第四話 『霊剣レクス・ファントム』
「あとひとつ、いいかな?」
互いの自己紹介も終わり、場所は変わって薄暗い路地裏に腰を下ろすふたりの姿が、そこにはあった。地面はある程度舗装されているので、特に気にすることもなく、歩くことができる。
そして路地裏に腰を下ろしたところで、ふたり向き合って座ったところで、俺は口を開いた。さっきは彼女からだったが、次は俺からだ。
「何故、俺が見えるんだ……?」
最初。
巫女姿の彼女、シグレに話しかけられたとき、戸惑ってしまった。
それはもちろん、俺が幽霊であるから。
だから、彼女が何故俺を見ることができるのか、俺と言う存在を、何故認知することができるのか、些か不思議だったのだ。
「え……?」
しかしシグレは、戸惑いの表情を浮かべていた。まるで俺の言っていることが理解できていないような、そんな顔、そんな表情である。
「何故、って。そりゃあ、人間だから見えるんじゃないんですか……?」
巫女姿の美少女は、言う。
俺が、このスズラン・シナが、人間だから、見ることができる、と。
「俺、幽霊なんだぜ……?」
言った瞬間──場が凍った。しんと静まり返った路地裏は、メインストリートからの喧騒がほんの少し聞こえる程度で、あんまりにも気まずい。
「…………」
沈黙。
完全なる沈黙、である。
「あの…………」
あんまりにも気まずいから、と言うわけでもないけれど、しかし、このまま黙っているわけにもいかないわけで、兎に角、この沈黙を打破するべく、話しかけた。
「…………」
されど彼女は何を発することもなく、何も発することなく、ただ黙って虚空を見据えるだけ。
流石に気まずくなってきたところの俺であるけれど、先ほど無視されたとなると、また話しかけたとしても、無視されるに決まっているであろう。だから、しばらく彼女がその虚空から俺へと視線を移すまで、幾ばくか待った。
そして。
「だから、あんなに好奇の目で見られてたんですね……」
「…………え?」
急に口を開いたかと思えば、何だかよくわからないことを発した。
「いや、誰にも見えないのだから、私、何も無いところに話しかけてたんだな、って思いまして……」
「あ、あぁ……」
なるほど、そういうことか。
たしかに、ひとりで喋っていたらいろんな人に見られるであろう。
少なくとも俺なら、え何あの人〜、ひとりで喋ってるきっもーい、とか絶対言う。
「それは……まあ、ごめん」
ごめんしか出てこない。だって、俺にはどうしようもないことなんだからな。
「そうだ、そういえば」
言って、彼女は勢いよく立ち上がる。
何事かしらんと視線で問えば、何やら手を差し出してきた。握手でも求めてるのかな、なんて思いその手を握れば、そこから光が漏れ出す。
やがてその光は大きくなっていき、路地裏を真っ白に包み込んだ。
「──」
彼女の手を握っていたはずの、俺の手は、『何か』を握っていた。
彼女、シグレの手ではない、何かを。
「剣……?」
そこには、煌びやかに光り輝く、ひとつの剣。
「霊剣レクス・ファントム──幽霊にしか使えない、最凶最悪の剣です……」
彼女は静かにそう語る。