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#34 ベッドと抱き枕



「じゃあみんなにも聞いてみますね。なぁみんな、ちょっといいかっ?」


 部屋割でああだのこうだのいいながら話し合ってる皆に割り込んで聞いてみる。


「ん?何や?ナオ」


「えっとな、セヴァルさんとメイドさん達が、ここで雇ってほしいって言ってくれたんだけど」


「え、それってますます貴族っぽくないですかー、お兄さん」


「そうだけどウェナ、だったらわたし達がいない間この家任せても大丈夫なの?」


「あー、うん…さすがにこの広さは無理かなぁー

…」


「ワタシも無理ねー。頑張って食事くらいかなー」


「私の場合、食事の方はちょっと…。それ以外ではお役に立てると思いますけど、やはりこの広さでは難しいですね……」


 残ってるメンバーでは無理だろうなぁ、皆ちゃんと職に就いてるし。

 ひぃとティシャもお嬢様だからな…それ以前に子供にだけやらせるとか無いよな。


「ならいいんじゃねぇの?むしろこっちからお願いしてもいいくらいじゃね?」


「そうだぁねぇ〜」


「………(コクっ…………」


「そっか。んじゃ「あ、待った」…ん?何かあるのか?シータ」


「一つだけ条件付けさせてもろてもええか?」


 条件?何だろ、セヴァルさん達で不服な点でもあるのか?

 全然問題無いと思うんだけど…。


「条件って?」


「あんな、食事だけはウチらがやるよって。旅の間もそうやったし、な?」




『『『『あっ…』』』』




 …そういやそうだった。

 料理不得手の人達ばっかりだったっけ…。

 ものの見事に偏ってたんだよなぁ、クジで選別したみたいだから。


「なに?どーゆーこと?シーちゃん」


「実はここにいるみんなな、その、料理があまり得意やないんよ…。せやから今回の旅の間ウチらが料理受け持ってたんや」


「ありゃ、そーなんだー」


「そんなわけでここでは食事以外を担当してもらうってことでもええ?」


「も、申し訳ありません…」


「あ、ええのええのっ。その他の事やってもらえるだけでホンマ助かるし」


「ですが…」


「そこはウチらがやりたいってのもあるんや。ナオに美味いって言ってもらいたいし。ウチらが居ない時は…ウェナとリズに頼むわ。みんなに教えたってな」


「うん、分かった。任せてーっ」


「そうね、ワタシも頑張るかぁー」


 セヴァルさんとメイドさん達が申し訳なさそうな顔してる…けど、別に完璧な人じゃないとダメってわけじゃないんだからそんな顔しなくてもいいんですって。

 誰にだって得手不得手はあるんだし、これから一緒にここでやっていくんなら、少しずつでいいから覚えていけばいいんだし。

 っていうか、俺もちゃんとやろう、皆に任せっぱなしだとマズい…シータ辺りには止められそうだけど、せめて手伝いくらいはしないとな…。



「皆様、御心遣いありがとうございます。皆様に相応しい働きをお見せ出来るよう、誠心誠意務めさせていただきます。では早速旦那様に伺ってきますので、私達は一旦戻ります」


「分かりました。あ、無理はしないようにしてくださいね。ゲシュト様の意思が第一優先で」


「心得ております。それでは失礼致します」


 綺麗に一礼してメイドさん達と戻って行くセヴァルさん。

 良い返事が貰えると助かるんだけど、駄目なら駄目でその時また考えよう。


 セヴァルさん達が領主城へ戻った後、部屋割も無事纏まったみたいでリズ、ファル、ウェナはまだ仕事があるから戻ることに。

 また3人に抱きつかれて転移で送りました…迎えに行った時もそうだったけど、これ完全に定着したっぽい。

 転移ってこんな気持ちいいスキルなんだっけ?

