#22 お嬢様方たっての希望
―・―・―・―・―・―・―・―
──グラウデリア皇城内、女性用控室
「なぁ…これ、ホントにいいのかよ…?」
「さ、さぁ…ウチに聞かれても分からへんて…」
「でもぉ〜みんなぁ綺麗でぇ可愛いよぉねぇ〜、ふふっ」
「………みん、な……素、敵……………」
「ほ、本物のお姫様みたい…みんな」
「いや、アナタ達は本当に姫でしょ。っていうか、なんでワタシまで…」
「ふ、ふんっ。やるわね、ラナ…。でもアタシだって負けてないわよっ!」
「あぁ、モリーも十分可愛らしいぞ」
「そ、そうですよっ。わわ、私なんてこ、こんなのに、似合わないです、よ…」
「そんなことはありませんよ。とても良くお似合いです、トモミさん」
「皆様、どこからどう見てもお美しいです」
「うんっ、お姉ちゃんたち、みんなキレイーっ」
「すてきですわ、お姉さまがた」
「本日はよろしくおねがいいたしますね、お姉さまがた」
「ったく、どーなっても知らねーぞ……」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
「なぁ、俺達なんでここにいるんだ?こんな格好までして」
「知らねーよ、ブリュナに聞けって」
──俺と弘史は今、グラウデリア皇城内の一室、多分男性用の控室と思われる所で、貴族が着るような正装をさせられて待たされている。
俺は真っ黒、弘史は真っ白と正反対で。
女性陣は女性用の控室にいて、恐らく俺達と同じ様に正装させられてるんじゃないだろうか。
何故こんなことになってるのかさっぱり分からないんだけど、とりあえずブリュナ様の言う通りにしてたらこうなった、としか。
―・―・―・―・―・―・―・―
皇都に到着した翌日、ブリュナ様と約束した通り昼前から冒険者ギルドで待っていたら、皇都まで一緒に来た皆、ブリュナ様やブリュナ様の婚約者二人、ティシャ達だけじゃなく、執事やメイドさん、護衛兵まで人数変わらず全員来た。
もしかしてまた何処かに向かうから護衛して欲しいとか、そういうのかと思ったんだけど、そこから理由も無く男性陣、女性陣に別れてそれぞれ別々の服飾店に連れていかれて…サイズ測られた後解放された…何がしたかったんだかサッパリだ。
そしてまた3日後にギルドで待ち合わせの約束をして帰っていったんだけど、一体何だったんだと訳も分からず呆然としてた…俺を含めて全員。
まぁ、貴族様の考えることはよく分からんってことで、無駄な思考は捨て去り、約束した3日後までの間はゆっくり皇都観光して皆で楽しんだ。
モリーは途中引き継ぎとかで一日居なかった日があったけど、それ以外の日は全員一緒。
リズも本当はもう用事終わったから戻れるんだけど、帰りは転移するから帰り道の日程分くらいは一緒に居るってことにしたみたい。
3日間の内にあれこれ皇都を散策して皆がしたいことをした。
武器や防具を新調したり、美味しそうな匂いをさせてるお店に入って食事したり、初日に見つけたステージを鑑賞したり。
マールとシータは尻尾が隠れないような防具になった…後ろにスリットが入ったローブで可愛らしい尻尾が丸見えに。
最初は少し恥ずかしそうにしてたけど、俺がめちゃくちゃ似合ってるし、いい感じだ、最高!って褒めちぎったら二人共照れながら喜んで、その後はもう何も気にせずご機嫌でそれを着こなしてた。
俺的にも眼福なんだけど、皆の後ろに付いて歩いてる時は右手が勝手に動き出しそうになるのを堪えるのにちょっとだけ苦労したっていう。
宿については二日目から2パーティーで泊まれる所に変えた。
8人部屋と4人部屋、大き目の部屋がある宿を探したら、そこそこ高級そうな宿で…一泊4000セタル、大銀貨4枚の部屋に。
何となくだけど硬貨の価値が日本円換算で1セタル10円って考えるとしっくりくる…武器や防具は安いんじゃないかと思うけど、飲食の支払いしてると大体銀貨1枚1000円って感じ。
一泊4万円の部屋なんて向こうの世界でも泊まったことない…まだ子供が小さい頃家族で温泉旅行に行った時も安上がりな旅館探してだったし。
あの頃全然金無かったしなぁ…って、昔の話は置いといて。
そうそう、初日は別々の部屋だったし、時間も遅かったから話さなかったけど、宿変えたその日にはちゃんと皆と話をした、職種とかこれからの事。
予想通りアーネの他、シータはマジックユーザー(複合属性魔法)に、マールは聖邪神官に、そしてリオは…闇黒騎竜になってた。
もうなんて言うか皆ごめんなさいとしか言いようがなく、その場で土下座しちゃいました、申し訳なさ過ぎて…特にリオ。
完全に俺の騎竜になってますよね、それ…。
まだ一回も乗ったことないんですが。
能力値もリオ以外は軒並みアーネと似たような感じに上がってて、あの結果も当然だったということで。
