて済むようになったから仕事は楽になったんだけど…シャーってば仕事中でもお構いなしで遠慮なく絡んでくるんだよねー。

 結構騒がしくしちゃう時もあるんだけど、何故か他の仕事仲間誰も止めてくれなくて…お客様も含めて皆生暖かい目で見てくるし。

 気になって店長に聞いてみたら、名物みたいになってるからそのままでいいぞ、って言われたよ…。


 とまぁ、こんな感じの職場で働いてるわけでして。



「お待たせしましたー。えっと、こっちがケーキセットで…こちらがいつものやつと本日のアレでーす。パスタにしてみましたっ」


「ありがとう」


「おっ、パスタか、いいねぇ。ありがと、ウェナちゃん」


「いえいえー。どうぞごゆっくりーっ」



 今日はパンを使った料理の出が良くて何となく心許なかったので、さっと作れるパスタを出してみた。

 意外と喜んでくれたみたいでよかったよかったっ。


 料理を運び終わってカウンター内に戻ると、さっきと変わらずダレてるシャーがまた絡んできた。



「相変わらず謎だな」


「?なにが?」


「ウェナなんかの料理頼むヤツの気が知れん」


「ちょっとそれどういう意味よっ、シャー!」


「そのまんまだが」


「わたしの料理を気に入ってくれてるからでしょっ。料理下手のシャーなんかに言われたくないですぅー!」


「……チッ」


 こうやってすぐわたしにちょっかいかけてくるんだよね…遠慮とかあったもんじゃない。

 それと分が悪くなったら舌打ちするのがクセなの。

 わたしはもう慣れちゃったからまぁいいんだけど、感じ悪いからやめときなさいって言ってるのにまるで治す気ないんだよねー。


「シャーも少しは覚えたら?とりあえずここで練習すると食材無駄になるからちゃんと家でねー」


「金の無駄だしやらん」


「だったらわたしに文句言わないでよ…まったくもうっ」


「いや、思ったことは言っておかないとな」


 これだもんなぁ…思うのは勝手だけど、口に出すものくらいちゃんと選択しようよっ。


「わたしだからいいけどさぁ、他の人だったらヒドい目みるよっ?」


「心配無用、ウェナにしか言わん」


「どうだか…。アーちゃんとかお兄さんになら平気で言いそうなんだけど?」


「言うな、間違いなく」


「わたしだけじゃないじゃん…どこが心配無用なのよっ」


「ウェナが心配する必要はないってことだ」


「あっそーですかー。マーちゃんにしぼられても助けてあげないんだからねーだっ」


「……その時は多分二人一緒だぞ」


「そんなことないですぅ。マーちゃんとはもう立場同じですからねーっ」


「……フッ、今の内に言ってろ(ボソっ」


「ん?なんか言った?」


「なんでもない。っと、いらっしゃいませ、ノルチェシェピアへようこそー…って、なんだジィナか……」


「あれっ?お姉ちゃんどうしたのー?」


 二人であーだこーだ言い合ってたらお客様が来て、シャーがまた猫被りで応対しようとしたら…わたしのお姉ちゃん、ジィナシィナリーティだった。

 こんな時間…お昼にはまだ早いし、これくらいの時間だといつも実家の花屋にいるはずなのに、どうしたんだろ?


「シャリー、久しぶりね」


「ああ、珍しいなジィナが来るなんて。なんかあったのか」


「ええ、ちょっとウェナに用事があってね。ウェナ、あなた次のお休みはいつ?」


 用事って休みの予定を聞きに来たのかな?わざわざお店にまで来ることないような…。

 確か家にも通信用の固定魔導具あったはず。

 

「お休み?えっとぉ確か…明後日だったかな?」


「そう。それじゃその日は空けといてくれる?」


「うん?それはいいけど…なにかあるのー?」


「まぁ、ね。それじゃその日、朝からお邪魔するわね」


 どうやらわたしのお休みをお姉ちゃんの用事で空けておいてほしいみたいなんだけど……ん?


「え?うちに来るの…?」


「そうよ。何か問題ある?」


「え、いや、特には…。けど、突然なんで?」


「ただの様子見よ。ウェナがちゃんとやってるのか」


 って、家に来るのかぁ…確かに引っ越してからはお姉ちゃん一度も来たことないけど、わざわざ様子見って。

 心配しなくてもみんなと仲良くやってるんだけどなぁ…。


「そんなことしなくても、ちゃんとやってるってばー」


「どうだかな。よし、それアタシも行くわ。丁度休み被ってるしな」


「えぇ…シャーも来るの……?」


 とか言ってたらシャーも来るとか言い出したし…。

 どうだかなって、全然信用してないその言い方…いつものここでのわたし見てたら大体分かるでしょっ。

 いたって普段通り、むしろお兄さんやみんなと一緒に住むようになってからの方がいい調子なんだからさー。


「ああ、行くぞ。いいよな?ジィナ」


「そうね、別に構わないわよ」


「一応家のみんなにも聞いてみるけど…あ、お兄さんはいないからね?」


「そうなのね…。でもまぁいいわ」


「兄さんたちはまだ戻って来てないのか」


「うん、今は精霊王国にいるんだよー。なんでも勇者の修行相手になってるんだって」


「そんなことしてるのか…相変わらずお人好しだな」


 エマさんにお兄さんのこれからの事は聞いてたんだけど、細かくは聞いてない。

 だからどうしてその修行に付き合ってるのかっていう具体的な理由までは分からないんだけど…シャーの言ったことだけじゃないかなぁーって……お兄さんだし。


「お人好しっていうか…多分その勇者って女の娘なんだと思うー」



「「あー…」」



「また増えるわけね……」


「まぁ、今更か……」 


 二人とも納得してるし。

 まぁこればっかりはねー、お兄さんだからもうどうしようもないというか。

 わたしは全然構わないんだけど、さ。

 多分家のみんなも同じだと思うし。

 だってねぇ…お兄さんに付いてくる娘、みんな可愛くていい娘ばっかりでさー、お兄さんと同じ漂流者のミオンちゃんなんかもう、わたしとマブダチみたいに気が合っちゃって。

 シーちゃんたちは言うまでもないし。

 


「で、ホントに家来るつもりなの?二人とも」



「「ええ、行くわ」「ん、行くぞ」」



「りょーかい。じゃあ家のみんなにも伝えておくよー」



 というわけで、お姉ちゃんとシャーが家へ来ることになった。

 来るのはいいけどシャーなんか余計なことしそうでちょっと怖い…マーちゃんいないしなぁ。

 今いる人達でストッパーになりそうな人がいないから、わたしが気を付けなきゃいけないのか…どうやらゆっくりお休みってわけにはいかなさそうだなぁ…。




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