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#32 唐突な祝事と依頼報酬(現物支給)


 

―・―・―・―・―・―・―・―






 ガルムドゲルンに到着したのは皇都を発って三日目の六つ鐘が鳴り終わってちょっとくらいだった。

 結構魔物と遭遇して時間掛かったような気もしてたけど、そこまで遅くなったわけでもないらしい。

 割と前半飛ばしてたからかな?


 外壁門をほぼ素通りして街中に入り、冒険者ギルド前まで着いたところでブリュナ様が、


「このまま我が家まで来てもらえますか?報酬のこともありますし」


 って俺達をこのまま城まで連れて行こうとした。


 確かに報酬はゲシュト様から直接受け取ることになってたし一度城には行かないと、とは思ってたけど、戻って来てすぐじゃなくてもいいかなぁって…何か報酬目当てでがっついてる感じに取られそうで。

 俺的にひぃやティシャの為ってのが一番だったし。 

 

「俺は別にいいぜ。貰えるもんはとっとと貰っとくわ。いいだろ?お前ら」


「あぁ、構わない」

「いいわよ、別にっ」

「は、はい。いいです、よ」



 弘史達はすぐでもいいみたいだ。

 多分弘史は報酬自体が目当てじゃなくて、そういう手続きみたいなのが面倒だと思ってるんじゃないかと。

 んー、弘史達が行くなら俺達も行くしかないよな…別々にしちゃったらゲシュト様の手間が増えちゃうだろうし。


「行ってきたら?ワタシだけギルドに置いてってもらえればいいよー」


 と、リズだけはギルドに戻ることにしたらしい。

 流石に帰って来てすぐ顔を出さないのはマズいと思ったか?


「そっか…分かった。弘史達も行くなら一緒の方がいいよな。じゃあブリュナ様、俺達も行きます」


「ありがとうございます。ではこのまま我が家まで向かいましょう」


 ってことで、リズだけ置いて領主城まで行くことに。

 少しだけリズが気になるというか、クリス女史に怒られないといいなって心配になったけど、俺が居てもどうしようもないし、リズが何とかするしかないよな…幸運を祈ってるぞ、リズ。




 ギルドからそのまままた馬車で送ってもらい領主城に着くと、何故かひぃとティシャの両親も揃っていた…子供達はいないみたいだけど。

 何かの集まりでもあったのか、タイミング良すぎなような。



「父上、只今戻りました」


「お父さま、ただいまですわ」


「あれっ?パパとママがいるー?」


「お父さま、お母さま、どうしてここに?」


「あらあら〜、本当に〜帰ってきたわ〜」


「ええ…ゲシュト様の仰る通りでしたね……」


「ハッハッハッ、私の勘もまだまだ捨てたものではないだろう?うむ、皆ご苦労だった。帰って来て早々悪いが話を聞かせてくれるか?」



 どうもゲシュト様が俺達の帰りを予測してたらしく、それでティシャとひぃの両親を招いてたっぽい。

 ひぃのお母さんのルリア様、ティシャのお母さんのシャル様は本当に今日帰って来るとは思ってなかったみたいだ。

 それにしてもどんな勘してるんだか…二つ名持ちの元冒険者だから?



