#31 ガルムドゲルンへの帰路
カッツの話を聞いて、4日後ここで会う約束をした後、そんなに時間も経たずブリュナ様達がやって来た。
皇都に来た時と同じ数の馬車で面子も全く同じ、となれば当然乗る馬車の面子も同じってことなんだけど、弘史達はメンバーが一人増えてるから実はギュウギュウ詰めだったり。
モリーはもう完全に付いてくる腹積もりで、引き継ぎした日に何から何まで全部片付けてたみたい。
ギルド関係は勿論、住んでた家まで引き払って。
荷物はそれ程無いらしく、個人持ちの魔法鞄で事足りたそうな。
まぁ、何故か弘史のメンバーになっちゃってるみたいだし、ラナもこっちにいるしで皇都にいる理由が無くなったって事だろうな。
割と身体の小さいモリーは、フラムの膝の上で何とかなったっぽい。
ちなみにリズはというと…まだリオの膝の上に居たりする。
もう帰り道分の日数は使い切ってるから、先にリズだけ転移で送ってやろうとしたら、
「んー、もうここまできたら最後までみんなと一緒にいるよー、ユリカには悪いけど。ま、大丈夫でしょ、きっと」
と、かなり楽観視してた。
何を根拠に大丈夫だと思ったのか謎だけど、本人がそれでいいなら最早何も言うまい。
クリス女史の絶対零度が発動しても俺には何も出来ないからな…?
皇都からガルムドゲルンへの道中は来た時と打って変わって魔物の遭遇率が半端無かった…単体だったり集団だったりと。
「シータっ!空の魔物は任せたっ!アーネ達は右の奴らを頼むっ!弘史達は左なっ!」
「了解やっ!」
「っしゃ、いっくぜぇっ!」
「知美はシータちゃん援護してやれっ!フラムは俺達の援護なっ!モリー、いくぜっ!」
「「は、はいっ!」「了解したっ」「分かったわっ!」」
「あのデカブツは俺「……わたし、が……相手、する………」………分かった…。リオ、頼む………」
最早指示出ししか出来ない俺…いやいや、ここでひぃ達を守るのが俺の役目なんだ、と無理矢理納得させて駆け出していった皆を見守ることにする。
皇都へ来る時に遭遇した魔物は商隊が襲われてた時だけだったのに、何で帰りに限ってこんなに居るのかと。
そういやオーガが──
「全てノ魔物を我の配下に置いてイるわけではナイ。そんな面倒なコトはしたくもないカラな。魔物は本能的に魔石を体内に持たヌ者、体外から取り出しタ魔石を持ツ者を問答無用で襲ウ。そ奴ラは冒険者達が間引くのダロう?」
──とか言ってたっけ。
何かお前が楽してないかと思わなくもないけど、オーガがこっちに来る前からこの世界ではそれが普通だったんだろうから、そこは冒険者としてやるべきところなんだよな。
こっちに魔物が来ないか注意しつつ皆の状況を確認してみた。
空中の魔物は鳥型のヘルホークってマップ上表示されてる。
見た感じ元の世界にいた鷹なんだけど大きさが全然違う…小型の戦闘機くらいあるんじゃないか?
それが5羽、編隊を組んでいて今にも突撃してきそうだ。
「みんなの所には行かせへんでっ!喰らいやっ!〔雷炎颶風〕ッ!!」
シータの魔法、炎に加えて雷も纏った風の渦がヘルホークの編隊目掛けて放たれる。
3属性複合とか凄いなシータ…。
それを回避しようとしたヘルホークだけど、激しい渦の勢いに抗えずそのまま吸い込まれると、炎に包まれながら更には雷にも撃たれ、その身から黒煙を発しながら墜落していった。
2羽辛うじて回避出来たみたいだけど、気流が乱れているせいかフラフラしててまともに飛べていない。
「カ、カノンちゃんっ、弐弐式っ!」
「ニャニャ〜!武装変態〜『弐弐式対魔対空軽高射砲〔アロードスピナーⅣ〕!』」
知美ちゃんがいつの間にか呼び出してた使い魔カノンちゃんに指示を出したら、カノンちゃんが小さ目の対空用ニ連装高射砲になった。
ご丁寧に台座付きで直ぐさま知美ちゃんがそこに座り残り2羽のヘルホークに向かってブッ放す。
「イッくよーっ!アハッ!アハハハハっ!」
高速で射出された魔力の弾丸は、不安定になって恰好の的と成り下がってしまっているヘルホークを容赦無く打ち抜き撃墜した。
あー、知美ちゃんってやっぱりトリガーハッピーだったのね…ホント別人格だわ。
右からの魔物はオークが10体程で、そっちに行ったアーネ、ラナ、マールにはちょっと荷が重過ぎるんじゃないかと思った…けど、それは杞憂だったみたい。
「んじゃいつものパターンでいくぜっ!ラナぁ!」
「分かったっ!すぅぅぅうう……『アォォォォオオオンンンッ………』」
ラナが固有スキル、〔眠りの咆哮〕を使ったらしく、遠吠えがこっちまで聞こえてきて…やっぱりひぃとティシャ、それにフラウは眠ってしまった。
今は皆を目視出来る距離だから効果も相当だったみたいで、言葉を発する間もなくその場で崩れ落ちるように眠った…倒れる前にちゃんと抱きかかえたけど。
眠った二人を馬車の中に寝かせて、また周りを注視したらアーネ達が対峙していたオークは半分くらい地面に倒れていた。
