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四女ジュゼットの場合

末っ子四女編。

 

「女の子には誰にも、自分だけの王子様がいる」


 そう言ったのは、一体誰だったか。


 ジュゼットは思い出そうとして、まず己の姉妹の顔を思い浮かべた。

 キツめな顔つきの次女ヴィヴィアンはそんな乙女みたいなことは言わない。というか恥ずかしがって言えないだろう。性格的に。

 すぐ上の姉、三女のナターシャはきっとそんな想像もしたことがないはずだ。自分のことを女の子だと考えたことすらないような人だから。

 そうなると一番可能性が高いのは長女のリュドネであるが、一番歳の離れた姉とそんな会話ができる頃には彼女はお嫁に行くか行ったかの歳であったはずだから、これもたぶん正解ではない。


 では、一体誰だったのか。今のところ思い出せそうになかった。

 しかしジュゼットがなぜ今そんな話を思い出したかについては簡単に答えが出る。


「……やっと、やっと会えるのね!」


 彼女にとっての王子様が、ようやく長い留学から帰ってくると知らされたからであった。




 王子様……もとい従兄弟のテッドとは彼女が五歳のころに引き合わされた。

 当時ジュゼットにとっては大人しすぎてつまらないナターシャや自分を邪魔者扱いするケルヴィムと遊ぶことが嫌になっており、テッドは格好の相手であった。

 静かすぎる姉と違い、穏やかではあるがそれなりに活発なところ。活動的であるのに、ジュゼットを置いては行かない年長者らしい優しいところ。

 好きな部分が増えていくたびにジュゼットは寝しなに母が読み上げる絵本の王子様の姿を、テッドに重ねて見るようになる。


 だが、年の差というものは無情でテッドが十三になる年、彼は隣国へ留学すると旅立ってしまった。


 幼かった彼女にとってその別れはあまりにも唐突で、すぐには受け入れられなかった。泣いて喚いてだだをこねて、手を持て余したメイドに連れられてきた母に穏やかに諭される。


「女の子には誰にも、自分だけの王子様がいる」


 ──だから、あなたも素敵なお姫様にならないとね。


 ああ、そうだった、とジュゼットは思い出す。これは母の言葉だった。夢見る少女のような顔で語る母はジュゼットにとっての王子様の存在を確信しているみたいに言った。自分の思いは誰にも言ってなかったのにも関わらずだ。


「そんなに泣いてわがままをいうのはお姫様らしくないわ、女の子は大事な時こそ強くなくてはダメよ」

「……はい、お母様」

「いつか迎えに来てくれる王子様のために、自分を磨きなさい。トリスターの女は美しく気高いものなのだから」

「わたし、がんばるわ!」

「ええ、かあ様も応援するわ」


 そこからジュゼットの奮闘が始まる。一家の末っ子らしくわがままで怠け癖のあった彼女は、嫌いなマナー講座も、不得意な刺繍も一生懸命こなし、爛漫すぎた生活態度も周りが驚くほど変わった。とはいえ猫被りというものを覚えただけで、いささか生意気なところは生来のものだったらしくあまり変わらなかったけれど。

 それから五年。まだあどけなさの抜けない少女ではあるものの、年相応に美しくなり、これからさらにそうなるだろうと匂わすような片鱗が伺える可憐な乙女へと成長した。


 そんな自分の姿を見てほしい。そしてあわよくば褒めて欲しい。ジュゼットはトリスターの屋敷からほど近いテッドの生家にいの一番に向かった。

 なによりも、早くテッドに会いたいと、そう思って。


「おじさまっ! テッドが帰ってきたとお聞きしましたわ!」


 飛び跳ねるようにしてやってきたジュゼットはせっかく磨いたマナーもどこへやら。しかし喜び勇んでやってきたジュゼットの目の前に広がる光景は彼女の望んでいたものとは違っていたのだった。