「昼時は過ぎているが昼食は済ませたのか?」


「いえ、少しギルドには寄りましたがすぐここへ帰って来ましたので。ナオト達には早めに報酬を渡すべきかと思い付いてきてもらいました」


「うむ、良い判断だ。そうだな、私達はもう済ませたが、戻って来た皆の昼食を取りながらでも話を聞くとしよう」


「分かりました。ナオト、ヒロシ、それでいいですか?」


「また美味い飯食わせてくれるってんなら断るわけねーよ」


「アタイも腹ペコだしな。ありがたいぜっ」


 昼食を取りながら話をすることになったけど、弘史とアーネは相変わらず遠慮ってものが無い…まぁ皆もそれなりに空腹だろうからありがたいんだけど、俺もそうだし。


「すみません、じゃあお願いしてもいいですか?」


「あぁ、構わん、遠慮などいらん。セヴァル、帰って来て早々すまんが準備を任せてもいいか?」


「お気遣いありがとうございます、旦那様。畏まりました、早速準備致します」


 帰って来たばかりのセヴァルさんが快く引き受けてくれて、昼食の準備に向かおうとした。

 何かすみません、俺達の為に…。


「セヴァルさん、すみません、一緒に戻って来たばかりなのに…」


「ナオト様もお気遣いありがとうございます。ですが皆様の為なら喜んで承ります。私達も皆様に護衛していただいた身なのですから」


 そう言って疲れも見せずニッコリ笑って、一緒に戻って来たメイドさん達と共にその場を離れていった…セヴァルさんがカッコいい、実際イケメンだし余計に。




 俺達はまた食堂と言う名のホールまで案内されて席に着き、少し待って準備してもらった昼食をご馳走になりながらゲシュト様夫妻やティシャ、ひぃの両親に皇都での出来事を話した。



「ハッハッハッ!陛下も相変わらず豪胆な。魔王まで手許に置くとはなっ」


「まぁ、魔王と言っても俺達と同じ漂流者でしたからね…」


「フィオとお友達になったんだよーっ」


「かわいらしい角をさわらせてもらいました」


「お手紙を書くやくそくもしてきましたわ」


「あらあら〜、良かったわね〜お友達が増えて〜」



 …魔王の娘なんですけどね。

 けどオーガの元ならいい娘に育つんじゃないかな、俺と違ってフィオに愛情たっぷり注ぎ込んでるみたいだし。

 俺は愛情の注ぎ方失敗したからな…好き勝手やって無駄に歳だけ取ってきたような奴がまともに愛情注げるわけないんだよな…俺なりにやってきたつもりではあるけど、所詮はつもり、結果が全てを物語ってる。

 本当にガキ共には悪いコトしたな、と。



「それからねー、神「ひぃ!ちょっと待とうかっ!」……??」


「ん?何だ、まだ何かあったのか?」


「いやっ、その、何と言いますか…」



 いきなりで油断したっ、流石にこれはちゃんと説明しないとマズいよなっ。



「あー、教会行って神様とやらに会ったぜ」


「おいっ弘史っ!?」


「ほう、神というと…創造神様か?」


「あぁ、そーだぜ。そんでな、フラウを貰うことにしたわ。なんか俺のハーレムに入っちゃったみたいだからよ」



 ちょっ、おまっ!それ思いっ切りストレートど真ん中じゃねーかっ!

 そんなん打ち返されるに決まってるだろっ!



「ほう、そうかそうかっ。フラウを貰ってくれるのかっ」


「まぁフラウ、ヒロシさんを射止めるとは良くやりましたわ、上出来です。ヒロシさん、フラウの事よろしくお願い致しますわね」


「あぁ、任せとけって!」



 ………え?あれ?いいのっ!?

 ゲシュト様もプリム様も本気で喜んでるんだけど…って、やっぱり相手が漂流者だからなのか…?

 ってか、弘史のその自信が羨ましい…ほんの少しでいいから俺にも分けてくれと。


「うむ、そういう事なら…ブリュナ、今回の防衛戦含め、事後報告まで無事務めも果たせたことだ、お前達のことも認めよう。いいか?アイリ」


「ええ、あなたが認めたのでしたら、私に異論はありませんよ」


「父上、母上、それは…」



「っ!?本当ですかっ!?ゲシュトおじ様っ!」

「アイリィおば様もっ!?」



「おいおい二人共、私達は認めたと言ったぞ?」



「「あっ…」」



「あ、ありがとうございますっ、ゲシュト…お義父様っ」

「ありがとう、ございます…アイリィお義母様……」



「うむ。二人共、ゲシュトの事を支えてやってくれ。頼むぞ」


「シャムもナミも、ブリュナの事よろしくね」



「「はいっ!」」



 えっと…ん?これは…ブリュナ様の結婚が認められたってこと…なのかな?

