#25 皇王の暴露
ひぃの自己紹介が終わった後に続いて、ティシャとフラウも同じく自己紹介し始めた…これでもうお嬢様達が主導権を握ってしまい、これ以上は何も口出し出来なくなったから、この場に居てもしょうがないってことで全員ホール内へ戻ることに。
うちのお嬢様三人はフィオに興味津々なようで、あれこれ話し掛けまくってた…ひぃに至ってはフィオの角まで触らせてもらってる始末。
こうなったらティシャ、フラウも当然黙ってるわけも無く、結局三人とも角を触らせてもらってキャイキャイ騒いでた…けど、フィオはそれでも嬉しそうにして角を触らせてあげてた。
魔王の娘なんだから魔人種ってことなんだろうけど、こうして見るとうちのお嬢様達と何も変わらない、年相応の女の娘だな…しかもひぃ達に負けず劣らず可愛い。
「えっと…人前で魔王って呼ぶのはマズいな…。オーガストって言ったっけ?」
「我のコトはオーガで構わんゾ。そのホウ等の名乗りハ聞いておらヌが」
「あー、すまん。俺はナオト、本名は遊佐尚斗で日本人だ」
「…俺はヒロシ、柳田弘史で尚斗と同じ日本人だ」
「ナオトにヒロシか。Hum、ジャパニーズなのだナ、覚エたぞ。我はアメリカンだ」
米国人…だから翻訳が変なのか?まぁ支障は無いからいいけど。
あと一つだけ気になる事が…オーガって、まさかコイツじゃないよな?俺の装備品の発案者…。
魔王がなにやってんだって話だし。
「で、オーガ、魔王に転生したのはいつ頃なんだ?」
「確カ…まだ1年は経っテいないハズだ」
「オーガ様が転生されたのは、今から9ヶ月と18日前でございます」
「Oh、そうであったタか。すまんナ、サラ」
隣にいたオーガの連れの女性、サラと呼ばれてた人が正確な日数を教えてくれた。
しかもオーガが転生してるってこともちゃんと理解してるみたいだ。
「何だかなぁ…お前全然魔王って感じしねぇから調子狂うわ…」
「我とて好キで魔王をヤっているわけでハないかラな。タマたま転生先が魔王だっタというだけダ。だが我はコレでよかっタと思ってイる…フィオに出会えたのだカラな」
「…どんだけ娘好きなんだよ。尚斗と同類かっての」
「お前、フィオ見たら誰でもそう思うだろう…異論は認めないぞ」
「あーハイハイ、同類同類。お前も魔王なんじゃねぇのか?」
んなわけあるか、子供好きに種族とか職種は関係ないだろ。
何を言ってるんだお前は。
「何でだよ、娘好きなら誰でも魔王とかそんなワケ無いだろっ」
「ナンだ、ナオトも同類なのカ。だがフィオはヤらんぞッ!」
「それこそ何でだよっ!歳考えろよっ!」
「Hum、ソレもそうダな。いやシかし…フィオが懐かんトも限らンしな…。ヨし、ナオト、お前はフィオに近付くナよ」
「そこまで言うのか…どんだけ溺愛してるんだよ……」
娘に近付くなとかちょっと酷くないか…いや、でもあれか、称号のせいで懐かれやすくなってるだろうし、オーガの心配も的外れではないのかも。
フィオお人形さんみたいで可愛いんだけどなぁ…仕方ないか、不用意に近寄るのは避けるとしよう。
「さテ二人共、この場でハゆっくり話すコトも出来ぬだろウ。そこでダ、明日我が家へ招待シようと思うガどうだ?」
「フィオに近付くなって言っときながら招待するのかよ…何なんだ、まったく」
「勿論お嬢さん達ニも来てもらいタイのだが」
「おい、勘違いすんなよ、あいつ等は俺達の娘じゃねぇからな」
「…違うのカ?」
「見りゃ分かんだろーが。俺くらいの歳であんな娘がいるわきゃねーだろっ」
まぁ、普通はそうだよな…逆算すると小学生の時にってことだな。
オネショタかよ…いや、弘史ならありそうか…?
