#19 街で一息
次の日、予定通りツヴァルトゲインに到着した俺達。
日はまだ高いけどお昼はとっくに過ぎてるくらいの時間で、街の散策や買い物はまだ出来そうだ。
弘史達は今朝起きた時人数が増えてたことにツッコんで…こなかった。
弘史なんか、ふぅ…やれやれまた増やしたのか、みたいな顔だけ俺に寄越してあとはもう知らん顔、ランとイアがさも最初から居たみたいな扱いで振る舞ってた。
知美ちゃんやフラム、モリーも弘史がそうしてるからか、特に何も言ったり聞いたりしてこないし。
そのランとイアはというと…街に着いても俺に抱っこされたりしてる。
裸足で歩かせる訳にもいかないし。
獣化してくれりゃ済む話なんだけど当人達が激しく拒否るからこうなってるわけで、決して俺が抱っこしたいからしてるわけではない…ということにしておいてほしい。
「着いたな。端の街って聞いてたけど、そこそこ大きいな。ガルムドゲルンよりちょっと小さいくらいか」
「そうですよ。ここはヴェルドグライア公国との交易拠点ですから、この大きさも当然ですね」
「ああ、ドワーフ達の国か。それならこれくらいあって当然か」
「アタイらが国から出てきた時立ち寄った以来か」
「そうだぁねぇ〜」
「せやけどあん時はほぼ素通りやったからな…早う冒険者になりとうて」
すんなり外壁門を潜って街に入り、街中を見回して感想を漏らした俺にラナがそう説明してくれた。
それに姫達は来たことがあるみたいだ。
冒険者になる為に国から出て来た時か。
ここで冒険者にならなかったのは皇都目指してたからなんだろう。
結局ガルムドゲルン止まりになったけど。
素通りって言ってるから姫達もあまりこの街は詳しくないんだな。
「んで?これからどうするよ?尚斗」
「そうだな…とりあえず宿取るか。何かするにもそれからかな」
宿さえ確保しとけばバラバラに行動しても大丈夫だろうし、何よりベッドで休みたかったってのもある。
それと…湯船にゆっくり浸かりたかった。
風呂に入ったのは途中に寄った街、ウノッシュバッハって所で一回きりだったんだよな。
野営の時はリオとマールの魔法で浄化してもらっただけだし。
「ほな、歩き回って探す?それともギルド行って聞いてみるか?」
「聞いた方が早いと思うけど…みんな疲れてる?」
「アタイらは平気だぜ。ヒロシ達はどうなんだよ?」
「俺達もそれほどじゃねぇな。昨日はたっぷり寝たしよ」
「…昨日の夜は静かだったしなぁ。ヒロシがモリー気に入ってんのがよーく分かったわ。お前も猿だからだろ」
「ちょっ、アーネっ!何言ってんのよっ!」
「…否定出来ないな」
「う、うん…そ、そうだ、ね……」
「いや、お前らだってちゃんと可愛がってるだろ?」
「お前らなぁ…こんな所でそういう話すんなよ…。アーネも振るなって」
言いたくなるのは分かるけどな。
道中の最初の頃はテント隣り合わせてたけど、終わりの方なんかかなり引き離してたし。
幸いコイツら…ランとイアには聞かれる事が無かったからいいけどな。
ひぃやティシャと同じでコイツらにはまだ早いだろうし…って、そもそも人化してなきゃ気にしなくてよかったはずなのに…。
「で?んなこと聞いてくるってことは、歩き回るつもりかよ?」
「あー、うん。弘史達がよければな。ちょっと店の目星も付けときたくて」
「店…って、あーソイツらの服か」
「そういうことだ」
いつまでもシャツ一枚じゃ、な。
せっかく可愛いんだからそれなりの格好させてやりたい。
や、今のままでも十分可愛いんだが。
「それじゃ服屋はわたしが探すから、他のみんなは宿探してねっ」
「……わたし、も……服屋…探、す………」
「「………」」
「ん?なに?主も…俺も探せって?…はいはい分かったよ。んじゃ弘史達は宿探してくれ」
「ヘイよー」
というわけで、自分達の足で歩いて探すことに。
ラナとリオはランとイアの為に服屋を探すことにしたらしく、それを聞いたランとイアが俺にも探せとか言い出した。
まぁ、別にいいけどオマエら一応俺の従者的存在だよな?
って、年齢性別的に俺の考えた設定から外れてるし、もう別物だと思った方がいいのか…そうしよう、うん。
他の皆に宿屋を探してもらいながら歩き始めてすぐ、まず先に宿屋が見つかった。
そこそこ大き目な、マニファニの皆と泊まった宿屋には劣るけど、それなりに広部屋を完備してそうな宿屋だ。
「ここでいーんじゃねぇの?」
「だな。あとは部屋が空いてればオッケーか」
「あっ、あそこに服屋がありますよ、ナオトさんっ」
ラナが指差した方を見たら、この宿屋から視認できるくらいの距離に服屋があった。
歩き回らなくて済んだな、これ。
と、ラナが見つけた途端、ランとイアが俺の髪をグイグイ引っ張り出した…。
「「………」」
「痛っ、何だよっ。早くあそこに行けって?あー分かった、分かったから髪引っ張るなっ」
何で痛いんだ…闇護膜張ってんのに。
あ、コイツら俺と同じだから効かないのか?
