線香花火
何も考えずに読んでくださいね。
この季節になると、高校時代の夏休みを思い出す。
「かなかなかな……」と、もの哀しげに蜩が泣いている。そして私も一人で、部屋に閉じこもって泣いていた。
私は文化部で、それも緩めの部活だった。夏休みでなくとも、週にニ、三回あるか、ないかという部であったので、よく数少ない友人から、「掛け持ちしないの?」とか「活動してるの?」なんて、言われていたが、私は、もう、その部活しかない、と思っていた。掛け持ちなんてしたら、浮気だよって、言い訳みたいなものを考えていたが、実は言い訳ではない。だから、私は、本気だったんだって。
部活のない日は、それは部活のために学校に行かない日なだけであって、私の中では毎日が部活だった。
他の部員もそう思っている筈だと、私は思っていた。
別に思っていなくても、いい、とは思っていたが、皆、部活に熱心な雰囲気を醸し出していたので、もし、そうなら、私はなんて居心地が悪いのだろうと思っていたかもしれない。思っていた、かもしれない。
今日の夜は、夏休みの中で唯一の部活がある日だ。
学校の屋上には、天体望遠鏡が設置してあり、顧問と、他の部員三名が既にそこにいた。
「では、部活を始めます」
顧問がそういうと、皆、なぜか天体望遠鏡をばらし始めた。
「ねぇ、何やってるの? 星を見るんだよね……?」
皆、無言で、てきぱきと部品をばらしている。
「ねぇ、どうして先生は止めないの?」
先生は私を無視する。
私は先生の腕を引っ張った。
「無視しないでください!」
先生は呟いた。
「いつ先生が星を見るなんて言ったんだ?」
「え」
「君はまだ、気付かないのかい」
「どういうことですか」
気付けば作業もすべて終了しており、部品を抱えた部員が横隊していた。
部員の一人が言った。
「この部活に入る人なんて、変わってるよね。帰宅部でも、意地でも入らないのに」
何を言っているのかわからなかった。私は思い切って問いかけた。
「じゃあ、あなたはどうなの?」
「まだ、気付いてないんだ」
「え」
「早く気付きなよ」
「何が」
「真面目にやってるのってさ、あんただけだから」
私はやはりショックを受けた。でも、真面目にやるかやらないかなんて、私の勝手だし。
「あんたが真面目にやってるの見てると、ホント、面白いの」
予想外の一言が空気を伝って飛んで来た。
他の部員もクスクスと笑い始めた。
後ろに立っていた顧問の先生も笑いを堪えているようだった。
私は咄嗟に言った。
「ねぇ、ドッキリだよね?」
部員はその一言で口角は下がり、私のことを睨みつけた。
日は暮れ、月光が部員の目に反射して私を照らす。
部長は言った。
「私たちもう、疲れちゃったの」
そう言って屋上から飛び降りた。
二人目も、飛び降りた。
私は逃げた。
必死に、逃げた。
正門を出て、いつもと違う暗い帰り道を行こうとしたその時、笑い声が後ろから聞こえた。
「あはは、はは、は」
それは線香花火のように儚く散った。
という夢を見た。いや、夢に見た。