第一話 『リィンカーネーション、オア、ゴースト』
「こんにちは、涼蘭 紫凪さん」
突然の出来事に、ドギマギまどマギしているなうの俺であるけれど、そんな俺を嘲笑うが如く、俺のことなんか無視をしてどこ吹く風で、俺を見ることもなく、一瞥する気配もなく、目の前の美少女、もとい赤髪の女神(自称)は、語り続けた。
「──それで、何か質問は?」
「質問しかねぇよ」
と言うか正直、まったくと言っていいほど、断言できるほど、聞いていなかった。
いや、そりゃあそうだ。突然目の前が光に包まれると、気づいたら何も無い空間。そこにいたのは女神(自称)で、何だかわけのわからない話を聞かされる。
自分で言っててわけがわからないのだから、もうどうしようもない。
「はあ……。一体、この完全完璧なチヅル様の説明の何処が、わからなかったと言うのだよ? 正直言って、正直言わなくても、どう考えたって、どう考えなくても、わかることであろう? 貴方の脳が猿レベルではない限り、わかるはずだ」
何かすげぇ馬鹿にされてる気がするけど、それは気の所為と言っていいのだろうか。いいのだろうか。いや、ダメだな。絶対こいつ、俺を馬鹿にしてる。「私の説明でわからないやつは猿レベル」って、馬鹿にしてる。つまり俺のことを猿レベルって馬鹿にしてる。ふざけるな、申年はもう終わったってのに。
「と、言うかさ、チヅル、でいいのか? まあ、チヅル。俺をこんなところに呼び出して、一体全体、何のようがあるんだ? 何の為に、俺を、こんな何にも無い空間に、呼び出したんだ? さっきのお前の説明でひとつだけわかった、『俺は死んだ』ってのが本当ならば、果たして、転生だが何だか、してくれるのか?」
「──ハハッ」
笑った。
何か、嘲笑った。
まるで夢の国の、ネズミーランドのネズミよろしく、人を小馬鹿にする如く、挑発する如く、笑った。
すげぇムカつく。
こんなにも人をムカつかせる達人って、いるんだな。
と、関心していると。
「まったく、これだから猿は嫌いなんだよ」
「いやちょっと待て! …………いいか、この女神やろう。俺は猿じゃない、人間だ。れっきとした、まだ今の状況がたいしてわかっていない、把握しきれていない、ただのキモヲタデブ、ヒキニートで極めつけにコミュ障の、人間だっ!」
◆
女神の話を再度聞いた俺は、悩んでいた。
女神チヅルの話によると、俺には三つの選択肢があるらしい。
死んでしまった俺であるが、しかし、これからまた生きていくのを許された云々。
まあ詳しいことは知らないけれど、とにかく、兎にも角にも、三つの選択肢から一つを選ばなければいけない。
まずひとつめ。
このまま死を受け入れて、『俺』と言う存在を、その者自体を、無かったことにする。つまり、成仏させる、と言うこと。
正直言ってこの選択肢は、他ふたつの選択肢を聞いた俺からしたら、無いものとして扱ってよかった。
ふたつめ。
物語の主人公よろしく、異世界へと転生させる。
今何となーく、ほんとに何となくピンチな異世界へと、高身長で運動神経抜群のイケメンとなって転生するか。
これはもちろん、TUEEEEな武器が付いてくるらしい。
そして、みっつめ。
ゴースト──つまり幽霊となり、誰に認識されることもなく、ひとりひっそりと現世、つまり現実世界で生きる。
これは、すごく魅力的な選択であった。
月に一度女神からの命令と言うか指令を受けなければいけないものの、今まで通り、静かに暮らすことが出来るのだ。
◆
──そして結局、一時間、ほんのまる一時間使って、導き出した答えは。選択肢は。
「転生、オア、幽霊?」
「もちろん──幽霊だぁっ!」
そして俺は、誰に見えることもない幽霊へと姿を変え、現実世界に戻ったのであった。