#25 全員揃ったところで
家に戻ると全員リビングに揃って待っててくれていた、何となくそわそわした感じで。
やっぱり皆楽しみにしてたってことなんだろう。
まぁ、ニナだけは姫達と同じで郷帰りになるよな。
「お待たせー。みんなもう準備出来てるー?」
「ナーくんおかえりーっ!」
「ただいま、ひぃ。ごめんみんな、ただいまも言わずリズ達迎えに行っちゃって」
「別に構わねぇって。すぐ戻って来るって分かってたし」
「今から連れてってくれるんでしょっ?尚斗君っ」
「ああ、みんな連れてくよ。ちゃんと許可も貰ってきたし」
「やったー、楽しみー」
皆旅に出る前と変わらず元気そうだ、半月くらい空けちゃったから少し心配だったけど、この様子なら何事も無く過ごせてたんだろうな。
「わたくし、早くシータお姉さまにお会いしたいです。お話したいことがたくさんあるので…」
「シータにってことは、料理についてだな?ティシャ」
「はいっ」
「よし、じゃあ早速行こうか。向こうでもみんな待ってるだろうし」
「いってらっしゃいませ。留守の間はお任せを」
「「「「「いってらっしゃいませ」」」」なのです」
セヴァルとエマ達が留守番する気満々で挨拶してきた。
「…え、なんで?」
「いえ、私共は留守を…」
「いや、みんな連れていくけど。残してく意味が分からない」
「…わたしたちも連れてってもらえるのです…?」
「うん、そのつもりだったけど…あれ?そっか、俺全員連れてくって言わなかったっけ?」
「私達は連れてってくれるって言ってたけど、はっきり全員とは言ってなかったかもー?」
「そういえばそうかな…。ミオンが行ってみたいって言って、ナオトさんが連れてくつもりだよ、って。確かそんな風に言ってたと思う」
「うん、そんな感じだったねぇ」
あー、その時俺の中ではもう全員連れてくつもりで言ってたんだけど、伝わってなかったか。
セヴァル達だってもうこの家の一員なんだし、全員って言ったら当然含むってことだったんだけど。
「ごめん、ちゃんと言わなかった俺が悪いな。セヴァル達も一緒に行かないか?」
「…よろしいので?」
「もちろん」
セヴァルがチラッとエマ達を見る。
皆無言でセヴァルを見つめ返してるけど、是非行きましょうと眼光だけで物を言ってるみたいだった。
これ見たら誰も断れないだろうな…。
「…ありがとうごさいます。ではお言葉に甘えて私共もご一緒させていただきたく」
「えっと、それは僕もってことなのかな?」
「当然そうだけど、ダメか?」
「いや、そういうわけじゃないよ。みんなと一緒にって考えてもらえて嬉しかっただけで…」
「あーこの際だから言っておくけど、俺が全員って言ったらこの家にいるみんなってことだから、そう思ってて」
雇われてるからとか居候だからとかそんなの全く関係無いし。
一緒の家に住んでるんだから全員って言ったら全員ってことで。
「それじゃあみんなでってことでっ。エマちゃん達は準備とかいいー?」
「はい、このままで問題ありません。ナオト様、よろしくお願いいたします」
「了解。じゃあみんなで…」
手を繋いでって言わせまいとしてかどうかは知らないけど、リズ、ウェナ、ファル、魅音、そしてニアが、事前に打ち合わせでもしてたかのように俺の身体にくっついてきた。
「待て待てっ、この人数は流石に無理だから普通に手繋いでくれっ」
「わたし達と繋げばいいですよねっ?あっ、右腕あいてるよーっ、早いもの勝ちだねっ!」
