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#15 意外な接点



 三人が落ち着きを取り戻すまで、俺は一旦自分の部屋に戻った。

 救けたと言ってもやっぱりあんな事があった後で男が、しかも同じ漂流者が居るのは良くないだろうと思って。


 アイツ…吉澤って言ったっけ、この世界に来て早々何してんだ…。

 あのスキル、多分魔物を隷属させて使役するテイマー系じゃないかと思うんだけど、それを人間、しかも女性に使うとか、俺からしたら信じられないわ…。

 本来の使い方してないから多分マイナス補正されてたっぽいんだけど、それでも三人も相手に使うなんて、ホントそれしか考えてなかったんだな。

 この世界に来て好き放題出来るって勘違いしたのか?


 いや、その前にアイツ運良く魔物に会わずこの街に着いたんだろうな…もし魔物に会ってたら本来の使い方してただろうし。

 まぁ、俺みたいなオタク系の前知識があれば、多分そんなことする前に本来の使い方も分かってたんじゃないかと思うけど…そもそも魔物に会ってないんなら、魔物の存在自体知らないのかもしれない。


 あのスキルはもう俺が封印しちまったから、これからどうやってこの世界で生きていくのか…多分もう冒険者は無理だな。

 悪いけど金輪際封印を解くつもりは無いぞ…人相手に使った時点でもう俺の中では許容出来ないからな。

 前科作っちゃったからいくらこの後改心したとしても無理、あんなスキルをまたこの街の人達に使おうとするなんて、考えただけで怒りゲージ溜まるわ。



「(ナオ、三人共大分落ち着いたみたいやから、部屋来てくれへんか?)」



 いろいろ燻らせながら考え込んでたら、シータから念話が飛んできた。

 どうやら三人共落ち着きを取り戻したみたいだけど…。



「(俺が行っても大丈夫…?)」


「(大丈夫や。三人共ナオに来て欲しい言うとるから)」


「(分かった、じゃあ今行くよ)」



 シータに呼ばれ皆の部屋に行くと、三人共着替えまで終わっていた。

 皆の服を貸してあげたんだろう。

 見た感じシータの言ってた通り落ち着いてて、ソファーに座って温かいお茶を口にしてた。

 シータかラナ辺りが用意してくれたんだろうな。



「……何があったのかは大体聞いたぜ。けどよ、何で分かったんだ?ナオト」


「…ファルを見掛けた時から、何となくザワザワする感じがして…。確かめに行ったらあんなことになってた……。それで、三人共、その……」


「大丈夫や。三人とも傷一つ負っとらんよ」


「そうか…良かった……本当に」



 身体の傷もそうだけど、あの場合心の傷の方が大きかったような気がするから、本当に間に合って良かった…。



「あ、あのっ、ナオト様…本当に、ありがとうございました……」


「ファル、さっきも言ったけど、同じ漂流者として、本当に済まなかった。アイツにはもう二度とこんな事出来ないようにしてきたから……」


「ありがとうございました、お兄さん。…でもお兄さんってちょっと変わってますよね…。救けてくれたのに謝るとか、普通しないと思うんですけど…」

 

「…そうですね。向こうでもそんな方は居ないんじゃないかと…。あぁ、申し訳ありません、ご挨拶が先でした。私、滝 優里香と申します。貴方と同じ漂流者です。この度は本当にありがとうございました」



 ソファーから立ち上がり深々とお辞儀をしてお礼を言う優里香さん。

 見た目からは20代くらいにしか見えないんだけど、物腰と雰囲気から多分30代前半くらいな気がする。

 少し長めの黒髪で、俺と同じ純正日本人、大人しそうな顔立ちで少し垂れ気味の優しそうな瞳、背丈はマールと同じ位だけど、少し痩せ気味のような気がする。

 こっちの世界に来て苦労したんだろうか、少し心配になった…冒険者ではないみたいだし、どうやって生計を立ててるんだろう…?


