#13 三獣姫との出会い
おつりの大銀貨6枚と激励を受け取り、軽く頭を下げてお店を出ようと出口へ…見た目装備も揃って、もうルンルン気分でドアに手を掛けようとしたら、勝手に開いた…と、なんだお客さんが入ってきたのか。
「っと、すみません」
「…」
…なんか入り口塞がれて無言で見つめられてるんだけど…俺の方が背が高いからそれなりの上目遣いで。
「……」
「あの…すみません、出たいんですが…」
「………」
いや、何か言って。
「…………」
「ええと…聞こえてますか……?」
「……………」
なんだこれ。
微動だにしないんだけど。
「…退いてくれないでしょうか…?」
「………………」
って、おーい埒が明かん、もう俺が退けばいいのか。
店内そんなに広くないから先に出て邪魔にならないようにと思ったのに…しょうがないから一旦店の中に後退りながら戻ったら、目線外さず追随してくるし。
「…………………」
いや、ホントなんだこれ。
何がしたいのかさっぱり分からん!
「あの、お店の中、入りましたよ…?」
「……………………」
いや、だから、なに?店に用事あった訳じゃなくて俺に用事があるのか?でもどう見ても初対面なんだけど…白黒縞模様っぽい獣耳と尻尾で、革製のブレストガードと軽装備な、目付きの若干鋭い娘さん!
「あのぉ…何か言ってくれませんかね……」
「………………………」
これはあれか、目を逸らしたら負けとかなのか?試しにギアンテのおっちゃんの方を向いて助けを求めてみるか…。
「…ギアンテさん、これどうにかして……」
「よっしゃ!アタイの勝ちだなっ!」
やっぱりか…見ず知らずのやつに黙って勝手に勝負事吹っ掛けるなよ……意味分からなくて怖いっつーの!
「何をやっとるんじゃ、冷やかしならいらんぞ!」
「あぁ、悪い悪い、ついいつもの癖でなー。ちゃんと用があって来たぞ!」
癖なのかよ…なに、初対面のやつには必ずやるって?変な癖持ってるな…俺じゃなかったら喧嘩に……って、そういうことか、コイツ喧嘩売ってたのか!見境無しに誰にでも喧嘩売るとか、ちょっとヤバいんじゃないか?まったく…。
「アーちゃん〜ダメだよぉ〜その癖ぇ治さないとぉ〜、アーちゃんとぉパーティー組むのぉ辞めちゃうってぇ〜言ったでしょぉ〜」
入り口からまた誰か入って来た…コイツの仲間っぽいな。
黒長い獣耳で神官っぽい服装のおっとりした雰囲気を醸し出してる娘さん…喋り方もまんまおっとりだった。
「アーネ、いい加減にしときぃな、ウチらホントにいい迷惑しとるんやし」
そしてもう一人、茶白のふさふさした獣耳で、ローブに身を包み杖を持った独特な喋り方する娘さん…全員ケモミミで女性だっだ。
パーティーって言ってたし、この店に来たってことは冒険者なんだろうけど、えらくバランス悪いような気が…見た感じ前衛職がいないんじゃないか?見ず知らずだけど大丈夫なのかって心配になっちまうわ。
ちなみにこれ、ゲーム知識だから当てはまるかは別だと思うけどね。
「あんだよ、ちょっとくらいいーじゃねーか。どうせケンカになったってアタイが勝つんだしなっ!」
これまたスゴい自信だな…まぁ、俺は見るからに軟弱そうだってことなんだろうけど……でもこっちはこっちで闇黒魔法があるから負けはしないけどな、面倒くさそうだから勝つつもりも更々ないけど。
「それじゃ、自分はこれで…ギアンテさん、また」
これ以上関わり合いになると、それこそもっと面倒くさいことになりそうだと思ったから、そそくさと出口へ向かおうとしたら、
「おい、ちょっと待てや、あんちゃん」
アーネって呼ばれてたやつに肩掴まれて呼び止められた…俺の方はもう用事終わったんだから早く退散させてくれよ……。
「な、なんでしょうか…?」
「あんちゃん、この辺じゃ見かけない顔だな…どっから来たんだ?」
「自分は今日この街に来たばかりの漂流者なんですが…」
「あー漂流者だったのか、道理で見ない顔だと思ったぜ。んじゃアタイらのことも知らねーんだろ」
なんだ?もしかして結構な有名人なのか?まぁ、当然知らないんだけど。
「ええと、はい、知らないですけど…」
「んじゃ、教えといてやるよ!アタイらはな…」
「人の店の中で何グダグダ喋っとるんじゃ!用がないならとっとと出ていかんかいっ!」
うぉ!ギアンテのおっちゃんがキレた!そりゃそうか、防具屋に来て防具見ないとか客でも何でもないしな…って、いや、俺は帰ろうとしてたんだけれども!
