#11 実力披露
子供達の両親によろしくお願いされつつ、俺達─俺と弘史のパーティー全員─は城の庭に連れて来られた。
子供達の他にブリュナ様も一緒に付いてきたのは、ナミさんの一言があったから。
「ブリュナ様もご一緒していただけますか…?」
「もちろんですよ。ナミが行くなら当然付いていきます」
「ありがとうございます…」
「愛しい婚約者の頼みを私が断るはずはないでしょう?」
「ブリュナ様……」
ブリュナ様のお相手の一人はナミさんでしたか。
いやはや、良くお似合いで。
着いた庭もそこそこ広くて、整えられた芝生と、綺麗に剪定されている庭木、色鮮やかな花壇があって、とても目の保養になる。
そんな庭を眺めながらお茶を楽しむ為に設けてあるんだろうと思われる席に案内されたんだけど、その席に着く前に早速ディルが俺に突っ掛かってきた。
「おいナオトっ、俺と勝負しろっ!」
「なっ!ディル兄さまっ、何を言っているのですかっ!?」
「ティシャは黙ってろっ!本当にナオトは強いのか、俺が自分で確かめるんだっ」
「ディル兄さまはわたくしの言ったことが信じられないのですかっ!?」
「実際にこの目で見て確かめてやるんだよっ!ティシャの言ったことが本当かどうかをなっ!」
ディルは血気盛んなお年頃らしい…年齢的にもうすぐ中学生になるくらい?やんちゃ坊主って感じがするな。
なんかこういうのもいいなぁ…俺の息子は反抗期らしい反抗期が無かったから、ちょっと新鮮だ。
よし、それでは喜んでお相手致しましょう、ディル坊っちゃま、もちろん手加減無しで。
この年頃の子に手抜きなんかしたらどんな風に思われることやら…それに曲がりなりにも貴族のご子息、失礼な事は出来ませんからね。
「分かった、相手になるよディル。ただし…手加減はしないからな」
「ナオトお兄さまっ!?」
「っ!?ちょっ、ナオっ!いくらなんでもそれは…」
「まぁシータ、ナオトに任せとけって。しっかしディル、お前いい根性してんなっ。漂流者に喧嘩売るとかアタイでも中々出来ねぇよっ」
「アーネ、お前なぁ……。会って早々俺に喧嘩売ってきた事忘れてないか?」
「あー、いや…だってよぉ、ナオトは漂流者ってよりヒョロそうって先に思っちまったからな…あん時は」
「そこまではっきり言われると逆に清々しいな…」
「いっ、今は、んな事一っ欠片も思っちゃいねぇからなっ!」
「…いや、まぁ、そこまで否定しなくても別にいいんだけどさ、事実だろうし……。さて、じゃあやるか、ディル」
アーネが今は全くそう思ってないって言ってるけど、見た目的にこっちの世界の人達と比べてヒョロそうに見えるのは当然だと思うし…冒険者達のガタイの良さときたらもう、ボディビルダー張りばっかりだし。
それはともかく、今はディルの相手だ。
スキル想像創造で木製の模造剣、俺は全力のつもりだから模造刀と模造剣を創り出し、ディルに渡してやった。
「ナオちゃん…本当にぃ〜全力ぅなんだねぇ……」
「まぁ、全力って言っても子供相手なんだから手ぐらいは抜くでしょー?」
「そうよね…いくらナオトさんでもそこまで鬼じゃないよ、ね…」
鬼ってわけじゃないとは思うけど、皆が思ってるようなことにはならないよ、ディルに失礼だし。
子供じゃなくて男として相手をしないと、ね。
「さぁ、いつでもいいぞ」
刀剣をしっかり構えてディルを待ち受ける。
ディルも模造剣を正面に構えて今にも突進してきそうな感じで重心を前に傾けてる。
「いくぞっ!てやぁーっ!」
剣を上段に振りかぶりながら馬鹿正直に突っ込んでくるディル。
俺に剣が届く間合いに入ってそれを勢い良く振り下ろしてきたが、俺はそれを左手の剣で受け止め、右の刀でガラ空きになった胴を横から薙ぎ払い、押し付ける様にしてディルを吹き飛ばした。
「ぐっ、うわぁっ!」
「「「「っ!?」」」」
「えっ、ちょっとナオトーっ!?」
「ナ、ナオトさんっ!?」
「ナオっ、いくらなんでもそれはっ!」
「ナオちゃん、やり過ぎだよぉ〜っ!」
外野が何か言ってるけど今は無視で。
男と男の真剣勝負だもんな、ディル。
「…どうした?もう終わりか?これで俺が強いって分かったのか?」
「くそっ…まだ…まだぁぁあっ!!」
吹き飛ばされた位置から立ち上がり、懲りずにさっきと同じ様に真正面から攻撃してくるディル。
さっきと全く同じなんだから、また同じ様に返そうとして剣で受け止め刀で薙ぎ払おうとしたら…何と小さい身体ながらも左脚で横蹴りを繰り出してきた。
なり振り構わず俺に掛かってきたってことかっ、いいなっその根性!