 重厚な革張りのソファーが置いてある応接間はもうすでに見知った光景で、そこに一点、いつもとは違う影。ジュゼットはすぐにそれが自分の求めているものだと認める。


「テッド!!」


 名を呼ばれた相手が振り向く間に抱きつこうと飛び出したジュゼットは不自然に挙動を止めた。


「やあ、ジュゼット」


 穏やかに自分を呼ぶ声。懐かしさと目新しさが同居した男の声。声変わりもほどほどに旅立ってしまった幼馴染の声ではあるが、きっと成長したらこんな声になるだろうと思わせる。すらりと伸びた四肢も、派手な服飾を好まない装いも、隣の子爵に似た輪郭も間違いなく彼のもの。なのに。


「あなた、誰!? 私の王子様(テッド)じゃない!!」


 ジュゼットは気がつけばそう叫んでいた。顔を赤くして叫んだのには理由がある。幼い頃のテッドは天使と見まごうほどの美少年だった。しかし目の前にいる男は、目も見えない前髪にボサボサの髪をした間違っても『王子様』なんてタイプの人間ではなかった。

 そのテッドらしき人物は困ったよう頭に手をやるとボリボリ引っ掻いて、何かを言おうとした。だが、その前にジュゼットの方が耐えられなかった。


「こんなの詐欺よ!」


 思い描いていた理想がボロボロと壊れていく瞬間だった。


 半泣きで逃げ帰るようにして屋敷に戻ってきたジュゼットは、落ち込んで悄気返る……なんていう性格ではなかった。むしろメラメラと燃える炎を纏って決意する。


 ──王子様がいないなら、新しく探せばいいじゃない!


 決断してからは早かった。送られてきた招待状に片っ端から了承の返事を送り、その日から毎夜夜会へと繰り出して行った。





「……そんな簡単に王子様が簡単に見つかるわけなかったわ……」


 今日訪れた夜会は比較的年齢層が高めで、デビューしたてのジュゼットの歳に合いそうな男性は少なかった。


「ジュゼットは見ていて飽きないね」


 彼女のぼやきを聞いていたのは本日のパートナーとして白羽の矢が立ったクラウスだった。ジュゼットは暇そうにしている次兄を見つけひっぱるようにして連れてきていた。


「そんなにテッドはダメだったのかい?」

「ダメでした。あんな、あんな、毛玉みたいな容貌……!」


 綺麗な王子様像からは遠く離れたテッドの姿はジュゼットの中で実物よりも悪化したイメージが植え付けられてしまっていた。


「そうか。……ま、男なんてたくさんいる。王子様みたいな男だって中にはきっといるだろう」


 クラウスの説得力があるような、ないような、なんとも言えない慰めは静かにジュゼットを鼓舞した。そして彼女は決意を新たにする。理想の王子様を見つけるまでは決して諦めないことを。




「ジュゼット様はお可愛らしいですね」


 ──物腰は優雅、でも少しお腹が出ている。減点ね。


「あのトリスターのご令嬢と踊れるなど私は幸運です」


 ──見るからに軽薄で、底の考えが透けて見える。デビュー仕立ての娘を食い物にしている輩だろう。パス。


「……白い手、ですね」


 ──口下手なのは悪くはないけど……王子様、という柄ではなさそうね。次。


「貴女の美しさにはここにいる誰もが適わない。私を魅了する罪な方だ……」


 ──自己陶酔者(ナルシシスト)だわ。役者にでもなった方がいいのでは? きっとお似合いよ。


「君は可憐で、ダンスも上手い。僕以外のさぞやたくさんの男を誘惑したのだろうね……?」


 ──トリスターに害意を持つ類かしら。それにしては悪意が弱いわ。……相手にしたら面倒なタイプかも。逃亡一択!



 いろんなタイプの男に近づいてはダンスを踊ってみたジュゼットだったが、やはり彼女の理想とする王子様はいなかった。

 このまま行けば適齢期の男性をすべて制覇してしまいそうな勢いだった。いっそもう諦めてしまうか、と思った矢先。彼女に運命が巡り来る。


「……お手を」


 それは姿を隠して行う仮面舞踏会でのことだった。お目付け役のスタンレイと来た場所だったが、スタンレイはその威圧的な雰囲気が仮面をしていても漏れ出しており周囲から浮いていたところにやってきた誘い。