って、こっちの世界に来てからあの歳の娘はどう頑張っても無理だ、うん。
今の俺にも当然無理。
「でハ、二人は何故コこに?」
「俺達は純粋に付き添いだよ。あの娘達の希望で連れて来られただけだ」
「なるほド、そういうコトか。ならバお嬢さん達の身内はどこニ?」
「んー…あぁ、あそこにいる…って、ん?」
見回してみて残ってた皆を見つけはしたけど、誰かと話してるみたいだ。
相手はどっかで見たような…しかもつい最近。
「おい、ありゃ王様じゃねーのか?」
「あ、そうだ。皇王陛下だ」
最近どころじゃない、ついさっき壇上で見たばかりの人だった…あとよく見たら陛下と一緒にあいつ等もいるっぽい。
あれかな、やっぱり襲撃の件の話をしてるんだろうか…だったら今寄って行くのはダメな気がする。
襲撃を指示した張本人がここにいるわけだし…。
「Hum、ゼクトと一緒にいる御仁か。デは挨拶しにイくとしよウ」
「え、ちょっ、おい…っ」
そう言ってスタスタ歩いていくオーガ。
待て待てっ、お前が行ったらマズい状況になる…って、よくよく考えたら魔王って知ってるのは俺達だけなのか…?
いや、でもゼクトってもしかして陛下のことか?陛下を呼び捨てって…どういう関係なんだよっ。
と、こっちで気を揉んでることなんか全くお構い無しで向かって行くオーガに付いていくしかなく、皆の所に辿り着いたら…
「ん?おぉ、オーガ、お前も来てたのか。ってそりゃそうか、フィオも10歳だったな」
「フィオのお披露目ニ我が来ないはズがなかろウ。ゼクトの子供達も同ジだろう?」
「あぁ、俺んとこも同じだ。ま、これからも仲良くしてやってくれ」
と、お互い気軽に話しだした…。
陛下の子供達はフィオを見つけた途端寄って来て、女の娘の方はフィオに抱きついてた。
どうやら相当仲が良いらしい。
側に居たうちのお嬢様達含め、益々かしましくなってる…若干皇子一人戸惑ってる感じだけど。
で、今陛下と話してる最中だったブリュナ様がオーガのことを聞いてきた。
「陛下、こちらの方は?」
「ん?あー、コイツはオーガ、オーガスト・エア・グランフォードっていってだな、最近俺の国の貴族位をくれてやった奴だ」
「そうなのですか」
「ちなみにコイツ、魔王な」
『『『『『………は?』『……え?』』』』』』
おいっ、いきなり暴露しちゃってるぞっ!?
え、知ってて貴族位なんか与えちゃってるのかっ!?
「HaHaHaッ、いキなりバラすとはナ、ゼクトらしい」
「今更隠してたってしょうがないだろうが。逆に広めるべきだな、魔王をも御する俺の凄さってやつをなっ!」
「Hum、それもアリだな、HaHaHaッ!」
何だこれ、ちょっとおかしくないかっ!?
どーなってんだよっ、この国大丈夫なのかっ!?
「ソれはそれトして、先日の件はスマなかったな」
「あー、まぁそれもしょうがないだろ。ブリュナに話を聞いた感じじゃ何とかなったみたいだしな。こっちからもコイツ等出してやったんだ、上手くいくって決まってたようなもんだ」
「…そうカ。手間を掛けたナ」
「気にすんなよ、これも俺の仕事の内だ。ってなわけでオマエ等全員ご苦労だった、悪いな」
「…あの、陛下…。話が見えないのですが……」
「ん?おぉ、アレだ。襲撃の件、元々コイツに相談受けててな。ガルムドゲルンにって決めたのは俺だ」
『『『『『………』』』』』
……それじゃ、なにか?この皇王も知っててガルムドゲルンを襲わせたってことなのか?
冗談だろ…って、そうか、端っから事情知ってるんだったらそうするしかないのか…烈達が居るからどうにかなるって算段だったってこと?
それはそれでどうなんだと思わなくもないけど…。
ただ、それならそうと最初っから説明しといてくれてても良かったんじゃないのか?それだったらあんなにバタバタする事も無かっただろうし。
「どうしても避けられん事情があったんだ、そこはもう俺の責任にするしか無いだろ。まぁ、アレだ、事前に言っちまうといざと言う時動けなくなるからな。命懸けの大規模実戦訓練って事で許してくれ」
「…スマぬな、我のせいデ命の危機に晒してしまっタ。許してホしい」
そう言って頭を下げる魔王のオーガ。
許してって言われてもなぁ…ハイ許しますって簡単に言えるものでもないだろ、これ。
「そうですか、陛下のお考えであれば納得です。幸い人的被害はありませんでしたから、実戦訓練としては最上の結果かと」
え、そこで納得しちゃうのブリュナ様っ!?
