#08 みんなで冒険者ギルドへ
カッツやマニファニの皆からのお許しも出たことだし、影操縛を解除して響也達の拘束を解いた。
「頼むからもう変なコトはしないでくれよ…同じ漂流者として恥ずかしいんだから」
「……もうやりたくたって出来ねぇんだろ。こうなったら音楽だけでやってくしかねぇよ……」
「いや、最初からそうしとけよ…そっちの才能はあるんだろ?」
「そうだよーっ。響也君達だって音楽好きなんでしょ?」
「音はウソつかないからねー」
「あれだけ凄い演奏が出来るんだもんね」
「…まぁ、音楽分かんねーアタイらでも、スゲぇってのは分かったくらいだしな」
「「せやな」「そうだね」」
俺は響也達の演奏聞いてないから分かんないけど、アーネ達がそう言うんならそうなんだろうな。
これからはそっちで頑張ってくれ。
くれぐれもおかしな事はしないように。
「正典も、漂流者なんだからもう少し自信持って行動してもいいんじゃないか?って、俺も人のこと言えないけどな…」
これでも大分自信は付いてきたとは思うけど…皆のおかげで。
だけど自信満々にはまだ程遠い。
かなり吹っ切れてきた感はあるんだけどさ…。
「僕は…もう、だめだよ……。あのスキル以外、何も持ってないし……」
「そうなのか?戦闘系のスキルとかは?」
「…持ってない……」
あーそれは…確かにキツいかも。
どうにかしてやりたいけど、何かいい方法は無いもんか…。
[マスターのスキルを譲渡すればよろしいかと]
…え?そんな事出来るのか?響也みたいにスキル持ってるわけでもないし。
[マスター…固有スキルをお忘れですか]
…あ、そうか、創ればいいのか。
じゃあちょっとやってみるか。
えっと、譲渡…っと、どうだ?出来たか?
[スキル:譲渡作成・取得]
よし、それじゃ、俺が使ってないスキルを譲ろうか。
「正典、ちょっと手出して」
「……はい………」
正典がそろそろと俺の前に言われた通り手を出してきた。
俺はその手を取って今創った譲渡を行使する。
渡すものはアコに任せて。
[…譲渡完了。対象者:宇薄 正典への譲渡内容を表示]
【ステータス】
《識別》
名前:宇薄 正典
種族:人種(2)
選択:〔譲〕小鬼族(1)
職種:―
選択:〔譲〕剣士(1)
〔譲〕盗賊(1)
《技能》
固有:〔封〕認識遮断(✕)
物理:〔譲〕剣術(1)
〔譲〕投擲術(1)
〔譲〕棍棒術(2)
ちょっ、待て待てっ!
何でスキル以外も譲渡してるんだよっ!
職種はまぁ分かるとしても、種族まで譲ってどうするんだっ!
[この際在庫処分しておこうかと]
在庫処分て!お前も言い方酷いなっ!