 金で縁取られた黒の仮面を被ったその男は、白い手袋している。スタイルはよく、身長も程よく高い。声は低めで、短い会話だけでは知り合いかどうかはわからなかった。身なりもシンプルにまとめられており、妙な主張がない。

 伺うようにスタンレイの方を見れば、頷く姿が。つまり彼は安全、ということ。ジュゼットはその手を取って踊り始めた。


 男のリードは完璧で、薄暗く、密集したダンスフロアでも優雅に動き回る。ジュゼットは男と踊るダンスを楽しいと思った。それは子供の頃に練習のためテッドと踊った時以来のことだった。

 そばに寄った男の身体からは甘く爽やかな香水の香りがした。優しくて深く包み込むようなその香りにジュゼットは少しクラクラする。


「大丈夫ですか」


 ダンスの間も言葉少なかった男から心配そうに声をかけられる。それは狭い会場故に近い距離から発され、受け取った耳が赤くなるのをジュゼットは止められなかった。


「だ、だいじょうぶ、ですわ。お気遣い、ありがとうございます」

「ほんとうに?」

「ええ、大丈夫です。それにもう帰りますから」

「……そう。ではまたお会いしましょう」


 そうであればいい、ジュゼットは自然とそう思っていた。男が残した香りが無くなるまでぼうっとしていたが、ハッとなったジュゼットは首を振る。誰ともわからない男ともう一度出会える可能性なんて、どこにもない。


 彼が、運命の王子様でないならば。




「……なんて、現実はそう都合良く出来てないのよね」


 よくよーくわかっていた。わかってはいても、納得できるかどうかはまた別の問題であると頬を膨らませる。

 ジュゼットは今馬車に揺られある場所へと向かっていた。そこにはお目付け役の侍女と、三男のケルヴィムが同乗している。侍女はともかく、何故ケルヴィムが同じ馬車に乗っているかといえばそれは数日前に遡る。


 昨晩の夜会の余韻も冷めやらぬまま目を覚ましたジュゼットは、侍女からアルベルトが自分を呼んでいること告げられた。さっと身支度を済ませて父の元へ向かうと開口一番に「婚約者が決まった」と伝えられたのだ。

 ジュゼットは驚きを隠せなかった。今まで自分がたくさんの夜会に出回っていたのは婚約者にふさわしいであろう“王子様”を探していたからだ。それはつまり自分で婚約者を選ぶため。

 確かにジュゼットはトリスターの娘だ。だから当主の決めたことには従わなければならない。そんなことくらいわかっている。しかしこれまで見過ごされていたのに何故今になってそんなことを言うのだろうか。そう、よりにもよって、今。


 ──ようやく巡り会えたのだと思った。どこの誰とも知らないけれど、あの人が運命だと。そうであればいいと。思ったのに。


「どうしてですか!!」


 ジュゼットは心が叫ぶままに訴えていた。異議が叶うとは思っていなかった。けれどきっぱり諦めるのも悔しかった。


「どうして? ……元よりお前に決定権がないことくらいわかっていただろう?」

「それはっ……そうですが」

「お前に自由を与えたのも婚約者を探させるためではない」

「では、なんで……、どうして!」

「お前が知る必要はないことだ」


 厳然たる様でアルベルトは言い切った。言い縋る余地を持たせない、にべもない言葉だった。

 ジュゼットはうなだれてお気に入りのドレスの裾を握った。子供のような態度だとわかっていたが、どうしようもなく苦しくて悔しくて他に気持ちのやり場がなかったのだ。


「婚約者との面会日も決まっている、夜会はもう行かなくていい。しばらくは部屋で大人しくしていろ」

「わかり……ました。……お父様、一つ教えてください」

「なんだ?」

「お相手は、どなた、なのでしょう……」


 アルベルトはつと、黙り顎に手をやる。言い淀んでいる……というよりはジュゼットの反応を確かめるように、ゆっくりと言った。


「テッド・グレイだ」


 それを聞いたジュゼットがどうしたかといえば。


「うそよ、うそよ! 絶対に嫌!!!」


 物凄く暴れた。淑女とは口が裂けても言えない有り様で体いっぱい反抗した。手当たり次第に物を投げ、本やらクッションやら紙が宙に舞い、辺りは悲惨なことになっていた。まるで嵐が訪れたようだったと片付けをしたメイド達が言う。

