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#12 服と防具



 思った通り冒険者ギルドの隣沿いには武器屋、防具屋、道具屋、それに魔導具屋が並んでた。

 防具屋に服も一緒に置いてないかなーと思って軽く中を覗いてみたけど、防具オンリーだった。

 やっぱり別物扱いか、しゃーない、服屋を探そう。


 おっと、意外と近くに服屋発見!これでやっと物珍しい目線から解放されるか?早速入ってみるべし。



 おぉー結構な品揃えっぽいぞ、これは期待出来そうだ。


「ご来店ありがとうごさいます、『アウテックチューリオ』へようこそ」


 お店の中に入ってキョロキョロ見回してたら、お店の人に声掛けられた、店員さんかな?


「おや?漂流者の方ですかな?」


 おぅ…スゴいシブいオジさんだ、服装も店員に見えないくらいビシッと決まってる。

 なんていうのかな…パッと見スーツっぽいんだけど少しゴツい感じがする…肩の辺りとか。

 冒険者用のスーツみたいなものなのかな?


「はい、お察しの通りです。今日来たばかりでして」


「ほう、それはそれは。ではこの世界の服装をご所望ですかな」


「ええ、先程冒険者登録したので、冒険者らしい服が欲しくて」


「なるほどなるほど。では、当店自慢の商品を店長であるこの私、ザッファディナージョがご紹介致しましょう」


 店長さんだったのか、確かに店員さんにしては貫禄あるなぁとは思ったけど。

 店長さんのオススメなら安心かな?


「店長さんでしたか、ではすみませんがお世話になります」


「ええ、承りました。冒険者らしい服装をご所望とのことですが、参考までに職種を伺っても?」


「はい、えっと、ギルドでは魔法剣士とし登録してきました」


「魔法剣士ですか…それはまた稀少な職種で。流石は漂流者と言ったところでしょうか。そうですな…魔法も使うでしょうが剣士としても、というのであれば、やはり動き易さを重視した方がよろしいですかな」


 刀剣使うつもりだからな…動きやすい格好じゃないと。

 せっかく若返ったことだし、どの位動けるか試したいのもあるからな。


「そうですね、その方向で問題ありません」


「ふむ、そうですな…色合いの希望はおありで?」


「出来ればあまり目立たない感じにはしたいのですが」


「なるほど、それであれば…こちらなどはいかがですかな?」


 差し出されたのはベージュを基調とした厚手のシャツとカーゴパンツっぽいやつだ。

 確かに冒険者としてよく見かけるような服装と色合いで、これを着ればまず目立つ事はないだろうな。

 流石は店長さん、良いチョイスをしてくれる。

 うん、これでいいか、これだけの品があってこの中から自分で見繕うと結構時間掛かりそうだし…と思ってサラッともう一度商品を見回してたら……目に入ってしまった、見つけてしまった。

 あ、アレはダメだ、と頭の中では分かってるはずなのに、もう目が離せなくなってる。


 誰だあんなデザイン考えたやつ、絶対漂流者発案だろう!


「おや、あちらの商品が気になりますかな。いや、お客様もお目が高い」


「あ、いや、気になったというか何というか…」


 凝視してたら店長さんに気付かれた、あんだけ見つめてたらそりゃ気付かれるよな…。


「あちらの商品は、去る漂流者の方からの意見を参考に私自ら手掛けたものでございますよ」


 あぁ…予想通りだった……これでこの世界に俺と同種の持病持ちがいるってことが確定したわ。

 似合う似合わないの話じゃなく、これ間違いなく称号に逆らえなくなってる…ダメだ、この店を選んだのは失敗だった!


