#11 人数の合わない帰宅
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『見えなーいー未来ーに〜♪震えるー夜ーもーあーるけど〜♪』
『恐れるぅーばかりじゃぁーなく〜♪』
『怖がらずにぃーほんのぉー少しーだけでもー♪』
『振りぃ絞ってみようー勇気を〜♪』
『それがきーっとー未来をー照らーす〜♪』
『『『『『光にーなーるーから〜♪』』』』』
ワァァァァアアア!!
ウォォォォオオオ!!
『『『『ミ・オ・ンーー!!』』』』
「えへへーっ、みんなぁーっありがとぉーっ!」
最後の曲の演奏が終わり、客席の盛り上がりも最高潮、ステージ上のマニファニのみんなもやりきったって感じで、顔を合わせて楽しそうに笑ってる。
昨日はあれから暫く皆で盛り上がったんだけど、そこそこ早めの時間で切り上げた。
今日の本番があるからってことで。
ガズのおっさん達と正典はまだ飲んでいくみたいだったからそこで別れた。
次会うのはガルムドゲルンだなって言って。
俺達黒惹華は依頼完了したから転移で戻っても良かったんだけど、明日ステージが終わったら魅音達も連れて戻らなきゃならないしってことで、拠点にしてた宿にまた泊めてもらい、今こうしてステージの皆を見てるわけです…何故かステージ袖から、昨日と同じ格好で。
「あーっ!楽しかったーっ!」
「うん、もう最高ー!」
魅音とニアがハイタッチしながら戻って来る、大満足って顔して。
本当に音楽が大好きなんだなぁ。
「うーんっ、やっぱりみんなと演るのはいいっ!」
「わたしもぉー!」
「ま、まぁ、悪くねぇ…よな」
「ファミちゃん、素直に喜んでもいいんだよぉ?」
「そうそう、ファミが一番嬉しそうな顔してるよ?ふふっ」
「うっ、うるせー見んなっ!ほっとけよっ!」
ファミをイジりながらマミとニナもステージを降りてきた。
こっちも皆ニコニコしてて楽しんで演ったってのがよく伝わってくる。
「みんなお疲れ様!今日も最高のステージだったよ!」
「リハの時も思ったけど、みんな凄いね、やっぱり」
「だなぁ。なんかマミ見てるとアタイの身体までウズウズしてくんだよな…」
「ウチもミオン見てるとこう、勝手に声が出てきそうになる…なんでやろ?」
「「っ!?」」
「本当にっ!?アーネ!」
「ホントっ!?シータっ!」
「あ、あぁ…」
「う、うん…」
アーネとシータが感想漏らしたら、マミと魅音が食い気味に寄ってきて二人がちょっとタジってる…俺も昔やってたギター思い出して、指がピクピク動いてた気が…今はもう殆どまともに弾けないだろうけど。
「これは…案外すんなりいけそうじゃね?」
「うんっ、わたしもそんな気がするよぉっ」
「わたしも頑張っちゃおーかなー」
「…?何を頑張るって?」
マミと魅音を見てた3人がボソっと話してたのがたまたま耳に入ってきて、何気なく聞いてみた。
「あー、いや、ガルムドゲルン行っても頑張るかぁ!ってな」
「うん、今までとおんなじようにねぇ」
「そーゆーことー」
「そっか…」
なんか含みのある表情に見えるのは気のせいだろうか…けどまぁ、活動拠点を移しても今までと変わらずやっていこうっていうのは本当だろうから、気にするほどでもないか。
「相変わらず楽しんで演ってたみてぇだな、魅音」
「今日もみんな全力だったなぁ」
「良い音出てたぜ?」
魅音達マニファニの前に出番が終わってたガンスナの3人が割って入ってきた。
昨日あんな事があったのに割と普通だ、気にした様子があまり見受けられない。
もう魅音達の事は諦めて、音楽に専念するって決めたからだろうか。
「うんっ。響也君達もねっ」
「ま、それなりに…な」
「そっか!うん、これからもその調子で皇都のみんなを楽しませてあげてねーっ!」
「私ら今日で最後だからな。頼んだぜーっ」
「は?最後って…」
「わたし達、活動拠点移すんだぁ」
「これからはガルムドゲルンで活動することに決めたんだよ?」
「というわけで、あとよろしくー」
「じゃっ、お互い頑張ろーねっ、響也君っ!」
「え、ちょっ、おい…っ!」
そう響也達に言い残してこの場をスタスタ去っていくマニファニの皆とカッツ。
あ、ガンスナのやつら茫然としてる…なんかすまん、多分これも俺のせいなんだよな。
けど、こうしたくてしたわけじゃないんだからな、そこだけは勘違いしないでくれよ、頼むから…。
マニファニが去っていくのに俺達がこの場に残る意味も無いから、俺とマリシアラも黙って付いていく。
拠点は移してもまた皇都で演ることは出来るだろうし、また会えるかもしれないその時まで頑張ってくれ。
くれぐれもまた変な気は起こさないように、な。
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「さて、と。んじゃガルムドゲルンに戻るかぁっ」
「せやな、皆で家に帰ろかっ!」
ライブが終わった後、打ち上げも出ず真っ直ぐマニファニの皆の(5人一緒に住んでた)家に帰り、片っ端から荷物を纏めて収納に放り込み、ガルムドゲルンへすぐ戻ることにした。
カッツは大した荷物も無いみたいで、日を改めてまた皇都へ連れて来てもらえればってことで、このまま付いてくることにしたみたい。
ま、転移があるからいつでも言ってくれればいくらでも送りますよ。
ホント便利だな、この2つのスキル。
「よし、それじゃ…」
転移するから皆、手繋いでって最後まで言い切る前に、アーネ達が定位置…つまり俺に引っ付いてきた。
あのな、流石にこの人数は無理なんだから今回はヤメようって、なっ?