「てぇいっ!」
ガッ!
ディルが繰り出してきた蹴りに対して俺は片脚を上げて受け止め、その体制のまま左手で受け止めていた剣を押し返すように弾いた。
ディルは不安定な体制で押し返されたもんだから踏ん張りが効かず、後ろにたたらを踏み尻餅を付いた。
「うわっ!」
尻餅を付いたディルに、俺は刀でディルの頭目掛けて打ち込もうと真っ直ぐ振り下ろし、寸止めしようと思っていたけど…その必要は無かった。
ガツッ!
尻餅を付きながらもなお放すことのなかった剣を頭上に掲げて、両手で俺の剣を受け止めたから。
受け止めてすぐ力じゃ押し返せないと悟ったんだろう、剣を斜めにして俺の刀の軌道をずらして自分は横にゴロゴロと転がっていき、止まった先で素早く立ち上がった。
「はぁっ、はぁっ…」
軽く肩で息をして、それでもまだ俺に対して向かって来ようとしている…やんちゃなだけじゃなくそう簡単には諦めないっていう所はもう子供じゃない、やっぱり男だな、と感心した。
だからこそ俺は手を抜かず、今度はこっちから攻めることにした。
一気に距離を詰めて左右の刀剣を交互に繰り出すと、ディルは何とか剣で受け止めて防ごうとするが、ニ刀剣を相手にするのはやっぱり初めてなんだろう、一方を防ぐのが手一杯でもう一方は俺が打ち込むまま肩に、腕に、胴に、次々と打撃を食らっていった。
「ぐっ…うっ!くっ、くっそぉぉっ!」
これだけ食らってもまだ諦めない、逆に悔しがって何とかしようとするその精神力を誉めつつ、でも当然体力的、技術的にこれ以上は無理だと分かっていたから、そろそろ終わりにすることに。
右の刀を剣で受け止めたディルだったが、疲れで握りが弱くなったんだろう、力任せに払った刀でディルの剣が手を放れ宙を舞い、そして俺は…左の剣をディルの首元にピタリと付けた。
「…勝負あり、だな」
「……剣二本とか、ズルいんだよ……」
「手加減しないって言っただろ?それとも手抜いて欲しかったのか?」
「っ!?そんなわけないだろっ!」
「ならズルいとか言うなよ。これが今の俺とディルの差ってことだろ?違うか?」
「…悔しい、けど……そうだよっ!」
「いいぞディル、お前強くなるな。これからも訓練続けてけよ?」
「当たり前だっ!俺はもっと強くなってみんなを守るんだからなっ!」
いい意気だ、将来有望じゃないか。
それならちょっと手助けしてあげようかな。
「ディル、魔力は使えるか?」
「…?つ、使える、けど…あまり得意じゃない……」
「そっか。得意じゃなくても使えるんなら大丈夫だな。これやるよ」
創造で一本の剣を創り出した…魔力で負荷調整可能な剣を。
それをディルに渡してやった。
「剣?」
「あぁ。これな、魔力注げば自由に重さ変えられるぞ。練習用に使えないか?」
「え…そんなこと出来るの?」
「ああ、試しに少し魔力注いでみろよ」
「…うん、じゃあ……んんっ………うっ、うわっ!?」
ディルが魔力を注いだら重くなったんだろう、支えられなくてブレード部分が地面に下がって慌ててた。
