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#16 消失


 

 冒険者ギルドを出た後、ノルチェへ向かう途中にあるニル婆の所や食材屋で道具類、道中での食料をたっぷり揃えた。

 人数が増えたから多めにってことで。

 食材に関してはシータが張り切って選んでた気がするのは、やっぱり料理が好きだからか。

 というか、当然のように弘史達のパーティーの分も受け持つつもりらしい。

 この前の護衛依頼の時と同じ感じになったからだろうと思うけど…誰も何も言わないところを見ると、皆もそのつもりなんだろう、俺も含めて。

 まぁ実際この面子、料理出来るメンバーが揃ってるから言わなくても必然的にそうなるってことかな、と。



 買い揃えたものは全部俺の収納に(何故か弘史達の物まで)突っ込んで、全員手ぶらでノルチェまでやって来た。


「い…らっせぇー」


「反応早ぇなおいっ!」


 店に入って入り口カウンターに居たのはシャリーだった。

 俺達と認識した瞬間抜きやがった…アーネがツッコんだのもよく分かる、俺もツッコみたかったし。


「これまた大勢で。何しに来やがった」


「シャリー…いくら相手がウチらでもそれはないんちゃうの?」


「新顔いるみたいだが姫達と兄さんにはこれで十分だ」


「…シャーちゃぁぁん〜?」


「っ!?あーっとぉ!ウェナに用だろっ、呼んできてやるっ!」


 マールの眼を見た途端、逃げるように奥へ引っ込んでった…シャリーも学習しないなぁ。

 いや、まさかあれ、分かっててやってるのか?

 それでいくとシャリーはマゾいってことになるような気が…。



「あれっ?みんなどうしたのー?」


 シャリーがウェナを連れて来てくれた。

 本人はウェナの後ろで隠れるようにしてるが。

 ウェナを盾にするとか、だったら最初からそんな対応しなきゃいいのに。


「今日出発するからウェナに行ってきますって言いに来た。あといつもの特製サンドイッチ、ここにいる人数分お願い出来る?」


「そっか、シーちゃん達の国に行くんだもんね。わざわざありがとーっ。ちょっと待っててー、すぐ用意してくるからっ」


 そう言って背後に居たシャリーを置いて戻って行ったウェナ。

 残されたシャリーはというと…若干顔を引き攣らせてたと思ったら、開き直ったんだろうか、すぐ元の通りの対応をしてきた。


「ほら、その人数だと他の客の邪魔になるだろ。出るか入るかしろ」


「…完っ全にアタイらのこと客扱いしてねぇな…。わーったよっ、外で待ってりゃいいんだろっ」


 そんなに時間も掛からないだろうってことで、アーネが率先して外で待つ事にしてくれた。

 弘史達のパーティーとラナ、リオもアーネに付いて外に出て、残ったのは俺とシータ、マールだけに。

 マールは対シャリー用の為だろうな…。



「で?シー達帰るのか」


「せや。久しぶりに、な」


「ふーん…ま、兄さんも一緒ならなんの問題もないんだろうな」


「まぁ、何があるか分からないから気を付けて行くつもりだよ」


「それでも兄さんなら大丈夫だろ。とりあえずアレだ、土産忘れなきゃそれでいい」


「姫達じゃなくて土産の心配かよ…」


 何なのその全幅の信頼は。

 それの根拠が知りたいところなんだけど。

 いや、まぁ当然姫達というかメンバー皆をそんな目に合わせないよう全力を尽くす所存ですが。


「お土産ぇかぁ〜。何がぁいいかなぁ〜?」


「せやなぁ…大したもんあらへんな。木彫の狐くらいか?」


「あぁ〜、私もぉそれかなぁ〜、木彫のぉ兎ぃ〜」


 …実家の玄関にあった木彫の熊思い出した、鮭咥えてるやつ。

 ああいうのが各種族分あるってこと?