ファルは背中から、ウェナは左腕、リズと魅音は正面から、そしてニアはまた魅音を押し潰す感じになってるから、右腕は確かに空いてる。
だからって呼ぶんじゃないウェナっ。
「ったくお前らは…。ティシャ、ヒナリィ、ほら、二人でナオトの手一緒に握っときな」
「うんっ、わかったーっ」
「はい、では失礼します」
ファミがそれに乗っかってひぃとティシャを俺の右腕に誘導する。
いつもより団子状態になってる気がする…いや、ホント今日は無理あるからやめようってっ。
「ほら、みんな早くおいでーっ。誰かに掴まってればいいし、何だったら無理矢理ナオトに引っ付いてもいいよー、にひっ」
「おいリズ!無茶苦茶言うなよっ!」
「それじゃ、私と一緒に背中側回ろうか、ニナ」
「うんっ」
「お二人ともどうぞこちらへ、ふふっ」
「んじゃ私は…ウェナと繋ぐか」
「はいはーい、ファミちゃんどうぞっ」
「コロネちゃんはこっちーっ」
「わたくしたちといっしょにナオトお兄さまとつなぎましょう」
「は、はいなのですっ」
「では私達はコロネと繋ぎましょうか」
「「はい」」
「エマ、私もいいか?」
「はい、どうぞ」
「じゃあ僕は…ニア、また繋いでくれる?」
「いいよー、はい」
「あっ、ニア…また動かな……ううん、やっぱりいい………うきゅっ」
やっぱりこうなるのか…何でだ。
これも称号の吸引力とか言わないよな…。
もうごちゃっとしてて何が何だか分からない集団になってる。
相変わらず気持ちいいのは変わりませんけど。
「全員繋いだよな?じゃあ行くぞっ、転移っ」
シュンっ!
──塊が現れたのはラナの家の入り口扉前、シータとマールの両親が出迎えてくれた場所なんだけど…
キィンッ!ガキィィン!
…入り口横の庭っぽい所で弘史とダイさんが何故か一騎討ちしてる。
それを側で眺めてるイーナさんと雷銃のメンバー。
「にゃろっ…これならどうよっ!〔雷閃斬〕!」
「フンッ!〔虎爪覇〕っ!」
弘史が雷を纏った斬撃を飛ばし、ダイさんが3本の鉤爪から同じように斬撃を飛ばす。
ズパァァァンッ!!
お互いの斬撃がぶつかった衝撃音が辺り一面に響き渡る。
「おー、ヒロシもやるじゃねぇか。さすが漂流者ってか?」
「アタシの旦那なんだからこれくらいは当然よっ」
「しかしダイガルドさんも漂流者相手にここまでやれるとは…」
「ひひ、弘史さんっが、頑張ってーっ」
…いや、あなた方何してやがるんですか。
弘史も何で人の嫁さんの両親とやり合ってるんだよっ、お前関係無いだろっ!
「…ん?おー、来たかっ。これまた随分大量だなぁ。ダイっ、ナオト達来たから終わりだーっ」
「…ふむ、そうか。もう少しやりたかったがな。ヒロシ、中々やるではないか」
「ダイのダンナだって十分強ぇっての」
「剣は我流のようだが…師を付ければ更に強くなるぞ」
「そーゆーチマチマしたのは性に合わねーかんな。場数で何とかするって」
「確かに実戦を熟せばそれでも十分強くなれるか…。だが対人には対人のやり方がある」
「対人なんてそうそうする予定も無ぇけどな…。ま、もし必要になったらまたダンナに相手してもらうわ」
「うむ、それも良し。ヒロシならいつでも相手になろう」
とか言って戦闘を終わらせた二人がガッチリ握手を交わしてる。
いや、だから何でお前がそんな男同士で分かり合ったみたいになってんだよっ、おかしくないかっ!?
