プロローグ
ある国にトリスターという名の悪徳の一族がいた。かの家は非道の限りを尽くし、人を人とも思わぬ悪魔の所業で力をつけ、いずれは王家の転覆をも狙っている……。
──らしい。噂というやつは人の間を泳ぐうちにどんどん尾ひれがついて大げさになるものだ。ことトリスター家においては見た目の恐ろしさも相俟って妙な信憑性があるもんだから余計に。
現当主は今の妻を娶る時、御伽噺の悪魔よろしく目をつけた娘を攫って無理やり手篭めにしただとか。
その長男もまた人形姫と呼ばれた社交界の花を摘み取って婚姻しただとか。
男だけじゃない、美貌に恵まれたその娘たちは良家の男たちを誘惑して陥落させ強引に嫁いだだとか。
悪評を挙げれば底尽きないトリスター家だけれども、これから繰り広げられるお話はその悪評の裏にある、真実《現実》。
それらはきっと外野の人々が思うほど、面白くはない。そしてその想像よりもずっと、普通のお話。
トリスター家のきょうだいたちの婚姻に関するあれこれを書きました。七人きょうだいである彼らがてんやわんやと恋する様を、お楽しみいただければと思います。よろしくお願いします。
このお話はナターシャ以外のきょうだいたちがメインのものとなっております。彼は私を愛さないの続きはありません。