「ほらぁ〜アーちゃんのせいでぇ〜またぁ怒られたぁ〜」
「ウチもう嫌やわ…マール、やっぱりアーネはパーティーから外さへんか…?」
「ちょぉっ、待って待って!すまんアタイが悪かった!おっちゃん、ちゃんと用があって来たから!」
なんだよ…ちゃんと用があるなら俺になんて構わなけりゃいいのに……何がしたいんだコイツは。
「だったらサッサと用件を言わんかい、全くこの三馬鹿娘は…」
ギアンテのおっちゃんはコイツ等の事知ってるっぽいな…でも三馬鹿娘とか、これあれだな、悪い意味で有名な娘達だな、多分。
明日ラナさんにでも聞いてみようか?
「いやぁ、ちょっと前衛張れるっぽいヤツ見かけたからついさー」
「なんじゃ、まだ見つかっとらんかったのか。まぁ、三馬鹿娘のパーティーなんぞに入る馬鹿がいるとは思えんからなぁ、ぶぁっふぁっふぁ!」
「おっちゃん酷ぇ!そこまでバカバカ言うこたねぇだろっ!こっちだってこれでも必死なんだよっ!このままじゃマジで冒険者廃業になっちまう…」
んー何やらワケアリっぽいが…これ、話聞いたらマズいような気がしてきた……俺の性格的にほっとけない方向になりそうで。
「えーと、自分はもういいですかね?この後まだ予定があるので、この辺で…」
「あー、そのー、何だ、呼び止めて悪かったな…あんちゃん冒険者になったんだろ?だったらギルドで顔合わせることもあるだろうから、その時にでもゆっくり話しようぜ!」
え、どっちみち話聞く流れなの、これ。
これは…なるべくギルドで顔合わせないように避けた方がいいのか…?面倒に巻き込まれないように。
「アーちゃんはぁ〜もぅ強引なんだからぁ〜。でもぉ〜私もまた会えたらぁ〜お話したいかなぁ〜、せっかくぅ漂流者の人とぉ知り合えたしぃ〜」
「ウチも漂流者の話なら聞いてみたいわ、こんな機会滅多にないやろうし」
「だろだろ?ほら見ろアタイいい仕事してるじゃねーか!だからパーティーから外すとか言わないでー!」
「何がいい仕事じゃ、たまたま今回吹っ掛けたのが漂流者だっただけじゃろうが。お前さんも災難じゃのう、こんな馬鹿娘共に気に入られて」
ん?これ気に入られてるの?そうは思えないんだけど…でも全員話したいのか、ただなぁ…女の娘に囲まれて話とか今の俺じゃ無理っぽいんだけどなぁ……ステータスのせいで。
別に嫌ってわけじゃないんだけどな、断じて。
「これで気に入られたのかどうかはちょっと分からないですけど、とりあえずまたお会いできたらお話しましょう、ということで?」
「そーゆーことだなっ!ま、よろしく頼むぜ!アタイはこのパーティー『三獣姫』のメンバー、アーネルミルヴァだ、アーネでいいぜ!職種はスカウトだっ」
「私はぁ〜マールオリザロレッタですぅ〜、マールって呼んでくださぃ〜。アコライトやってますぅ〜」
「ウチはシータフィオラシス、シータって呼ばれとる。職種はマジックユーザーや。一応このパーティーのリーダーやね」
自己紹介までされてしまった…また会う気満々ってことですね……いや、しかし三獣姫って、自分達で姫とか言っちゃってるけど、いいのか?それ…。
3人とも美少女って言われてるであろう容姿を持ってるから、まぁ間違ってはいないとは思うけど…そしてやっぱり前衛いなかったし。
「…自分はナオトと言います。先程冒険者登録したばかりです。職種は…魔法剣士ですけど」
「「「魔法剣士(ぃ〜)!?」」」
「なんじゃお前さん、魔法剣士じゃったのか、また珍しい職種じゃのう」