「あー、それでいい。出来れば種類いっぱいくれ、コンプリートしてやる」


「いいのかそれで」


「ぶっちゃけ何でもいい」



「「「………」」」



 コンプリートする気さらさら無いだろ、それ。

 ホントどーでもいい感が漂いまくってるわ。

 そのくせ忘れるなとか意味が分からない。

 お土産買ってくる気も失せるって。


「…まぁ、何でもええんなら適当なもん土産にするわ。ええんやろ?それで」


「あー、いいぞそれで」


「シャーちゃんったらぁ〜、もうぅ〜…」


「マー達から貰えるもんだから何でもいいってことだぞ。そこ勘違いするなよ」


「分かり難いってそれっ」


「アタシが分かってりゃそれでいい」


「言わな分からんやろ、それ…」


 全くコイツは、考え方まで倦怠してないか?

 そんなんじゃ誰も分かってくれないだろ…。

 けど、分かってもらうつもりもないんだろうな、きっと。

 ただ、こうやって素を曝すのは姫達の前だけだっていうんだから、本人としては本当にこれでいいというか、楽なようにしてるってことになるのか。

 姫達もこれはこれであまり気にしてないみたいだし、深く突っ込むのは止めておこう。

 無駄な努力になりそうだし。



「お待たせーっ。人数分作ってきたよー」


 シャリーの相手を3人でしてる内にウェナがサンドイッチを持ってきてくれた。

 今回は俺達黒惹華だけじゃなく、弘史達雷銃の分もあるから大き目な籠にたくさん詰められてる。


「はいっ、ウェナちゃん特製スペシャルサンドイッチっ。今回のは今までのとは一味違うからねーっ」

 

「ありがとな、ウェナ」


「一味ぃ違うってぇ〜、何がぁ違うのぉ〜?」


「えへへーっ。今回のはー、愛情たっぷり詰まってまーっす!」


「キモっ」


「なっ!?ちょっとシャー!キモいってなにさーっ!」


「兄さんも大変だな、こんなもん詰め込まれて」


「いや、普通に嬉しいけどな…」


「ほらーっ!あっ…ふっふーん、さてはシャー、羨ましいんでしょーっ」


「……チッ、ウェナのクセに………」


 羨ましがってるようには見えないんだけど、ウェナに悪態ついてるってことは少なからずそう思ってるとこがあるのか…?やっぱり分かんないって。


「ほな行ってくるわ、二人とも」


「行ってぇくるねぇ〜。ウェナちゃん〜、シャーちゃん〜」


「行ってくるよ、ウェナ。留守中のことよろしく」


「はいっ。お兄さん達も気を付けて行ってきてくださいねーっ。シーちゃん達の事よろしくお願いしますっ」


「了解。シャリー、ウェナのこと頼むな」


「…アタシにも頼るのか」


「ダメだったか?」


「……ダメじゃない。分かった、任されてやる。こっちは心配無用だ、行ってこい」


「ああ、行ってくる」



 ウェナのとびっきりの笑顔とシャリーのぶっきらぼうな言葉に見送られて、ノルチェの外で待っていた皆と一緒に、いざビルトスマーニア獣連邦国へと出発した…姫達の郷帰り、そして勇者達と会うために。





 

―・―・―・―・―・―・―・―






 ガルムドゲルンを出発して2週間、こっちの世界だと12日目に、ブラストヘルム皇国最西端の街、ツヴァルトゲインに後1日という所まで来た。

 今日はもう日が暮れてるからここで野営して、明日には到着出来るだろう。


 そのツヴァルトゲインから更に西、日中遠目に見えた山脈を越えた先に広がる大樹海が、姫達獣人の国、そしてフラムのエルフの国だ。


 勇者達の行動が分からない、いつまで獣連邦国にいるか分からないから、本当は急いだ方がいいのかもしれないけど、リオがこうして皆と一緒に旅をするのも楽しいからって馬車も使わずこうして徒歩で来たわけで。