あ、いや、そうか…この世界では魔物の襲撃なんて日常的にあることなんだよな…それを含めて皇王が決めたことなんだし、納得するしかないのか。
「僕達がわざわざ出向いたんだから、当然の結果だよ。何も問題なんかないだろう?」
「だよねーっ、こうしてみんな無事なんだしっ」
「おう、オマエ等も良くやってくれたぜ。この俺が見込んだだけのことはあるってもんだ」
わざわざって…ちょっと言い方ってもんがあるだろう。
それに悪いけどあの亀はお前等だけじゃ無理だったからな?敢えて言うつもりはないけどさ。
別に手柄欲しさや実力誇示するためなんて端っから思っちゃいなかったし。
「ま、そういうわけだ。ある程度の報告はシャナルから聞いてる。今もブリュナに大体聞いたが、細かいところは明日でもいいだろ。今日はガキ共が主役なんだ、この場ではもう十分だな」
「そノ亊なんだガな、ゼクト。ブリュナ殿と言ったか、そちラの御仁を我が家へ招待しヨウと思ってな、声を掛けにきたのダヨ」
「私をですか?」
「Hum、正しくハお嬢さん達をダな。フィオの友人として招待したイ」
オーガがゼクト陛下を押し退けてブリュナ様を誘おうとしてる…娘の為ならホントに何でもするんだな。
何となく分かってしまう俺も俺だけど…ひぃ達の為なら余裕です。
「おいおいオーガ、そりゃ何か?俺んとこのガキ共をハブろうってのか?あ?」
「ノルンとロランにはいつでモ会えるではナいか。ブリュナ殿はガルムドゲルンから来られたのダろう?でアればこちらを優先すルのは当然だ」
「あー、そりゃまぁそうだがな…。んじゃそれに俺んとこのガキ共も混ぜてやってくれや。ブリュナにゃ悪いが明日城に来てもらうぞ」
「はい、承知しました。ナオト、ヒロシ、済みませんが明日、そちらで妹達をお願いしてもいいですか?」
おっと、そう来たか…折角皇都まで来たんだから、こっちでどんなクエストが有るのか見てみたかったんだけど。
いいのがあったらやってみてもいいかなぁって。
皆はどうなんだろ?
「えっと、どうしようか?みんな」
「ウチは別に構へんけど…」
「アタイも別に構わねぇぞ。そろそろ身体動かしてぇけどな」
「………烈魔王、の……ところ、に…行く、の……?………」
「あー、うん。今日みたいなお嬢様達の付き添いになるかな?魔王は俺達と話したいみたいだからなぁ…。まぁ、俺も同じ漂流者だから聞きたいことが少しあるんだけど」
「みんなが行くんならワタシも付いていくよー。そろそろガルムドゲルンに戻らないとだけど、まぁ大丈夫でしょ」
リズのそれは明らかにサボりだろうな。
後でどうなっても知らないぞ…クリス女史にこってり絞られたって助けてやれないからな。
「わたしはナオトさんに付いていきますから、ナオトさんにお任せしますよ」
「私もぉ〜ナオちゃんにぃお任せぇするよぉ〜。リーダーだしぃ、マスターだしぃ〜ねぇ〜」
いや、マスターは関係無い…よな?
あ、でもリズが居るなら関係無くもないのか…パーティー外だもんなぁ。
でもまぁ皆大丈夫そうだからとりあえず行くことにするか、ひぃ達の為でもあるし。
「それじゃみんなにも付き合ってもらうな。弘史達は?」
「んー、俺らも別に構わねぇや。いいだろ?知美、フラム、モリー」
「は、はい。構いません、よ」
「ヒロシがそう決めたのならそれでいい」
「ま、ヒロシが行かないって言ったらアタシが引きずってでも連れてくけどねっ」
「引きずってって…何でだよ」
「ラナが行くんだから当然アタシも行かないとダメに決まってるからよっ」
「あー、そゆことね」
モリーは相変わらずラナにご執心だった…どんだけ好きなんだ、ラナのこと。
もう勝負とか全然関係無くただ付いていくだけになってるし。
「了解。それじゃブリュナ様、明日もお嬢様達の付き添い、任されました」
「ありがとうございます。では明日よろしくお願いします。妹達はこちらで直接オーガの家に送っていきますので」
「分かりました、俺達も直接オーガの所に行きますね」
と、いうことで明日の予定が決まってしまった…こんな場所で。
それもこれも魔王になんか会ってしまったからだ…何て縁だ、全く。
俺は勇者ってわけじゃないんだからな、そこんとこ間違えないように。




