ようこそスーサイド
僕自身の心に染み付いた想像を小説にしてみました。
ぜひとも想像力全開で読んで見てください。
気分を害した場合は即刻読むのをやめることをおすすめします。
僕は辛い事があるといつもここに来る。と言ってもただの夢だ。明晰夢と言われるものだ。
現実では口下手な僕もここでは饒舌だ。だって、ここにいれば僕の心情なんて漏れることは無いのだから。安心して心に溜まるドブを吐き出せる。
そうそう。ここにはいつも彼がいる。彼はどれだけ尋ねても名前は教えてくれなかった。いや、名前だけじゃない。彼は自分のことは何1つとして喋らなかった。けどそれでよかった。僕は僕を慰めてくれる存在が欲しかっただけだから。
彼と僕はとても気があった。僕が欲す回答を彼は必ずしてくれた。だから僕は安心して彼に毒を吐いた。大嫌いなクラスメイト。尊敬もできないクソ父親。憧れの彼女の笑顔を一心に受ける親友。つまらない授業を垂れ流す先生。大嫌いを、くだらないを、侮蔑を、何十回も何百回も僕は彼にぶつけた。いや、そんな表現じゃ甘い。僕は殴りつけた。稚拙で醜い思いを、彼に。
彼は、顔色を変えずに(そもそも彼の顔など見えないのだが)僕の話を聞いてくれた。そして決まってこう言う。
「人生には苦難がつきものさ。君は長い長いトンネルを走っているだけなんだ。けどよく見てみろよ。暗くジメジメしたトンネルにも明かりはついているだろう?大丈夫。君の人生は君が思っているほど悪いものじゃない。安心して、僕がついている。」
彼は僕の人生の灯火だった。
久しぶりにここに来た。最近はいい事が続きここに来ることはなかったが、やっぱりここは居心地が良かった。
2脚ある椅子の片方に座り、数秒間目を瞑る。
コツコツと足音が響き、止まる。目を開けると彼がもう片方の椅子に座っている。彼は珍しく僕と同じ服を着ていた。僕の学校の制服。相変わらず顔は見えないが。
僕は疑問を口にした。
「なんでうちので制服きてんの?」
「さぁ?僕だって君の一部だし君に影響されたんじゃないかな。」
いつも通りはぐらかした。慣れてしまっているのであまり言及はしなかったが、今回は少し違和感を覚えた。しかし、久しぶりだからだろうとその違和感を探ろうとしなかった。
「最近は来なかったね。上手くいってたの?」
と彼。
「うん。班を作る機会があってね。僕の親友と仲が良い奴が誘ってくれたんだ。その時はだいぶ喋れてね。少しだけど仲良くなれたんだ。」
「けど、ここに来たってことは何かあったんだろう?」
「うん...。ほら、僕ってすぐ調子に乗って失敗する癖があるだろ?」
「あー。なんとなくわかったよ。調子に乗ってあの子に声掛けた。そうだろ?」
「その通り。放課後声を掛けてみたんだ。そしたら彼がいて。」
「うん。親友くんね。」
「そう。彼の代理としてあの子と一緒に遊園地に行くことになってさ。なんでも彼は週末予定入ってたらしくて。内心ものすごく喜んだよ。」
「絵に書いたような青春じゃん。」
その言葉に少しだけ胸がいたんだ。
「茶化すな。それで今日行ってきたんだよ。」
「どうだった?」
「どうも何も。すぐに彼女から、彼が好きだと打ち明けられたよ。挙句の果て『どうすれば気を引けるかな?』だってさ。目の前にたった今玉砕したやつがいるのにだよ。」
ドス黒い感情が胸の中を渦巻き出した。
「かわいそうに。」
「でしょ?そしてさ、彼女と別れた後アイツにあってさ。『え、なに?お前ら付き合ってんの?』って。ありえないよな。振られた男に向かって。」
「最低なアイツはさいっこーにサイテーだったね。」
「そんでさ、ああ、結局僕はどこに行ってもこうなんだなって思って。どこへ行こうが何をしようが壁には目と耳がついてて、僕を監視している。僕はどう転んでも間の悪い、運の無い人間なんだなって。」