やっぱりお前に任せたのが間違いだった…。
譲ってしまったものはもうどうしようもないけどさ…。
「えっと、正典。俺の使ってないスキルとか譲ってやったから…これで何とかやっていけないか?」
「え…スキルを…?」
「ああ。まぁ、ちょっと余計なものまで譲っちゃったけど、そこは大目に見てほしいかな…」
「…あ、職種が無くなってる…けど、選択が増えてる!それに…戦闘系のスキルもっ!これ、貰っていいんですかっ!?」
「正典のステータスに表示されてるんだから、それはもう正典のものだって」
「あ…ありがとう、ございますっ!これで…冒険者に、なれる…っ」
そうか、正典も冒険者になりたかったのか。
まぁスキルレベルは低いけど何も無いところからよりは全然マシだろう。
これで正典も頑張ってほしい。
「じゃあ、それで頑張ってくれよ。正典ならいい冒険者になれると思うぞ」
「はいっ!それじゃ僕、早速冒険者登録してきますっ!」
そう言って勢い良く席を立ち出て行こうとする正典。
あ、俺達も依頼完了報告しないといけないからギルド行くんだよな。
「待った正典っ。カッツ、リハはもう終わったんだよな?」
「はい、終わりましたけど」
「それじゃ、一緒に依頼完了報告しに行けるか?」
「あ、ギルドですね。分かりました、ご一緒します。マニファニのみんなは…」
「私達も行くよーっ」
「え、私らも行くのかよっ」
「ん?ダメ?」
「あー、いや、ダメってわけじゃねーけど…」
「いいんじゃない?ミオンが行くなら一緒に行ったって」
「ミオンちゃんが行くならぁ、わたしも付いていくよぉ」
「わたしもいいよー」
「ったく、しゃーねーなぁ…。んじゃ私らも行くよ、カッツ」
「うん、分かったよ。じゃあ皆で行こう。ということで、全員で行きます」
どうやらマニファニの皆も付いてくることにしたらしい。
ガールズバンドが冒険者ギルドに来ても特に何も無いと思うんだけど、まぁ本人達が来たいっていうなら別にいいか。
目立つだろうけど、ここは皇都だしあまり気にしないことにしよう。
「了解。また大所帯になるけど、まぁいいか…」
「なぁ、その前に…着替えないのか?まさかアタイらまでこの格好で行くってわけじゃねぇよな…?」
「え?このままでいいでしょっ?」
「ちょっ、冗談やろっ?」
「マニファニとーマリシアラでーいいじゃないー」
「この格好でギルドにはちょっと…」
「せっかく可愛いんだからぁ、そのままでいいよぉ」
「だってぇ…冒険者ぁギルドだよぉ〜…?」
「大丈夫、私達もいるんだから、ね」
「……わたし、は……この、ままで………いい、よ…?…………」
「んじゃ、全員このままな。ほら、さっさと行くぞー」
うちのメンバーは冒険者としてじゃなく、マリシアラとして行くことになったらしい…半ば強引に。
益々目立つのは間違い無いけど、可愛いからよしっ!
絡んでくる奴は全力で排除する方向でっ。
ということで、ガンスナの3人と別れ、俺とマリシアラ、カッツとマニファニ、それと正典で冒険者ギルドへ。
ギルドへ向かう途中の道では凄いことになった…二組ともステージ衣装のままだから、何かのイベントだと思われたらしく、すぐ人だかりが出来て身動きが取れなくなった。
「あははーっ!何か凄いことになっちゃったねーっ」
「ちょっと怖いぃーっ」
「ヤッホーみんなー。応援ありがとー」
「これ、やっぱり失敗だったかな…」
「だーっ!もーっ!進まねーよっ!」
「す、すみません、皆さん通してくださーいっ!」
周りの人がキャーキャーワーワー叫んで壁を作ってる中、カッツが一生懸命道を空けようとしてる。
それに何故か巻き込まれてるマリシアラ。
「ちょっ、待って!ウチらは違うんやーっ!」
「ふぇぇ〜!」
「……人、が……凄い、いっぱい…………」
「どうしてわたし達までこうなるのっ!?」
「ふぎゃぁ!だっ、誰だっ尻尾握ったのぉおっ!!」
「す、すみませーん!通してくださーい!」
「ちょっ、何で僕までぇっ!?」
俺もカッツと同じ様にして道を空けようとしてるんですが。
一応マネージャーって格好してるし。
そしてどういうわけか正典まで巻き込まれてる。
っていうかドサクサに紛れてアーネの尻尾握るんじゃないっ!お触り禁止っ!!