「…何やってんだ?お前ら…」
「いきなりナオトさんにくっついてぇ…」
「何それーっ?面白そうだから私もやるーっ!」
「ミオンは当然だな。おら、こっち来いミオン」
正面定位置で抱き付いてるアーネが少し身体をずらして、空いた位置に来るようミオンを呼ぶ。
当然って、メンバーだからかよ…そうじゃなくて、他の皆がいるんだから今回はどう考えても無理だって!
「えー、ミオンだけズルいー!わたしもやるー」
そう言ってニアまでやって来て、俺に抱き付いたミオンに覆い被さるような形で無理矢理くっついてきた。
「ちょっとニアっ、苦しいよぉーっ」
「あ、これ楽しーい」
「ったく、何やってんだよ…フザケてねーでとっとと行くぞっ」
「うん、だからこうやってるんだよ?」
「は?意味分かんねーよっラナ!」
「あれや、ナオのスキルで帰るんよ。それにはこうやってナオに引っ付かなあかんのや」
だから触れるだけでいいんだよ…間接的にでも繋がってれば大丈夫だって確証も取れてるんだし、皆で手を繋ぐだけでいけるんだってっ。
「そ、そうなのか…?」
「うん〜、そうなんだよぉ〜。でもぉ全員はぁ無理だからぁ〜、誰かにぃくっついてぇねぇ〜っ」
「それなら、しょうがないねぇ。じゃあわたしは…シータちゃん、いいぃ?」
「ん、ええよっ。ほれ、ウチの手掴んでな?」
「それじゃ私はマールと手繋ごうかな?」
「はぁい、マミちゃん〜どうぞぉ〜」
「私はどうすりゃいいんだよ…」
「………ファミ……こっ、ち…………」
「ほら、わたし達と繋ご?ファミ」
「わ、分かった…」
…いつもより更に団子状態で身動きが全く取れなくなった。
が、しかし、転移する時いつも思うけど…や、柔らかい感触がアチコチから……。
うぅ…ヤバい幸せ過ぎて顔がニヤけそう。
そうなる前に早く転移しちゃおう、あとはカッツだけ…。
「えっと、僕はどうすればいいんですかね…?」
「はい、カッツ。わたしの手貸してあげるー」
「あ、ありがとうニア」
「ニアぁー動かないでーっ!くっ、苦しい…けど、ちょっといい、かも…?」
はいこれで全員繋がった!魅音が何かに目覚める前に飛ぶっ!
「転移ぃぃいっ!」
シュンっ!
──到着したのは俺達の家の扉前、家の中だと誰か居たらびっくりさせちゃうかと思ってここにした。
「お…おぉ?どこだここっ!?」
「どこって、わたし達の家よ?決まってるじゃない」
「はわぁー…お、大きいねぇー」
「せやろ?だからみんな来ても大丈夫やって言ったんよ」
「これって、貴族の屋敷じゃないの…?」
「元々はぁ〜そうだったんだけどぉ〜、そのぉ貴族はぁ皇都へ〜行っちゃったぁみたいぃなんだぁ〜」
「んで、空いた家を報酬として貰ったってわけだ」
「へー、そうなんだー」
「…君達頼むからそういうのは離れてからにしようよ……」
いつもすぐ離れようとしないのは何故なんだ。
ラナなんてほっとくとハァハァ言い出すからな…。
今日は他の皆がいるから大丈夫だと思ってたら、別な所からハァハァ聞こえるんだけど。
「あっ…苦し……け、ど……キモ、チ「アーっ!ニア今すぐ離れてっ!早くっ!」………」
「えー。しょーがないなー」
魅音が目覚めるような危機感を覚えて、大至急ニアに離れてもらい、それを回避しようとした…成功したかどうかは分からないけど。
「ぷはぁ…ハァ、ハァ……」
「魅音大丈夫か?ほら、もうニアも離れたから魅音も離れられるぞ?」
「あっ…そ、そうだねっ!あははは……」
「っていうか全員離れてくれっ、もう着いたんだから!」
俺のその一声でやっと全員離れてくれた…。
このやり取り、いつまでやらなきゃいけないのか。
多分俺がこの転移方法禁止しない限り続くんだろうな…。
ということは、やっぱりこの先も転移する度やらなきゃダメってことか。
皆がこうしたいんなら、俺に拒絶出来るわけもなく…はい、嘘です、俺が止めてほしくないからです。
皆のせいじゃなくて、この気持ち良さに抗えない俺のせいです…。
「ウチらもまだ慣れへんな…こうして家の扉の前にいるの、変な感じやわ」
「住み始めたばっかりだしね」
「アタイらは冒険者なんだから、いない方が多いだろーしな。ま、その内慣れんだろ」
「……みんな…で……帰、る…場所、が………ある、だけ…で………十、分……いい…………」
「そうだぁねぇ〜。待ってるぅ人達がぁいてぇ、それだけでぇ〜十分幸せぇだよぉねぇ〜」
住み始めてすぐ皇都へ行っちゃったしな…実質まだ一晩しか寝てないし。
昼寝はしたけど。
またすぐ行こうかと思ったけど、少しだけゆっくりするのもいいかな…次のは依頼ってわけじゃないし、リオがいいって言ってくれたらそうしてみよう。
多分というか、確実にリオは了承してくれるだろうけど…。
「じゃあ、入ろうか。ようこそ我が家へ」
マニファニとカッツにそう言って、開けるのはまだ二度目のその扉に手を掛けて、全員で中に入った。