 ただの便利スキルだと思ってたんだけどなぁ…。


 3人共仕事終わりにまた迎えに行く約束をして一旦屋敷に戻って来たら、誰も居なかった。

 こんだけ広いからかくれんぼでもしてるのか?ひぃ達と遊んでるとか、ってそんなわけ無いか。

 マップで確認したら屋敷の中にはやっぱり誰も居なくて、どうやら皆で出掛けたらしい。

 近辺を散策でもしてるんだろうな、きっと。

 俺もちょっと屋敷の中見て回るか。

 まずは…風呂。

 ひぃに言われてちょっと気になってたんだよ。


 浴場を覗いてみたら確かに広い、皆で入ってもまだまだ余裕があるくらい。

 流石貴族様の屋敷、無駄に広く使うのはデフォみたいだな。

 ゲシュト様のとこのプールと言っていい浴場とは比べるだけ無駄だろうけど…。

 それでも俺には十分過ぎるし、ここでひぃとティシャに背中を流してもらえると考えただけで幸せな気分になる…うん、早速今晩一緒に入ろうっ。


 それから台所…じゃなくて調理場だな、これ。

 数十人単位で調理出来そうな広さ。

 サラッと見た感じ調理用の魔導具なんかも一式揃ってるっぽい。

 ガス台っぽいのや冷蔵庫、オーブンなんかもある。

 昔バイトしてたファミレスの調理場を広くした感じ。

 こういうところはホント元の世界と殆ど変わらないのね…広めた漂流者はどんだけ稼いだんだか。

 俺にはそういう知識無いからかなり助かってはいるけどさ。

 知識チートなんて俺には絶対無理、あれ出来る異世界モノの主人公達は本当に凄いと思う。

 俺なんか一般常識すら怪しいし…自分に興味のある事だけ、仕事は覚えないと出来ないから何とか覚えたけど…。

 仕事は出来てたけど基本的に社会不適合だったのは自覚してる、何も考えずに生きてきて無駄に年齢だけ重ねた典型的なダメ大人…男親としても失格なのは重々承知してるし。

 こんな自分だって分かってるから今こうして皆が集まってること自体おかしいとしか思えないわけで。

 称号のせいって言ったらそれまでなのかもしれないけど、そこははっきりさせておきたいんだよな…だから皆とじっくり話せる場所が出来たのは良かったと思う、大きさはともかく。


 で、俺の部屋はというと…うん、これ一人で使う部屋じゃないね。

 あんなデカいベッド置いてあるのに全然狭いと感じないくらいの広さ。

 そのベッドも完全に誰かと、しかも複数人で寝てくださいと言わんばかりの存在感。

 ぶっちゃけ今のメンバー全員とくっついて寝れるくらいのデカさだと思う。

 ゲシュト様、何考えてこれ用意したんだ…って、まぁそれ含めてってことだと思うけど、まだ踏ん切りのついてない今の俺にはそういう使い途は出来ないと思います…多分ですけど。


 それはともかく、こんな大きいベッドの寝心地はどうなんだろうと気になって、誰も居ないのをいいことに思いっ切りベッドへダイブしてみたら…めっちゃ良い感じでした。

 軟すぎず硬すぎず絶妙な弾力感、どんだけ寝返りうっても落ちる事は無いだろうけど、一人で寝るには間違い無く寂しすぎるんじゃないかと思いながら横になってたら、何故か目蓋が重くなってきて…寝落ちてしまった。





 

―・―・―・―・―・―・―・―






「…ナオト。おいナオト……」



 ……んん………誰かが、俺を呼んでる、気がする……。

 …ごめん、もう少しだけ、このまま、で……。



「…んだよ、気持ち良さそうに寝やがって…。こんなデケぇベッドで一人とか、寂しくねぇのかよ…。ったく、しゃーねぇなぁ……」




 ゴソゴソっ




 …あれ、何だろ……何か、ちっちゃくて、柔らかくて、気持ちいいものが、近くに……。




 ムギュ




 あー…何だこれ、凄く…抱き心地がいい………。



「あぅ…」



 このまま…もうちょっと……だけ…………。



「……ヤベぇな、これ…。アタイまで落ちちまいそうだ………」



 …何だ?何か顔に…フサフサした物が……。


 まだこうしていたいけど、その気持ちいい違和感を確かめたくて重い目蓋を持ち上げたら…。



「…よ、よぉ。目ぇ覚めたか?」



 ……アーネを抱き枕にしてた。

 顔に当たってたのはピクピク動いてるアーネの虎耳だった…。


 あれ…?俺、寝落ちてたのか…。

 大きさはともかくこのベッド、寝心地いいわー。



 じゃないっ!アーネっ!?何でここにっ!?