「お、重く…なった……くっ、こ、このぉっ!」
両手に力を入れて、両足で踏ん張って、何とかブレードを持ち上げることに成功したけど、持ち上げるだけで手一杯みたいだからそれを振るのは無理だろう。
「そんな感じで自分の好きなように調整出来るから、少しずつ重くしていけば鍛えられるだろ?」
「も、もうちょっと軽く……あ、軽くなった…。これくらいなら何とか振れる…っ」
魔力を注ぎ直して少し軽くしたらしい、今度はちゃんと振り上げられるようになった。
それでもいつもよりは重いみたいでぎこちない素振りになってるけど。
「これ、貰っていいのか…?」
「もちろん。それ使って頑張れよ」
「お、おう!その…あ、ありがとう……」
お、やんちゃ坊主かと思ってたけどやっぱり貴族の息子か、感謝の言葉は言えるみたいだ、うん、良い子じゃないか。
「お安い御用だ。真剣勝負した相手だしな」
「これ使って練習して、強くなったらまた勝負してくれるか?」
「おう、いつでもいいぞ。ただし…」
「手加減なんかいらないからなっ!」
「それなら、いくらでも付き合ってやるよ」
「よっし!約束したからなっ!次は負けないっ!」
二人で握り拳をぶつけ合いながら再戦の約束までした…ま、お抱えになったんだからまた会うことも出来るだろうし、大丈夫だろ。
勝負が付いたから皆の所に戻ろうとしたら、向こうからブリュナ様と弘史が歩いてくる。
え、この流れはまさか…。
「ディル、漂流者に対して諦めずに向かっていった姿、見事でした」
「坊主、見かけによらず根性あるな、やるじゃん」
「ブリュナ兄、ヒロシ…ありがとう。でも負けちゃったけどね…」
「いいえ、勝ち負けではなく、その姿勢が誇らしいのです。安心してください、仇は取りますよ」
「あぁ、俺らに任せとけっ、坊主!」
「「え」」
───この後、二人同時に相手させられました…。
ブリュナ様は言わずもがな、弘史も剣術系のスキルを持っているっぽくて、二人とも中々手強かったです…。
勝負の最後の方なんか、俺も魔刀剣術の刀技使っちゃったし…大人気なかったかもしれない。
でもこういう勝負には負けたくないと思っちゃったんだよっ、それに…皆の前だったし。
ちょっとくらいカッコつけたっていいだろっ!
勝負が終わって今度こそ皆の所に戻って来たら、何やらうちのメンバー全員ぽやーっとしてる…なんかおかしかったかな?俺…。
「…シータが興奮してアタイらに話してたワケがよぉく分かったわ……」
「…本当だぁねぇ……こんなのぉ見ちゃったらぁ〜、私でもぉ興奮しちゃうよぉ……」
「ウチも改めて、また見惚れ直したわ……」
「……ナオトさん………素敵です………っ」
「………わた、しの……マスター………やっ、ぱり……最、高…………」
「いやぁこれはもうダメねー……一発で持ってかれちゃったよー……」
なんの事やらさっぱりだけど、少しはカッコつけた甲斐があったってことかな…?