「あ、すみません、こちらこそご挨拶が遅れて…。漂流者で冒険者をしている遊佐 尚斗です。こう見えて元の世界では45歳でした」


「そうだったのですか…通りで歳の割に少し大人びた感じがすると思いました」


「えっ…じゃあお兄さんじゃなくておじさん…?」


「まぁ、そうなる…かな。でも今は18だから」


「んー、まいっかっ。その見た目でおじさんは変だしっ」


「いいよ、ウェナの好きなようしてくれて」


 おじさんなのは事実だし、どう呼ばれようと気にはしないから。

 逆にこの見た目の人をおじさんって呼んでる方が変に思われるかもしれないけど…。


「とりあえず、三人とも無事そうで良かった」


「あの…何も、聞かないのですか?ナオト様は…」


「聞かなくても大体分かるし、これ以上三人に負担かけるようなことはしたくないし。疲れてるでしょ?三人とも。特にファルは」


「あ、その…はい、少しだけ……」


 多分必死に抵抗した影響だと思うけど、ファルはホントに寸前だったから余計に疲れたはず…。

 相手を無理矢理思い通りにするとか、ホント質悪いというか、俺的に胸糞悪い…目の当たりにすると。

 無理矢理言う事聞かせてまでヤるようなもんじゃないって俺は思ってるし…アレって心が伴ってるからこそ気持ち良くなれるんじゃないかなぁ…って。

 ま、当然例外はあるだろうから俺の価値観ってだけですけど。


「ならこれ以上は何も聞かないし、語る必要も無いよ。もうこんな時間だしゆっくり休まないと、三人共」


「ユリカさんは早く帰ってあげないと、トウカちゃんとヒミカちゃんが不安がるよ…?」


「はい、そうですね…。では、私はここで。きちんとした御礼も出来ず申し訳ありませんが…」


「そんなの必要ないって。ユリカって明日ギルドに来る予定だったでしょ?大丈夫?来れそう?無理そうだったらワタシからチーフに言っておくけど…」


「いえ、多分大丈夫です。明日は予定通りお伺いしますので」


 話聞いてるとラナとリズは優里香さんの事知ってるみたいだ。

 それにトウカちゃんとヒミカちゃんって…またカティちゃんの友達の名が。

 そっか、その二人のお母さんだったのか、優里香さん…何となく母親って雰囲気はあったから納得。


「明日ギルドに来るって…何のこと?」


「あ、わたしの後釜で打診してたのがユリカさんなんですよ。受付嬢やってもらえないかって」


「漂流者の私なんかが出来るかどうか不安なのですが…」


「大丈夫よ、そんなに難しいこともないし。ワタシがちゃんとフォローするんだし、ねっ」


「へぇ…漂流者の受付嬢か…。何かいいな、優里香さんなら十分ラナの後釜務まりそうだ」


 この街の冒険者達相手なら余裕で熟せるんじゃないかな?揉め事荒事はそんなに無さそうだし、優里香さんなら逆にファンとかいっぱい付きそうな気がする。


「その、まだ決めたわけでは無いので…。明日、伺ってから決めようかと」


「なるほど、そういう事だったんですね。なら尚の事早く帰らないと。送っていきますよ…って、俺じゃ無い方がいいか…」


「なして?」


「いや、あんな事あったばっかりだし…」


「お気遣いありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。救けていただいた方をそんな風に見てしまう方が失礼ですから…」


 いや、そう言ってもらえるのは嬉しいけど、それでもあんな事をしたヤツと同郷の男なんで、そう見られてもおかしくは無いと思うんですが…。

 優里香さんってもうちょっと慎重そうな人に見えたんだけど、そうでもないのかな?