 そんな中でも平然としていたアルベルトは執事にジュゼットを連れ出すように言い、抑え込まれるように執務室から出たのだった。

 そのあまりの暴れっぷりに、面会日には監視役のきょうだいがつくことになった。その役目を請け負うことになったのが、つまりは同乗者のケルヴィムである。


「なあ、そんなに嫌なのか?」


 前日にも泣いて喚いたジュゼットは翌朝になっても目元が赤く染まっていた。少し痛々しささえ感じてケルヴィムはジュゼットに尋ねる。


「……嫌よ」


 一番下の末娘のジュゼットは確かにきょうだいの中では比較的甘やかされ、わがままを許されていた。けれど、やっぱり彼女もトリスターの一族として厳しく教育され、もう一人前の淑女としてマナーも分別も身につけていたはずだ。そのジュゼットがここまで嫌がるなど、どこか違和感を覚えケルヴィムは首を傾げる。

 ケルヴィムにとっても従兄弟であるテッドは、そこまでいけすかない人物であったであろうか。留学に行く前はジュゼットもよく懐いていたはずだった。ケルヴィムとてそれは同じで、帰ってきてから会った彼もまた良き従兄弟だと思ったのだが……。


「昔は好きだったろ?」

「……昔は、昔よ! 今は、あんな……」

「あんな……?」


 だって幼い頃から憧れていた王子様が、あんなボサボサのもさもさになっていたなんて。


「……いいえ、同じ男のケルヴィム兄様にはわからないのだわ」


 ジュゼットは唇を噛んだ。彼のために美しくなろうと、ふさわしくなろうと努力していたのに。いいえ、そうじゃないわ……彼の隣にいるためにふさわしい女の子になりたかったのに。

 彼はそうじゃなかった。そのことがショックだった。子どものようなわがままだと人は言うかもしれない。しかしテッドとジュゼットには覆せない歳の差が確かにあって、その差を少しでも縮めたくて身の丈に合わないと思われることもなんでもやった。その結果が今のジュゼットだ。

 容姿も仕草も全部磨きあげて、 教養もダンスもマナーも教師が感嘆する出来にまでなった。それもこれも初恋の王子様にふさわしい自分になるためだった。

 その王子様が、身なりを気にしてもいないだらしない男になっていたとしたら年頃の少女であるジュゼットが一方的に裏切られたと思うのも致し方ないことなのかもしれなかった。


「ようやく王子様かと思える人が現れた矢先にこんなことって……」


 独りごちるとジュゼットは大きなため息を吐いた。そしてキッと瞳に力を入れて空を睨む。ここで、挫けはしないと。

 ふと思いつく。このまま自分が不機嫌な顔で横暴な態度を取れば向こうからこの婚約を断るのではないか?

 そうして嫌われてしまえばいい。

 トリスターは旨みも多いが敵も多い。それ故に婚姻を図るというのは内情をよく知る身内か、トリスター家よりももっと権力のあるものと相場が決まっていた。

 つまり、微妙なバランスの天秤が一方に傾けばあっという間に壊れてしまうようなものだ。負の面が増えればきっと取り止めになるだろう。

 不敵な考えににやりと笑った顔は、当主(アルベルト)嫡男(スタンレイ)によく似ていたと後にケルヴィムが婚約者のアリシアに漏らしていたのをジュゼットは知らない。

 そして、そんな単純な思惑が叶うこともないということを、今馬車に揺られている彼女は知る由もなかった。



 いつぞや訪れた時と寸分たがわぬ屋敷は今日も穏やかな光に照らされている。そこに乗り込むジュゼットはまるで黒い雲を連れた嵐のような心持ちだった。


 ケルヴィムや侍女とともに応接間に案内されたジュゼットたちは静かに佇む。その横のケルヴィムはどことなく落ち着かない様子でそわそわしている。それは隣のジュゼットが何をしでかすか心配でたまらないからであった。そんなこと露ほども思わぬジュゼットは鼻息荒く(テッド)が来るのを今か今かと待っていた。