「だぁーっ!くっそ、やっぱ強ぇなぁ!」
「やはり二人とも漂流者ですね…剣捌きが見事としか」
「いや、二人とも本気でくるから俺も焦りましたよ…」
技を出しちゃったくらいですからね。
弘史は魔法だけじゃなくて剣でも十分強いと思うんだけど…魔法使う時、無駄に剣を抜く癖だけは直した方がいいと思う。
ブリュナ様も英才教育ってやつか、綺麗な剣技だったんだけど、その容姿だから剣舞と言っても過言じゃないくらいだったよ…。
「ヒロシ…その、なんだ。いつもと違って見惚れてしまったぞ…」
「ひ、弘史さん…すす、素敵でした……っ」
「ブリュナ様、お疲れ様でした。その、とても綺麗で素敵でした……」
「三人とも凄かったね!」
「ナオトお兄さまも…あの時と同じように格好よかったです…」
「さすがですわ。お父さまが見込んだだけはありますわね、お二人とも。それについていけるブリュナ兄様もさすがでしたわ」
「俺も絶対あんな風になってやる…っ」
皆それぞれ感想を述べてたけど、褒め言葉しか出てこなかった。
ちょっと、いや、結構嬉しいもんだな…二人が向かってきた時はどうなることかと思ったけど、これはやってよかったかも。
「ナーくんっ、やっぱり強いねーっ!あっ、ねぇねぇ、あの時みたいなやつ、また見せてほしいなーっ!」
「あの時みたいなって…あーアレのことか。んー…ひぃのお願いじゃあ断れないなぁ。それじゃ…あの時のやつとは違うけど、ちょっとだけな」
可愛いお嬢様たっての希望ですからね、叶えてあげないと。
また少し離れた位置に行って、腰の絶刹那と背中のダルクブラウヴァーを抜き、それっぽく構えた。
刀は要らないんだけど何となく…あ、これ俺も弘史のこと言えないな、無駄に抜いてるし。
まぁでも、弘史の場合は完全に剣関係ないからな、あれはおかしいって、やっぱり。
それじゃ、ちょっとだけ…と言いつつ見た目派手な技をチョイスしようとしてる辺り俺も大概カッコつけたがりだな、と思う。
けど、そこはそれ、ひぃの為ってことで!
「魔刀剣術…刹・迅闘舞 表技迅舞〔炎呀〕っ!」
この世界に来た初日、宿の裏庭で試し撃ちした時と同じ様に、剣を斬り上げ上空へ火炎放射を放った。
「も一丁っ!〔雷爪〕っ!」
再度斬り上げ今度は上空へ爪の数…五本の稲妻を打ち上げた。
あ、でもこれはちょっとカッコつけ過ぎたか…せめて三本くらいにしておけばよかったかな?
「ふぅ…。っと、こんなもんでどうだ?ひぃ」
『『『………』』』
ん?あれ?ちょっとやり過ぎた…?
いや、でもシータは見た事あるはずだし、ひぃやティシャだって似たような感じだったと思ったんだけど……。
「…さっきのは全然本気じゃなかったってことかよ、尚斗……」
「あれは…もう剣技というレベルでは無いですね……」
いや、これ対人で使うような技じゃないから間違っても使いませんて。
まぁ、それ以前に模造剣で迅闘舞は使えませんが…乱瞑舞は純粋な刀技だからどんな刀でも使えるけど。
「ふぁー…ナーくんすごいねぇ……火とか雷とかいっぱい出せるんだぁ……」
「また見せてもろたけど…うん、あの夜と同じで、やっぱりカッコええなぁ……」
「…次の日ぃシーちゃんがぁ〜ノリノリぃだったぁ理由がぁ〜分かっちゃったぁ〜。これぇ見ちゃったらぁ〜、そうなっちゃうぅよぉねぇ〜……」
「ナオトお兄さまって…やっぱりひょうりゅうしゃなんですね……」
「これはもう、何と言うか…言葉にならないな……」
「おお、同じひょ、漂流者とは、お、思えない、です……」
「あー、そういやあの夜、シータが絶対ナオトに突っ掛かるなよっつってたけど…意味分かったわ。確実に逝っちまうな、これ」
なんかいろいろ言われてますが…とりあえずご満足頂けたのでしょうか、お嬢様方。
それから知美ちゃん、君のカノンちゃんも大概だと俺は思いますよ。
あとさっきも思ったけど対人で使う事は無いんだから逝くわけないぞ、アーネ。
「ダメ押しとかもう、なにしてくれちゃってるのよ、ナオトったらー……」
「…わたしこれからこんな凄い人と一緒に冒険するんですね……」
「何かいろいろ言われてるみたいだけど…ひぃ、これで良かった?」
「うんっ!ナーくんはやっぱりスゴかったって分かったーっ」
「それは光栄の至り。ご満足頂けたようで何よりです」
技披露をご所望だったひぃが喜んでるからこれで良かったか。
一先ずこれで皆にも俺達漂流者の実力とやらに納得してもらったってことでいいのかな?