「は、はぁ、そうなんですか…な、中々良く出来てますね、ははっ」


「あれは私が手掛けた作品の中でもかなり満足のいく作品になってますからな。どうです?お気に召されたようであれば試着してみてはいかがですかな?」


 あ、詰んだ。

 袖通したらもう完全に詰みだ、分かる。

 分かっちゃいるのにアレの魅力を振り払えない……。


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…試着してみても、いいですか…?」


「もちろんですとも。只今お持ちしますのであちらの試着室へどうぞ」


 あぁ…終わった、終わったよ……これ、他の漂流者に会ったら言い訳のしようがない。

 出来るだけ目立たないようにしようと思ってたのに、アレを着て目立つような事したら二つ名とか付けられるの不可避だぞ…あぁもう逃げたいのに逃げられない……。


 店内の隅っこに設置されてる試着室前で待ってたら、店長さんがソレを持ってきてくれた…頭の片隅で拒否りたいと思ってるはずなのに、身体が勝手に動いてソレを受け取ってしまった。


「では…すみませんが試着させてもらいますね……」


「えぇ、どうぞどうぞ。存分にご堪能ください」


 受け取ったソレに着替えた後、試着室の備え付け鏡に映った自分を見て、愕然としつつも歓喜している俺…もう救いようがない。


 全身黒だったのは着替える前と変わらないんだけど、無駄に飾りベルトの付いた革製のパンツ、それっぽい紋章が入った大き目のバックル付ベルトと左右のベルトポーチ、そして何故か道着風のインナーと赤でラインや模様が入ったロングコート……そういやこっち来てから初めて自分の容姿確認したけど、身長が若干伸びてる以外転生前とほとんど変わってないな…若返っただけで、バンドやってた当時の脱色で金髪にして腰辺りまで伸ばしてたロン毛を後ろで無造作に束ねてたまんまじゃねーか…こっち来てから俺、この顔と髪と部屋着姿で歩いてたのか、そりゃジロジロ見られるわけだ。


 兎にも角にも厨二病全開、闇黒魔刀剣士の出来上がり…後はこれに見合う防具と左腰に刀、背に片手直剣背負えば完璧だなっ!




 もうどうにでもなれ。




 試着室からそのまま出て店長さんに見てもらった。


「これはこれは…予想以上ですな、素晴らしい、大変良くお似合いで。着心地などは如何ですかな?」


「あー、はい、着心地からサイズから何から何まで完璧です…」


「ほう、それはもうお客様の為に私が作り上げたとしか思えませんな。では、そちらをお買上げということでよろしいですかな?」


「はい…もうこのまま着ていきます……」


「畏まりました。他にも入り用な物はございますかな?」


 ジャストフィットした厨二服そのままで、着替えた部屋着は回収、もちろん売らないよ。

 他にも必要なものって聞かれたから、下着とかを数着適当に選んで店長さんに渡した。


「これも一緒にお願いします。いくらになりますか…?」


「そうですな…漂流者の縁もあり、しかもそちらの自信作があまりにもお似合いでしたので、値引き致しましょう。合計で2000セタル、で如何ですかな?」


「はい、ではこれで…」


 無限収納から大銀貨2枚を出して店長さんへ。

 あぁ、本当に買ってしまった…もう後戻りは出来ない……。


「はい、確かに。お買上げありがとうございました」


「…こちらこそ、ありがとうございました」


「今後とも当店『アウテックチューリオ』をご贔屓に。またのご来店、お待ちしておりますよ」


 シブい顔なのにとても爽やかな笑顔の店長さんに見送られて店を出た…精神的に疲れてるはずなのに、俺も笑顔浮かべてるよ、きっと。

 いや、笑顔っていうかニヤけ顔だ、間違いなく。

 もうイタいの超越して大満足だわ…。


 覚悟を決めてそりゃもう堂々とした態度で歩き出したら、ほーら、道行く人が遠慮なくガン見して……こない?あれ?普通に通り過ぎてったよ…。

 ん?なんで?さっきの部屋着より全然視線感じないんだけど…?え、こっちの世界だとさっきの格好の方が珍しいってこと?いやいや、まさかそんな…でも待てよ、普通に商品として置いてあるってことは、誰かが持っててもおかしくないわけで…一点物とかだったら別だけど、似たようなデザインのものが出回ってる可能性もある……?ま、まぁとにかく視線が気にならなくなっただけでも十分マシになったと思っておこう。


 当初目指してた冒険者!って格好からは相当かけ離れたけどな…。



 よし、このまま次は防具だな、もう吹っ切って今のこの姿に相応しい防具にしてやる!防具屋に無かったら自分で創ってやるよ!って意気込んでさっきチョロっと覗いた防具屋に再び入って、今度はよーく見回してみたら……あったよ、この服デザインしたやつの仕業だ、絶対、間違いなく、寸分違わず、同一人物の漂流者発案だと断言してやる。