「あの二人は一目で分かるねー。アーネちゃんの両親でしょー?」
「そうそう。…って、なんでまだくっついてるんだよ、みんなっ」
「ちょっとくらいいいじゃないですかぁ。お兄さんいなかったんだしー」
「そうだよー。あとこれおもしろいからー」
「あっ…ちょっ、ニア……。も、もっと……ハァ…ハァ……」
「こんなとこでハァハァ言わないっ!ニアもやめてくれっ!」
お決まり事のようになってしまった転移後のやり取りの後、何とか皆(手を繋いでるひぃとティシャ、それとコロネを除く)を引き剥がし、弘史達に何でこうなったのか聞いてみる。
「おい弘史、お前何やってんだよ…」
「あ?いや、ダイのダンナが手合わせしてぇって言うからやってただけだぜ」
「うむ。やはり虎人族の血が抑えられなくてな」
「いやそれダイさんとイーナさんだけってルドさん言ってましたよね……」
「ま、細けぇことは気にすんなよっ。それよりほれ、みんな入った入ったっ」
まるで自分の家のように俺達を中へ案内するイーナさん。
いいんだろうかこれ…いやまぁ入りますけど。
アーネの両親、雷銃の皆、それと俺が連れて来た皆で中に入り客間まで来ると、まず目にとまったのは、ラナとラナの両親、それとランだった。
「ランちゃんったらもう、どうしてこんなに可愛いのーっ、んーっ!」
「これはあれだ、もう俺達の孫でいいな」
「二人ともっ、ちゃんと孫は作るからランちゃん返してよっ」
ロゼさんがランを抱き締めてめちゃくちゃ可愛がってる…ルドさんもそれ見てデレっとしてる。
それとラナさんや、勢いに任せて何を仰っているのでしょうかね?
「それはそれ、これはこれよっ。…あらっ、みんな来たのねっ!」
「お、ダイ達も切り上げてきたのか。ようこそ我が犬人族の領地へ」
その他待ってる人達はそれぞれの両親と話してたみたいだ。
アーネとリオはイアをいじって遊んでるっぽい。
翼パタパタさせて嬉しそうだな、イア。
「お待たせしました。結構な人数ですけど、大丈夫ですかね?」
「ああ、構わないよ。とりあえず楽に…と言いたいところだが、今のままじゃ駄目だな…。よし、ダイ、手伝ってくれ」
「承知した」
広さ的にも座るソファーもこの人数で大丈夫そうなんだけど、そのソファーが点々と置いてあって今のまま座ると纏まって話が出来る状態じゃない。
だからだろう、ルドさんとダイさんがソファーを動かし始めて皆纏まって座れるようにしようとしてる。
「どれ、わてらも手伝うたるわ」
「そうだぁねぇ」
「すまんな、フォス、ラビル」
いや、その…こういうことって領主自らやるような事じゃないよな…?
使用人とかに頼めばいいんじゃないのかと。
でも今この場にその使用人が居ないのは何故だろう。
フォスさんやラビルさんが出迎えてくれた時にはいたはずだけど。
とにかくこうなったのは俺達がここへ来ちゃったからなんだから、ここは客とか関係無しに俺達も手伝おう、うん。
「あの、俺も手伝います。弘史、一緒に手伝ってくれよ」
「ま、世話んなるし、やらないわけにゃいかねーだろな」
「ナオト様、私も手伝います」
「あ、僕もやるよ」
こっちの男性陣も一緒になってソファーを移動させてたら、何故かエマ達メイド組とアーネ、リオ、ラナまで加わって、そうすると他の皆まで動き出して…結局この場に居るほぼ全員で配置替えを終わらせてしまった、あっという間に。
この人数で皆の顔を見ながら話すとなると、必然的に丸に近い形に並べられた、かなり大き目な。
その輪に全員適当に座ってこれで準備完了。
因みに俺の両隣はひぃとティシャである。
シータ達は両親に挟まれながら座ってて、ランはロゼさんの膝の上に。
あれはロゼさんが離したくないだけなんだろうけど、ランもそれでいいらしい…むふーって満足そうな顔してやがるし。
イアはイアでランと同じような感じになってる…リオの上で。