 ナミさんとシャムさんの喜びようと、ゲシュト様とアイリ様をお義父様お義母様呼びって…つまりはそういうことですよね。



「というわけだ。グロウ、ロイ、当然異論はあるまいな?」


「あるわけが無いだろう。ブリュナ、シャムの事よろしく頼むぞ」


「だな。ブリュナ、3人で仲良くな」


「はいっ、シャムとナミと、3人でこれからも一緒に…。二人の事、大切にします」



「「ブリュナ様…」」



 お、おめでとう、ございます…?

 唐突に始まったからちょっと戸惑ったけど、ブリュナ様とナミさん、シャムさんの嬉しそうな顔ときたら…見てるこっちが幸せいっぱいになりそうなくらいです、お裾分けありがとうございますっ。


「ナオト、ヒロシ。こうして父上や母上に認められたのは、二人のパーティーのおかげです。本当にありがとうございます…」


「え、いや、俺達は何も…。依頼された仕事を熟したってだけで」


「そうだぜ、大したこたしてねぇだろ、俺達は」


「そんなことはありません。こうして私が無事務めを果たせたのも、二人のパーティーがしっかり私達を守ってくれた結果なのですから。だから、ありがとう、と」


 いやいや、そんな改まってお礼言われる程のことは…してないです、俺だけ。

 いや、ホント俺だけしてないよね?

 行きも帰りも結局俺以外の皆で乗り切ってたし…何かおかしいぞ?やっぱり俺いらなくない…?とか言ったら皆から猛反撃喰らうんだよな…俺の存在意義とは。

 え、このままだとホントにマスターってだけの存在に?冗談抜きでちょっと危機感覚えてきた…何とかしないとっ。



「ナミちゃん〜、シャムちゃんと一緒に〜しっかりおやりなさいね〜。それはそれで良しとして〜、うちのヒナは〜ナオトさんが貰ってくださるのかしら〜?」


「そういえばティシャもですね。あんなに懐いていましたし」


「ん?流石にそれは…。どうなんだ?ヒナ」


「ティシャもナオトと一緒になりたいのか?」



「「うんっ!」「はい…///」」



 あ、詰んだ。

 いや、まぁメンバーに入っちゃってた時点でほぼ詰んでたんだけど、これでもう完全に詰みだ。

 ホント懐かれちゃったなぁ…ここまで懐かれるなんて思ってもみなかった。

 いいや違うな、二人が可愛過ぎるのが悪いんだ、どうしたって構いたくなっちゃうんだから、俺が。


 …どう考えても俺のせいですね、二人のせいにしてごめんなさいっ。



「あのですね、その…二人もですね、フラウと同じように、俺のメンバーに入っちゃってまして…」


「あら〜やっぱり〜そうなのね〜。良かったわね〜ヒナ〜」


「うんっ!お姉ちゃんたちといっしょなんだよー!」


「ティシャも良かったわね。ナオトさんなら私も安心だわ」


「うむ…まぁ、少し早いとは思うが……ナオト以上はそうそう居ないだろうしな…」


「そうだな、ここは素直に喜ぶべきところだろうな」



 やっぱり認めてくれちゃうんですね…。

 漂流者ってだけで優待されてるよな、これ。

 元の世界だと間違い無く冗談のレベルだと思うし、冗談じゃなかったとしたら猛反対されるというか、通報されてもおかしくないんだけどな…。

 


「えっと…こうなったからには、責任持って二人の事大切にしますので……」


「ヒナリィの言う通り、ウチらもおるしな」


「そういうこったな」


「うんうん〜」


「……わたし、も……ヒナ、リィと…ティシャ、のこと……護る、よ………」


「まだこの場にいない人も少しいるんですけど、みんな同じ気持ちですから」



 こうなったからには本当にしっかりやらないと…けど今の俺には失敗した経験があるから、同じ過ちを繰り返さないようにすればやれるはず…。

 ただ、ちょっとお嫁さんにって言われると今はかなり抵抗があるんだけど…自分の娘として接してるし。

 そこは深く考えず今まで通りで、先の事はまたゆっくり考えよう。

 決して放棄してるわけでは無い、元の世界では何も考えず行動してた結果ああなったんだから、今度はしっかり考える癖をつけないとって思ってるし。



「ふむ、なら今回の報酬はやはりこれで良かったようだな。二人共、これが今回の報酬だ」



「「…?」」



 そう言ってゲシュト様が、俺達で平らげた昼食の食器が既に下げられて、食後のティーカップしか乗っていないテーブルの上に二つ、大き目なアンティークの鍵を俺と弘史の前にそれぞれ差し出してきた。


