おまけ
会話文のみ。一応キャラがわかるようにしているつもりですが、わかりにくかったら申し訳ありません。
女三人集まれば姦しい
「今日は集まってくれてありがとう」
そう言い出したのは攫われ姫ことミレイラ・トリスター。たおやかな笑みを浮かべ集まった面々を見渡す。
「お招きありがとうございますお母様」
しっとりと笑う長女リュドネ。
「相変わらず美しいスタイルだわ。お母様は私の目標よ」
豪奢に笑う次女ヴィヴィアン。
「こうして集まるのは不思議な感じがしますね」
静かに微笑む三女ナターシャ。
「お姉さま達、お久しぶりです!」
普段なかなか会えない姉たちに会え若干興奮気味の四女ジュゼット。
「お、お招き、いただきまして、あ、ありがとうございます……」
錚々たるメンツを前に緊張が隠せないアリシア。
「お茶を用意しますね」
完全にメイドとしての本能が出ているシンシアに、
(これが、トリスターの家族……)
と妙な関心を抱いているフェリシテ。
なんとも煌びやかで眩しい茶会が開かれようとしていた。
姉妹たちの会話
「ヴィヴィアン、ナターシャ、ジュゼット。久しぶりね」
「ええ、お姉様。より一層美しくなったところを見るにお幸せなようで何よりだわ」
「まあ……そうかしら。貴女も色々あったみたいだけど、元気そうでよかったわ」
「ありがとうお姉様」
「リュドネ姉様もヴィヴィアン姉様もご健勝そうでなりより」
「……ナターシャ、貴女は……」
「お姉様、ナターシャの件はあとにしましょう」
「あの……?」
「ええ、そうね……ジュゼット、貴女も元気にしていて?」
「もちろん。お姉さま達方、みんな遠くに嫁いでしまわれたから寂しいわ」
「でもテッドが帰ってきてるのでしょ?」
「……うん」
「では、寂しくないわね……ふふ」
「お姉さま達、からかわないで下さいまし!」
「あの……、あの?」
「あらあら、ナターシャがおろおろしてるわ」
「仕方ないわね。ナターシャったら」
「お姉さま達、私が聞いてもよろしいですか?」
「ええ、そうね。いいわ」
「では失礼して。ナターシャお姉さま!」
「……はい」
「ロメリオおにいさまとはどうなっておりますか?」
「……ええと? 婚姻関係になっている、はず?」
「それはみんな知っているわ」
「ふふ、ナターシャは変わらないのね」
「え? ごめんなさいジュゼット、よく意味がわからなくて……」
「お姉さま……でもよくわかりましたわ。おにいさまとは相変わらずなようなのですね」
「こればかりはナターシャが気が付かなければ無理なのでは?」
「そうかしら。あの方が変わってくださればすぐに改善するかもしれないわ」
「でも……」
「あの……」
「私たちが旦那様とラブラブなところ見せれば……!」
「お母様たちを見ても気づかない子が気づくかしら?」
「そうよねぇ……」
「私はどうしたら……?」
「ナターシャお姉様は、今、お幸せですか?」
「え……? え、ええ。とても幸せですわ」
「……ねえねえ、お姉さま達……幸せならいいんじゃないですか?」
「ふふ、そうね」
「えぇ? いいのかしら、それで」
「幸せなんて本人がきめるものだもの」
「それもそうね」
「おにいさまにはご自身の幸せのためにご自身で頑張ってもらいましょう!」
「ええ、それがいいわ」
──だって、わたしの可愛い妹に酷いことを言ったのは彼自身だものね。
ヴィヴィアンはたおやかに笑う姉が少し怖い気がした。
「私は、何も、聞いていないわ」
「私もです。お姉さま」
嫁たちの話
「こうして、話すのは初めてですね」
話の音頭はあねであるフェリシテが取った。
「は、はい」
「なんだか場違いな気がしています……」
「お二人とも貴族の出身ではないのよね」
「はい……私はトリスター領でお世話になってるしがない商家の娘です」
「あら、パットソン紹介といえば大陸でも名高い一大商会ではないですか。バウアーでもよくお世話になったわ」