そんな二人を見て、ひぃがウキウキ、ティシャが不思議そうな様子である。
背格好が近いし気になるんだろうな、と。
後でちゃんと紹介してやらないと…多分会話は出来ないと思うけど。
「いや、お客さんにまで手伝わせて悪かったね、助かったよ」
「いえ、こちらが大勢で押し掛けちゃったので…すみません」
「なに、了承したのはこちらだ、気にすることは無いよ。さて、まずは挨拶からだな。こちらからいこうか。私が犬人族の族長、ラナの父でもあるルドラウトスだ。領主と言っても大した事はしていないから、気軽にルドと呼んでくれて構わないよ」
「私はルドの妻でラナの母、ローゼメロリシェアよ。私も気軽にロゼって呼んでね。みんなよろしくっ」
最初にラナの両親、ルドさんとロゼさんが挨拶してくれた。
わざわざ立ち上がってしてくれたんだけど、ロゼさんはランを抱き締めたままニッコニコして挨拶してる。
どんだけ気に入ったんだ、ランのこと…。
そして変わらずむふーって顔してるラン、お前もそれはどうなのかと。
見る人が見たら完全にロゼさんの子供に見えるんじゃないか?それ。
「あのぉ…すみません、その抱っこしてる娘は…ロゼさんのお子様ですかー?」
「だとすると、ラナの妹ってことになるよねー?兄や姉はいるって聞いてたけど、妹がいるのは聞いたことなかったよー?」
ほら、案の定ウェナとリズが勘違いして聞いてきたし。
「あらやだ、私の娘なんて嬉しいこと言ってくれちゃってっ。でも違うわよ、この娘…ランちゃんは私の孫ですっ!」
『『『『『孫っ!?』』』』』
「ちょっと母さんっ!それもうヤメてよっ!?みんな違うからねっ!?」
「…普通はそんな勘違いしねぇけど、相手がナオトだからな…ちょっとホンキにしちまったわ」
「私も…ナオトさんならそんな事も出来るのかもって……」
「ファミもニナも尚斗君の事何だと思ってるのっ!?いくら漂流者だからってさすがにそれはないよぉ…ねぇ?尚斗君?」
全くだよ、どう考えても無理あるって分かるだろう。
なのに魅音もその言い方…なんで疑問形にする。
「魅音もそれちょっと疑っただろ…。そこの二人は俺の従者的なもの…だったんだよ。ロゼさんに抱っこされてるのが狼の邪狼で、リオに抱っこされてるのが鴉の邪鴉って言って、ここに来る途中で会ったんだよ」
「へぇー、そうなんだー」
「二人とも可愛いねぇ。ふふっ」
「ということは…幼女組が増えたってことねっ!」
「この場で幼女組とか言うなよっ!ったくリズは…。あ、すみません、こっちの紹介になっちゃいました……」
話が逸れた…こんだけ人数居て話し出すと止まらなくなるな、気を付けよう。
「いや、気にすることはないよ。賑やかで楽しそうじゃないか、ハッハッハっ」
「そうね、この中にラナもいるのなら安心だわ」
「だな。では続きといこう。ダイ」
「うむ。俺は虎人族族長、ダイガルドだ。ダイで構わん」
「で、アタイがイーナレモレフィア、見ての通りアーネの母だ。イーナって呼んでくれ、よろしくなっ」
「次は僕かぁなぁ。兎人族の族長でマールの父のラビルテトリムだぁよぉ」
「私はぁミーリアレジーニアってぇ言うのぉ。ミリアってぇ呼ばれてるわぁ。みんなぁよろしくねぇ」
「ほな次はわてやな。狐人族族長のフォスタクルスや。こう見えてシータの父やで」
「最後はウチで…シータの母でスーテラリィミネア言います。みんなからはステラ呼ばれてますえ。どうぞよろしゅう」
と、アーネ、マール、シータの両親が続けて一気に挨拶してくれたおかげで脇に逸れずに済んだ、よかったよかった。
さて、ここからが本番だ…けど、これ皆の前で言うのか?
あれ?もしかしなくても皆連れて来たの早かったんじゃ…。
でもこうして全員揃っちゃってるし、言うしかないよなぁ…仕方無い、もうどうにでもなれっ。