「えっと、じゃあ俺が優里香さんを送っていくとして…ファルとウェナはどうする?」


「んー…わたしはもう帰るの面倒だからここに泊まってっていい?ソファーでいいからさ?」


「ウェナならそう言うと思ったわ。ウチらは構へんで、ウェナがそうしたいんなら」


「わーいっ、シーちゃんありがとっ」


「あ、わたしは…」


「ファルは悪ぃけど帰せねぇからな。もう大丈夫なら聞きたい事もあるしよ」



「「「えっ…」」」



 聞きたい事ってまさか…アレはもうシータが泣くまで尋問して終わったんじゃないのか?

 これ以上何を聞くことがあるんだ…。



「ちょっ、聞きたいことってまさか…」


「アレの事はもう話したからあれで終わりやろっ!」


「あぁ、そういえばメンバー会議というのに参加させてもらえるんでしたね…。分かりました、わたしも一人より皆様と一緒の方が助かりますので…お泊りさせてもらいますね」


「あ…うぅ……それもそうや、な……」


「はい、決まりねーっ。ほらナオト、アナタは責任持ってユリカを送ってあげてよー」


「分かったよ…。じゃあ優里香さん送ってくるから。優里香さん、家ってどの辺ですか?」


「私の家は西地区の方にありますが…」


「西地区っていうと、外壁門方面ですね。じゃあ近くまで転移しますか」


 とりあえずファルの事は置いとくとして、優里香さんをまず送っていかないと。

 外壁門方面だからここから歩いていくとちょっと時間掛かるし、あの辺で適当に転移してそこから歩いて送っていこう。


「はい、すみません。あの、では…よろしくお願いします……」


「はい、じゃあ俺の…って、えっ!?」



 ちょっ!優里香さん何で抱きついてくるのっ!?



「ゆ、優里香さんっ!何でっ!」


「え、転移で行かれるのですよね…先程こうされたので、こういうものかと……」


「あっ、いやっ、確かにさっきはそうしましたけどっ!」


 あれは緊急時っていうか、説明とかしてる暇ないし急いで離れようとしたからそうしたわけで、これが転移のデフォでは無いんですよっ!


「あははっ!やっぱり転移はそうじゃないとねっ。ほらナオト、早く送ってってあげてーっ」


「あーもー!分かったよっ、行ってくるっ!転移っ!」

 

 シュンっ!













 ──外壁門から延びている中央通りとその先にある中央広場の丁度中間くらいの所に転移してきた…優里香さんをくっつけたまま。

 

 時間が時間だけあって人影は無く誰にも見られてはいないだろうけど…流石に人妻までこうやってくっつけて転移させる事になるとは思わなかった…。


「優里香さん、着きましたよ」


「あ、もうですか…。一瞬で移動が出来るなんて、尚斗さんは凄いんですね……」


「そ、そんな事は無いですよ。もう着いたので離れても大丈夫なんですが…」


「あっ、すみません、私ったら…」


 そう言ってささっと離れてくれた優里香さん。

 くっついたまま感想言われるのもデフォになってきてないか?これ…。


「それで、家はどちらに?」


「ええと…ここは中央通りですか?」


「はい、丁度門と広場の中間くらいだと思います」


「でしたら、すぐそこになります。ここまでで大丈夫ですよ」


「え、でもこんな時間ですし、それに…」


 あんな事があった後なのに、一人にさせても大丈夫なのかって思うんだけど…。


「本当にすぐそこなので大丈夫ですよ。あそこの街灯辺りなので」


 優里香さんが指し示した方を見ると、確かに街灯があって、距離もそれ程離れてなかった。

 ちょっとは心配だけど、まぁこの街なら大丈夫か…危ないのは俺達みたいな漂流者だしな…。


「分かりました、じゃあここで。明日またお会いしましょう、ギルドで」


「はい。今日は本当にありがとうございました。それではまた明日…」


 また深々とお辞儀をしてから、家の方に向かって歩き出した優里香さん。

 少しそれを見送って、俺も転移で戻った…皆の所へ。



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