 弓道の胸当てに似た形のブレストレザーアーマー、腕は剣道の籠手風が右手側、ちょっと刺々しい感じのガントレットが左手側、脚部は左手ガントレットと同じ刺々しい感じのグリーブが右脚、戦国鎧の具足風が左足、そしてメタリックなアクセサリーが付いた黒革のブーツ…もちろん全て黒ベースで赤いラインや紋章みたいなものが付いてたり。

 服もそうだったけど、和洋折衷のデザインなんだよな…防具に至ってはアシンメトリーになってるし…俺が厨二病時代に考えてた設定通りの装備だよ……。

 ともかく、今更もう迷いなんかないっ、買うしかないだろ!発案者の思惑通りになってやるよ!


「すみませーん」


「あん?…なんじゃい、さっき冷やかしに来た小僧か」


 誰もいなさそうだったから少し声張り上げて呼んでみたら、奥の方からずんぐりむっくりした背の低い髭親父が出て来た。

 もしかしなくてもドワーフってやつだな、うん、イメージ通りいかにも職人!って感じ。


「あー、先程はすみません、衣服類があるか確認したかったもので…」


「ふん、服と防具は別物じゃろうが。そのくらい常識じゃ、と言いたいところじゃが…お前さんが漂流者なのはさっき冷やかしに来た時に分かっておるわい」


「仰る通り、しかもこの世界に来たばかりでして…常識もこれから覚えていこうかと」


「なるほどのう、来たばかりじゃったのか。それで先に服を揃えてきたわけじゃな。中々様になっとるのう、さっきの格好より断然マシじゃわい」


 えぇぇ…やっぱりさっきの部屋着がおかしかったのか……まぁ、でもこの世界で今の格好の方が良いって言われるとなぁ…何かますます厨二病に磨きがかかりそうだ、良いのか悪いのか分からんけど。


「さっきの格好…そんなに変でしたか?」


「ん?あぁ、あんな真っ黒で飾りも何もない薄っぺらで寝間着みたいな服なんぞ着て歩いてたら、誰でも変だと思うわい」


「あぁ、そういう事だったんですね…どうしてあんなに見られてるのか不思議だったんですが、理解出来ました」


 服のデザイン云々じゃなくて、そういう理由だったのか…え、傍から見たらお前寝起き?とか思われてたのか…それはそれで恥ずかしい……今のこの格好も大概だと思うんだけれども。


「で、服の次は防具か?なんじゃお前さん、冒険者にでもなったのか?」


「ええ、先程登録してきました。明日から早速冒険者稼業をと思いまして、いろいろ準備中です」


「そうか、それならゆっくり見ていけ。うちの品はどれも一級品じゃからな」


「あー、実はもう決めてまして…アレが欲しいんですが」


 さっき見てた防具一式、アレ以外眼中にない!


「おぉ、アレか、お前さん案外見る目があるのう。アレはなぁ…作るのに苦労したわい。設計したのが漂流者でな、作る時になってあれこれ口出しされて煩かったわ。じゃが、まぁその甲斐あってか、かなりの高品質で出来上がったのがアレじゃ。見た目もそうじゃが性能も相当良い仕上がりになっておるぞ」


 はいはい当たり当たり。

 もうその漂流者の名前聞いとこうかな、会ったら絶対文句言ってやる、ふざけたモノ作りやがってありがとうごさいます!


「今着てるこの服も漂流者が発案したものなんですが…その人の名前はご存知ですか?」


「あぁ、そいつの名はな、オーガじゃ。本名かどうかは分からんがのう」


 オーガって…モンスターじゃねぇか、多分本名違うわ。

 もしかしたら名字か名前捩ってるかも知れんが日本人じゃない可能性もあるしな…まぁ参考程度に覚えとこ。


「ありがとうごさいます、ちなみに今もこの街にいたりします?」


「いや、結構前の話じゃが、皇都に行くと言っておったから、今は多分いないじゃろ」


「そうですか…会って話をしてみたかったのですが……ちょっと残念です」


「生きてりゃその内会えるじゃろ、アイツはしぶとそうだったからのう」


「そうですね、機会があれば皇都にも行ってみたいと思ってますし」


 しばらくはこの街で地盤を固めるつもりだけど、慣れて落ち着いてきたら行ってみたいと思ってるからな、いろんな場所に。


「もし会えたら、『ギアドルム防具工房』のギアンテが会いたがってたと伝えておいてくれ。この防具も売れたんじゃ、また新しいのを作ってやってもいいとな」

 