ってことは、コイツらが唯一俺に肉体的ダメージを与えられる存在ってことになるのか。
つまり…コイツらの機嫌損ねないようにしないとダメってことかっ。
「ふふっ、ランちゃんとぉイアちゃんはぁ〜、ナオちゃんにぃ容赦ぁ無いねぇ〜、うふふっ」
「あー、んじゃラナとリオと先行ってろ。宿はこっちで取っとくからよ」
「せやな、取ったらすぐ行くよって」
「あー、悪い。じゃあよろしく頼む…っていやホントイタいからっ、ハゲるハゲるっヤメてっ!」
俺の髪を引っ掴まえたまま身体を揺らし始めた二人。
抜けるっ、それ絶対抜けるからっ!
元の世界では禿げてはいなかったけど、若干薄いのは気にしてたんだよっ、だからホントヤメてっ!
「ランちゃんほら、ナオトさん困らせちゃダメだよ?お姉ちゃんとこおいで?」
「「………」」
「お姉ちゃんのとこ行くから降ろせって…オマエら自由過ぎるだろ……」
まぁでもラナが呼んでくれて助かった。
せっかく若返ってるのにこの見た目でハゲてるとか勘弁だし。
二人を降ろしたらまたテトテトとラナ達に向かって行った…そして二人共抱き上げられてる。
何だよその顔…めっちゃご満悦そうな顔しやがって。
そんなに俺はイヤだったのか…凹むぞ?
ランはラナにスリスリしてるし、イアなんかリオの胸思いっ切りニギニギしてるし…。
イア、お前それ俺のだからなっ!って子供相手に何張り合ってんだ…アホか俺。
一先ず宿はシータ達に任せて、俺とラナ達はこのまま服屋へ。
歩いて数分、すぐに着いて店の中に入るとそこそこの品揃えで、これなら二人にも似合う服が見つかるんじゃないかと。
「うん、これだけあればランちゃんとイアちゃんに似合う服がありそうだねっ。早速合わせちゃおうか。リオ、手伝ってっ」
「………(コクっ……。……分、かった…………」
二人を降ろして物色しだしたラナとリオ。
俺も一緒に来たはいいけど蚊帳の外っぽい…何で連れてこられたんだ俺。
こうなったら俺一人でもアイツらに似合いそうなやつ探してやる…俺の好み丸出しになるけど。
選んでは試着してを繰り返してるうちに、シータ達もやって来て、皆であれやこれや言いながら最終的に選ばれたのは…黒基調のドレスでフリルがふんだんに使われてる、所謂ゴスロリ?って言うんだっけ、そんな感じの服だった。
どこから見つけてきたんだ、そんなの。
二人共髪は漆黒、今はラナにイジられてツインテールだけど、上から下まで真っ黒になってる…まぁ、元の獣の時点で二人共真っ黒なんだが。
いや、しかしこれは…。
「うんっ、二人ともすっごく可愛いっ!」
「……うん………い、い……………」
「なんや、耳と翼がよう似合うとるな」
「しっかしよくこんなのあったな…皇都ならまだしも」
「雰囲気がぁ〜フィオちゃんにぃ近いかもぉねぇ〜」
あー、言われてみればそうかも。
あのお人形さんみたいな感じがどことなく。
っていうか似合い過ぎじゃね?
もうこれ完全に俺の考えた従者じゃないわ。
だって可愛過ぎるし…反則級に。
「どうです?ナオトさんっ」
「どうって…みんなの言う通りだとしか」
「「………」」
「ハッキリ言って?あー、うん、可愛いよ、似合ってる。っていうか似合い過ぎ」
俺がこう言ったのを聞いた二人が思いっ切り破顔してる…本人達も気に入ったってことなんだろうな。
そしてラナとリオに抱き付いた…そこは似合ってるって言った俺じゃなくて服選んだ二人なのね…。
まぁ、いいけどさ…それ見つけた二人には素直に負けを認めよう。
その後、下着やら寝間着やら他に必要な物を全部ラナ達に見繕ってもらい、ここでの買い物は終わった。
俺、支払いしかしてない…ホント役に立ってる感がまるで無い。
殆ど皆に任せっきりだ…いい加減にしないとマズいとは思ってるんだけど、皆も皆で俺にやらせてくれないんだよな…頼む時は頼むって言ってたけど、そんな事あるのかどうか怪しくなってきたぞ…。
店を出ると日も落ちかけてて、今日はここまでってことで宿へ戻りゆっくりすることにした。
一旦シータ達が取っといてくれた部屋に戻って少し寛いだ後、宿の食堂で弘史達と合流して晩飯を全員で食べようとしたんだけど、弘史達は弘史達でブラブラしてた時に食事もしたみたいで腹減ってないとか言って断られた…まぁ、別に約束とかしてたわけじゃないからいいけど。
そういうわけで俺達のパーティーだけで夕食を取り、その後部屋に備え付けてある風呂にゆっくり浸か…れなかったけど、とりあえず久しぶりのベッドで明日の空の旅を楽しみにしながら就寝出来たから良し、と。