これからについては、もうこうなった以上出来るだけ俺は魔物に手出さないようにして、皆に任せる方向で一応話は纏まった。
もう俺要らないよねって言ったら猛反撃受けました…いや、だって俺居てもやること無いって、もう。
寧ろ余計な事しかしないお荷物感が…って言ったら、これからは皆で俺を養ってあげるとか訳の分からんことを言い出して焦ったっていう。
この歳でヒモ、しかも歳下にとか無いわ…勘弁してほしい。
あ、称号については全員ほぼになってました。
お風呂効果確定だよなぁ…これも。
あとは…ステージ見に行って、ちょっとした縁が出来たくらいかな。
初日にリズが教えてくれたマニファニが翌日もステージに上がってたのを観客に混ざって見てたら、どうやって判別したのか分からないけどメンバーと同じ漂流者である俺達にマネージャーみたいな人から声掛けられて…メンバー達と直接会ったりはしなかったけど、機会があれば今度直接会ってほしいって頼まれたり。
まぁ、会うくらいなら特に問題無いだろうからいいか、くらいに俺は思ってたんだけど、リズから熱烈な押しが入って必ず会うという約束になってしまった。
やっぱり相当好きなんじゃないか?マニファニの事…これ、会ったらサインねだるぞ、ほぼ間違いなく。
ステージ自体はなんて言うか、ライブに行ったのも数十年前だったけど、年甲斐も無く思いのほか楽しめました。
俺もちょっとハマりそうなんて思うくらいに。
―・―・―・―・―・―・―・―
「で、今のこの状況、と」
「は?何だよいきなり」
「あ、いや、ちょっと皇都に来てからの事を思い出して…」
「そうかよ。んで、俺達はいつまで…」
と、弘史が言い掛けた時、控室の扉が開いてブリュナ様が中に入って来た。
「二人とも、お待たせしました。そろそろ時間です」
「あの、ブリュナ様、せめて説明を…。何で俺達まで?」
「ああ、これはすみません。今日の主役三人のたっての希望でして。恐らくですが、他の者に自慢したいのでしょう、二人の事を」
「俺らの事を?んな自慢になるようなもんじゃねーと思うけどなぁ…」
「俺もそう思うけど、まぁ、ひぃ達のお願いなら仕方ないか」
今から始まるお披露目会に俺達も一緒に来て欲しいという、ひぃ、ティシャ、フラウ三人のお願い事らしい。
皇都到着翌日に服飾店でサイズ測られたのは、今俺達が着てる正装を用意するためだったってことか。
それなら一言言っといてくれてもいいのに、サプライズのつもりでもあったのかな?
あ、いや、言ったら断られるとでも思ったんだろうか…俺的にひぃ達のお願いを断るという選択肢は全くないんだけど。
「ということで、宜しくお願いします、二人とも」
「しゃーねーなぁ、わーったよっ」
「分かりました。ここまで来たらもうどこまでも付いていきますよ」
「助かります、フラウ達も喜ぶでしょう。では参りましょうか」
そう言って部屋を出たブリュナ様に俺達は黙って付いていった。
慣れない服装で違和感が半端なかったけど、そこはひぃ達のためってことで納得させながら。
一際大きな扉、ここがお披露目会の会場で、相当広いんだろうと思わせるのに十分な扉を両脇に控えていた衛兵に開けてもらい、中に入ると…きらびやかなホールに大勢の人達、今日の主役である10歳を迎えた子供達とその付き添い、多分殆どが両親だと思われる人達で溢れかえっていた。
貴族らしく全員着飾っていて、ガルムドゲルン公爵家にお邪魔した時の百倍くらい場違い感を受ける…ひぃ達には悪いけど、ちょっと帰りたくなってきた、本当に。
「あの、ブリュナ様…ちょっと帰りたくなってきたんですけど……」
「そうなんですか?それはティシャやヒナリィが悲しむ事でしょうね…」
ぐ…それを言われるとどうしようもない…。
頑張るしかないか、この雰囲気に馴染めるよう。
「それを言われると…。分かりました、何とか頑張ります」
「そう気を張らなくても普段通りで構いませんよ。あくまで私達は付き添いなので」
「それなら何とかなる…かな?」
「ま、お嬢様達の好きにさせてやりゃいーんだろ?」
「はい、そういうことです。私も居ますし大丈夫でしょう」
そうだな、別に一人になるわけでも無いし、ひぃ達に黙って付き合ってあげよう、難しく考えないで。
「それで、その今日の主役達はどこに?」
「こっから探すのは一苦労じゃね?」
「いえ、そうでもありませんよ。ほら、もう見つかりましたよ」
そう言ってブリュナ様が向いてる方を見たら…何やらそこだけ人だかりが出来てる感じだった。
人だかりが見えるだけでティシャやひぃ達が居るかどうかまでは俺には分からないんだけど、ブリュナ様はそこに居るって確信してるみたい。
そこに向かって歩き出したブリュナ様にまた付いていくと、人だかりの中心になっていたのは…俺達のパーティーメンバーとブリュナ様の婚約者二人、そして今日の主役である三人のお嬢様だった…。