 がちゃりと音をたてたドアはゆっくりと開く。人影は二つ。恐らくグレイ家の当主と、その息子であろう。

 思わず顔を伏せたジュゼットは声が掛かるのを待つ。ジュゼットととて挨拶もする前から噛み付く気はなかった。


「ようこそいらっしゃいまして。わざわざ御足労お掛けして申し訳ない」

「いいえ、こちらこそありがとうございます。今日はジュゼットの付き添いでやって参りました。ほら、ジュゼット。挨拶を」


 当主とケルヴィムがそつなく挨拶を交わして、その番がジュゼットにもやってくる。顔をあげるのが億劫で仕方なかった。だって目の前にはいるのだ。ジュゼットを夢の淵から叩き落とした相手が。


 すっと、手を伸ばされた。視界に入ったそれにどこか既視感を覚えながら、その手が揺らした空気からジュゼットはハッと顔を上げた。


 ──なんで。


「久しぶりだね、ジュゼット。この前は君を傷つけてしまったみたいで申し訳なかった。あの時は帰ったばかりで、無精していた身なりのままだったんだ。驚いたよね、ごめん」


 ジュゼットははく、はく、と声もなく、後ずさる。


 目の前にいたのは薄茶色のさらさらとした髪を少し長めに、でも目はきちんと見えるよう分けられている、……あの頃を彷彿とさせる姿のテッドがいた。

 ジュゼットが驚いたのはそれだけではなかった。挨拶か謝罪に伸ばされた手から、香ったテッドの香水は、あの夜会の彼のものと全く同じだったのだ。そんな偶然があるだろうか。


 ……でもよくよく考えてみれば、正体不明の仮面舞踏会で踊りを許可された相手だ。この婚約はきっとあの頃には決まっていて、ジュゼットをテッドに慣らすためのものだったのだ。でなければきっと当主の息がかかった長兄が許すわけもない。現に「彼」以外の相手とは踊ることもなかったのだから。



「な、なん、で……」

「ごめんね。ジュゼットは嫌だろうけど、もうこの婚約は僕が留学に行く前から決まっていたんだ」


 応接間で手を取られたジュゼットはあれよあれよという間にテッドによって庭へと連れ出された。未だに理解が追いつかないジュゼットはそのまま流されるようにして外へ出る。木漏れ日が暖かく降り注いでいた。

 陽の光に透けるように彼の髪がさらさらと揺れる。宝石のように煌めく紫の瞳は真摯に訴えてきた。


「だから、申し訳ないけど、……僕と結婚して欲しい」


 そう言って差し出したのはジュゼットの好きな赤いアルストロメリアの花束だった。

 跪いて許しを乞うてくるテッドは夢に見た王子様とそっくりで。

 溢れる涙を感じながら、ジュゼットはゆっくりと頷いた。


「…………よろこんで、お受けいたします」


 それを聞いたテッドはほっとしたように表情を和らげた。


「よかった、君に嫌われたかと思って僕はもう死にそうな気持ちだったよ」

「……ほんとうに?」

「ああ、君は昔も、今も、僕の大切なお姫様だからね」


 柔らかく笑うテッドは心底安心したように見えジュゼットは誤解したことをとても申し訳なく思った。


「…………あのとき久しぶりに会えたのにひどいこと言ってごめんなさい、私、びっくりしてしまって」

「ううん、いいよ。今思えば僕もひどい格好だった。留学先は男ばかりでね。身だしなみを気遣う連中でもなかったから感覚が狂ってしまっていたみたい」

「……私、私の王子様にはいつでもかっこよくいてほしいわ。……わがままかしら」

「いいや。僕も君にずっとかっこよく思われていたいから、努力するよ」

「ありがとう、テッド。嬉しい」




 ──彼女にとっての王子様は、やはり彼でなれけばならなかったのだ。


 彼らの未来を祝福するように鳥が羽ばたき、暖かな光の帯が二人を包むのであった。







 あなたは私の王子様? おしまい

設定の矛盾とかあったらごめんなさい……。

明日でラストになります!よろしくお願いします。

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