うーん、やっぱりこの世界ではあんまりいないのか…正確には魔法剣士じゃないから、まぁ、確実に俺しかいないわけだが。
似たようなヤツがいるってのはさっき分かったけど…俺みたいに厨二病全開の職種なことは確定的に明らかだし。
…ん?何だ?三人娘が固まってボソボソ相談し始めたぞ…一体何なんだか……。
──ボソボソッ
「おいおいおい、魔法剣士だってよ!ヤローだけどこれはイケんじゃね!?」
「あー、ウチも思ったわ、しかも漂流者やん…この際贅沢は言ってられへんし、性別とかは目瞑ってもええんちゃうか?」
「そうだねぇ〜私もぉ〜いいんじゃないかなぁ〜ってぇ〜」
「んじゃ予定変更か?マール肉壁前衛作戦は無しってことで」
「いや、でも彼がウチらのパーティーに来てくれるかどうか分からへんし…」
「何言ってんだよ!アタイら『三獣姫』だぜっ!獣人の女が3人もいるんだ、入るに決まってんだろーが!」
「アーちゃんのぉ〜その自信はぁ〜どこからぁ来てるのかなぁ〜?」
「アーネの自信はともかく、なら方針として出来る限り彼を引き込むってことでええか?」
「おう!それでいこうぜっ!」
「うんうん、それでぇいいよぉ〜」
な、なんだ?全員こっち向いて…相談事がまとまったのか?っていうか全員眼が光ってる…うわ、何か背筋がゾクゾクしてきた!あ、相談してる内に帰ればよかった……アホか俺。
「まったく、何なんじゃ三馬鹿娘は。また碌でもないこと考えとるんじゃろうが…お前さんも気を付けといた方がええぞい」
「あー、そうですね…でも何となくですけど、もう手遅れのような気もしますが……」
「まぁそうじゃなぁ、あの三馬鹿娘に会った時点でどうしようもないかものぉ…」
「ですよねーはははっ…」
完全に帰るタイミングを見誤った…何かに巻き込まれる未来しか見えない……。
「おぅ、ナオトって言ったよな?わりーんだけどよ、ちぃーっと付き合ってくれねぇかなぁ」
「え、お断りしますけど」
「んじゃ、ちっとそこの茶店まで…って、はぁ!?」
「いや、さっきこの後予定あるって言いましたよね、自分」
アーネってやつ、人の話聞かないタイプだな、オラオラ系だし当たり前っちゃ当たり前か。
「なんじゃ、用事は小僧に変わったのか?だったらとっとと出ていかんかい。こう見えてワシも忙しいんじゃ」
「ナオトはん、ウチからもお願いします、ちょっとだけ話出来ないやろか…」
う…そんな獣耳シュンとさせて、うるうるの上目遣いなんかされたら、断れるわけないじゃんか……あぁ…なんかこっちきてから俺、ホント弱いな、こういうのに………。
「…はぁ……分かりました、少しだけなら付き合いますよ……」
「!?ありがとなっ、おおきにっ!」
今度は獣耳ピンってなって喜んでるし…ラナさんといい、このシータって娘といい、獣人って獣の部分で感情出し過ぎじゃないか…?可愛すぎだろ、ホント……。
「とりあえずギアンテさんの邪魔にならないようにここを出ましょう。ギアンテさん、すみませんでした、今度こそこれで失礼しますね」
「おう、なんか知らんが三馬鹿娘を引き取ってくれるんなら文句はないわい。今度来た時は茶でも出してやるぞい」
「なんか釈然としねーが…まぁとりあえずはいいか。おっちゃん、騒がしくして悪かったな、アタイらもまた今度来るわ」
「すみません〜お邪魔しましたぁ〜」
「ギアはん、また今度よろしく」
「分かった分かった、とっとと行ってこい」
「んじゃな!」
ギアンテのおっちゃんに軽く会釈して、三馬鹿娘が出て行った後に俺も付いてった。