「…この鍵が報酬、ですか…?」


「あぁ。二人共私の領地の専属になったんだ、拠点として構えるのならそれなりの場所が必要だろう?」


「ってことはこの鍵、俺達の家の鍵ってことか?」


「つまり…家が報酬ってことですかっ!?」


「そういうことだ。それなりの家を用意したつもりだ。丁度良い物件があってな、修繕や生活に必要な家具なども全て揃えてあるから、すぐにでも住めるはずだ。見て不足しているものがあったのならこれで買い揃えるといい」


 と、今度は布袋をドンっとテーブルの上に乗せた…いつの間にかセヴァルさんがトレーに乗せて持って来たものだけど。

 テーブルの上に乗せた時、ジャラジャラって音がしたから多分硬貨だとは思うけど…いくらなのかは分からない。


「えっと…これがいくらくらい入ってるのかは分かりませんけど、報酬にしては過分な気が……」


「専属の話をした時に言っただろう、それなりの支援もすると。それも含めてだ、遠慮無く受け取ってくれ」


「いいのかよ…さすがに家までとは思ってなかったぜ?」


「それだけ二人に期待してるということだ。これからもこの街をよろしく頼む」



 おう…期待度が半端ない……。

 確かに専属の話を受けた時、拠点にするなら家でも借りようか、なんて思ったけど、まさか用意してくれるとは想定してなかったって。

 けど、これで皆と一緒の居場所が出来たってことか…。

 嬉しいことは嬉しいんだけど、俺自身を早くどうにかしないとダメな気が…今自分に起きてるこの異性関係の状況が、未だに創作物の中でしかあり得ないと思ってて完全に信じられてないっていう。

 現実と創作物の中の区別は嫌というほどついてるし…ハーレムなんて特に。

 流れに任せてここまでになっちゃったけど、これからもどうなることか全く予想付かない…。

 とにかく一度しっかり皆と話し合おう、うん、それしかないよな。

 そう考えると今回のこの報酬は良かったってことになるのか…かなり過剰報酬のような気もするけど。

 


「この街のことは当然そのつもりですけど、本当に貰っちゃっていいんですか…?」


「構わんと言ってるだろう。相変わらず遠慮ばかりだな、ナオトは。こういうのは黙って受け取るもんだ」


「んじゃ俺はありがたく貰っておくぜ、ありがとよっ」


「…じゃあ、俺も遠慮無く受け取ることにします。ありがとうございます」



 用意してくれたものを無下には出来ないし、実際拠点となる場所が出来るのはこっちとしても助かるし…だから素直にありがたく受け取ることにした。

 これも漂流者特典なんだろうな、きっと…。



「うむ。早速見てきてはどうだ?場所は案内させるぞ」


「旦那様、その役目、私が承ります」


「セヴァルがか?場所は分かるのか?」


「はい、先程執事長にお話を聞かされましたので」


「そうか、なら頼むとしよう」


「ありがとうございます。ではナオト様、ヒロシ様、ご案内致します」



 セヴァルさんが案内役を買って出てくれたので、これから家まで連れて行ってもらうことに。

 勿論ひぃとティシャ、フラウも一緒。

 メイドさんも何人か、というか皇都まで一緒だった顔触れで、セヴァルさんともう一人いた執事も付いてくるみたいだ。

 案内してもらうだけなんだからそんな大所帯じゃなくてもいいのに、と思うんだけど何故か皆さんご一緒させていただきますと頑なだった…何でだろ?


 とりあえず、報酬で貰った家を確かめる為、俺達は領主城を後にした。



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