 実際ここまで来る道中はいろいろあった。

 魔物の襲撃は勿論あった…けど、俺以外の皆でアッサリ撃破、皆を護るとか全く必要無かった。

 俺も当然護ってもらう必要なんか無いんだけど、魔物の数が多そうだから俺も前に出ようとするとリオが、マスターを護るの一点張りで何もさせてくれなかった…。

 そうやって頑張った後は必ず魔力補充をお願いされたんですけどね。


 野営ではひぃ達の護衛依頼した時と同様、シータと、それに手伝ってる皆が大活躍で、家で食べてるのとなんら遜色のない料理が毎晩出てきて、こんな贅沢な野営してていいんだろうかと少しだけ思ったり。

 皆…特に弘史とアーネ辺りが美味い美味いいいながら、相変わらず凄い勢いで食ってるのを見ながら、楽しい夕食が取れたのはいいことなんだろうけど。


 で、そんな夕食を取った後、俺達と弘史達の交代で休みを取りながら見張りをすることにしてたんだけど…日中戦闘があった晩の野営時には必ず弘史のテントが騒がしくなってた。

 お前もやりたい放題…って、まぁ俺と同じハーレムなんだから別に悪い事じゃなくて普通なんだろうけど、少しは加減しろと言いたくなるくらいだった。

 こっちは見張りで起きてるんだから分かるだろうに。

 っていうかちゃんと休んどけよっ。

 くっそ羨ましいとか思ってないからなっ!


 そんな弘史達が見張り番の時に数回夜襲されたんだけど、いずれも小規模だったみたいで、俺達を起こす間もなく対処してしまったらしい。

 だから文句も言えなかったわけで。

 やる事ちゃんとやってんだからいいだろ!って反論されるのが目に見えてたし…。


 俺達はちゃんとその辺考えて、人数分けて休みを取ってた。

 俺を入れて6人だから、3人で見張りをするようにして、残りの3人は何事もなければその日はゆっくり休めるようにって。

 そうしてきたからか、ここまで辿り着いても皆目に見えた疲れは全然無かった。

 弘史達は…言うまでもない、自業自得だ全く。



 今日の日中は幸い魔物と遭遇せず、晩飯食った後弘史達はすぐ休んだ。

 今は俺と、篝火を挟んで対面にラナとリオが座って見張りを担当してる。

 シータ達も今日は疲れたのか、いつもより早めに休みを取った。



「もう少しで最後の街か…」


「そうですね、あとちょっとですよ」


「そこを出たら山越えだけど…予定通り頼むな、リオ」


「……(コクコクっ……。……任せ、て……。……やっと…みんな、を……乗せ、られ…る………」


 

 人が居る所では出来るだけリオの竜化を避けて、山越えの時は乗せてもらおうと考えてた。

 ひょっとしたら騒ぎになっちゃったりするかもと思って。

 竜背連峰にはドワーフ達の国があるけど、ギアとドルムのおっちゃんに聞いた話だと、山に穴を掘って中に街を作って生活してるってことだから、山越えで見られることは少ないだろうな、と。

 その話を聞いた時、いつかはドワーフの国にも行ってみたいと思った…洞窟内の街とかどんな感じなんだろうって。

 今回は素通りさせてもらうとして、機会があればってことで。


 それで山越えの時リオに乗せてくれる?って頼んだら、もの凄い勢いで首を縦に振ってくれて…俺も皆も初めての空の旅でワクワクしっぱなしだったりする。


「わたしも楽しみっ。リオ、よろしくねっ」


「……(コクコクっ………」


 ラナはリオにお願いしてたくらいだしな、余計楽しみなんだろう。



 この調子なら獣連邦まで何事も無くいけるだろうな…と思った矢先だった。


 ふと、背後に何か…視線というか気配というか…。

 いや、俺が纏っているものと同質な何かを感じて振り返った。

 

 当然の事ながら俺と同質なものなら視覚的には何も分からない。

 何せ自分が考えた訳の分からない設定…不可視の闇なんだから。


 何で今そんなものを感じたんだろう、と不思議に思いつつ体勢を元に戻したら─



「……ラナ…?………リ、オ…………?………………」



 ─対面に居た筈のラナとリオの姿が、忽然と消えていた。



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