「分かりました、会えたら伝えておきます。多分ですけど、この装備付けてたら間違いなく向こうから声掛けてきますよね…きっと」


「あぁ、間違いないじゃろうな。アイツのことだから喜んで飛び付いてくるじゃろ。それまで無茶な使い方はせんようにな。定期的に見てやるからちゃんとここに顔は出すんじゃぞ」


 無茶な使い方するつもりは全くありませんが。

 痛いのイヤなのでダメージ喰らう予定は無いです、俺発案の闇黒魔法があればノーダメいけるはずだし。

 もうお気に入りになったから、服も防具も大事に扱うよ!


「その点は大丈夫だと思いますけど、顔は出すようにしますね」


「なんじゃ、エラい自信じゃのう。まぁ漂流者じゃからな、何があっても驚かんわ。ほれ、装備してみろ、具合が悪そうなら微調整してやるわい」


 そう言いながら棚からお目当ての防具を取って俺に渡してくれたギアンテのおっちゃん。

 早速装備してみたら、案の定ピッタリフィットしやがった。

 オーガってやつ、デザインも含め全部俺に合わせてきたってことは未来視のスキル持ってるな、高確率で…。

 ここまでくると服、防具共に俺の為に作ったとしか考えられないっての。

 ガントレットを付けた両手の具合をグーパー握っては開いて感触確かめたけど、全く違和感を感じない…馴染み過ぎてて逆にちょっとキモいわ……。

 でも最高に格好良いと思ってる自分が一番キモいよな、やっぱ………。


「予想通りピッタリでした…どこも具合悪くありませんよ」


「なんじゃオーガのやつ、元からお前さんのためだけに作っとったのか。具合もそうじゃがその服にもしっかり似合っとるわい。一端の冒険者にしか見えんぞ?」


「そ、そうですか…?大丈夫ですかね、この格好で歩き回ってても……」


「どこからどう見ても立派な冒険者じゃ、胸張って堂々としとれ。さもないと防具の方が浮かばれんわ」


 そこまで言われるとな…いや、もう覚悟は決めたんだから、このまま逝ってやるっ!


「ありがとうごさいます、ギアンテさん。遠慮なく使わせてもらいます!あ、お代はいくらですか?」


「ん?おぉ、そうじゃの…そいつはお前さん専用になっとるらしいからな、一式5000セタルにしておったが、4000セタルにまけておいてやるわい」


「いいんですか?なんかすみません…」


「あぁ、構わん構わん。まけといた分はオーガから巻き上げとくからの!ぶぁっふぁっふぁ!」


 こいつは是が非でもオーガに会わなきゃなぁ…ギアンテのおっちゃんの為に!

 待ってろよ同胞、いつか必ず会いに行くからなっ!


 さっき服屋で大銀貨使って4枚は無かったから、金貨1枚を無限収納から取り出してギアンテのおっちゃんへ。


「では、お言葉に甘えてこれでお願いします」


「ん、おぉ、ちょっと待っとれ、つりを持ってくるわい」


 金貨を持って一旦奥の方へ行ったギアンテのおっちゃん。

 待ってる間店内をもう少し見回してみたけど、なんて言うか、こう鎧やら盾やらがズラリと並んでるのを見ると現実離れ感があるな…やっぱり。

 改めて異世界に来たんだって認識させられる。

 このフルプレートアーマーなんて着て動ける奴いるのか?見た目かなり重そうなんだけど、もしかしてそうでもないのか?なんて考えながら防具眺めてたらギアンテのおっちゃんが戻ってきた。


「ほれ、つりじゃ。そいつを着けて冒険者稼業頑張ってこい」


「はい、頑張ってみます。また来るのでその時はよろしくお願いします」


「おぅ、いつでも来い、待っとるぞ」



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