ウォルターの悩み事
「何なんだよ!」
俺は苛立ちをぶつけるように壁を蹴った。
桜さまなら偉そうにやめなさいと説教をして来るのだろう。
大人しくやめたら、きっとあの人は俺の頭を撫でて、困ったように笑うんだろう。
年下にするみたいに
俺は、ウォルター・カーディフ
王族の桜さまに仕える従者だった。
そして、桜さまに拾われた人間だ。
幼い頃、信じられないくらいに綺麗な女の子が俺を拾って、沢山の事を教えてくれた。
その過程で俺を洗脳したのは許さないけど、あの人が優しいのは、知っていた。
桜さまを恨んで生きてきたけど、元気な姿をみたら一瞬で怒りが吹き飛んだなんて、我ながら単純だ。
自分に与えられた広い部屋を見回しながら、物の無さにため息をついた。
生活にどうしても必要なものしかないだだっ広いだけの部屋にはセンスなんてもんはない。
桜さまが好きな本なんて一切無い。
お金が勿体ないからだ。
きっと、植物園で会ったあいつの部屋には沢山あるんだろうけど。
桜さまが大切に持っていた本もあいつのらしいし、本好きは仲が良いのか桜さまの考えを聞かされたらしいし。
『どうせ、人間なんかすぐ死んじゃうのよ。』
『どれだけ一緒にいたいって思っても、恋じゃなけりゃ瞬きしてる間にいなくなる。』
『十年も、百年も変わらないし。』
『もう良いや、面倒くさい。』
『恋も、愛も、もう飽き飽きした。』
桜さまが、最期の日に言った言葉は、俺を奥手にさせていった。
もしも、桜さまが俺を見初めてくれなかったら。
親愛の情だけで終わってしまったら。
泣きそうに顔を歪めて、面倒くさいといったあの人は、どれだけ哀しむのだろう?
哀しんで、哀しんで、もう人と関わることすらやめてしまったら、桜さまはずっと生き続ける。
幸せな姉が死んでいき、世界でたった一人きりになったら。
桜さまは、もう……
「人間なんか、興味ないんじゃなかったんすか」
あいつの傍で楽しそうに笑ってた姿を思い出し、髪をぐしゃりとかいた。
悔しくて仕方ない。
桜さまの考察は、基本余り聴かせて貰えないのに、当然のように聴かせて貰った彼奴も、恋なんてしないといっていた桜さまが男と親しげにしているのも。
嫉妬だと分かっている。
でも、悔しい。
嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ、嫌い
……嫌いだ。
失恋したわけでもないのにこんなにぐちゃぐちゃになるのは可笑しいって分かっているけど仕方ない。
たまに見せる試すような目も、あざとい声も、嘲るように孤を描くぷっくりとした唇も、まろい頬も、ふんわりとした薄い青色のツインテールも、小柄な体も、馬鹿にしたような嘲笑も、全部が全部好きだ。
だからこそ、悔しくて仕方ない。
一体、どうすれば良いんだ!