「い、いえ……そんな……」
「それに私達は今、トリスター家の家族だもの。身分の差なんて気にしないで。私もあなたのことかわいい妹だと思うわ」
「あ、ありがとうございます……フェリシテお姉様……」
「私は長年トリスターでお世話になっているメイドですから身分としては一番したですね」
「シンシア様はずっとトリスターで?」
「様、なんて滅相もない。シンシア、とお呼びください。
はい。私は母がここでお世話になっていた縁で働かせていただいてます」
「ご結婚後も?」
「クラウス様がお近くに屋敷を買うと仰っているので、もしそうなればそちらに移ると思いますが、今はここでメイドを続けてます」
「働き者なのね」
「いえ。結婚してもさほどやっていることに変わりありませんから。フェリシテ様こそスタンレイ様のお手伝いをなさっているのでしょう?」
「ええ、ほんの少しだけだけれど」
「いやいやご謙遜を。バウアー家の領から入ってくる品物をお選びになっているとか」
「私も父から聞きました。とても良い工芸品や、王都でも見ない珍しい服飾品がたくさん入ってきたと」
「そうそう! クラウス様が一つ買ってくださったブローチもとても素敵なデザインで、バウアーのものだと仰ってましたわ」
「それは嬉しい。もっとドレスや靴、バッグなどメインどころも入れたいと考えているの。そうだわ、デザインやサイズの参考にお二人とも協力してくれないかしら!」
「え? 私なんかじゃ……」
「私に出来ることならなんでも協力致しますが、メイドなどでは役者不足でしょう」
「いいえ、そんな訳ありません。お二人とも違う魅力を持った素敵な女性ですわ」
そう言って笑ったフェリシテこそ、無二の輝きを持った素敵な淑女だと二人は目を合わせて頷き合うのだった。
一方その頃。
「華やかな女性達がああも勢揃いしていると眼福とは言ったものだが、一体何を話しているのやら」
「フェリシテは今日も愛らしい」
「兄さんはあい変わらずだな」
「それをいうならクラウス兄さんこそよく結婚する気になったって話でしょ? あんだけ結婚しないって言い切ってたくせに」
「そこを突かれると痛い」
「お前は上手くやってるのかアリシアと」
「んー、まあそこそこ。俺のとこよりナターシャ姉さんの方はどうなんだか。ねえ、ロメリオ様」
「え、あ、ああ……、うん、まあ……それなり?」
「それなり、ねえ……」
「クラウス、意味深にモノクルを光らすのはやめろ。不気味だ」
「…………」
「なあテッド、お前も上手くいってよかったな」
「ああ、よかったよジュゼットがたんじゅ、いや素直な性格のままで。顔を合わせないうちにずいぶん綺麗になっていたから、少し心配になってしまったよ」
「お前ひとの妹をなんだと……」
「かわいいひとだと思ってるよ?」
「そうかよ……」
やれやれといった風にケルヴィムは首を振った。
「ヴィヴィアンのところはどうなんだ」
「ヴィー姉さんはなかなか勝気だから苦労してないか?」
「彼女に不満などありませんが?」
「すごい。あのヴィヴィアン姉さんに大してそう言いきれるなんて」
「俺達が不安に思う必要もなさそうだな」
「だね」
「いつも良くして貰っています」
「それはよかった」
「ノエル様までお越しいただけるとは」
「いや、今日は身内の集まりだろう? スタン殿、様なんていらないよ。無礼講でいこう」
「そういう訳にも……」
「私は今日はただのおとうとで、貴方達はただのあに、だ。頼むよ」
「そうですか……、お二人の円満な話はこちらでもよく聞きます。おしどり夫婦だと」
「そうか。僕もリュドネを妻にできて幸運だったよ。いい子だね彼女は」
「ええ、自慢の妹です」
スタンレイは楽しそうに会話をしている可愛い妹たちを見てクスリと笑った。
それはパッと見、獲物を狙い定めている狼のように見えたというのは秘密。