 しかも思いっ切り抱きついてるしっ、お互いにっ!

 気持ちよかったのはこれかっ!



「ちょっ、アーネ…何してるんだよっ」


「あー、いや、起こしに来たんだけどよ…気持ち良さそうに寝てたのはいいけど、こんなデカいベッドに一人じゃ寂しいんじゃねぇかと思って隣に来たら……こうなった」


「あー…俺が寝惚けてたからか……抱き心地のいい抱き枕って……」


「……そんなに良かったのかよ」


「…正直もうちょいこうしてたいくらい、な」


「……そっか…へへっ」



 驚きはしたけどホント抱き心地が良くて…何ていうかピッタリフィットしてる感じ。

 多分アーネの身長だからだと思う…だからまだ抱き締めたままだったんだけど、アーネもアーネでまたギュって余計抱きついてきた。


 …なんだこの可愛い生き物。


 そんなんしたらもっと離したくなくなるじゃないか…。

 俺も負けじとギュって抱き締め返したら、虎耳と虎尻尾が激しく動き出して…多分嬉しいんだろーなぁ、これ。


 そんな寝起きを堪能させてもらってたら、アーネが渋々力を緩めて俺の胸に埋めてた顔を上げた。


「…もっとこうしてたいのは山々なんだけどよ…そろそろ時間なんだわ、アイツら迎えに行く」


「え、もうそんな時間?」


「あぁ、そーだぜ」


「そっか、それで起こしに来てくれたのか…」


「シータ達は晩飯の準備してるからよ、必然的にアタイってわけなんだけどな」


 意外としっかり眠ってしまったらしい…別にそこまで疲れてたわけでもなかったはずなんだけど…。

 やっぱこのベッドのせいか。

 で、食事の用意では出番の無いアーネが来てくれたってわけか、なるほどね。


 しょうがない、起きないと…名残惜しいけど。


「分かった。それじゃ3人を迎えに行くとするか…」


「むぐっ……ぷはぁっ、おいっ台詞と行動が合ってねぇ…ふぎゅっ」


「悪いアーネ、もうちょっとだけ…」



「………」



「……よしっ、ありがとな。アーネ」


「……ふぅぅ………くっそ気持ちいいな、これ……」



 やっぱり大きさ的に丁度良い、アーネの身体は。

 今の俺の身体にすっぽりハマる感じが何とも言えない…。

 アーネも気持ち良さそうにしてくれてるし、また今度させてもらおう、抱き枕。



 アーネを解放してベッドから降り、軽く伸びをしてたら、同じくベッドから降りて来たアーネが後ろから抱きついてきて…。



「…なぁ、ナオト……また今度、さっきのやってくれよ…?」


「いやそれ俺の台詞な。またさせてくれよ、アーネ」


「…そっか。うん、アタイはいつでもいいからよ…ナオトの好きな時にしてくれ」


「ありがとな、アーネ。んじゃ遠慮無く」


「あ?…ふぐっ!」


 アーネの方に向き直り、今度は立ったままアーネを抱き締めた。

 立ってこうするとまた少し違うな…立った状態だともうちょっと身長あった方がいいかな…?

 気持ちいいのは全く変わらないけど。


「…すぐやるとか、どんだけだよ……」


「アーネが悪い」


「アタイのせいかよっ!あ、いや…それでいいや。へへっ」


「っと、いい加減にしとかないとな…キリ無いわ。んじゃちょっと行ってくるな」


「おぅ、頼むわ」


 最後にもう一度強く抱き締めてからアーネを離し、3人を迎えに行くためその場から転移した。



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