かなり優秀なスキルだな、あれ…数の有利を打ち消すにはもってこいだ。
とは言ってもまだ魔物の方が数は上で、どうするのかと見ていたら、アーネが皇都で買い揃えたミスリル製のスローイングダガーを8本、指の間に挟んで抜き、それを一斉に眠らなかったオーク目掛けて投げ放った。
「喰らいやがれっ!〔リターニング・アサルト・ダガー〕ッ!!」
アーネの指の間から解き放たれたダガーが3体のオークに次々と突き刺さる。
普通はそこで刺さって終わりなんだろうけど、アーネが投げたダガーはそこから何故か勝手に動き出し、横に縦に斬り裂いた後、アーネの手許に戻って来て、それをまたさっきと同じように投げ放っていた。
ブーメランみたいなことをダガーでやってるような不思議な感じ。
次々と狂い無く手許に戻って来るダガーを間髪入れずまた投げ放っていくそのさまは、踊ってるようにも見える。
それを数回繰り返したところで3体のオークが倒れた…魔石からの魔力伝達が維持出来なくなったんだろう、身体は消えてないから魔石は砕けてないと思う。
残っていたオークはマールの方に向かって行ってたけど、それはラナが大盾で防いでいた。
こっちには2体来てたんだけど、オークが力任せに振り下ろしたこん棒を真正面から馬鹿正直に受け止めるんじゃなくて、大盾を上手く駆使して流すように受け止めてた。
オーク達は勢い余って体制崩してるし。
あんな大きな盾、それこそ自分の身体をほぼカバー出来るくらいの盾をそんな風に扱えるとか、ラナからは想像付かなかったな…正直びっくり。
そんなラナに守られながら後ろにいたマールがメイスを掲げて魔法を発動させようとしてる…けど、マールに攻撃出来るような魔法なんてあったっけ…?
あ、そうか、職種変わってたんだった。
ってことは今発動させようとしてるのは…邪霊魔法かっ。
「ラーちゃん下がって!いきますっ!〔イビレイト・ホーリーレイン〕っ!」
マールの掛け声で咄嗟に後ろへ下がったラナがオーク達から距離を取り、体制を崩してたオーク達の足許に黒くて丸い魔法陣が、そしてそれと対を成すようにオーク達の頭上に白く輝く魔法陣が現れた。
足許の魔法陣からは黒い手のようなものが幾つも生え伸びてきて、それが這うようにオーク達の身体に巻き付いてあちこち掴み、動きを封じる。
そこへ頭上の白い魔法陣から槍のような光線が雨みたいに降り注ぎ、身動きが取れなくなったオーク達を貫く。
こっちはその光線が魔石を砕いたんだろう、その場でサラサラと消滅していった。
スキルまで聖邪混濁だった…称号は伊達じゃないってことね。
「オラオラオラァ!かかってこいやぁっ!」
左の弘史達の相手はコボルトだけど数が少し多い。
マップで見た感じだと20体ちょっとは居る。
そんなのはお構い無しで弘史は剣で無双してた。
うん、手合わせした時十分強いと思ったし、コボルト程度なら剣でも余裕だろうな。
弘史が囲まれそうになると、フラムが弓矢で弘史の不利にならないよう上手く援護射撃してた。
何より凄いのは、フラムの矢がほぼ魔石を射ち抜いてるってところ。
矢を当てた魔物はほとんど消滅してたし。
で、モリーはというと…めちゃくちゃ素早い動きで右へ左へ駆け回り、すれ違いざまに両手の斬撃で魔物を斬り刻んでいった。
得物はカタール、まさかのアサシンだった…。
フラムの射線に入らないよう動き回って、弘史から遠目の魔物を狙って倒してる。
これは完全に攻撃型のパーティーになったなぁ…でもまぁ弘史には合ってるんじゃないかな、結構勢い任せなとこあるし。
残りのデカブツ…パッと見キ○グ○ドラみたいなんだけど、首が5本で頭は蛇、尻尾が三又に分かれてる巨体で、対峙してるリオが簡単に踏み潰されそうなくらい。
マップ上の表記はヒュドラスラギア、名前からして怪獣っぽい…。
リオ大丈夫かな?なんて思ってたら…
「………竜、変化…………」
…リオが竜化していきなり怪獣大決戦っぽくなった。
竜化したリオの方が若干大きくて、相手がちょっと怯んでる。
まさか自分より大きい相手が現れるとは思ってなかったんだろうなぁ。
俺もまさかリオがこんな所で竜化するとは思いもしなかった。
けど、洞窟で会った時以来のドラゴン姿、やっぱり格好良いっ。
リオがドラゴンの姿で咆哮したら、5本の首が狼狽えるようにうねうねしだして身体は後退ってる。
そんな相手にリオが口から火炎弾を撃ち出して…大爆発を起こしヒュドラスラギアは四散してしまった。
こんな感じの戦闘が何回か行われて、行きとは全く違う旅路になった。
ただ、それも皇都から割と近いところだけで、そこを抜けたら一気に遭遇率が下がって…野営なんかは拍子抜け、見張りなんか必要なかったんじゃないかと思うくらい魔物の気配すら感じることは無かった。
こうして俺達は無事ガルムドゲルンに帰ってきた…いろいろあったけど、概ね良好だったんじゃないかな。
魔王と神様に会ったってところ以外は。