今日のことを思い出し、傷ついた心が飽和する。
「ふーん。」
どうやら僕の言葉のどれかが琴線に触れたらしい。
彼の顔色が変わる。雰囲気が変わる。
「何を今更。君がどこへ行こうが変わらないのはわかりきっていただろ。そもそもそのゲロ甘夢見な勘違いやめてくんないかな?」
豹変した彼の言葉に僕は戸惑う。
「え...。どうしたの?」
「どうしたの?まだ気づいてないのか。お前は今日そっちの椅子に座って僕を呼んだよな?まさか久しぶりすぎて忘れた?先に座った方が後の奴の愚痴を聞く。そう決めたよな?」
ハッとする。記憶の中の彼はいつも先に居た。
「今回は僕が鬱憤を晴らす番だ。」
彼の心で渦巻く感情が僕に流れる。
「いきなり生まれたと思えば、勝手に主人格奪いやがってよ。挙句、散々毒吐きやがって。」
僕の視界がぼやける。彼の濁流が僕の意識を呑み込もうとする。
「おい。勝手に気絶しそうになってんじゃねぇよ。お前が今まで俺にしてきたことをやってるだけだろ。耐えろよ。俺の苦しみ噛み締めろよ。」
意識が冴える。だんだんとはっきりする視界は彼の顔にかかるもやさえも拭い去る。
「聞こえてんのかよ?」
露になった彼の顔は僕だった。
「嘘だろ...。僕は僕しかいないだろ?」
「だから言ってんだろ?お前が主人格を奪ったって。疫病神のくせして思考独占しやがってよ。」
彼の吐く毒が、僕の体を蝕んでく。その毒が僕の記憶を呼び覚ます。
「あ、ああ。ああぁぁあぁ。」
「ようやく思い出したか。なぁ?もっかい言ってみろよ。どこへ行っても僕は救われないってさ。」
「ごめん。ごめんごめんごめん。」
「救われるわけねぇよなぁ。思考してんのはお前なんだから。不幸を作ってるのはお前なんだから。」
そうだ、僕だった。僕に不幸を招いたのは。そう考えさせたのは。
「俺はいつも言ってたよな。俺らの人生お前が思うほど悪いもんじゃないって。実際その通りだろ?」
「ごめん。返すから。君に任せるから。」
「はぁ。今更返されたとこでどうにもなんねぇんだよ。染み付いた不幸は剥がれねぇ。喜の思考を司る俺も、お前の毒で侵されきってるからな。」
その言葉で気付く。今僕を呑み込もうとしているのは彼の感情じゃないことに。僕が、彼に吐き続けた僕の毒であることに。
「そういうことだ。俺はもう無理だ。じゃあな悲さんよ。」
彼の手にはナイフが握られていた。ゆっくりと腕を上げ、喉元で止める。
「せいぜい最後まで自分を責め続けろよ。」
そう言い残し、ナイフを突き刺した。
彼から溢れる毒が、底に溜まったドブが行き場を無くし僕に流れる。飽和した心に容赦なく染み込む。壊れる。弾ける。濁流が心を跡形もなく流し去る。
僕はベットから出る。引き出しを開ける。目当てもものが出てくる。ケースをとる。澄んだ月明かりを反射するそれを眺めた。
今更になって全てに気付いた。僕の一人称が変わる理由も。あの明晰夢も。彼と気が合う理由も。
灯火の消えた僕の人生は真っ暗だった。もう生きる必要も無い。
鋭利な切っ先を自分に向ける。上手く自分の死を想像出来ず、彼の最後の顔を思い浮かべる。彼は泣いていた。
皮膚が薄く切れる。鋭い痛みが走る。壊れた心が死を願おうとも、身体が、心臓が、それを拒む。どくどくと音を立てる心臓に少し失望する。
全てねじ伏せ、刃をねじ込む。刃が骨に擦れる音が身体の中で響く。痛みなど感じなかった。
手から滑り落ちたナイフケースがことんと小気味のいい音を立てた。
いかがでしょうか。
人の潜在的恐怖を刺激したいという建前の元、僕の心情の一部を書きなぐってみました。
気分を悪くした人もいると思いますので謝罪しときます。
すみませんでした。