…何とか人垣を掻き分けて、冒険者ギルドに着いた頃には……
「ぜぇ…ぜぇ……。ラ、ライブより疲れたって、どういうことだよ……」
「ファミー、体力付けないとダメだよーっ。そんなことじゃツアー出来ないよーっ、あははっ!」
「そうだよー。ファミは毎朝走った方がいいと思うー」
「毎朝ぁ…走るのぉ……はぁ…はぁ………」
「ふぅ…。でも、体力は必要かもね…」
「べ、別の意味で疲れた…。なんでアタイらまで囲まれるんだよっ」
「こんな格好してたらそうなるよね…」
「でもぉ…凄かったぁねぇ〜……」
「……ちょっと、だけ……楽し、かった………」
「ほんまか、リオ…。アレが楽しいとか……」
…一仕事終えたみたいな感じに全員なってた。
大人気っていうのに嘘偽り無し、ということを目の当たりにした…まぁ、多分衣装のままだったっていうのが一番の要因だろうけど、それでもあの人数に囲まれるのは凄いとしか。
ここだけの話、実はマリシアラも負けず劣らずって感じで囲まれてたんだけどね。
こっちも衣装のせいなんだろうけど、やっぱり中身が伴ってるからこそあそこまでになったんじゃないかと。
つまり何が言いたいかというと、俺の嫁達は間違い無く可愛いってことです、異論など出ない程。
そして一番予想外だったのは、正典が物凄い勢いで女の娘達に囲まれてたこと…。
冒険者になるよりアイドル目指せるんじゃないか?と思わせる程だった、何でだ。
特別な衣装着てるわけでもないのに…。
「はぁ…。何とか着きましたね。すみません、まさかここまでとは予想してなくて…」
「いや、俺は何となくこうなるんじゃないかと思ってたけど。こんだけ可愛い娘達揃ってたらもう必然だろう」
「そうですけどっ、何で僕まで…っ」
「それは正典、お前がモテるからじゃないのか?」
「ぼ、僕がモテるって…そんなわけないじゃないですかっ」
「そうですかね?意外と外見は悪くないですし、さっきの様子を見ると中々いけるんじゃないかと…。どうです?うちの事務所に来ませんか?」
おいおい、正典までスカウトしだしたよ、カッツは。
商魂逞しいというか、売れそうなら片っ端から引き抜こうとするのか。
「それは後でゆっくり話してくれ、先に片付けることあるんだから。俺達は受付行ってくるからみんなはその辺で待っててくれるか?」
「分かった、んじゃ酒場にいるわ」
「待てアーネ…お前まさかその格好で飲むつもりか…?」
「あぁ、もうこうなりゃヤケだ、飲まねーとやってらんねーしなっ」
「えっ、なになに?酒場に行くのーっ?」
「え、ちょっ、マジかっ。この格好で酒場とか…マズくね?」
「なんでー?別にいいんじゃないー?」
「いや、だってほら、私ら一応名が知れてるんだし…」
「んー、まぁそこは大丈夫なんちゃうかな…。ここ、冒険者ギルドやし、冒険者がそんな細かいこと気にするとは思えへんし」
「そうね。その辺は気にするだけ無駄だとは思うけど…でも多分いっぱい寄っては来るんじゃない?」
「こんなぁ格好じゃ〜、当然寄ってぇ来るよぉねぇ〜…」
「今でも十分見られてるよねぇ…ちょっと怖いよぉ……」
「あー心配すんなって。変なコトしてくる奴らはアタイが蹴り飛ばしてやっからよっ!」
「それは頼もしいけど…いいのかな?そんなことして」
「……大丈、夫…。……相手、も……冒険者、だし…ね………」
「何か怖い事言ってるけどアーネ、余計な騒ぎだけは起こさないでくれよ…ただでさえ目立ってるんだし」
「ハッ!いいんだよっ!ここはガルムドゲルンじゃねぇんだ、知ってるヤツなんかいねーだろーしなっ!」
そりゃ、ここは皇都だからな…けど、知ってる人が居ないとは限らないだろ、ガルムドゲルンから依頼で来てる奴だっているかもしれないし。
と、皆でどうするか話していたら…ポンッと俺の肩が叩かれた。
あー、ほら、アーネがそんなこと言うから……。




